人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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めっちゃ長くなった



第四十九章

狂気に満ちた人形達と相対する鏡介と光。

「護符」で身を守りながら、二人は再会がてら今の状況を確認する。

 

「…それで?何なのこの人形達?どう見ても普通じゃないわよ」

 

「分からない…突然こっちを見るなり攻撃を仕掛けてきたんだ。普通はそんなことしてこないのに…」

 

光が今まで戦ってきた人形は、強かったものの突然人間に襲い掛かってくるようなことはしなかった。それに比べ、今のこの人形達はどうだろう。

明らかに様子が変であるし、異常なほど攻撃的でどこか狂っているとしか思えない。

 

すると、人形達は鏡介達目掛けて弾幕を放ってきた。様々な色をした弾幕が、放物線を描いて飛んで来る。

あまりの物量に避けようがなかったが、「護符」のおかげで何とか無傷で済む。…どうやら、悠長にしていられえる時間はなさそうだ。

 

「とりあえず、戦おう光ちゃん!」

 

「…うん、そうしたいのは山々なんだけどさ…そのー」

 

「?どうしたのこんな時に。らしくないね」

 

光の返事がおぼつかない。どうかしたのだろうか。

そういえば、光は先程「命連茶」が欲しいと言っていた。一つくらいならと渡したのだが…

 

「げんちゃんにこれ飲ませるまで時間稼いでくれない?変な状態異常に掛かっちゃったみたいでさ」

 

「成程、さっきのはそういうことか。でも、光ちゃんには他の人形がいるんじゃ?」

 

「うん、ありすはさっき野生の人形との戦闘でやられちゃって…ルナは、その…実はまだ実戦経験が一度もないの…」

 

「え?そ、そうだったの…?」

 

一度だけ光のルナ人形を見たことがあるが、かなり臆病な子であった。出してもすぐに封印の糸に籠ってしまう困った人形だと、以前光は口にしていた。

何故かげんげつ人形には気に入られているみたいで、それが余計外に出るのが怖い原因になっているのかもしれない。

 

「…そういう訳だからさ、少しの間だけげんちゃんに「命連茶」を飲ませる時間を頂戴!回復さえすれば、戦力になれるから!」

 

「分かった。何とかやってみるよ。 しんみょうまる!」

 

鏡介はしんみょうまる人形を繰り出す。

投げた封印の糸から白銀の光が現れ、それが地面に着弾すると鋭い剣山が突き出る。そしてその剣山が粒子状に消滅すると、そこにはしんみょうまる人形が佇んでいた。

 

 

『ふふっ、ユキさんの真似です』

 

「おぉ、凄い!カッコいい!」

 

『それほどでもありませんよ♪』

 

 

しんみょうまる人形は自身の輝針剣を騎士のように縦に構えながら、自信気にこちらを向くと笑顔でそう答えた。

自分達の人形の最近のブームなのか、登場演出に凝り始めたようだ。これは後に控えるこがさ人形にも期待をしておくとしよう。

 

「よし、それじゃあ行くよ! しんみょうまる! ロイヤルプリズム!」

 

『食らいなさい!悪しき者達よっ!』

 

しんみょうまる人形は自身の輝く剣を狂気の人形達に掲げると、そこから無数の虹色のレーザーを放った。

 

スタイルチェンジで使えるようになった技、「ロイヤルプリズム」。

「ストーンレイン」よりも威力のある大地タイプの技で、輝針剣が放つ光にしんみょうまる人形が大地の力を送り込み、それを放出することによって相手にダメージを与えているようだ。

見た目は「拡散」の技の部類に見えるが、れっきとした「集中」技である。何も直接攻撃だけが「集中」技ではないらしい…人形の技は奥が深い。

 

しんみょうまる人形の放った攻撃は、前方の人形達を一掃していった。技の威力もアビリティ「打ち出の小槌」のおかげで強力なものとなっていて、直撃した人形達は次々と打ち落とされて戦闘不能となっていく。

