人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第五十一章

紅魔館を目指し、まずはその道中にある「霧の湖」へとやって来た鏡介。

 

「霧の湖」という名の通り、この湖周辺は霧が立ち込めていて前が全然見えなかった。想像以上の視界の悪さに歩みも遅くなる始末。

まずは、この霧を何とかしなければいけないだろう。

 

「こがさ! 小夜嵐 でこの霧を払ってくれ!」

 

鏡介は封印の糸からこがさ人形を出し、風を起こす技の指示を出す。

こがさ人形は傘をクルクルと回して小さな竜巻を作り出すと、軽い突風を巻き起こした。

風を受けた霧は徐々に晴れていき、前方の景色が見えるようになった。大きな湖がそこにはある。

そして、そこには妖精の姿もあった。ついている。妖精に道案内をして貰えれば紅魔館にもすぐにたどり着けることだろう。

しかし、何やら妖精達はこちらを睨んでいるようだった。怒り顔で近づいてくる。

 

「ちょっと!いきなり何するの!?吹き飛ばされちゃったんだけど!」

 

「あたしらのナワバリをあらさないでよ人間っ!」

 

どうやら先程の突風に巻き込まれたらしく、大層ご立腹の様子。気付かなかったとはいえ、悪いことをした。

こちらに非があるのだし、素直に謝るべきだろう。

 

「ご、ごめんね?悪気はなかったんだ」

 

「うー…服がぬれちゃったわ…もう最悪!おまえなんかきらいだー!」

 

「きらいだー!べーっ!」

 

そう言い残すと、妖精達は霧の向こうへと消えていく。

ここの妖精にすっかり嫌われてしまったようだ。これでは道案内なんて頼める雰囲気ではない。困った事態になってしまった。

仕方ないので、引き続き濃い霧の中あてもなく足を進めていく。湖にうっかり落ちないよう、足元に気を付けながらゆっくりと。

 

 

しばらくすると、何やら遠くから歌声が響いてきた。

綺麗で透き通った歌声が、この視界が悪い不安と恐怖を和らげてくれる。声の質からして、歌っているのはどうやら女性のようだ。一体誰が?

鏡介は歌の聞こえる方角を頼りに、足を進めることにした。

 

 

「…あ、あれは…?」

 

 

湖の中に一人の少女の影が映る。どうやら歌っているのはあの人物で間違いなさそうだ。

普通に水中にいる時点で、人間ではない。恐らく妖怪…またはそれ以外の何かであるのは明白。

話し掛けるべきか…?あそこにいるのが友好な存在であるとは、決して限らない。最悪、襲われる危険もなくはないだろう。

どうすべきか悩む鏡介であるが、このままではいつ紅魔館に着けるか分かったものではない。意を決して鏡介はそこにいる人影に近づき、話をしてみる。

 

 

「あの、すみません」

 

「……ひゃっ!?」

 

 

突然の声に驚いたのか、歌っていた人影は湖の中へと潜ってしまった。

…少なくとも、危害を加えらえる心配はなさそうだ。鏡介は一息つき、ひとまずは安心する。

 

「すみません、驚かせるつもりはなかったんです。その…僕、実は道に迷ってまして…どうか話だけでも聞いてはくれませんか?あなたに危害を加えるつもりは一切ありませんから…お願いします」

 

臆病なようなので、鏡介は警戒をされないよう出来るだけ優しい言葉で湖に潜った者に話し掛けた。

すると、頭の影がひょっこりと姿を現しこちらに徐々に近づいてくる。

 

「…あなた、人間?どうしてこんなところに?」

 

「えっとですね、「紅魔館」に個人的な用事がありまして…その、さっきは驚かせてすみません」

 

恐る恐る、湖にいる少女は話をしてくれる。どうやら誠意が伝わってくれたようだ。

霧のせいでお互い顔や容姿は分からないが、声や雰囲気から危険はないと分かってくれたのだろう。…自分の女々しさがここでは役に立ったということだろうか。複雑だ。

 

