人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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今回短めですよー。ちょっとモチベが低下した



第五十六章

 

自分は今、紅魔館の一室のベッドで眠っている。

仰向けの状態から見える景色は相変わらずの紅一色で、天井、床、絨毯、その他の家具の数々…何もかもが紅かった。

落ち着けるかというと、全く落ち着かない。せめて体を休めるこの空間は違う色であって欲しかった。

 

そして、体中の筋肉が悲鳴を上げている。これは所謂、筋肉痛だろう。

人形の身になっていたとはいえ、慣れないことをやらされ続けた結果だろうか…これではしばらく動けそうにない。

 

 

レミリアの言う通り、試練を終えた鏡介は元の「人間」の姿に戻っていて、近くにはいつの間にかなくなっていた鞄や封印の糸が机に置いてある。

恐らくここに連れて来てくれた「咲夜」という人が持ってきてくれたのだろう。

 

 

「………はぁ…あぁ……」

 

 

鏡介は顔を両手で抑えると、深く息を吐いた。顔も少し赤い。

 

人形になったかと思えば、人形と子供らしく遊んだり、毛玉と戦ったり、メイド達にお茶を振舞ったり…挙句の果てには写真撮影と来た。

自分で言ってて困惑する程には、訳の分からないことをやらされている。

 

まさか自分自身に試練が与えられるとは思わなかったが、何とも言えない達成感があるのもまた事実。勉強になることもあったし、無駄にはならなかった…かもしれない。

 

 

 

だが、鏡介はそれよりも強烈で刺激的な体験を、ここに連れてこられる際にしてしまったのだ。

 

 

 

「(……「咲夜」さんって人…)」

 

 

「(…めっちゃ)」

 

 

 

「(いい匂い、したなぁ……それに柔らかかったよ……)」

 

 

 

鏡介の顔の赤みが更に増していく。

 

あの時れみりあ人形の姿だった鏡介は、咲夜に介抱されここまで運ばれたという経緯がある。

その際にはまだ鏡介の意識は僅かに残っており、記憶があるのだ。彼女の「胸元に抱かれた」、確かな記憶が。

小さな姿であったのが余計に感覚を敏感にさせ、思春期の少年である鏡介は思い出すだけで恥ずかしさがこみ上げる。これでは立つものも立ってしまう…何がとは言わないが。

 

こういう時の自分は性別上「男」なのだと実感し、それがどうも虚しかった。…だが、これからは「男」らしくある為に変わる努力もしないといけない…今はそう思う。

内気だった自分がそう考えられるようになったのなら、あの試練の苦労だって自身の成長の第一歩にはなったのかな…?

 

 

しかし、あいつ…大森にはこのこと、絶対に言わないぞ…。墓場まで持っていく所存だ。

 

 

 

自分だけの秘密を守り抜く決心を固めつつ、鏡介は気を取り直して疲れた体を休めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠い目をこすりながら窓から外を見てみると、もうすっかり橙色の空模様。夕暮れ時のようだ。

鏡介は背伸びをし、まだ微かに筋肉痛で痛む身体を動かす。

 

このまま寝室にいるのもいいが、今は少し体を動かしたい気分である。とりあえず鏡介はこの部屋から出ることにした。

 

机にまとめてあった荷物を回収し、ドアを開こうと手を伸ばす。

 

 

「…どちらに行かれるつもりですか?」

 

「うぇ!?」

 

 

誰もいない筈だった背後から声が聞こえ、思わず変な声が出る。

慌てて後ろを確認すると、そこには銀髪のメイド服を着た女性が腕を組みながらこちらを睨んでいた。…勝手に出るのはマズかっただろうか?

 

そしてこの人は知っている。この紅魔館のメイド長である「十六夜 咲夜(いざよい さくや)」だ。

当主であるレミリア・スカーレットの従者でもあり、彼女に対する忠誠っぷりはこの身を持って知っている…のだが…

 

「…何故、そんなに目を背けるのでしょうか?」

 

「あ、いやその…」

 

彼女を直視出来ない理由…それは「あなたに抱かれたことを思い出してしまう」から。

 

…いやいやいや、こんなこと言ったら間違いなく引かれる…!絶対に言うな。こんなところで男気を発揮しなくていい。

彼女にとってあの瞬間は、ただお客様を寝室へ連れていっただけの出来事であり、決して他意はなかった筈だ。

 

「…どこか具合が悪いのですか?顔が随分赤いようですけれど…少し失礼しますわ」

 

「えっ…!?あ、う…///」

 

いつの間にか正面にいた咲夜におでこを触れられ、鏡介の顔は鬼灯みたいに紅くなる。

しかしそんな鏡介を特に気にもせず、咲夜は右手から伝わってくる温度を真剣に測っていた。

その際咲夜の顔が近づいていた為、更に鏡介のボルテージは加速する。

 

「(…熱いわね。やっぱりあの魔法は負荷がかかりやすいのかしら…お嬢様とパチュリー様に報告しないと)」

 

「ああああのっ!?だ、大丈夫ですから!(近い近い近いっ!!)」

 

無自覚に顔を近づけている咲夜を引き離そうとするも、「女性に乱暴なことをするのは良くない」という気持ちがそれを阻害する。

 

…もしかしてこの人、天然入ってる?この行動はいくら何でも無警戒過ぎなのでは?自分だったらからいいものの、他の男にこんなことをしたらどうなっているか。

まぁこんなところに仕えている位だし、この人も相当強いんだろうけど。…それにしても、綺麗だな…。

 

「まだ完治していないみたいですし、今日はもう大人しく休んでいて下さい。お嬢様には私から言っておきますから」

 

「…は、はい………」

 

鏡介の消えてしまいそうな小さい返事を聞いた咲夜は、その場から姿を消した。

 

先程からやっている彼女の瞬間移動…あれが彼女の能力なのだろうか?一体どんなものなのか気にはなるが、これでは外に出ようにも出にくい。

もう十分に休んではいるが、今日は彼女の言葉に甘えてここで厄介になろう。

 

 

しかし、また彼女…十六夜 咲夜という女性から強烈な体験をさせられてしまった…。もう彼女を見るのが色々と辛いよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は丑一つ時。妖怪達が活発になる前の真夜中に、レミリアはいた。

 

彼女の部屋にあるバルコニーに咲夜は現れると、そこに佇み空を見上げている主にお辞儀をする。

 

 

「お嬢様、ただいま戻りました」

 

「どうだったかしら、彼の様子は?」

 

「はい。まだ完全に完治していないようでしたので、今夜はゆっくり休むように言っておきましたわ。…恐らく、人形化の魔法の影響かと思われます」

 

 

空を見上げながら、レミリアは咲夜の言葉に耳を傾ける。

闇の中に佇んでいる吸血鬼の少女に清らかな月光が照らし出され、彼女の銀髪が煌びやかに輝く。

 

 

「そう、ご苦労様。今日はもうあなたも休みなさい(…?パチェはアレ後遺症は残らないって言ってたような…)」

 

 

レミリアの言葉を聞き、静かにお辞儀をした咲夜はその場から姿を消す。

 

 

「…明日は楽しい夜になりそうね」

 

 

不敵に微笑むレミリア。彼女はこの人形異変で突如現れた鏡介に大きな期待を寄せている。

 

 

彼の背負う「運命」。それを見通しながら…

 

 

 

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