人間と人形の幻想演舞 作:天衣
紅魔館へ訪れた鏡介を待っていたのは、青みがかった銀髪に紅い瞳、背中には蝙蝠の羽を持った少女であった。
服装は白に薄いピンクがかった色をした服に赤いリボンが所々に結ばれている。実際に西洋人形でありそうな、文化がまるで違う服装だ。
身長は低く子供のような容姿だが、どこか只ならぬオーラを放っている。紅魔館の悪魔…恐らく、彼女がそうなのだろう。
「待っていたわ、噂の外来人。私はレミリア・スカーレット、ここの当主よ」
両手を胸元に軽く添える独特のポーズをしながら、こちらに自己紹介を始める。彼女がここの当主らしい。
彼女から漂うカリスマがそれを象徴している。今まで会って来た人々の中でも、感じるものが違った。
「私は日光が嫌いでね…今まで直々に会うことが少し難しかったのだけれど、こうして会いに来てくれて嬉しいわ」
日光が苦手…ということはやはり、彼女は自分の予想通りの悪魔らしい。西洋では定番の「ヴァンパイア」…またの名を、「吸血鬼(きゅうけつき)」だ。
本当にこの幻想郷には色々な種族が存在している。人間、妖怪、妖精、魔女、蓬莱人、幽霊…きっとまだ見ていないものもあるのだろう。
今こうして現実ではないファンタジーのような体験をしている自分は、きっとラッキーな男に違いない。…友人や家族のことが気掛かりでなければ、どんなに良かったであろう。
「あの、期待して貰ってるところ申し訳ないんですが…僕ここに住んでいる「パチュリー」という人に会いに来たんです。聞きたいことがあって」
「え…?」
何やら誤解をしているようなので指摘をすると、レミリアは気の抜けた返事を返す。
「…何だ、私じゃなくて「パチェ」に会いに来たの?もう、それならそうと言ってよ。馬鹿みたいじゃない」
「す、すみません…」
「う~~~……」
レミリアは目に見えて落ち込んでいた。余程自分と会えるのを楽しみにしていたらしい…何だか申し訳ない気持ちで一杯になる。
さっきまでのカリスマはどこへやら、泣き顔で頬を膨らませ羽を萎らていた。子供をガッカリさせたような罪悪感が鏡介を襲った。
「もういい、帰る!お前は私なんかよりも「パチェ」に会いたいんでしょ!」
「えっ、あの…こちらの用事を済ませたら、レミリアさんにも付き合いますから」
「それを早く言いなさいっ!」
…あれ?この吸血鬼思ったより威厳がない…?見たまんまの子供なのでは…いや、止めておこう。
「「パチェ」に会いたいのなら、地下一階にある「大図書館」へ行くといいわ!彼女はいつもそこにいる」
「そうなんですね。分かりました」
「…それが終わったら絶対っ!絶対に会いに来なさい!部屋で待っているわ、舞島 鏡介!」
そう言い残しレミリアはまた元の蝙蝠の集団に戻ると、その場からいなくなってしまった。
何だったのだろう…自分の中の「吸血鬼」という存在の定義が崩れたような…。
鏡介はレミリアが自分の思っていたイメージと違ったことに若干の蟠りを感じつつも、鏡介は紅魔館のロビーを歩き始めていった。
あまり仕事をしていないメイドの格好をした妖精達に道を聞きつつ、歩いていていくと地下一階に繋がっているであろう階段を見つけた。降りてみると、薄暗い部屋の中に何やら大きな扉があった。