「「紅魔館」?あんな危険なところに一人で行くつもり?やめておいた方がいいわ」

 

「…優しいんですね、あなたは」

 

「!い、いやそんなこと…」

 

「…でも、僕はどうしても行かなきゃならないんです。知っていたら教えて貰えませんか?」

 

最初は止めた少女だが、こちらの事情を汲んでくれたようで教えるべきか悩み始める。

 

「(あぁ、きっとあの人は紅魔館に連れ去られたお姫様を助ける為に一人であの悪魔達と戦うつもりなのね…きっと彼は一国の王子様なんだわ…

 何てロマンチック…私は…私は一体、どうすればいいの?彼をあの悪魔城へ導いてあげるべきなのかしら…)」

 

鏡介が紳士的な対応をした為に、少女は見えない相手に対して盛大な勘違いをしてしまう。

彼女は今までほとんど人と接したことがない為、根っからの箱入りであった。多少想像力が豊かなところがあるのだ。

そして悩み尽くした挙句、彼女は自分がすべき答えを導き出した。

 

「…分かりました。そういうことなら案内しましょう。付いて来て下さい、王子様!」

 

「え?あぁ、はい。お願いします(お、王子様?)」

 

鏡介は少女の一部の言葉に疑問を抱きつつも、少女の案内に従って足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここですわ、王子様」

 

霧の中、少女の影を付いて行くと正面にうっすらと赤い建物が見える。あそこが「紅魔館」らしい。

こんな視界の悪さでも分かるくらい、この周辺ではかなり目立つ色合いであった。この霧さえなければ、恐らく一発で発見出来たであろう。

 

「ありがとうございます!助かりました」

 

「いいえ、とんでもございません。お役に立てて何よりです」

 

少女の影は首を縦に振っているような動きを見せた。どうやらお辞儀をしたようだ。

それに、何だか急に口調が変わったような…気のせいだろうか?

 

「それでは、どうかあの悪魔からお姫様を救って下さいね~!私、応援しておりま~す!」

 

その言葉を最後に、少女は湖をジャンプしながら向こうに泳いで行ってしまった。

 

絶対に何か思い違いをしているぞあの少女。「お姫様」を救う?一体何のことだろう…

声からして大人しくて可憐な少女なのだろうと思っていたけど、少し変わった性格の持ち主のようだ。

 

だがこうして案内してくれたのだし、細かいことは後で考えよう。鏡介はそう思うことにし、先に進んだ。

 

 

紅い建物に向かい真っすぐ進んでいくと、さっきまでの濃い霧は晴れてその概要が明らかになっていった。

全体が紅く染まっているその名の通りの大きな館。今まで見てきた建物の中でも比較にならない大きさをしていて、いかにも悪魔とやらが住んでいそうである。

建物の前には門もあり、誰かがそのに立っているようだ。あれは門番だろうか?中華風な服装をしている赤髪のロングヘアーの女の人のようだが。

 

それに、この周辺だけ霧を魔法か何かで遮っているかのように見える。話を聞いた人達が言っていた「魔女が住んでいる」という噂にも、これで信憑性が沸いたというもの。

ここが「紅魔館」で間違いないだろう。とりあえずは辿り着いて良かった。

 

「とりあえず、あの人に話を…あ」

 

中に入れて貰う為に門番に話し掛けようとするが、何かデジャブを感じ思い留まった。そう、阿求亭での経験である。

こういった如何にもお金持ちの屋敷は決まって、事前にアポが必要となるもの。盲点だった。普通に考えて、このまま交渉したところで入れてくれる訳がない。

 

 

「おーい!そこで何やってるんだー?」

 

 

どうしようか考えていると、空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

上を向く間もなく、箒に載った魔理沙は鏡介の前に着陸する。

 

「あ、魔理沙。紅魔館に着いたのかいいんだけど、許可を貰っていなかったなって…」

 

