人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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遅くなりました



第五十九章

紅魔館の主、レミリア・スカーレットとの人形バトル。

 

紅き月の夜…捻じ曲げられたこの広大なバトル空間で、鏡介とレミリアは自身の人形達を戦わせていた。

 

 

二人の残り手持ち人形は、互いに2体。

レミリアの出している「フランドール」という名の吸血鬼の人形は、次の相手となる人形を無邪気な笑顔で待っていた。

 

「しんみょうまる。よく頑張ったな」

 

鏡介は戦闘不能となったしんみょうまる人形の元へ駆け寄り、抱き抱える。かなり無茶な戦わせ方をさせてしまったが、戦果は上々。相手の人形を一体倒すことに成功した。

本当によく頑張ってくれたと思う。笑顔を向けて頭を軽く撫でてやると、しんみょうまる人形もこちらに笑顔を向ける。

 

そして「お疲れ様」と声を掛けると、しんみょうまる人形を封印の糸に戻した。

 

 

「(あの人形…集中技も拡散技も扱えるみたいだな。火力も高い。タイプは見た限りだと、「闇」は確実。しんみょうまる人形なら有利に立ち回れたけど、今はもう戦闘不能…となると、出すべきは)」

 

「行け! こがさ!」

 

 

鏡介は気持ちを切り替え、次の人形を封印の糸から出す。

 

封印の糸が水の塊となり地上に落ちると、飛沫が飛び散らずにゆっくりと溶け込んでいく。その場から波紋が広がり、こがさ人形が姿を現した。

頭には鉢巻をまいて、服は永遠亭の時に着ていた作業着を身に纏っている…気合は十分といったところだろうか。実に頼もしい。

 

「ふむ、今度は「水」か。フフッ…さっきの人形といい、まるで私を対策しているかのような属性だ」

 

「…?相性的は別に…」

 

「そうじゃないさ。…まぁ気にするな、人形バトルには特別関係のないことだ」

 

レミリアが何やら意味深なことを言うが、自分では意味がよく理解が出来なかった。

…まぁ彼女は気にしなくていいと言ってるし、あまり深くは考えないでおこう。

 

 

『…それじゃあ第二ラウンド、再開』

 

 

「こがさ! 幽霊アンサンブル!」

 

「フランドール! パニックコール!」

 

 

両者が互いに攻撃の指示を出すと、こがさ人形の金槌を叩く音から奏でられる音符弾幕とフランドール人形の口からの音波攻撃が衝突した。

様々な音が複雑に混じり合い、不協和音となっていく。聞いているとおかしくなってしまいそうな雑音に、鏡介は思わず両手で耳を塞いだ。

 

音タイプの技の特徴として、基本的に凄く高音である為にこちらにも鼓膜へのダメージがいくことが挙げられる。

扱いには気を付けないといけない。耳栓は必須だろう。今度人里で探してみるか…あるのか分からないけど。

 

 

「(押し負けている!?馬鹿な…奴の方がステータスを上回っているだと?)」

 

 

レミリアはフランドール人形の攻撃が徐々に押されていることに気が付き、驚きを示す。

見たところ、レベルも火力もこちらの方が上だというのに…

 

「(…そうか!あの技は集弾ステータスを下げる効果がある……技の選出を間違えたかっ!)」

 

「フォースシールド!」

 

分が悪いと判断したレミリアは、防御技の指示を出す。

指示を受けたフランドール人形は口を閉じてバリアを展開し、自身の受ける攻撃を最小限に抑えた。

 

「…!隙が出来た…今だ! 激励(げきれい)!」

 

『私は出来る……やれば出来る子!天才鍛冶っ子のこがさちゃんでえええぇーーいっ!!』

 

こがさ人形は自身に鼓舞をして散防のステータスを大幅に上げた。

 

初めて使う為、何をする技なのかはよく分からないが…技名的にきっと控えのユキ人形とかが応援してくれているのだろう。

聞いた話によると、人形同士は封印の糸越しでも会話は出来るらしいから間違いない。こがさ人形の口が動いて何か唱えていた気がするが、きっと見間違えだろう。

 

よし…相手の集弾ステータスを下げ、こちらの散防ステータスを上げた。これで両方の攻撃に対応出来る態勢が整えられたと言える。

 

 

「…戻れ! フランドール!」

 

 

それを見たレミリアは、即座にフランドール人形を封印の糸に戻す。

 

流石、状況判断が早い。確かに今のままではこちらにダメージを通しにくく不利なのは明確だ。

そして、原作と一緒であれば「下がった能力は交代することでリセットされる」。これでフランドール人形の集弾ステータスは戻った筈だ。

 

集防に関しては、こがさ人形も自身で強化出来る。しかし、とあるデメリット付きだ。簡単には使えない。

だからこそこのスタイル…「幽霊アンサンブル」で相手の集弾を下げつつ少しでもダメージを与えることで常に不利な状況を押し付ける。

もし散弾で攻めてくるならば、「激励」で散防も上げて隙をなくす。我ながら、実に嫌らしい戦術だ。

 

