人間と人形の幻想演舞 作:天衣
新年一発目の投稿だ!食らえっ!
窓から光が差し込んでくる。朝だ。
温かい日差しが眠気を覚まし、ベッドから起き上がる為の力を漲らせる。昨日しっかりと休んだ為、身体もすっかり元気になったようだ。
鏡介はベッドから離れて寝具を元通りに敷き直すと、封印の糸を取り出す。
「出てきて! みんな!」
3つの封印の糸からそれぞれユキ、しんみょうまる、こがさ人形が出てくる。
バトルじゃないと分かっている為か、今回は登場演出が特にない。まぁ、出てくる度にやっていたらキリがないし仕方ないだろう。気にしないでおく。
3体はこちらを見つめ、鏡介の言葉を待っていた。一体感…チームワークを感じる瞬間である。
「みんな、今日はレミリアさんとの人形バトルが控えている。僕が思うに、彼女は強敵…並大抵の力じゃ勝てない」
咲夜さんから昨日、伝言があった。「明日の夜、レミリアが自分との人形バトルを望んでいる」、と。
直接見るのは恥ずかしいので、すぐさまベッドに横たわり寝ているフリをしたが、確かに彼女はそう言った。
自分で言うのも何だが、人形遣いとしての腕には自信があるつもりだ。新聞にだってそのことは載っていることだろう。そんな自分に彼女は挑戦状を叩き込んできたのだ。
レミリアは今までの会って来た人達とは違い、人形について色々と知識を持っているようだった。そんな彼女の人形遣いとしての腕は未知数と言える。
今まで勢い任せな部分があったが、今回はそうはいかない。しっかりと作戦を練る必要があるだろう。
相手は間違いなく人形を「スタイルチェンジ」させているに違いないのだから。
決戦は今日の夜。だからそれまでに、人形達を少しでも鍛えておこう。
紅魔館にいる妖精メイド達に声を掛けてみたところ、何人か人形バトルの相手になってくれるようだ。
無理を承知で仕事中に申し出たにも拘わらず、快く承諾したことに少し違和感があるのだが…まぁいいか。妖精ってやっぱり気ままな子が多いのかな。
今回鍛えた人形は、こがさ人形だ。やはり現状攻撃手段が乏しい為、優先度は高い。
そして、こがさ人形がこの戦いで覚えた「幽霊アンサンブル」は、「相手の集弾の能力を下げる」という効果がある。
威力が控えめであるが、こがさ人形の集弾が高いのと音技でタイプが一致している為そこまで気にならない。上手く生かせば、バトルの際に有利な状況を作れる。
とりあえずは人形の鍛錬はこれで十分。後は、こちらの作戦次第だ。この調子でやっていこう。
…しかし、気になることが一つ。この妖精メイド達、自分の人形とのやり取りを見る度に何やら騒がしいのだ。
「尊い」、「一生見れる」、「末永く爆発して」等々…一体何を言っているのだろうか?ここの妖精はどうも変わった子が多いらしい。
バトルに参加していなかった妖精メイド達も、遠くからその様子を見てそれぞれ感情を露にしている…何だかここの仕事を邪魔してしまっている気がするから、これ以上やるのは止めておこう。
それに、騒ぎに乗じてメイド長が来る可能性も高いし…。
そう思い直した鏡介は人形を急いで戻すと、一目散にその場を離れていった。
「あぁ!?舞島様一体どちらへっ!?」
「お待ちになって!私、まだバトルしてなくってよっ!」
「ご、ごめん!もう十分だからーーーっ!」
極力、咲夜にエンカウントしたくない鏡介はそのまま紅魔館の外へと飛び出した。
そして玄関の扉を閉めると、一息つく。…ちょっと館内で騒がしくしてしまったかもしれない。後でレミリア達にも謝ろう。
「…ん?あなたは…確か舞島さん?」
「え?」
誰かの声が聞こえて顔を上げると、そこには庭の手入れをしている「紅 美鈴」の姿があった。
「いやー、お嬢様から案内するように言われてたのに私ったら寝てしまって…あの後咲夜さんにこっぴどく叱られましたよー。何本頭にナイフが刺さったか」
「アハハ…」
花に水を上げながら、美鈴は世間話を始める。成程、頭に刺さっているナイフはそれか。その状態でピンピンしている辺り、彼女は妖怪か何かであるのは間違いない。
サボりの印象が強かったが、花の手入れとかはしっかりしているらしい。この広大な庭の管理を一人でやっているのだとすれば、何気に凄いことだ。
「それにしても、レミリアお嬢様と人形バトルですか。お嬢様は「人形」という存在に興味津々ですからねー。最近夜になると自分の人形を徹底的に鍛えてますし、正直かなり手強いと思いますよ」
「はい、僕もそう思ってます」
思った通り、レミリアは人形遣いとしてもかなり強いみたいだ。今まで戦ってきた誰よりも手強い相手になるかもしれない。
「それにしても、今日は天気がいいですねー。絶好の昼寝日和ですよ。まぁお嬢様にとっては最悪の天候なんでしょうけど」
「あぁ、確かに。雲一つない晴天ですね……あ」
美鈴の何気ない一言で、鏡介は対策を一つ思い付いた。
そう、天候…基「気象」だ。
今回はレミリア本人を元に作られた人形が間違いなく相手となる。それに対して有利に立ち回れるあの技を、こちらは持っているではないか。
タイプは今までの傾向状、「闇」が入っているは確実。ならば…!
