人間と人形の幻想演舞 作:天衣
この外伝は、私が書いている小説「人間と人形の幻想演舞」の人形視点ストーリーです。
その為、人形が普通にしゃべります。そのことを注意した上でご覧下さい。
今回は、メディスン人形のお話…なんですが、他二体の人形の方がメインかもです。
あと今回はかなり短め。
どうして…?
あんなに優しくしてくれたのに…どうして…
「もう近寄らないでっ!」
「あなたがいると周りが不幸になるのよっ…!この疫病神!」
どうして、そんなこと言うの?
どうして皆、私をそんな目で見るの?怖いよ…
私達、友達でしょ…?
「…もういらない、こんな人形…!」
どこに行くの?
どうしてこんな山奥に来ているの…?
…どうして、ここに私を捨てていくの?
どうして…………うして…………………シ…テ………
舞台は舞島 鏡介が所持している人形箱の中。
そこにいる二体の人形はあまり出番がないことを悔やみつつも、いつも通りこの広すぎる一室で暇を持て余していた。
「ガッハッハッハ!所詮貴様なんぞ誰も守れはしないのだ!勇者エ-リーン!」
「…くっ!俺はまた…また守れなかったっ…!」
勇者エーリーンは膝をつき、自分の無力さを嘆く。
それを見下すように魔王くるみんはドスの効いた笑い声をあげ、勇者エーリーンを侮辱する。
「哀れだなぁ?こやつは最後まで言っていたぞ。「勇者が絶対に助けてくれる」となぁ。馬鹿なやつよのぉ」
「……!おのれっ…!」
勇者エーリーンは魔王くるみんを見据え、手に持った聖剣を握り締める。
大事なものを失った悲しみ、怒りをその刃に込めて…
「この私が頭から食らい尽くしてやったわ。醤油が絶妙なバランスで香ばしく、大変美味であったぞ!おまけに体力も回復だ! グワハハハハハッ!!」
「…魔王おおおおぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!」
手に持った聖剣を振り上げ、怒りのままに切りかかる勇者エーリーン。
それが魔王くるみんの狙いとも知らずに…
「馬鹿めっ!お前もあの世に行くがいい……むっ!?」
魔王くるみんが羽織っている漆黒のマントに触れたその瞬間、何か違和感を感じとる。
触った手を確認すると、そこには醤油がベッタリついていた。
「あーーーん!このマント高かったのにぃ!うぅ…手を洗ってから急いで洗濯しないと……そういう訳で勇者よ!戦いはまた後日」
「食らええええぇぇぇーーーーーっ!!!」
休戦を申し出るがすでに遅し。
勇者はもうそこまで迫っており、今にもその剣を振りかざさんとしていた。
「魔王っ!このっ!このっ!参ったか!」
「(痛い痛い痛い!)…フ、フハハ馬鹿め!そいつは本物だグオワーーーーッ!?(ちょ、ちょっと力強すぎっ!痛いってばぁ!エリー…!)」
勇者エーリーンはハリボテの聖剣で魔王くるみんの頭部を何度も叩き付ける。
それに対し、魔王くるみんは両手で頭を抑えながらその連続攻撃に苦しむ。
「グッ…わ、私を倒したところで第二、第三の魔王がこの世を闇に覆うだろう…精々その時まで恐怖するがいい…フハ、ハハハハハ…ハ……!!」
頭部にタンコブが出来ながらも、迫真の演技でそれを乗り切る。
魔王くるみんは最後に不穏な言葉を残し、この世界から消え去った。暗黒の世界に、光が戻ったのだ。
そして一点に集中する光達が、勇者を明るく照らし出した。
「…魔王は倒した。だけど、同時に大切なものを失ってしまった……それでもっ!私は負けない!私は勇者。この世界を守る使命があるのだからー!」
決め台詞を言うと、勇者エーリーンは聖剣を掲げ観客にアピールを行った。
その観客席には、禍々しい煙が漂う壺だけがポツンと置いてある。
そう、これは芝居劇。ただ一人に見せる為の、贅沢な芝居劇だった。
台詞を言い終えると集まっていた光は消え去り、天幕はゆっくりと閉じていく。
拍手喝采が起こる瞬間である筈なのに、その時の観客席は実に静かであったという。
「…どう、メディちゃん?我ながらいい線いっていたと思うのだけど…」
エリー人形は舞台を片付けて衣装を脱ぎ元の姿に戻ると、壺の中にいるメディスン人形に話し掛ける。
「……」
しばらくして、壺の中から一切れの紙が落ちてきた。
喋るのが恥ずかしいのか、メディスン人形はいつもこうやってコミュニケーションをとる。エリー人形は紙切れを拾い、内容に目を通す。
「えっと…「食べ物で遊ばないで」…ご、ごめん…今度から煎餅を粗末にしないわ」
返ってきた内容は、あまり喜べる内容ではなかった。しかし、これでも最初のころに比べたら大きな進歩である。
舞島 鏡介からメディスン人形のお世話を頼まれ、色んな方法でコミュニケーションを図ろうと試したのだが…最初は碌に相手して貰えなかった。
というよりかは怖がられていたに近いかもしれない。過去に何かがあったのだろうが…今はそれを知ることも出来ないでいる。
くるみ人形と一緒にどうにかしようと考え抜いて、出た結論がこの「芝居劇」だ。
直接面と向かって話し掛けるのではなく、こうして自分達を見せていくことでまずは警戒心を解こうという作戦である。
そして感想を何気なく聞くことで話題を提供し、自然とコミュニケーションをとっていく。
「あ、いたいた」
頭に出来たタンコブをさすりながら、くるみ人形がエリー人形の元に駆け寄る。
そしてさっきの連続攻撃のお返しと言わんばかりに、エリー人形の頭にチョップをかます。
「痛ったあぁぁい!?」
「力強すぎよ!もう、何も直接叩くことないでしょが!ハリボテでもめっちゃ痛いわ!」
「しかたないじゃない、しかたないじゃない!だって迫力がいると思ったんだもん!」
「大体、何であの「藤原煎餅」をよりにもよって姫役に抜擢したのよ!アドリブで適当に言ったけどシュールすぎるでしょあんなの!」
「だってぇ~他に使えそうなの他になかったし…」
くるみ人形は先程の芝居劇の役に対する駄目出しを口にする。
エリー人形に劇の内容はお任せしたものの、あまりにもツッコミどころ満載であったからだ。
「はぁ…やっぱり、芝居をやるにも人数が少なすぎるわよねぇ。もっと人数がいれば大掛かりなことも出来そうだけど」
「そうね…。せめて後10人くらいは欲しいわ」
たった二人で出来ることなんてたかが知れている。
それにこの人形箱に人形がもっと来れば、色々知恵を出し合うことだって可能だ。
何とか舞島 鏡介に、交渉の機会が欲しいところ。彼が主に捕まえる人なのだから。
「……」
すると、壺からまた一切れの紙が降ってくる。
「っとと!…「でも、前よりは面白かった」…メディ!ほ、本当に!?ありがとぉ!あぁ…嬉しくて涙が…」
「…ま、まぁ?メディが喜んでくれたならいいけどさ」
気を遣ってくれたのか、それとも素直な感想なのか…それは分からない。だがしかし、メディスン人形が初めて励ましの意を伝えてくれた。
その好意にエリー人形は嬉さで涙を流し、くるみ人形は照れ臭そうに頬を染める。
「…やるわよ、くるみ!何としてもね!」
「えぇ!メディが喜んでくれるような、人形達による最高の劇をっ!」
二体は向き合い、メディスン人形の為の芝居劇をより良いものにする決意を固めたのだった。