しかし、レーザーの軌道は直線状である為、それ以外の範囲の敵には当てるのは厳しい。「集中」技はその名の通り、弾幕やレーザーが一転集中したタイプの攻撃だ。相手が複数いる時の戦いには不利かもしれない。

 

攻撃をされた狂気の人形達は、攻撃を受けた対象に向けて反撃を仕掛けてくる。無数の「集中」と「拡散」の技が、しんみょうまる人形に向けて放たれた。

 

「…しんみょうまる! やせ我慢  で耐え抜くんだ!」

 

『はいっ…!』

 

「集中」技のみなら兎も角、「拡散」技は受ける手段がこれしかない。今まで使う機会がなかったが、今が使い時だろう。

何より、しんみょうまる人形にはある道具を持たせてある。瀕死寸前にまで追い込まれても大丈夫だ。

指示を受けたしんみょうまる人形は、身体に気を纏い歯を食いしばることで攻撃に備える。

 

『ぐっ…!うぅ…っ!!何の…これしき!』

 

攻撃を一方的に受け続けるしんみょうまる人形を見るのは心苦しい。声が聞こえる今、猶更だ。…だが、ここは我慢の時。

こういった場面を想定しなかった訳ではない。ユキ人形がうちのメンバーの「攻め」ならば、しんみょうまる人形は「守り」。

人形の長所を最大限に生かすことこそが、人形遣いというもの。彼女自身も、その役割を理解してくれている。

 

やがて攻撃が止んだのか、弾幕の激しさによって発生していた爆発の煙は徐々に晴れていく。そしてその中から未だ気を纏い耐え続けるしんみょうまる人形の頼もしい後ろ姿が見えた。

あのような指示は出したものの、無事でいてくれていたことに鏡介は安堵の溜め息を漏らす。

 

「大丈夫か?しんみょうまる?」

 

『…はい、何とか……では今こそ、このアイテムの出番ですね』

 

すべての攻撃を受け止めたしんみょうまる人形は、ボロボロになりつつも懐から札を取り出す。

これは旅の道中で偶然見つけた「生命の符」というアイテムで、持ち主の体力を回復してくれる便利なアイテムである。

人形が使う類のアイテムみたいなので、霊夢がやっていたのを真似して予めしんみょうまる人形に持たせておいたのだ。

 

しんみょうまる人形が札を掲げると、優しい光が対象者を覆って傷を癒していく。これで幾分か耐久を回復することが出来た。

 

 

「…ユキ! お前も加勢するんだ!」

 

 

鏡介は続けてユキ人形を繰り出す。

封印の糸は火の玉に変わって、地面に着弾し火柱が上がる。そして、ユキ人形は炎をかき消してそこに現れた。

 

『よーっし!私の出番ね!』

 

「うん!頼んだよ!」

 

このまま守りに入るのもいいが、ある程度数も減らさないといけない。そう判断した鏡介は、「拡散」技の使い手であるユキ人形で攻めに転じる。

 

「ユキ! フラッシュオーバー!なるべく広範囲に!」

 

『オッケー!あたしの炎で焼き尽くしてあげるっ!』

 

ユキ人形は両手を広げ力を溜めると、周りに無数の火球を作り出した。近くにいるだけでも熱く感じる程の高火力に、思わず視界が揺らぐ。

 

『そぉ…れっ!!』

 

ユキ人形が狂気の人形達に向けて両手を振りかぶったのと同時に、火球は一斉に人形達の方へ飛んでいった。

広範囲に広がる火の玉はまるで花火のように光り、この周辺を明るく照らし出す。そして爆発音と共に、次々と黒こげの人形が降ってくる様子が遠くから見えた。

狙い通り、人形をある程度一掃することに成功した。やはりユキ人形の火力は頼りになる。

 

 