ここが「大図書館」への扉なのだろうか?目印の看板らしきものは何もない。だが何となくここだという確信があった鏡介は、両手で力いっぱい扉を引いてみる。
木材の軋む音と共に、ゆっくりと開いていく扉の先には明かりが灯っていた。大した光量ではなかった為、眩しくはなかったが代わりに少々カビ臭い匂いが鼻を突く。
地下にあるせいなのか、換気されていないようだ。あまり長くはいたくないかもしれない。
辺りを見回すと、床に紅い絨毯が敷かれていて莫大な量の本棚の中にびっしりと本が詰まっている。本は全部ここのものなのだろうか…試しに近づいて本を一冊取ってみる。
本を捲ってみると、読めない言語が一杯に書かれていた。見ているだけで頭が痛くなりそうだったので、早々に本を閉じて元に戻す。
この分だと期待は出来ないが、自分でも読めそうな本はないかと歩きながら探してみる。すると、あった。何と「漫画」である。結構古いもののようだが…早速読んでみた。
自分が知っている漫画とはずいぶんと形式が違って時頼どう読めばいいのか混乱したが、結構面白い。…っといけない、こんなことをしに来たんじゃないのに。
だが、この世界に漫画があることには親近感が沸く。もしかして早苗が漫画の真似をしたのも、ここにある漫画で知った知識ということだろうか。
他にも自分のいた世界のものは沢山あった。古い参考書や絵本、雑誌まで…とにかく色々置いてあった。
「大図書館」というだけあって、ここは様々なタイプの本が置いてあるようだ。図書館自体はあちらで結構利用していた身なので、何だかワクワクしてしまう。
気分が上がっていると、宙に浮いている本が目の前にあることに気付く。一体これは何の本だろう?
近づいてみると、本は自動でページを捲りその中に魔法陣が浮かび上がる。
「…?何だろう…」
「馬鹿!離れろっ!」
聞き覚えのある声が聞こえ、振り返るとそこには慌てている魔理沙の姿があった。
猛スピードでこちらに飛んで来ると、こちらの手を取って急ぎその場を離れていく。
その瞬間、魔法陣を浮かばせていた本からレーザー弾幕がこちらを狙うように飛び交った。
「捕まってろよっ!」
「う、うわぁ!?」
魔理沙は鏡介を箒の後部に乗せると、弾幕を振り切る為に出力を上げていく。突然のことで困惑しつつも、鏡介は何とかしがみ付いて落ちないよう箒を力一杯握り締めた。
「そらっ!」
魔理沙は自前のミニ八卦炉を構え、狙ってきている本に向かいレーザー弾幕をし返す。攻撃が直撃した本は魔力を失い、糸が切れたように落ちる。
どうやら無事に撃退出来たようだ。魔理沙はそれを確認すると、ゆっくりと鏡介を地面に降ろす。
「侵入者撃退用の罠に近づく奴があるかっ!下手すりゃ死んでたぞ!全く」
「ご、ごめん…まさかそんなものがあるなんて思わなくて」
軽率な行動をとった鏡介に、魔理沙は声を荒げ説教する。「侵入者撃退用」…まさか、防犯対策をしていたとは迂闊だった。
だが待て?こういうものがあるということは、実際ここへ頻繁に侵入してくる者がいるということではないか?