そして、作戦は見事に成功。今のこがさ人形は散防が大幅に上がっているし、これで最後の人形がどちらの型であろうとも問題ない。

 

 

「まさか、早々にこいつの出番とはな…」

 

 

レミリアの最後の人形の名前、容姿はもう分かっている。それはそうだ。何せ、この前まで自分がその人形になっていたのだから。

 

 

「さぁ!これが私の切り札だ!とくと目に焼き付けるがいい!」

 

 

だが分かってはいても、相手の最後の人形だ。相当強いのだろう。油断は出来ない…そう思い、鏡介は身構えた。

先鋒のさくや人形であの強さを誇った人形遣いレミリアの切り札…その強さを侮ることをせずに。

 

 

そして、レミリアは見たこともない白銀の封印の糸を掲げ、唱えた。

 

 

「 永遠に幼き紅の女王! 「スカーレットアバター」! 」

 

 

「……はぁ!?」

 

 

鏡介の予想とは全く違った名前が、レミリアの口から宣言された。

 

 

スカーレット…アバター……?

 

な、何だそれは…名前?いや、そんな名前の人いる訳が……だとしたら、何だ?

 

言葉の意味も分からないし、どういった奴なのかが全く予想出来ない……

 

 

「スカーレットアバター」という謎めいた名前が、鏡介の中で焦りを生む。

予想と違ったのもそうだが、何より正体が不明であることが一番の恐怖であった。一体何者だというのだ…「スカーレットアバター」は…?

 

 

「さぁ、闇の世界へ誘ってやろう。 スカーレットアバター! 気象発現「濃霧」(きしょうはつげん「のうむ」)!」

 

 

指示を受けた謎の人形はその姿を現さず、封印の糸から出つつ辺りを黒い霧で覆っていく。

 

 

「私の最後の人形に、果たして一発でも攻撃を当てられるかな?舞島 鏡介!」

 

 

「(…これは「気象」の一種!?輝夜さんが使っていたのとは全く違う…こういうのもあるのか)」

 

 

この見通しの悪い感じ…前にルーミアが人形に「夜陰」を最大まで使わせた状況に少し似ている。「闇の世界」…つまりこれは「闇」タイプが有利になるものと考えるのが妥当か?

「極光」と正反対の性質と仮定すると、「闇」が強くなって「光」が弱くなる。つまり「スカーレットアバター」のタイプは「闇」…なのだろうか?

 

「…こがさっ! 幽霊アンサンブル!」

 

だが、どっちしてもやることは変わらない。

こちらは散防が上がっているし、集弾もこの技で下げておけば問題はないのだから。

 

指示を受けたこがさ人形は金槌から金属の響く音を鳴らして音符型の弾幕を放つ。

しかし敵の居所が分からない状態で攻撃が当たる筈がなく、音符弾幕は虚しく宙を飛んでいく。

 

「フフッ、どこに攻撃しているのかな? ラプラスの目!」

 

不敵に笑いながらレミリアは人形に攻撃の指示を出す。

 

すると次の瞬間、こがさ人形の周りから無数の目が現れて取り囲まれてしまった。

紫色の不気味な瞳が、こがさ人形を暗闇から凝視する。

 

その光景に、こがさ人形は恐怖し竦み上がってしまう。気の小さいこがさ人形にとって、この闇の中の恐怖は耐えがたいものであった。

 

「怖いか? だが、容赦はしない。 怒号(どごう)!」

 

恐がるこがさ人形に、レミリアは更なる追撃を指示する。

瞳に恐怖しているこがさ人形に、暗闇から謎の人形は近づく。

 

「…!こがさ!後ろだ!」

 

鏡介が気付いた頃には、もう既に謎の人形は背後に立っていた。

 

霧のせいで未だに正体が掴めないが、それはどこかで見たことのあるシルエットだった。

…まさか、「スカーレットアバター」の正体って…

 

 

『 ぎゃおーーーーー!!!たぁべちゃうぞーーーーっ!!! 』

 

『 ひいぃやあああぁぁァァァーーーーーーーーっ!!!?? 』

 

 

背後からの突然の大声に、こがさ人形は全身が飛び上がりそのまま転げ落ちる。

辛うじて起き上がると目の前に紫色の瞳が映り、恐怖を倍増させた。こがさ人形は震えあがり、その場で縮こまってしまう。

 

「こがさ!気をしっかり!」

 

「これで上がった能力も元に戻った。…いや、むしろそれ以上に散防が大幅に下がったか?あの状態ではな」

 

「た、立って!立ち上がるんだっ!」

 

鏡介が必死に声を掛けるも、こがさ人形は恐怖で足が竦んでしまってまともに動けない。

 

 

「止めだ。 やれ!」

 

 

そして無慈悲にも、レミリアは動けないこがさ人形に対して攻撃指令を下す。

紫色の瞳が一斉に光り出し、そこから無数の弾幕が襲い掛かる。あまりの攻撃の激しさで砂煙が舞い、視界を更に悪くさせた。

 

「こ、こがさ…っ!」

 