「お待たせ舞島さん!…な、何か凄いことになってるわね…」

 

 

どうやら光の方が人形の状態異常回復を終わらせたらしく、こちらの方に来てくれた。

思ったより余裕そうな状況を見て、特別急ぐことはなかったと少し後悔しているような表情をしている。

 

 

『 ユ~~キ~~~ちゃああぁぁ~~~~ん!!!♪ 』

 

 

すると光の元にいたげんげつ人形は、凄いスピードで横を通り過ぎる。

そのことに光が驚いているのも束の間、戦っているユキ人形に思いっきりハグをしてきた。

…ユキ人形に好意を抱いているのは知っているが、いつ見ても凄いスピードである。

 

『ぎゃーーーーっ!!?また出たーーーーっ!!』

 

『ユキちゃんユキちゃんユキちゃんユキちゃ~~~~~ん♪あぁ、今日も可愛いよぉ…♪』

 

『は~~な~~し~~て~~!!舞君助けてよーーーっ!!』

 

そして知ってはいたが、ユキ人形はげんげつ人形を嫌がっているようだ。

助けを求められたし、一刻も早くげんげつ人形を引き剥がさないと…!

 

「光ちゃん!手伝って!」

 

「……き」

 

「…光ちゃん?」

 

 

 

「 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!?? 」

 

 

 

「…今更それに突っ込むの…?遅くない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死闘の末、ようやくげんげつ人形を引き離すことに成功する。

とはいっても、最終的には封印の糸に入って頂いたのだが…正直、これではまともに戦ってくれそうになかった。

 

「はぁ…まさか、この世界で人形の言葉を聞くことになるとはね…私、げんちゃんにそんなこと思われてたんだ。正直、ショックね…」

 

「ま、まぁまぁ…そう落ち込むことないよ。あの子だっていつかは心を開いてくれるさ」

 

戻している際に、げんげつ人形が口にした言葉…「捕まったから仕方なくついてきているだけ」や「べたべた触ってきてうっとおしい」、他にも前に負けたことや今回の不注意な行動に対する駄目出し等々…

とにかく、今までの待遇に不満が溜まっていたようだった。流石の光もこの言葉は効いたらしく、かなり落ち込んでいる。

 

「ごめんね…舞島さん。折角治ったのにこれじゃあ…」

 

「気にしないで。げんげつとはさ、少しずつ理解し合っていけばいいよ」

 

「うん…」

 

喧嘩は誰にだって起こる。げんげつ人形だって口ではああいっているが、要はしっかりしろと光に注意をしただけだ。本当にそう思っているなら、とっくに光の元から逃げ出している。

げんげつ人形は少々不器用なだけで、本当は優しい人形…なんだと信じたい。

 

 

「だったら、今はこの子を使うしかないわね。 ルナ!」

 

 

光は封印の糸からルナ人形を出す。せめて少しでも助力出来たらと思い、出したのだろうが…

封印の糸から出されたルナ人形は辺りの狂気じみた人形達を見て怯えすくみ、身体を震えさせている。とても戦える様子ではない。

 

『な、何?何で私が…?うぅ…どうしてぇ…』

 

今にも泣きそうな声で、ルナ人形は絶望していた。

こんな戦いがルナ人形の初陣となるのは、正直可哀そうである。

 

「ルナ。お願い、もうあなたしか頼れる子がいないの。出来るだけ上手く戦って見せるから…お願い」 

 

「僕も出来るだけサポートはするよ。だから安心して?」

 

『む、無理だよ…私なんてありすさんやあの悪魔に比べたら…』

 

ルナ人形は首を横に振り、泣き顔で反対する。

レベルの強さも他と比べ圧倒的に劣るルナ人形では、確かにこの狂気の人形達を相手にするのは無茶な相談である。ルナ人形自身も、それを分かっているのだろう。

 

「別に無理に戦って勝つ必要はないの。注意を引き付けるなり、相手を妨害するだけでいい。貴方にはそれが出来るわ!」

 

『う…うぅ…ほ、本当に?』

 

「えぇ、大丈夫。私を信じて!」

 

『………うん、わ、分かった……』

 

光の説得により、ルナ人形はようやく戦う決心を固めてくれる。…これで二人の距離も、多少は縮まっただろうか?

