人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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「断章」はおそらく全4話くらいになるかと思います



断章2

ここは博麗神社。

 

この幻想郷にとって最も重要な場所であり、「博麗の巫女」である「博麗 霊夢」の住む住居でもある。

 

霊夢は縁側に座り、悩んでいた。

 

 

「どうしよう…こいつ」

 

 

霊夢はその悩みの種の要因を遠目で見つめ、溜息を吐く。

 

 

この前、突然空から降って来た小さな人形。

 

「博麗 霊夢」と瓜二つの姿をしており、自分の意志で動くことが出来る。身長は一尺より少し大きいくらいで、体重はとても軽い。

何故かこちらの攻撃、主に弾幕が一切効かないらしく、おまけに人形自身弾幕も放てる…実に奇妙な生き物だ。

 

 

弾幕を打ってくる敵は別に珍しくもなんともない。この世界では至って普通である。

しかし、「こちらの弾幕攻撃を一切通さない」のは反則級と言える。「弾幕勝負」がモットーの幻想郷にとって、それは手の出しようがないも同然。

 

「……あ、コラッ!もう煎餅はあげないってば!」

 

「…!!」

 

人形に気まぐれで餌付けしてしまったのは失敗だった。あれ以降、どうやら自分に懐いてしまったらしく手を焼く日々が続くという始末。

居候はあの一寸法師だけで充分だというのに、これ以上面倒を増やさないで欲しい。…まぁ、今回は自分に非があるのは否定出来ないが。

 

「ちょ、ちょっと裾引っ張らないで!……もうっ!何なのよ一体…」

 

人形の思いがけない力で無理矢理引っ張られてしまった霊夢は、縁側の外へと連れ出される。…構って欲しいのだろうか?

こういうのを冷たくすると暴れて面倒になる。渋々だが仕方なく、付き合うことにした。

 

 

何をするのかと待っていると、人形は懐から毬(まり)を取り出してこちらに蹴りあげてくる。

 

どうやら、これで遊びたいらしい。

だがあれはずっと蔵に眠っていた物だった筈なのに。…どうしてこの人形はその場所を知っているのだろう?

 

「…っとと、ほいっほいっ…っと」

 

考え事をしている内に毬は霊夢の元に来ていたので、それを足で左右に蹴る。

これを使っていたのも、もうずいぶんと前…「陰陽玉」の制御の練習に使っていたのだが、それも最早懐かしい。あの頃は、まだ碌に空も飛べなかったっけ。

今よりも修行をサボっていて、「博麗の巫女」としての自覚も薄かったように思う。

 

霊夢が毬を蹴りながら昔を懐かしんでいると、人形はその姿を見て「すごい!」と言わんばかりに目を輝かせ、そして拍手をしている。…「自分」に褒められるって、何か変な気分だ。

 

「…そらっ!あんたもやってみなさいよ!」

 

何だか照れ臭くなった霊夢は、それを誤魔化すように人形へ毬をパスした。

 

だが、これは同時に人形の観察でもある。

この毬の存在を知っているのであれば、やはりこの人形は自分の分身のような存在の可能性はある。この毬だって、きっと先程自分みたいに軽々と扱えるだろう。

 

 

しかし、霊夢のその予想は外れてしまう。

 

蹴ろうとした人形の小さな足は空を切り、その勢いを制御出来ず盛大にコケてしまったのだ。

単純に毬が人形のサイズに対して大き過ぎた…というのもあるだろう。蹴る力だって最初にこちらに渡してきた時に確認済みだ。

 

一度だったらまぐれかも知れない…そう思い、霊夢はその後も何度か毬を蹴らせようとしてみた。

しかし、悉く失敗。一度は蹴れても、上手く反対の足側へと毬をコントロール出来ていない。う~ん、これは…

 

「下手くそ…ね」

 

その後も毬を足元に蹴ろうとする人形。しかし、結果は同じだった。

 

やはり、所詮は「人形」…といったところだろうか。どうやら姿形は似ていても、本物には到底敵わない「差」があるようだ。

人形のムキになった子供のような姿を見て、霊夢は少しばかり安堵する。

 

…しかし、これではまるで昔の自分を見ているようだ。気分がいいかと言えば、あまり良くはない。もしろ、少し見ていてイライラするぐらいだ。

力の入れ方がまるでなっていない。違う方法を試してみればいいのに…さっきから同じことを繰り返している。早く間違っていることに気付いてくれ。

 

…お?やっと学習したか?……あぁ、違う!そうじゃないっ…!もうっ、何で分からないかなぁ…見ていられない。

 

 

 

 

 

…気が付けば、霊夢は人形に毬の蹴り方をレクチャーしていた。

 

 

そして、今日一日をそれに費やした霊夢は布団に入った頃、そのことを大変後悔する。

 

「…何やってんだろう、私」

 