「許可ぁ?いらねぇよそんなもん。私いっつも勝手にお邪魔させて貰っているし」

 

「そうなんだ?でも、ここの人はそれを容認しているの?」

 

「私はいつもの常連客だからいいんだよ」

 

魔理沙は真顔で答えるが、本当にそうなのだろうか?…でも、魔理沙も霊夢と同じ異変解決の専門家。

光が言うには、かつてこの紅魔館の悪魔達が引き起こした「紅霧異変」に関わった人物らしい。

それにこの幻想郷は「昨日の敵は今日の味方」、「郷に入っては郷に従え」という精神である。実際ここの悪魔達とも仲が良いのかも?

 

「それに、ここの門番はいっつも寝ているからな。侵入されても仕方がないってやつさ」

 

「え?あれ寝てるの?」

 

目の前に人がいるにも拘らずこちらを向くことなく立ち尽くしているあの中華の女の人は、器用にも立ったまま寝ているらしい。目を閉じているのは強者特有のものかと思われたが、全然違った。

…もしかして寝ているのがバレないようにこんな寝方をしているのか?何と言うか、緊張感のない人だ。上司にばれたらさぞ叱られることだろう。

 

「ま、そういう訳だ。私はここの図書館に用があるからもう行くぜ。門は開いているし、お前も遠慮せず入っていけよ」

 

「うーん、何か悪い気がするけど…」

 

「…それに、ここの当主はお前に興味があるみたいだぞ?」

 

「え」

 

「じゃあなー!」

 

魔理沙にさらっと告げ口をされ驚く間もなく、魔理沙は紅魔館へと飛び去ってしまった。

ここの当主が僕に?…新聞はこんなところにも出回っているのか。夢の世界でドレミーが言っていたことは本当らしい。様々なところに自分の情報が出回っている。

本当に新聞を配っているのは何者だろう…自分がここに来てまだ3日程だし、こんな広い世界であるのにどんな配達スピードをしているのか。一度お目にかかりたいものだ。

 

 

「そういうことなら、入っても問題はない…よね?…それじゃ」

 

 

鏡介はゆっくりと歩を進め、寝ている門番を起こさないように中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館の門を抜けると、中庭が辺り一面に広がっていた。

手入れがしっかりされているらしく、整列した花達が綺麗に咲いてとても綺麗だ。悪魔が住んでい館には似つかわしくない程に。

そして、花壇の中には大きな噴水も見える。よく見るイメージ通りの西洋の館そのものだった。どうやら思っていたよりも、物騒な感じではないらしい。緊張も多少は解された。

 

 

一通り中庭を観察したところで、いよいよ紅魔館の中へ繋がる扉の前にやって来た。

開けようと両手を構えた瞬間、自動で扉が開いていく。…どうやら既に来ていることを知られているらしい。

うろたえながらも、鏡介は誘導されるままに中へ入っていった。

 

 

「…っこ、これは…」

 

 

中に入ると、そこにも全体が紅く染まった景色が広がる。正直、目に悪い。

紅い床、壁…紅い絨毯、紅い家具…ほぼすべてが紅い。何もここまで紅くしなくてもいいのではないだろうか。ここの当主のこだわりという奴か?

全体に広がる紅の色から、何となく「血」を連想させられる。ここの悪魔の正体が、何となくだが分かった気がした。

 

 

「ようこそ、紅魔館へ」

 

 

紅魔館の玄関から、何者かの声が響き渡る。

だが、どこを見渡してもそれらしき人物はいない。

 

すると、目の前に無数の蝙蝠が集まり出す。

 

 

「…!な、何だ!?」

 

 

蝙蝠達は徐々に人の姿を形どり、やがて赤い霧を発し消滅した。

するとそこには西洋の貴族らしい気品のある格好をした、背中に悪魔らしい蝙蝠の翼を持つ少女が一人佇んでいる。

 

 

「歓迎するわ。外来人、舞島 鏡介(今の中々決まったわね)」

 

 

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