人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第五十章

夢の世界で襲ってきた狂気の人形達を操っていたのは、悪戯好きのクラウンピース人形であった。

ユキ人形に勝負を挑み敗北するも、光からの勧誘により晴れて仲間となる。

 

「…どうやら、周りの人形達も落ち着いたみたい。良かった良かった…」

 

「うん、やっぱりクラピーが操ってたのね」

 

クラウンピース人形を契約の糸に入れたと同時に、人形達の目が正常に戻っている。

自分達が今まで何をしていたのか分からないようで、辺りをキョロキョロとしていた。これでもう、暴れ出すことはないだろう。これにて一件落着だ。

 

 

「おや、思っていたよりも上手く処理してくれたようですね」

 

「…!?」

 

「あ、この声は」

 

 

突然、どこかから女性の声が響き渡る。鏡介はそのことに驚くが、光はこの声に聞き覚えがあった。

目の前の空間に穴が開き、そこから何者かが姿を現す。ナイトキャップを被り、白黒のワンピースを着ていて、何やら動物の尻尾のようなものを生やしている。

特徴から見るに、彼女も妖怪の一種か?

 

「これで私も仕事に集中出来るというもの。あの妖精の人形には、ほとほと困っていたのですよ」

 

「ドレミーさんもこの子に?」

 

「えぇ、それはもう散々…何せ、見たものすべてに襲い掛かるものですから夢の管理が一向に進まず仕舞いでしたよ。

 こちらからは手が出せない以上、こうして誰かに頼むしか奴を追い払う方法はありませんでした。本当に感謝しております」

 

目の前の妖怪は愚痴を零しながらも、光達に感謝の意を伝える為にワンピースのスカートを両手で持ちながら礼儀正しくお辞儀をした。

光は妖怪の行動を大げさに感じ、止めるように言っているが…こちらは完全に置いてけぼりである。彼女は一体、何者だろう?

 

「…光ちゃん、知り合いなの?」

 

「う、うん。「ドレミー・スイート」さんっていって、この夢の世界の管理人…みたいなものなんですって。私、ちょっとあの人に頼んでここに来させて貰ったんだ」

 

「何でまたそんな…強い人形ゲットの為とか?」

 

「うん」

 

「…だろうね。まぁ、そっちが言い出したことだしもう無理に止めないけどさ」

 

人形遣いとして一人前になる為、こんな危険な世界に来た光の度胸は買うが…一歩間違えればどうなっていたことか。

だがまぁ、こうして合流してお互い協力出来たことでこの困難を乗り越えられたのは幸運であろう。こちらだって光と会わなければどうなっていたか分からない。

今回のことは、大目に見てあげるとしよう。

 

「…さて、あなたにも感謝をしなくてはいけませんね、外来人の舞島 鏡介さん」

 

「…!ど、どうして僕の名を?」

 

「私は夢の支配者。夢を通して、この幻想郷で起こっていることは大体知っているのですよ」

 

「夢を…通して?」

 

「…それにあなた、あの博麗の巫女を人形バトルで打ち負かしたようですね?フフッ…」

 

「え…!?」

 

不敵に微笑み、こちらを見つめるドレミー。自分の名前を知っている…?新聞…はこの世界にはないだろうし、一体どうやって調べたのだろう?

そして今、自分と光、そして霊夢しか知らない筈の情報をさらりと口にした。彼女の言葉が嘘ではないことが、それだけで十分理解出来る。

 

「…確かに、僕は霊夢さんに人形バトルを挑みました。ですが、何で今それを?」

 

「いえ、何といいますか。あのバトル以来、彼女はどうも夢見が悪いようでしてね…余程あなたに負けたのが悔しかったのでしょう。

 何者にも捕らわれない彼女のあんな姿は初めて見たもので…その負かした人物は一体どんな人なのだろうと、ね」

 

「……そう、だったんですか」

 

「霊夢様が…そんな…」

 

まさか、霊夢があのバトルで負けたことをそんなに引きずっているとは思わなかった。

顔を見る限りでは平然としているように見えたのだが…何だか罪悪感が芽生える。

 

「博麗 霊夢はこの幻想郷の象徴…いわば英雄のようなものです。彼女もそのことは重々理解してるでしょう。

 だからこの人形異変の解決にも、彼女は皆から大きな期待を寄せられている…。プレッシャーも大きいでしょうね」

 

