人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第五十五章

第三の試練を何とか乗り越え、次の試練に臨む鏡介(さくや人形)。

 

先に進む為に大きく「四」と書かれた扉を進んでいくと、そこは紅魔館の中庭にあった場所。広い花壇に囲まれたガーデンテラスだった。

くつろげるようにか、お洒落な西洋造りの机と椅子、そして日差しを遮る大きなパラソルが設置されている。

 

さて、今度は誰の姿で何をさせるのやら…鏡介はまず、自分の姿を確認してみる。

何やら先程より背が縮んでいて、肌は雪のように白い。服装は薄いピンク色をベースに所々に紅いリボンが施されているようだ。

そして背中から感じるこの違和感…何かが生えている。これは…蝙蝠の羽?ということは…

 

 

『ついにここまで来たわね、舞島 鏡介。ここがこの「人形達の舞踏会」最後の試練…そして最後に相応しく、今のあなたは私、「レミリア・スカーレット」の姿よ』

 

「…自分自身になっているなんて、気分がいいものじゃないと思いますが?」

 

『あら、そんなことなないわよ?この私という存在を直に感じて貰えているのだからね…フフッ、存分に堪能しなさい。滅多にない機会なのだから』

 

「…は、はい」

 

 

そういうものなのだろうか…自分だったら絶対に嫌だと思ってしまうが…。

余程、自分に自信を持っているのだろう。自己顕示欲が強い面倒なタイプのようだ。

 

…というか、今まで自分がなってきた紅魔館の面々は、この試練についてちゃんと了承しているのだろうか?

無理矢理上司命令でさせられたか、そもそも知らされていないのか…ここの人達って何かと苦労してそうだな。

 

『さぁ、この第四の試練についてだけど、テーマはズバリ…「カリスマ」よ』

 

「…え?」

 

ちょっとレミリアの言っていることが理解出来なかった。「カリスマ」って何だ?

意味は確か、「資質」とか「他者を引き付ける魅力」とかだったっけ…?それがテーマだとして、一体何をすると…?

 

『今からあなたにはここでくつろいで貰うわ。そうね、適当に本でも読んでいるのがいいんじゃないかしら』

 

「へ…?くつろぐ…ですか?」

 

『えぇそうよ。しばらくしたら、ここに忍び込んだパパラッチがやってきてこの私をあらゆる角度から撮影しようと姿を現すわ。

 それに対し、決して隙を見せず美しく華麗で、カリスマ溢れたポージングをとることで対応しなさい。それがここの試練内容よ』

 

「…??」

 

いまいち内容がピンと来ない。鏡介(れみりあ人形)は頭を抱える。まるで机の下にでも隠れているかのようにしゃがみ込みながら。

…あれ?自分は何でこんなポーズをとったんだ…?鏡介(れみりあ人形)は自分のとった行動にも拘らず、それに困惑の表情を浮かべる。これが本人の癖なんだとしたら、彼女はやはり年相応の子供なのでは…

 

 

『…どうやら理解が出来てないという反応ね。ふぅ…しょうがない。こんなこともあろうかと私自身でこの試練の「プロモーションビデオ」を撮っておいたから、まずはそれを見て。というか見なさい』

 

「あ、はい…ご丁寧にどうも…」

 

 

鏡介(れみりあ人形)がとった幼稚な行動には特に触れず、話を進めるレミリア。

どうやらこの試練でやることをあらかじめ「プロモーションビデオ」で教えてくれるようだ。そんなのを用意していたとは…自分のことだからか気合の入れようが違う。

 

『じゃあいくわよ、ポチッとな』

 

レミリアがビデオのリモコンを押す音が鳴ると、鏡介(れみりあ人形)の近くに映像が映し出される。これも恐らく魔法の技術なのだろう。

 

 

彼女曰く、これが最後の試練…まずはこのビデオをしっかり見て、内容を把握しようではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フフッ、御機嫌よう。私は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。

 

今日は珍しく、昼間に外に出ているわ。普段は日が沈む頃に出るのだけれどね…今日は気分がいい。

噂の外来人、「舞島 鏡介」が我が屋敷に向かっているという話が耳に入ったのだから。全く、そんなの聞いたら居ても立っても居られないわ!