「…ありがとうございます。美鈴さん!それとこの庭、ちょっと借りますね。迷惑は掛けませんから」
「え?あ、はい…?」
美鈴からヒントを貰い、鏡介はレミリアとの戦い方を掴んだ。
最後の仕上げをすべく、鏡介はこの庭の広間に人形達を出して本格的にレミリア対策の特訓を始める。
その際近くにいた美鈴も、ついでに特訓を手伝ってくれた。門番の仕事は基本暇らしいので、丁度良いとのことであるが…庭の手入れの仕事はいいのだろうか?
アビリティなども少し見直し、しんみょうまる、こがさ人形の振っていなかったステータス強化も済ませて準備は満タン。
そして、時刻は夕方となる。
「…よし!これで行こう」
レミリアとの人形バトルまで、もう残り僅か…出来るだけのことはやった。後はそれを実践していくのみ。
妖精メイド達の案内の元、レミリアのいる部屋へとやって来た。
今夜ここで二人の熱い人形バトルが幕を上げる。…何だか少し緊張してきた。
「…失礼します」
息を呑み、鏡介はドアをノックして扉を開ける。
するとそこには台座に座り、こちらを待ち構えているレミリアとその従者の咲夜が隣に佇んでいた。
今夜の月は紅く、その月光が窓から差し込むことでこの明かりのない空間を怪しく照らしている。
「待っていたわ、外来人、舞島 鏡介。ようこそ私のバトルフィールドへ」
昨日まで接していた、どこか幼さが見えるレミリアはそこにはいなかった。
威厳に満ち溢れ、全く隙のない強者のオーラを放つ「夜の王」。薄い青の銀髪、雪のように白い肌、紅い瞳、大きな悪魔の翼…そのすべてが恐ろしくも美しい。
これが本来のレミリア・スカーレットだというのか…何という威圧感だろう。思わずたじろいでしまった。
「…ずっと楽しみにしていた…この時を。あなたと人形バトルをする、この時をね。「人形異変」が起き、そして突如救世主の如く登場した外来人の君とは、一度手合わせをしてみたかったんだ。
人形をいとも簡単に制御し、しかも糸を使わずとも使役していたそうじゃないか。舞島、私はあなたという存在に興味が尽きない…君がバトルで一体どんな戦わせ方をするのか今から楽しみで仕方ない…!」
レミリアの静かで情熱的な熱意がこちらに伝わってくる。ずっと注目されていたのだと思うと、少し照れ臭くもなってしまう。
ここまで言われちゃあ、期待に応えない訳にもいかないというものだ。
…しかし、この場で人形バトルを始めるつもりなのだろうか?それにしては場所が狭いというか…色々とやりずらい空間な気がする。
「あの、バトルはまた別の場所で?」
「ふっ…その必要はない。その為の「咲夜」だ……始めなさいっ!」
「はっ…」
レミリアが命じると、咲夜はその青い瞳を紅く染めた。
その瞬間、空間が歪み出して部屋の広さが先程の何倍にも広がっていく。
何が起こっているのか分からくなっているのも束の間、人形バトルをするのに十分な空間がいつの間にか出来上がる。
そしてレミリアが指を鳴らすと絨毯に敷かれた床が機械的に開いていき、そこに新たな床が現れる。
それは大きく正方形に形どられたスタジアムにあるようなもので、真ん中にひし形の模様があって所々に白い線が引かれている。
まるで競技でもやるかのような、見覚えのあるものであった。
「フフッ、こちらで相応しい舞台を用意させて貰ったわよ。気に入ったかしら?」
「はい。これなら、周りを気にしないで済みますよ」
「あら、もっと驚くと思ったのだけれど。ちょっと残念ね」
「…もう何が起こっても正直違和感がないというか…慣れちゃったんですかね。アハハ…」
我ながら、すっかりこの幻想郷に染まっている実感が沸く。
普段周りで非現実的なことが起こりまくっているせいだろうな…「慣れ」というのは実に恐い。
「ルールはそちらの手持ちに合わせ、3対3。交代は有りよ。いいわね?」
「はい、お気遣い感謝します」
レミリアからこの人形バトルのルールを聞かされる。フェアな戦いを所望しているのか、こちらに合わせてくれたようだ。
メディスン人形はまだ戦わせるには早い為、こちらとしてはその提案は非常に助かる。
…さて、気を引き締めよう。
「 こんなに月が紅いから 本気で試合うわよ 」
レミリアとの人形バトルが今、始まるのであった。