 

だが、状況は正直良くはない。倒しても倒しても次々に狂気の人形達は増え続けていて、このままではこちらの人形も危ない。

何か、裏で操っている者がいるとすれば、それを叩かないことには事態は解決しないだろう。

 

「…光ちゃん、ルナのアビリティは「閃光(せんこう)だったね?」」

 

「え?うん、そうだけど…」

 

「やっぱり、これは誰かが裏で操っているとしか思えない。それを確かめて貰いたいんだ」

 

自分の人形達は生憎、空を飛べる羽を持っていない。宙に浮いている狂気の人形達の中を搔い潜れるのは、今の状況ではルナ人形のみ…。

そうなれば、今人形達と喋れるこの状況を最大限に生かす。

 

「僕のユキで天候を変えて光ちゃんのルナのスピードを上げるから、そのスピードを利用して何か怪しい奴はいないかを見つけてくれないかな?」

 

「…出来る?ルナ?」

 

『じ、自信はないけど…やってみるよ…。ちゃんと守ってね?』

 

「うん、任せて!」

 

こちらはルナ人形に近づく人形を打ち落とすことに集中し、援護する。

狙いが正確なしんみょうまる人形に、ここは頑張って貰おう。

 

 

「ユキ! 気象発現!」

 

「極光!」

 

 

『任せて!太陽おおおおぉぉぉーーーーっ!!!』

 

 

鏡介が指示を出すと、ユキ人形は天を仰いで大声で叫ぶ。すると天から光が差し込み、まるでそこに太陽があるかのような日差しが舞い降りた。

…ユキ人形は意外とボケをかますタイプだったらしい。

 

「わ!?ル、ルナが光っている!?」

 

「これがこの子のアビリティ、「閃光」の効果だよ。ルナの俊敏がこれで2倍になった筈!」

 

 

『体が軽い…こんな気持ち、初めてっ…!もう、何も怖くない!』

 

 

…何だろう。頼もしい筈なのに、どこかその言葉は何か嫌な予感を感じさせるものであった。まぁとりあえずは自信を持ってくれたようで何よりだ。

 

 

「よーっし!じゃあ、行ってきなさいっ!」

 

『う、うん…!』

 

 

光が掛け声と共に高く飛ばすと、光の速さでルナ人形は狂気の人形達の方へ飛んでいく。

それはげんげつ人形がユキ人形に迫ったスピードよりも、遥かに速かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルナ人形は高速で飛び周りながら、怪しい者がいないかを確認する。

日差しの恩恵を最大限に生かし、正面から迫ってくる狂気の人形を避けて、避けて、避けまくる。

後ろから迫ってくる人形達はすべて下にいる鏡介に任せ、自分の仕事を全うするべくひたすら動き回った。

 

「ルナー!頑張ってー!!」

 

光の応援の声も微かに聞こえる。…今まで何も出来なかったせめてもの償いとして、これくらいはしっかりとこなさないといけない。

いつも弱音を吐いて逃げてばかりだった私を信じてくれた光に、報いなければいけない。そんな気持ちが、内気なルナ人形を動かしていた。

 

『…!何か、いる!強い奴が…』

 

ルナ人形は近くで禍々しく強い気配を察知する。今飛んで行った辺りの、ちょうど真ん中の方からだ。

ルナ人形は急ブレーキを掛け、急ぎ引き返す。

 

 

「…!ルナ、何かを察知したみたいだわ!」

 

「あの辺からかな?丁度真ん中辺りだね」

 

 