どうやら今起きている「人形異変」の調査をしてるみたいだけど、彼はきっと人形遣いとしての腕も立つ。是非一度お手合わせ願いたいわね。

 

さて、来る日に備えパチェの協力の元、バトルをする前にとある「ゲーム」を用意しようと思うのだけれど…説明したところで彼が完璧に理解して出来るとは限らないわね。

最後であるこの私「レミリア・スカーレット」の姿を模しての試練、それがどういうものなのか直々に説明をしてあげましょう。

まぁ?カリスマ溢れるこの私の華麗な姿を目にすれば、言葉など最早不要。始めましょうか…。

 

 

「咲夜っ!」

 

 

指を軽く鳴らし、レミリアは椅子に腰かけると手元の本を読み始める。何かが始ろうという中、日陰の中で静かに本を読み耽るその姿は、彼女の余裕の表れ。

「いつでも来い」という、忍び込んだパパラッチに対する挑発。そのパパラッチ役を買って出た紅魔館のメイド長は、草木の中でカメラを持つ手に汗を滲ませ彼女に挑む。

 

まずは正面から、咲夜はカメラを構えつつ草木から姿を現しレミリアのその隙だらけに見える姿を撮影しようとする。だが咲夜がシャッターのスイッチを押そうとした瞬間には、既にレミリアは動き出していた。

手元の本を机に置き、斜めの姿勢を維持しつつ両手を右から45度の角度、足は右を後ろに曲げて、左はそのまま斜め45度。両手の角度と同じ線を描いていた。これぞ正に芸術。

その堂々且つ大胆なポージングをしているレミリアの表情は、自信に満ち溢れていた。瞳を閉じ、自身の魅力、即ち「カリスマ」をパパラッチ(咲夜)に見せつける。

シャッター音と共に放たれた光がレミリアの姿を収めると、「決まった」と言わんばかりのドヤ顔をしながら元の席に戻り再び本を読み始めた。

 

あまりのカリスマに、パパラッチ(咲夜)は開いた口が塞がらない。完璧で瀟洒なメイド長であっても、今のポーズには動揺を隠せなかった。草木に一旦身を隠すも、まだ胸の鼓動が収まらないでいる。

しかしこれではいけない。主から果たされた使命を全うすべく、パパラッチ(咲夜)は顔を自身で叩いて再び動き出す。

 

 

 

今度は後ろからの奇襲をかける。少しばかり能力を使わせて貰った為、これは完全な不意打ちだ。流石の主でも、これはかわせまい…そう思っていた。

だがその考えは甘かった。レミリアはその行動を読んでおり、また手元の本を置くと今度はこちらに真っすぐ向き両手を後ろに組む。そして顔を横にして背中の羽を少しばかり広げてみせたのだ。

さっきの大胆なものから一変、少し儚げな表現で仕掛けるレミリア。だがそれでも、ドヤ顔であることは変わらない。

 

やられた。パパラッチ(咲夜)がそう思った時には、既にこのガーデンテラスにシャッター音が鳴り響く。我が主の異常なカリスマ性に感服せざるを得なかった。

胸の鼓動が更に高まり、抑えずにはいられなくなるパパラッチ(咲夜)は、草木の中で悶え苦しむ。息も荒い。これ以上やるのは危険かもしれない。下手をすれば命を落とす可能性だってある。

だが、それでもパパラッチ(咲夜)はカメラを構える。主の命令は絶対。そして自分は彼女に忠誠を誓った身…例えこの命尽きようとも果たして見せよう。

 

 

 

パパラッチ(咲夜)は決死の覚悟で主であるレミリアに対し、最後になるかもしれないシャッターチャンスを伺った。すると、レミリアはこの状況下で小さく手で抑えながら欠伸をし始める。

退屈のあまりか、彼女は自分から無防備な姿を晒したのだ。この主の欠伸さえもパパラッチ(咲夜)にとっては来るものがあったが、これはまたとないチャンス。ここが攻め時だ。

 

 

正面。比較的対応しやすいこの角度であっても、そのような醜態を晒していてはこの魂の一カメに十分なパフォーマンスは出来ない…貰った…!

 

 

だが、何ということだろうか。彼女は既に机に乗り万全の体制を整えていたのだ。あの行為が誘う為の陽動であることに、何故気付かなかったのだろう。

冷静さを失っていた自分が憎い。だが、今度はどんなポースが来ようとも耐え抜いて見せる…!

 

パパラッチ(咲夜)はカメラを覗き込み、その主の姿を目にした。

そこには、こちらに向けて「ぎゃおー!食べちゃうぞー!」と言いながら両手をワシワシさせ、こちらに無邪気な笑顔を向けるレミリアの姿が映し出される。

 

それを目にした瞬間、視界が真っ白になりどこかの血管が切れる音が頭の中で聞こえてきた。

 

 

パパラッチ(咲夜)の意識は吹っ飛び、その場で倒れる。その顔はどこか和やかで、鼻からは赤い液体が滲み出ていたという。

 

 

「…あれ?咲夜…?咲夜ぁーーーっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビデオはここで途切れている。

 

 

「(…何だこれ…)」

 

 

鏡介がこのプロモーションビデオを見て第一に思ったことがソレだった。これを自分がやれというのか…?

今までで一番出来る気がしない…こんな恥ずかしいことをやらされる身にもなってくれ…。

 

『…まぁアクシデントもあったけど、これがこの試練の内容よ。この私に相応しい、カリスマ溢れるポーズを期待しているわ』

 

「……は、はい」

 

あの映像を見ていると、「カリスマ」の定義がよく分からなくなってきた。威厳のあるようなものかと思えばそうでもなく、無邪気な姿がほとんどだったような…そういうのでいいのか?