「パチュリーの奴、最近警備を厳重にしやがったな?これじゃあ借りに行くのも一苦労だ…」
「…ねぇ、この罠ってもしかしなくとも…」
「あん?」
「魔理沙のせいじゃないの?」
「…まぁ、そう解釈も出来るな!ハハハッ!」
「…」
思った通り、この罠は「魔理沙」対策として設置されていたものだった。とばっちりもいいところだ。全く勘弁して欲しい。
…だが、危ないところを助けて貰ったのは事実。攻めるのはよそう。光の言っていた魔理沙の手癖の悪さ…その一旦を今ここで間接的に垣間見えることとなった。
「それじゃ私はまだここに用があるし行くぞ。あ、パチュリーには内緒な?」
「…もう、物を盗るのも大概にしなよ?」
「盗ってるんじゃない。「死ぬまで借りてく」だけだ。死んだら返す」
「…何かさ、変わってるよね魔理沙って」
「照れるぜ」
「褒めてないよ?」
魔理沙が時頼言う謎理論は正直、理解が出来ない。…だが何だろう。あまり上手く言い表せないが、これが不思議と憎めない。
彼女が持つ顔の広さもこういった一面が成せる業…なのだろうか?友達に一人こういうのがいたら退屈しないのだろうとは思える。話していて実際楽しいし。
魔理沙と話していると「大森」のやつと話している気分になる。やはり、気軽に接しているからだろうか?あと恐らく、彼女の男勝りな喋り方も多分影響している。
身長的に見ても、多分自分と歳は大して変わらないだろうし…何だかんだ幻想郷の中で魔理沙とは一番自然と接することが出来ている気がする。
「それじゃ、今度は気を付けろよ?じゃあな!」
魔理沙はそう言うと、この広大な大図書館のどこかへと箒で飛んでいく。
だが借りも出来たし、一応ここの魔女には魔理沙が来ていることを黙っておこう…既に気付いている可能性は高いが。
あんな騒動を起こしてしまっては流石にバレるのも時間の問題だろうし、その時はその時だ。
彼女と違ってこっちはちゃんとした用事があるのだから、説明さえすれば一切問題はない筈。「パチュリー」という人が、話を聞いてくれる人であることを願おう。
言われた通りに今度は周りを警戒しつつ、鏡介は大図書館にて目的の人物の会うべく探査をしていた。
それにしても、広い。あまりにも広すぎる。歩き続けて10分は経つが一向に見つからないし、今自分がどの辺にいるのかも全然分からない。
見渡してもひたすら同じ光景…本棚の迷路に惑わされ続けこちらも正直参っている。魔理沙は何処かへ行ってしまったし、ここにはスタッフさんとかいないのだろうか。
初めてここに来て迷わない人などいないだろう。それこそ、空でも飛ばない限りは無理な話だ。自分にその能力が備わっていないことを悔やむ。
「…!誰かいる…」
視界に女の人が両手でバランスよく本を抱えながら低く飛んでいるのが見えた。
赤のロングヘアー赤い瞳、白シャツに黒のベストと赤ネクタイ、黒のロングスカートという格好をしていて、頭と背中にレミリアと同じ蝙蝠の羽がついている。
いかにも「秘書」という格好だ。ここの管理をしているのだろうか?そして恐らく、彼女も悪魔なのであろう。
所々に罠が設置されていて慎重になっているのもあって、鏡介は歩みを止めて思わず近くの本棚に隠れてしまった。
別に悪いことをしている訳ではないのだから、堂々とすればいいというのは分かっていたのだが…これでは返って怪しまれてしまうではないか。
そしてこれはチャンスだ。話を聞いて貰って「パチュリー」のいるところへの案内を依頼しよう。
もうこの図書館という名の迷路には、正直ウンザリだ。
「あの、すみません」
「うん?…今日はお客さんが多いですねー。貴方も侵入者ですかぁ?」
声を掛けるも、こちらを侵入者と認識される。まぁあれだけ罠が作動すれば嫌でも誰かが入って来たことは分かってしまうというもの。
だがその「侵入者」という誤解は解かなければならない。侵入者はあくまで「魔理沙」であり、自分ではない。
「いえ、僕はここの「パチュリー」さんという人に会いに来ただけなんですよ」
「パチュリー様に?なぁんだ、そうだったんですか。いやー、今ここは警備が厳重でしてねー。主にあの白黒ネズミのせいで…来るの大変だったでしょう?」
「えぇ、それはもう…とばっちりもいいとこでして」
