人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第六十章

黒い霧が辺りを覆っている…

 

そこは闇を好む者達の世界。視界は思ったより悪くはないのだが、光が一切入らないこの空間は人を不安な気持ちにさせる。実に嫌なものだ。

 

レミリアとの人形バトル…こちらの手持ちは後一体なのに対し、彼女はまだ二体残っている。

状況は最悪と言っていい。まさか一撃でこがさ人形がやられてしまうなんて思わなかった。

計算ミスだ。相手の強さを決して見縊っていた訳ではない…ないのだが、それでも相手の人形の強さが予想の遥か上を行っていた。

 

 

「スカーレットアバター! ウィンドジャベリン!」

 

「ファイアウォール で身を守るんだ!」

 

 

スカーレットアバター、基レミリア人形の旋風の槍による連続突きがユキ人形を襲う。

ユキ人形は炎の壁でこの猛攻を何とか防ぐが、一撃一撃が重く徐々に押される。

 

「ほう、その技を防御に使うか!面白い!」

 

「……っ(不味い、どんどん押されている。この人形相手にこれ以上は使用しない方がいいか…)」

 

やはりこのレミリア人形…強い。

攻撃力もスピードも、ユキ人形を遥かに上回っている。隙が出来ない。

「ファイアウォール」は元々攻撃技であり、防御技と比べると耐久性は乏しい。いずれ押し負けて手痛いダメージを負うだろう。

 

…これじゃあ、いつまで経ってもあの技を使えないままだ。どうにかして隙を作らないと…!

何か、何かないのか?相手に不意を突ける技を…そして、今のこの場の状況をよく観察するんだ。

 

 

「(…!あれは…そうか、咲夜さんの人形とのバトルの際に………そうだ!これを使って…!)」

 

「ユキ! ファイアウォール を飛ばしてそのまま 乱反射レーザー だ!」

 

 

ユキ人形は指示通りに張っていた炎の壁をレミリア人形に向けて飛ばし、そのまま無数の光線を放った。

 

「無駄だ!この中ではスカーレットアバターに攻撃は一切届かないっ!」

 

炎の壁が迫って当たりそうになったその瞬間、レミリア人形はその姿を蝙蝠の集合体に変えて攻撃をやり過ごす。

そのまま炎の壁は真っすぐ飛んでいくが、まだ攻撃は終わってはいない。次は、無数の光線が入り乱れてレミリア人形へと飛んで来る。

 

「当たってくれ…!」

 

「無駄だと言っているのに分からない奴だ…結果は同じさ!」

 

レミリアの宣言通り、さっきと同様に光線が当たる瞬間、レミリア人形はその姿を蝙蝠の集合体に変えてやり過ごす。

光線は壁と一緒に飛んでいく。

 

 

しかし、これこそが鏡介の狙いだった。

 

飛んでいた炎の壁に先程の光線が反射し、再びレミリア人形に向かっていく。

 

「…なっ!?」

 

「上手くいった…!」

 

「乱反射レーザー」の屈折を利用し、不意を突いた一撃。

流石のレミリアも予想出来なかったらしく、驚きの表情を浮かべる。

 

 

「…だが!この濃霧の中では「光」技は半減されている!そんな攻撃、弾くことなど造作もないわッ!」

 

「スカーレットアバター! スマッシュスピン!」

 

 

レミリアが指示を出すと、レミリア人形は体をこまの如く高速で回転させてユキ人形の攻撃を弾いた。

 

「フフッ、どうだ!お前の技の応用力、盗んでやったぞ!」

 

「…くっ!」

 

決死の攻撃を対応されて悔しがる鏡介の顔を見て、レミリアは嘲笑う。

レミリア人形の高速回転によって弾かれた無数の光線は、バラバラの方向に地上に向かって飛んでいく。地面に落ちては屈折も発動しない。

 

万事休すか…?