「…」

 

「彼女は負けというものを殆ど経験したことがない。まぁ、この間の異変では少々危なかったですがね…。私も彼女とは一戦交えたことはありますが、実際に強かった」

 

ドレミーは霊夢のことについて話し始める。この幻想郷の英雄…確かに、今までこの幻想郷を襲った様々な異変を解決してきた彼女は、人々からも慕われていることだろう。

その使命を見事全うしている彼女は立派である。まだ自分と歳も近そうな、一人の人間の少女であるというのに。

 

「ですが、今回の異変は今までのとは違う…異色なのです。博麗の巫女である彼女も、普段の力を思うように発揮出来ていない。当然です。彼女自身が戦う訳ではないのですからね」

 

「(…霊夢様、あの時は「ちゃちゃっと解決してくる」って言ってたけど…やっぱり無理してたんだ…)」

 

「それを見兼ねて八雲 紫が連れて来たのが…あなたですよ、舞島 鏡介さん」

 

「僕、ですか?」

 

自分がこの異変解決の為に連れて来られた…?あのバスで見た夢に出てきた女性、八雲 紫に?…頭が追い付かない。

どうして自分が選ばれたのだろう…「東方project」に特別興味もなかったのに。熱烈なファンである「大森」なら兎も角、どうして自分が?

 

「あなたは何か、この異変を解決する鍵になるという確証があったのでしょうね。それが何なのかは、連れて来た八雲 紫のみぞ知ることですが」

 

「…急にそんなこと言われても…困りますよ。僕にそんな力なんか…」

 

「そうでしょうか?あなたの人形遣いとしての腕は中々だと思いますがね。現に、あなたは博麗 霊夢を打ち破ったみせた」

 

「で、でも、それは霊夢さんが不慣れだったから…」

 

「えぇ。ですが彼女も生半可な相手に負ける程、弱い訳ではない。寧ろ、あなたに会うまでは無敗を貫いていた。あなたは実際にバトルをしたのです。彼女は手強かったでしょう?」

 

「…はい、確かにそうですね」

 

あの時ユキ人形が新たに習得した技がなかったら、自分は間違いなく霊夢に負けていた。

正直、運が良かったのだ。何もかもが。誰かに仕組まれていたのではないだろうかと、そう思わずにいはいられない程には。

 

あの時不思議なことに、「ファイアウォール」の威力が上がっていた。気になって技の説明を見てみると、「相手が道具を持っていたらそれを消滅させ、技の威力が上がる」と書いてあった。

つまり相手のれいむ人形が「治癒の符」を持っていたこと、これが功を成したということだ。…こんな偶然があるだろうか?

 

「…まぁ何が言いたいかと言うとですね、「異変を解決する者としての自覚を持ちなさい」と、そういうことですよ。

 寄り道をするのもいいですが、程々になさい。あなたは自分が思っている以上に、皆から注目されているんですからね」

 

「……」

 

そう言うと、ドレミーは片手をこちらにかざしてこう呟いた。

 

 

「…さぁ、もう目覚めなさい」

 

 

その言葉が聞こえた瞬間、二人の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

今まで寝袋で眠っていた鏡介は、その瞳を大きく見開いた。

木陰から差す光が眩しい。どうやら、もう朝のようだ。暁の空が神々しく光り輝き、今日の一日の始まりを告げる。

この幻想郷の風景は、いつ見ても素晴らしい。この世界に来てからというものの、自然の美しさに目を奪われっぱなしである。

 

鏡介は体を起こし、背伸びをしてから立ち上がると、寝袋を綺麗に畳んで鞄にしまう。

そして、目をこすりながら河の方に進んでいった。…一度やってみたかったのだ、河で顔を洗うのを。

鏡介は両手で川の水を汲むと、それを勢いよく顔にかけた。朝は冷えるので水が冷たいが、これは気持ちがいい…。眠気が一気に解消され、気分爽快となった。

 

「…異変を解決する者としての自覚を持て…か」

 

タオルで顔を吹きながら、夢の中でドレミーが言っていたことを思い出す。

あれは夢であった筈なのに、その時の状況の何から何まで覚えている。人形が喋り、光と再会し、狂気に満ちた人形達を退けて、ドレミーから霊夢のことを教えられ…。

身体が妙にだるく感じるのも、きっとそのせいなのだろう。快眠であったかと言われると、今回はそうでもなかった。夢の世界でも冒険が待っていたなんて誰が予想出来る。

 

霊夢のとこは正直気掛かりだ。ドレミーの言っていたこと…あのバトルでの敗北が、彼女にそんな影響を与えていたなんて…今度彼女に会った時、一体どう接すればいいのだろうか?