ルナ人形の動きを見ておおよその場所を確認した鏡介は、引き続きルナ人形の援護をする。

 

「しんみょうまる! ロイヤルプリズム!」

 

『はあっ…!』

 

しんみょうまる人形の放った虹色のレーザー光線が、ルナ人形の後を追う狂気の人形達に見事ヒットした。

もう彼是20体は倒していったものの、やはり数は減っている気がしない。

 

すると、ルナ人形が何かを見つけたらしく、猛スピードでこちらに引き返してきた。

 

 

「何か見つかったの?ルナ?」

 

『あ、あのね!赤と青の服を着てて松明を持った、変な妖精がこの集団を操ってるみたいだった!た、松明を見せて狂わせているのを目撃したから、間違いないよっ…!ちょうどあの辺にいる!』

 

「…成程、やっぱり誰かが操っていたか…」

 

 

どうやら、読みは当たったらしい。あの狂気の人形達の群れの真ん中あたりに、人形達を狂わせている妖精の人形がいるようだ。

そいつをどうにかすれば、この事態をどうにか切り抜けられる。

 

「お手柄だね!ルナ!」

 

「やれば出来るじゃない!あっははっ!」

 

『わ、わーーっ!?ちょ、ちょっと高い高いーー!恐いよーー!!』

 

「もう、さっきまでもっと高い場所にいたでしょー?」

 

予想以上の働きに、光は思わず感極まってルナ人形を持ち上げて回り始める。

他の人形達には出来ないことを、ルナ人形は見事にこなしてくれたのが嬉しいのだろう。微笑ましい光景に、何だかこちらも嬉しくなる。

 

「…よし、じゃあ早速! ユキ! あそこに フラッシュオーバー!」

 

『おりゃーーっ!!』

 

鏡介はルナが言っていた場所に向けて攻撃の指示を出す。

今まで特定の敵を倒す精密さが求められていたが、今度は人形達を一掃するための火力が必要となる。

 

ユキ人形は自身で作り出した無数の火球を、人形達の群れの中心部に放った。

狂気の人形達は打ち落とされていき、その中から一体の目立つ人形が姿を現す。

 

金髪ロングヘアーで紫色のグネグネした帽子、米国の国旗の柄のワンピース、そして同柄のタイツという、奇抜過ぎるファッションの妖精の人形が。

紫色の炎を灯している松明も持っていることから、この人形が犯人で間違いなさそうだ。

 

スカウターで見てみる。

 

 

 

『名前:クラウンピース  種族:地獄の妖精  説明:テンションが高い』

 

 

 

情報が出てきた。何だか、どことなくピエロを彷彿とさせる格好だ。

妖精は妖精でも、彼女は「地獄の妖精」らしい。普通のとどこが違うのだろう?ファッションセンスだろうか?

 

 

『イッッッツ、ルナティックタァァァァーーイムッ!!よくぞ見破ったなぁ地上の妖精よ!!』

 

 

自分の姿を見破られたクラウンピース人形はテンションの高い掛け声を言うと、堂々と地上に降りて来た。

…やっぱり、妖精はどこのやつも馬鹿らしい。この状況で自分から来るか普通。どうやら、よっぽどやられない自信があるらしい。

 

『それじゃあ、お遊びはここまでにしよう。私は地獄の妖精、「クラウンピース」!ご主人様である、地獄の女神ヘカーティアさまの第一の部下であーる!(まぁ、最近いなくなっちゃったけど)』

 

「(…!「ヘカーティア」って、準が持っていた人形…こいつがその部下なのね…)」

 

何やら自己紹介を始めた。ここで暮らしているからか、喋り慣れているようだ。

無い胸を張り、自信満々に言っているそのアホっぽい姿はまさしく、自分が知る限りの「妖精」であった。

 

「…舞島さん、油断しない方がいいよ。こいつ、強いわ」

 

「え?で、でも…」

 

「私、一回あいつの上司…「ヘカーティア」の人形と戦ったんだけど、強さが桁違いだった。あいつも恐らく、相当強いわ。妖精だからって甘く見てると痛い目に合うわよ」

 

光が真剣な表情で相手の評価をしている。…もしかして、光ちゃんがあの時人里で戦っていたのがそうなのか?