こちらが判断を誤ったせいだ。迂闊な攻撃をしてしまったが故に、状況を一気に悪化させてしまった。

しかし、何も強化をしていないのに攻撃が当たらないなんて…この気象がそうさせているのだろうか?だとすると、このまま放置させては絶対にならない。

 

砂煙の中、鏡介は自身の軽率な行動を反省する。

 

攻撃が当てられない限り、こちらに勝ち目はない。どうにかしなければ…

 

 

やがて、砂煙が収まる。

 

そして「濃霧」は残ったまま、攻撃を受けたこがさ人形の姿が徐々に見えてきた。

 

 

『…こがさ人形、戦闘不能。…レミィに王手ね』

 

 

目を回して倒れたまま動かないこがさ人形を水晶越しに見ながら、パチュリーは判決を下した。

 

 

鏡介の手持ち人形、残り一体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、次の人形はあっさりと倒してしまったな。あの様子だと、まだ十分な経験値を獲得してないようだね」

 

「……ッ」

 

「一体目の人形は中々良かったのだがな。少しガッカリだぞ、舞島 鏡介。もっと私を楽しませてくれよ。なぁ?スカーレットアバターよ。お前もそう思うだろう?」

 

レミリアの傍に蝙蝠が集い、「スカーレットアバター」がその正体を現す。

 

その姿はレミリアと瓜二つの人形。白い肌に紅い瞳、血のよう真っ赤なリボンを多くあしらった薄いピンクの服。

本人に負けず劣らずのカリスマ性を感じさせ、圧倒的な強さを象徴していた。

 

レミリア人形は主の問いに頷くことなく、瞳を閉じながら静かに笑みを零す。

自分の人形達とはまるで違う。強者であることを自覚している凛としたあの佇まい…虚栄などではない、本物の実力者だ。

今まで会って来た人形とはまるで格が違う。

 

こんな気持ちになったのは、光のげんげつ人形と初めて出会った時以来だろうか。

 

あの時は、ユキ人形が謎の覚醒をして奇跡的に勝つことが出来た。しかし、それ以降は一度もアレは発動をしたことがない。

あの力があれば、今のこの状況をひっくり返せる可能性はあるが…期待はしない方がいいだろう。

 

 

もうやるしかない。こちらの最後の一体で精一杯っ!

 

 

「さぁ、最後の人形…出しなよっ!」

 

「えぇ、僕の最初のパートナーです! ユキ! 君に決めたっ!」

 

 

鏡介は手持ちの最後の人形が入っている封印の糸を掲げる。

封印の糸は炎の球となってバトルフィールドを掛け回っていき、通り過ぎた跡から火の粉が舞い上がる。

 

「…随分と元気のいい人形だな」

 

「アハハッ…まぁ確かに元気なやつですね。こいつは」

 

レミリアはユキ人形の登場演出に少々呆れ気味に感想を述べる。

フィールドを自由奔放に飛び回り続ける人形の姿に、レミリアの人形も溜息を吐く。

 

 

「(…だが何だ?あの人形から感じる特殊な「運命」は?………ほう、これは。フフッ…こいつ、中々面白い「運命」をしているね)」

 

 

思わぬ収穫に、思わずレミリアは笑みを浮かべる。

 

彼女が見えたものは何なのか、それは彼女のみぞ知ること。

 

 

 

 

そして炎の球は一通り暴れ回った後、鏡介のいる方のフィールドへ急ブレーキして戻って来た。

纏っていた炎が徐々に消えていくと、ユキ人形がその姿を現す。

 

「それがお前の最後の人形か。…ふむ、見ない顔だな」

 

「…頼むぞ! ユキ!」

 

鏡介の言葉に、ユキ人形はこちらを向いて元気よく頷いた。やる気十分のようだ。

しんみょうまる人形の分、そして今回無念の敗北となってしまったこがさ人形の分も頑張って欲しい。

こっちも出来るだけのことはやってみせよう。

 

『…それじゃ、そろそろ第三ラウンドを始めるわよ。…まぁ後一体でレミィの人形二体分を相手に出来るとは思えないけれど』

 

「言ってやるなよ、パチェ。この人形、案外健闘するかもしれんぞ?」

 

『あら、あなたがそんなことを言うなんて珍しいわね?…ま、ぶっちゃけ私は人形のデータ採集が出来ればそれでいいし、バトルの結果なんて正直どうでもいいんだけどね』

 

「…そ、そんな理由で?」

 

「…ハハハッ!成程!道理ですんなり審判を受けてくれた訳だ!」

 

 

パチュリーがここに来た理由は人形の研究、ということらしい。

それを聞いたレミリアはそのことが可笑しいのか、笑っている。緊迫したこの空間に、一時の安らぎが訪れた。

 

…だが、それもほんの少しの間のこと。

 

この勝負で結果が決まる。相手は人形が二体…何とか勝ち筋を見い出せ…!

 

 

「…さて、それじゃあ始めようか?舞島 鏡介」

 

「えぇ、そうですね」

 

 

『…第三ラウンド、開始』

 

 

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