…また人形バトルを挑まれるとしたら、今度はそれ相応の覚悟をしなければならないのだろう。

 

それにもう一つ、ドレミーは気になることを言っていた。「あなたは自分が思ってるより、皆に注目されている」、と。確かに、幻想郷の情報の流れは早いように感じる。

この世界には新聞があるらしいので、皆はそれを見ているのだろうが…配っている人物は余程行動が早いようだ。一体どこで自分を見ているのだろう。怖い怖い。

今後も異変調査はいつも通り続けるつもりではあるが…紅魔館に行って収穫がなかった時のことは考えないといけない。自分がこの異変を解決する為に呼ばれたというのならば、今後はしっかり計画を立てなければ。

 

…それにしても、夢の世界で人形達と喋れたのは楽しかった。個人個人のことをより深く知ったことで絆が深まった気がする。いずれ落ち着いたら、メディスン人形とも話をしてみたい。

鏡介にとって、「胡蝶夢丸」は正に神アイテム。人形達とのコミュニケーションが出来る画期的な薬となった。…切らしたら今度、人里にいる鈴仙から買っていこう。

 

 

「…よし!そろそろ行くか」

 

 

朝飯を食べ終えて準備が整った鏡介は、紅魔館のある「霧の湖」へと足を進めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

スイート安眠枕を使い眠っていた光は、勢いよく起き上がる。そして慌てて周囲を見渡すと、その光景に溜息を漏らす。

 

ここは玄武の沢…妖怪の山の麓にある大きな河と垂直状に切り立った柱状の岩壁が特徴的な場所だ。

光はそこに生えている一本の木の上にいた。

 

「…やっぱり。夢の世界から帰って来ちゃった…もうちょっといたかったなぁ」

 

光は寝たままの状態で頭を抑えながら、元の世界に帰って来てしまったことを悔やむ。

 

収穫はあったが、例の「ヘカーティア」という人形は結局捕まえられなかった。出来れば欲しかったが、また夢の世界に行くことをドレミーが許してくれるかどうか…まぁ過ぎたことは仕方ない。

それに、今回の夢の世界での経験は光にとっても大きいものだった。他の人形達も運用次第で十分戦うことが出来るのが分かり、人形達に役割を持たせることの大切さを学んだ。

…しかし、げんげつ人形が夢で言っていた言葉…これは反省しなければならないだろう。最初のパートナーとして愛着があったのもあるが、今までげんげつ人形一体に頼り過ぎていた。

それがあの敗北、失態に繋がったことを決して忘れてはならない。ありす人形にも悪いことをした。…今後は、げんげつ人形を人形バトルで使うことを封印しようと思う。

 

 

「…クラピー!それにあなたも!」

 

 

光は木から飛び降り、契約の糸から2体の人形を出す。

元気よく飛び出すクラウンピース人形と、落ち着いた雰囲気のもう一人の金髪ロングの人形を見て、光は改めてあの世界で起きたことが現実であったことなのだと実感した。

 

「これからよろしくね!クラピーちゃんに…えっと…あちゃー、そう言えばこの子の名前知らないわ」

 

金髪ロングの人形の名前を知らないことに気付いた光。あの時は捕まえるのに必死だったから、後先を考えていなかった。

名前が分からないとこの人形に指示を出せない…困った…。鏡介の持っているスカウターがあれば一発で分かるのだが…

 

「…あ、そう言えばこの先って河童が住んでいるんだっけ。あの妖怪達の作った装置なら、この子のこと調べられるかも。通り道だし丁度いいわね!よし、しゅっぱ~つ!」

 

次の目的を決めた光は、人形を契約の糸に戻して先に進んでいくのであった。

 

 

げんげつ人形を使うのに恥じない立派なトレーナーとなる為に…

 

そして、本当は異変解決に苦戦を強いられている霊夢の助けとなる為に…

 




一章で二人の視点になるのは、今後も結構あるかも?です
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