それが本当なら、確かに油断出来る相手ではなさそうだ。

 

『私がここに来たのは他でもない。…そこの黒いおまえっ!おまえに一騎打ちを申し込みに来た!』

 

『えっ?わ、私!?』

 

どうやらクラウンピース人形が降りて来た理由は、「ユキ人形との勝負をしたいから」…だそうだ。

そんな理由で態々有利な状況を捨て、こちらに出向くとは…。ユキ人形も、まさかの名指しに驚きを隠せない。

 

『あたいはな、炎の扱いに絶対なる自信があったんだ…だが!お前のその火力はそれを僅かに、僅かに上回っているかもしれない!shit!正直悔しい!認めたくない!』

 

『はぁ…』

 

『…だから今ここでどちらが優れた炎使いか、ハッキリさせたいって訳よ!Do you understand?』

 

『え、えっと?う~ん…』

 

ちょくちょくアメリカンな言葉を混ぜながら、クラウンピースは一方的に話を進める。

言葉の意味が分からないユキ人形は首を傾げながら、こちらに振り向き困った様子で見つめた。

 

「…要は、ユキと戦いたいんだね?僕は別にいいけど…」

 

『あ、そういうことなの?舞君がそういうなら…分かった、いいよ!』

 

『いい返事だ!それじゃあ、行くぜぃ!』

 

クラウンピース人形は返事を聞くや否や、早速仕掛けてくる。

松明の炎を大きくし、それを掲げてこの周辺を包んでいく。何時ぞやの妹紅がやっていたような、炎のフィールドが出来上がった。

突然の行動に光とルナ人形は思わず炎の外に出てしまう。完全に離れ離れになってしまった。

 

 

『さぁ、熱く燃え上がるような最高の勝負をしようぜ!』

 

 

炎の中で突然、野生人形とのバトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こいつはどうだぁ!』

 

クラウンピース人形は手から炎を出して攻撃を仕掛けてきた。「火遊び」であろう。

もっと強い技が飛んで来ると思っていたが、案外大したことない。

 

「ユキ! こっちも 火遊び だ!」

 

『えーーい!!』

 

ユキ人形は手から炎を出し、それを相手に向かって放った。

炎同士がぶつかり合う瞬間、クラウンピース人形の方の炎は掻き消えてしまう。

 

『な、何ーーっ!?』

 

慌てるクラウンピース人形。辛うじてユキ人形の攻撃をかわしたものの、力の差は歴然であった。

何せこちらはスタイルチェンジをしている。まだノーマルスタイルであろうクラウンピース人形が最初から叶う相手ではない。これでは茶番もいいところだ。

だが、それでも納得はしていない様子で、クラウンピース人形は次の攻撃に出る。

 

『ぐぐっ…なら、これならどうだ!』

 

今度は炎の壁を作り出し、それをこちらに放ってきた。どうやら、覚えている炎技はユキ人形と一致しているらしい。

力の差を見せつける良い機会と言えよう。

 

「ユキ! ファイアウォール!」

 

『それっ!』

 

ユキ人形は手をかざして炎の壁を作り出すと、それを相手に放った。

炎の壁同士がぶつかり合う瞬間、案の定ユキ人形の方の壁が打ち勝っていく。分かってはいたことだ。

 

『嘘だろっ!?私の最大威火力なのにっ!?』

 

『ぎゃーーーーっ!?』

 

…何だこれは…これじゃまるで僕が弱い者いじめをしているようじゃないか。何だか気分が悪いなぁ。

 

 

 

「(どうなっているんだろう…案外苦戦しているのかな?)」

 