最初のアレ以外は何とか避けられたものの、生きてる心地はしなかった。たった数分でも疲労感が半端ではない。
その話を聞いた秘書の女の人は、何とも言えない感じで苦笑いを浮かべる。
「たははー…まぁ悪く思わないでくださいねー?パチュリー様に用でしたら、私が案内しますので」
「助かります。仕事の途中にすみませんね」
「いえいえ~」
秘書の人が話の分かる人で良かった。一安心し、鏡介は彼女の後を付いて行く。
「パチュリー様~?お客様ですよ~」
図書館の迷路を抜け、広い空間に出たところで秘書の人はそこにいる人物を呼びかける。
そこには椅子に座り本を読んでいる女の人の姿…特徴的に「パチュリー」だ。一度、彼女の人形を見ているので間違いない。
「…えぇ」
パチュリーは一つ返事で返し、こちらを向くことはない。無言で手元の本のページを捲り、内容に目を通している。
人形の再現度は高いらしい…見た時の印象そのまんまだ。口数が少ない日陰の少女…正にそんな感じである。
「それでは私は仕事があるので~」
用事を済ませた秘書の人は、元の仕事場に戻っていく。
そして、鏡介とパチュリーだけがこの空間に取り残されて静寂が訪れる。
「「 ……… 」」
気まずい。話し掛けていいものか分からない。読書の邪魔をするのも悪い気がするし…。
こちらに興味も示さず、何も喋らないパチュリーに鏡介も口を動かしずらくなる。
「……私に何か?」
「え…あぁ、はい。その、今起こっている「人形異変」について聞きたいことがありまして…あ、自分はその調査をしている舞島 鏡介です」
どうするか悩んでいたところ、パチュリーの方から話を振られる。別に話し掛けても良かったようだ。
「そう…あなた、新聞に載っていたわね。それで?」
「はい。実はこの「人形異変」、人形は魔力で動いているという情報がありまして…
ですから魔法を得意としている「魔法使い」、または「魔女」の方々が何かしら関係しているのではないかと思い、こうして尋ねてきました」
彼女は魔理沙、アリスに続くこの幻想郷に住む「魔法使い」…その中でも「魔女」と呼ばれている程の人物だ。
一番この異変を引き起こせる可能性はある。結果はどうあれ、どうなのかは聞いてみないといけないだろう。
「…要は私を「人形異変」の主犯だと疑っている。そういう訳ね。だけど生憎、私は全くの無関係よ」
「…そうですか。まぁ、そんな気はしていたんですけどね」
もう何となく察してはいたが、やはりパチュリーも外れ。
そうなると振出しに戻ってしまう訳だが、このまま帰るのも勿体ない。「魔女」である彼女なら、この魔力の詳細を知っているかもしれない。その可能性に賭ける。
「では、この人形を動かしている魔力について、何か知ってはいませんか?」
「…あの魔力が別の世界のものであるのは確かね。それがどこの何なのかは分からないけど、あれは相当高度な魔法よ。…私が知っているのはここまで」
「この世界のものとは別の魔力…ということですか。ふむ…」
幻想郷は外からは隔離された世界だ。今の話で言っていた別の世界というのはあくまで幻想郷の中にある、こことは別の世界ということだろうか?
割と有力な情報を得た。これである程度は場所を絞れるだろう。流石「魔女」というだけあって、魔法には詳しい人物であるようだ。
「ありがとうございます。良い情報を聞けましたよ」
「そう、用が済んだのならさっさとレミィのところにでも行って頂戴。
何か色々仕掛けを用意していたみたいだから、精々相手になってあげなさい。その扉を向けた先にあるわ。…私も仕掛け作りに巻き込まれていい迷惑よ、全く」
お礼を言うが、パチュリーは特に気にすることなく不機嫌そうに次に行くべきところを示唆する。何やら道中仕掛けがあるとのこと。「レミィ」…恐らく「レミリア」のことだろうか。
お互いを愛称で呼び合う程には、親しい中であるようだ。彼女のところへは用が済んだら行くつもりだったし丁度いいが…あの扉の向こうには一体何が待ち受けているのやら。
気乗りはしないが、せっかくの誘いを無下にするのも気が引ける。鏡介は覚悟を決め、向こうにあるもう一つの扉へと向かうのだった。
次回、それなりにカオスになる予定!