 

 

「良い攻め方だったが、このスカーレットアバターに傷を負わせるには至らなかったな。…さて、今度はこっちの番だ」

 

「……」

 

「スカーレットアバター! ナイトステ」

 

 

レミリアが指示を出そうとしたその瞬間、一筋の光線が彼女の人形を貫いた。

突然来た背後からの攻撃に、レミリア人形はひるんでしまう。

 

 

「……!?な、何だと!?」

 

「…今だっ!」

 

 

「 ユキ! 気象発現! 」

 

「 極光! 」

 

 

鏡介の叫びを聞き、ユキ人形は天に光の玉を捧げた。

 

 

そして、黒い霧に覆われたフィールドに闇を照らす光が差し込む。

 

霧は瞬く間に晴れていき、「闇」を退ける光の世界が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(な、何だ!?一体何が起こった…!?完全に攻撃はやり過ごした筈…なのに何故攻撃が飛んで、尚且つそれが当たった…!?)」

 

レミリアは先程の現象に戸惑いを隠せないでいた。

日差しの中、咲夜に傘を差して貰いながら思考を巡らせる。

 

「(あの濃霧の中、まさか攻撃がヒットするなんて。…いや、それよりもどうして背後から攻撃が突然飛んできたというのだ…?)」

 

レミリアは辺りを見回し、そして考察を始める。

あの瞬間にあの外来人の人形が移動したとは思えない。精々、数秒くらいしか経っていなかった。

それに、あの人形のレベルだとまだそんなスピードは出せやしない。

 

…いや、そもそもの話だ。私の視界にはあの人形が正面にしっかりいたのだ。

だから、「背後に回り込んだ」訳ではなし。となれば…弾いた攻撃が再び何かに当たって屈折した…?

 

「……!おい、パチェ!お前の水晶か!?あの攻撃を反射させたのは!?」

 

『は?』

 

「この水晶にあいつの攻撃が当たったんだろ!なぁ!?やってくれたなぁおい!」

 

『…落ち着きなさい、レミィ』

 

浮いている魔法水晶の存在が目につき、文句を言うレミリア。

それをパチュリーは水晶越しに宥めている。

 

…何だか、急に彼女と初めて会った時に見せた幼い一面が出てきている。それ程衝撃的だったのだろう。

 

 

『レミィの考えは正しいわ。あれは確かに死角から反射させることで起きたものよ。ただ、反射させたのは私の水晶じゃない』

 

「……だったら、一体何が反射したと…っ!」

 

『…それは』

 

「それはあなたの人形が残した「一本のナイフ」ですよ、レミリアさん」

 

「…!」

 

 

レミリアは鏡介の指を指す方向を向く。

そして、さくや人形がしんみょうまる人形と戦った際に弾かれたナイフが地面に突き刺さっていることに気が付く。

その角度は、丁度レミリア人形の背後に反射する完璧な角度であった。

 

 

「そして攻撃が当たった理由は、あなたの人形が使った技「スマッシュスピン」。あれがあなたの人形の周りにある霧を一時的に晴らしてしまったから。

 あなたの人形のアビリティは恐らく、「気象が濃霧の時に人形の回避率を上げる」…でも、そのアビリティは「霧」の中にいないと発動しないようですね!」

 

「…ッ!?」

 

『してやられたわね、レミィ』

 

 

実際、危険な賭けではあった。そもそも「乱反射レーザー」がナイフに当たる保証など最初からない。

壁による反射を対応してくることは読んではいたのだが、本当に上手くいって良かった。

 

これで気象を上書きさせることに成功。

相手の弱点である「光」タイプを強化し、「闇」を半減させるこの「極光」のなかであれば、多少は有利に立ち回れる筈だ。

 

これでやっと、攻めに転じることが出来る。

 

 

「…戻れっ! スカーレットアバター!」

 

「殺戮の破壊者 フランドール!」

 

 

しかしレミリアは最初こそ動揺していたもののすぐに落ち着きを取り戻し、すぐさま交代を宣言。

そして、フランドール人形を場に出す。

 

「ユキ! スターフレア!」

 

だが、その際に出来る隙を鏡介は見逃さない。

出て来たばかりのフランドール人形に向かい、新しく覚えた「光」タイプの強力な技を食らわせる。

 

ユキ人形の放った天からの光弾が、フランドール人形を襲う。

 

攻撃は見事にクリーンヒット。レミリアは指示が間に合わないと最初から判断していたのか、何も言うことはなかった。

 

 

『アビリティ:癇癪持ち(かんしゃくもち)  発動』

 

「え…!?」

 

 

鏡介のスカウターが反応する。

 

 

そして、この場の空気が一変した。

 