光は炎の中の様子を見ようとするが、全く見えない。

ルナ人形に上から見て貰ってはいるものの、中々帰ってこない。

 

もしも、あの舞島さんのユキ人形と互角に戦うような実力であるならば…あの人形を正直ゲットしたい。

光は密かに、そう企てていた。

 

『暑いぃ…ただいまぁ…』

 

「あ、おかえり。どうだった?」

 

『うん、それが…』

 

ルナ人形から聞いた中の様子は、こちらが期待していたようなことではなかった。

ユキ人形とは互角ばかりか、手も足も出ないとのこと。…まぁ所詮は野生の人形。スタイルチェンジをしていないと、やはりそんなものか。

 

「……そうね、うーん…でも育てれば化けるか…?」

 

『?』

 

光はルナ人形を見ながら、クラウンピース人形の可能性を模索する。

ルナ人形だって、こうしてしっかり役割を考えてあげれば強みが出た。妖精という比較的弱い部類でも、使い方次第では神をも凌駕する力を得られるかもしれない。

そして炎タイプの人形は今の手持ちにはいないし、丁度いい。後、金髪だからげんげつ人形も気に入ってくれる筈…いや何でそんなこと気にしているんだ私?

 

「…うん。やっぱりあの子、欲しいかもっ!」

 

 

 

 

 

『うぅ…こ、降参だ。ユキ…お前の炎, EXCELLENTだぜ…』

 

クラウンピース人形はこの戦いで己の弱さを悟り、辺りの炎を消して膝をつく。どうやら実力の差を思い知ったようだ。

まぁ、相手が悪かったとしか言えない。確かに野生にしては強い方であったが、それでもうちのユキ人形の方が上だ。

 

「終わったの?舞島さん」

 

「うん、勝負は僕らの勝ち。…これでこの世界の人形も落ち着くかな?」

 

「だといいんだけどねぇ」

 

彼女は妖精の人形だ。いたずら好きのこの妖精がまた悪さをしないとは限らない。

…だが今はそんなことよりも言いたいことがある。

 

「…ちょっと待っててね、舞島さん」

 

「?」

 

光は悔しそうにしている一体の妖精人形の元に駆け寄る。

近くに来ていることに気付き、顔を上げるクラウンピース人形に光は話し掛ける。

 

 

『…何だよ?笑いに来たのか?言っとくけどまだ完全に負けを』

 

 

「ねえ、クラウンピース。私と一緒に来ない?」

 

 

『…へ?』

 

 

光の突然の勧誘に、クラウンピース人形は言葉を失い戸惑う。

あんな無様な姿を晒したというのに、何故彼女は自分を真っすぐに見つめ微笑んでくれるのかと。

 

「ユキに負けてさ、悔しかったでしょ?私もね…初めて人形バトルで負けた時、ホントに悔しかった。貴方の気持ち、よく分かるわ」

 

あの時は好奇心で誤魔化していたが…あのバトルは光にとって忘れられるものではない。

スタイルチェンジの差で負けたようなものであるが、それでも負けは負け。このクラウンピース人形だって、もしもスタイルチェンジをしていたら勝っていたかもしれない。

 

 

「私達、上手くやっていけると思うの。その、何となくなんだけどさ」

 

『……』

 

「そうそう、私とさっき戦っていた舞島さんは同じ人形遣いで、ライバル同士なの!だから今度バトルする時はさ、うんと強くなってユキ人形を見返してあげましょうよ!…って気が早いか。返事を聞いていないのに…ははは…」

 

『……Oh venus…』

 

「え?な、何?」

 

『…お供しますぜ、新しいご主人様っ!』 

 

「ホント!?やったーー!よろしく、クラピー!」

 

 

光はクラウンピース人形を抱き抱え、満面の笑顔を浮かべる。

 

こうして光に新しい仲間が加わり、夢の世界に平穏が訪れるのであった。

 

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