「カリスマ」って何だっけ…そう思わずにはいられない。そもそも何でこんなことをやらなくてはいけないのか、これが分からない。

 

鏡介(れみりあ人形)は渋々椅子に腰かけ、机にあった本を手に取り内容に目を通す。…読めない。何語だこれ…まぁ適当に読んでるフリをしておこう。

 

「ポーズ…ポーズか。うーん…」

 

レミリアが望むそれっぽいポーズを考える鏡介(れみりあ人形)。今まで自分が人生で見て来た経験を思い出し、頭を必死に回転させる。

しかし、いいものは思い浮かばない。当然だ。写真を撮る際、そんなことをあまり意識をしたことがないのだから。

 

頭を悩ませている中、何やら後ろから草木が揺れる音がしてきた。それを聞いて焦る鏡介(れみりあ人形)は、半ばやけくそ気味にそれを迎え撃つ。

 

カメラを持ったあや人形が姿を現しシャッターを押そうする瞬間、鏡介(れみりあ人形)は立ち上がり片足を机に乗せ、カメラ目線でピースをしてみせる。

パパラッチがあの「咲夜」って人の人形じゃなかったことに驚いたが、それ以上に恥ずかしさが圧倒的に勝った。顔がすごく熱い…。

 

あや人形は写真を撮ると、すぐさま草木に隠れていった。これでいいのか…?

 

『まぁ、及第点かしらね』

 

ギリギリ合格だった。どうにかレミリアのご機嫌を損ねずに済んだようだ。こんなのを後何回もやらされるかと思うと、恥ずかしさのあまりどうかしてしまう…。

 

『少し顔にキレがないわね。もっと堂々としなさいな。仮にもこの私になっているのだからね』

 

レミリアは先程のポーズに対して注意喚起を促す。…急にそんなことを言われても困ってしまう。

そもそも自分はあまり自信も持てない性分である。今までは勢いで何とかやってきたが、それは悪魔で人形から貰った力に過ぎない。

 

こういった面は自分のあまり良くない部分だとは思うが、レミリアみたいになるなんて自分にはやっぱり…

 

 

『…自分に自信がないのかしら?舞島 鏡介』

 

「…!」

 

 

見兼ねたレミリアがこちらに話し掛けてくる。

言われたことが図星であっただけに、鏡介(れみりあ人形)の顔には動揺が浮かんでいた。

 

 

『駄目よそんなんじゃ。仮にも「男」なら、ウジウジしないで全力で望みなさい。それが幻想郷の異変を解決する者のあるべき姿よ』

 

「……」

 

 

…男なら、か。今まで女のような扱いをされて腹を立てていたが、そうか。今思うと、自分が変わろうとする努力をしていなかったんだ。

それなのに自分は…なんて馬鹿で愚かだったのだろう。レミリアの言う通りではないか。

 

『あら、少しはやる気になったのかしら?』

 

「…はい、何だか目が覚めた気分です。…次、いつでもどうぞ」

 

『フフッ、いいでしょう。果たして私を満足させることが出来るかしらね?』

 

「やってやりますよ。見ていて下さい!」

 

『…言うじゃないの。では見せて頂戴、あなたの全てをっ!』

 

内気だった鏡介(れみりあ人形)のカリスマ魂に火が付く。

 

ありとあらゆる角度からの攻めに対しても、鏡介(れみりあ人形)は屈することなく挑み続けた。時には激しく、時には静かに、時には無邪気に、時には男らしい勇ましさをパパラッチのあや人形に見せつけていく。

吸血鬼の身体能力をいかんなく発揮し、鏡介はとにかく全力を出し切る。例え椅子から転げ落ちようとも、痛がらずにすぐに立ち上がって弱みを見せないようにする不屈の精神。

これがレミリア本人による影響なのだとしても、そこには鏡介自身の変わろうとする意志が確かにあった。

 

 

 

こうして数分に渡りカリスマポーズをやり続け、あや人形はついに動きを見せなくなった。終わったらしい。

息を切らしながら、鏡介(れみりあ人形)は椅子に両手を乗せ体重をかけながら結果を待つ。

 

『…ふむ、やれば出来るじゃない。まぁポーズ自体は少し改善が必要でしょうけど、その努力に免じて今回は特別に合格かな。これにて「人形達の舞踏会」の全ての試練を制覇ね。おめでとう!』

 

「…あ、ありがとう…ござい…ます…っ……」

 

レミリアの言葉を聞いて安心した鏡介(れみりあ人形)は、その場で崩れ落ちた。

しかしその表情は成し遂げたという達成感に満ち溢れ、いい笑顔であったという。

 

 

『あらあら、お疲れのようね。咲夜にベッドまで運んでおくように言っておきましょう』

 




もうちょっとカオスにしたかったけど流石に自重した
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