とてつもない殺意の波動をフランドール人形の方から感じる。

攻撃をまともに受けてふらついているにも拘らずその姿は恐ろしいもので、最初に見た無邪気そうな顔はそこにはなかった。

それは、攻撃してきた相手に対する憎悪に満ちた恐ろしい表情。「悪魔」に相応しい紅く鋭い眼光が、ユキ人形に鋭く刺さる。

 

「な、何だこれは…!?」

 

「…ククッ、ハハハハハッ!君は何とも運が悪い…どうやら、こいつを本気で怒らせてしまったようだな」

 

殺意の波動に目覚めたフランドール人形は、禍々しいオーラを放ちながらユキ人形に向かい凄まじいスピードで襲い掛かった。

レミリアはその光景をただ静かに見つめている。

 

 

「さぁ、こいつの暴走を止められるかな?舞島 鏡介!」

 

「この状態になると指示を一切受け付けなくなる替わりに、絶大なパワーを得るっ!少しでもお前の人形にダメージを負わせ、確実に勝利させて貰うぞ!」

 

「くっ…!?」

 

『(…自分の能力を活用したこの戦術。私じゃなきゃ見逃しゃうわね)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺意の波動に目覚めたフランドール人形による飛翔からの丈夫な右拳が、ユキ人形に向けて振るわれる。

 

「よけろ! ユキ!」

 

ユキ人形はフランドール人形の攻撃をバックステップで回避した。

避けたことで地面に突き刺さったフランドール人形の右拳から、地響きと共に大きく亀裂が走る。

滅茶苦茶なパワーだ。あんなの食らったら戦闘不能では済まない。

 

「反撃だ! ユキ! フラッシュオーバー!」

 

指示を受けたユキ人形は、無数の火球をフランドール人形に向けて放った。

それに対しフランドール人形は「オーバーレイ」で対抗する。光弾と火球がぶつかり合い、火花が散っていく。

 

「…そんな!?ユキの方が押されている!?」

 

威力の低い技である「オーバーレイ」の方がユキ人形の攻撃を押している。

いくら気象で威力が上がっているとはいえ、元の技の威力はこちらが上だ。それでも負けている辺り、あのアビリティの恐ろしさを実感する。

 

「ファイアウォール で身を守れ!」

 

鏡介は素早く防御の指示を出し、攻撃に備える。

炎の壁を作り出したユキ人形の光弾が襲い掛かるが、何とか防ぎ切った。

 

しかし、既にその瞬間フランドール人形は目にも止まらないスピードでユキ人形に突進してきていた。

壁を張っていたにも拘わらず、それをすり抜けユキ人形は攻撃をまともに受けてしまう。

 

数m吹き飛ばされたユキ人形は何とか立ち上がるも、足元がふらついている。お腹を抑えていて、息も荒い。

 

「最大火力の「影走り(かげばしり)」は効いただろう?」

 

「(…あの技、防御結界をすり抜けるのか。不味いな、このままじゃ勝てない…!どうしたら…どうしたら突破出来る!?)」

 

未だ、かつてないほどの逆境であった。

人形バトルでこれ程のピンチは、これが初めてだ。この高揚感…これが、人形バトル…!

 

 

 

鏡介はその時、願った。

 

 

このバトルに「勝ちたい」と、心の底から願った。

 

絶対に「負けたくない」と、真に願った。

 

 

「!?」

 

「(運命が…変わった……!?)」

 

 

レミリアの紅き瞳から、強い兆しが映り込む。

それは彼女にとって望ましくない、受け入れ難いもの。

 

レミリアは唇を嚙み締めてそれを見つめる。しかし、それと同時に

 

 

「(……面白いじゃないかっ…!)」

 

 

この人形バトルの高揚感を、更に高めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うわっ!?」

 

 

突然、バトルフィールドに炎の渦が舞い上がる。

 

何も指示は出していない。それなのに、ユキ人形はその渦の中心にいた。

暴走しているフランドール人形は無理矢理近づこうとするも、炎の激しさに弾かれてしまっている。

 

「(な、何だ?こんな技、スカウターには…)」

 

「!?こ、これは…!」

 

鏡介はスカウターの異変に気が付く。

ユキ人形のステータスが大幅に強化されていき、約2倍近くまで跳ね上がった。

 

この現象、初めてじゃない。前にも一度、見たことがある。

 

 

これは…

 

 

『……舞君の気持ち、しっかり伝わったよ』

 

 

あの悪魔を倒す為の、奇跡の力だ。

 

 

 

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