今日自分がやったことの無意味さ、更に人形が自分の布団の中に入り込んでくること…その両方に対し、霊夢は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人形が神社にやって来てからもう一か月が経った。

 

すっかり懐かれてしまい、隙あらば遊びに付き合わされる日々が続いている。

「相手をするほど暇ではない」と言いたいところなのだが、生憎今は異変も何も起こっていない状態が続いている。こういう時に限ってだ。

この人形の出現自体が「異変」なのかもしれないが、こういう時に真っ先に絡んでくる紫は今のところ現れる様子もないし、別にこの人形が何か幻想郷に異変を起こしている訳でもなし。

 

だから、特別退治をする理由もない。これが今の自分の出した結論だ。

 

…それ以前に、退治自体出来ないのだが。

 

 

しかしタダで居候させてあげる程、私は優しくはない。

この人形はある程度教えてあげれば簡単な仕事くらいは出来るのが分かったので、炊事、洗濯等を基礎から叩き込ませてみた。

同じ居候である「少名 針妙丸(すくな しんみょうまる)」と一緒に、現在は働かせている。

 

針妙丸は人形のことを気に入っているみたいで、妹分として可愛がっているようだ。

そして驚くことに、人形が何を言っているのかある程度分かるらしい。言っていること全部を完全通訳は流石に出来ないらしいが、それでも何となく理解出来るとのこと。

 

困った時は針妙丸に通訳して貰うこともあったりする。

 

「霊夢ー!洗濯終わったよー!」

 

「ん、早かったわね。じゃあ次は庭掃除ね」

 

人形の頭に乗っている針妙丸は霊夢の指示を聞いて庭を一望し、その果てしない広さに絶望する。

霊夢にとっては普通でも、針妙丸にとってはあまりにも広大過ぎる庭だった。

 

「うげー…この小さな体にそんな重労働させる気…?鬼なの?」

 

「何?文句言うんだったら飯は食わせないわよ。ただでさえ余裕ないんだから家は」

 

「…はーい分かりましたよぅ…行こう、二号ちゃん」

 

「!」

 

針妙丸はれいむ人形…基「二号ちゃん」と共に渋々掃除道具を取り出し、園内の掃除を始めた。

働かざる者、食うべからず。二体にはきっちりと働いてもらわねば。

 

 

 

季節はすっかり春となり、桜も綺麗に咲き始めた今日この頃。「お花見」という名の宴会の時期でもある。

今年も見事に咲いたが、お陰で園内には花弁がそこら中に散らばっている。今の内に掃除を少しでも終わらせておく必要があるのだ。

 

異変の後は宴会…それはこの幻想郷の一つの「風習」だ。私は結構この風習が好き。何故ならたらふく飯が食えるし、酒も飲める。

後、皆で集まってワイワイするのも案外嫌いではない。まぁそれらは私だけでなく、この幻想郷の住民の大半はそうだ。

 

だから、せめてその会場であるこの神社は綺麗にしておきたい。当日を何不自由なく楽しむ為にも。

 

 

そうそう、幻想郷の風習と言えばもう一つ。

この時期になると必ずここに尋ねて来る人物がいる。

 

 

「おーーーい、霊夢ーーーー!!」

 

 

空からこちらに呼びかける、一か月ぶりの筈なのに聞き飽きるほど聞いたその声の主は、

 

 

「遅いわよ、魔理沙」

 

 

普通の魔法使い、そして同じ異変解決の専門家である「霧雨 魔理沙」だ。

 

 

 

 

 

 

箒で空を飛んでいる魔理沙は、博麗神社に着地すべくこちらへ急行した。

その際に強い風圧が発生し、桜の花弁が舞い散る。

 

「ちょ!?う、うわあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

「…~~!?」

 

どうやら花弁と共に針妙丸と人形も巻き込めれてしまったようだ。

それはいいのだが、折角花弁を一か所にまとめていたのにこいつは…

 

「…あのねぇ、こっちは今掃除してんのよ。散らかさないでくれる?」

 

「ん?…あぁ、悪い悪いっ!でもそこに散らばる花弁があるのも悪いと思うんだ。この時間だといつも終わらせてるじゃないか、掃除なんて」

 

「…えぇそうね。でも、今回はちょっと他にやることあったのよ」

 

「ふーん?まぁそれはそれとして、今回も大量に召集出来たぞ。紅魔館に白玉楼、永遠亭、守矢に地底の連中と…まぁほぼいつも通り全員だ。宴会料理や酒の量は期待していいぜ」

 

「よし来た!…この間の連中は?」

 

「うーん、まぁ誘おうと思ったんだけどな…月の奴らと鉢合わせるのどうなんだろうか」

 

「…まぁ、いいんじゃない?いざとなったら、優曇華(うどんげ)に何とか抑え込んでもらいましょうよ。懐かれてるみたいだし」

 

「それもそうだな!じゃあ、あいつらも誘っておこう」

 

このように、宴会の招集は機動力があって顔が広い魔理沙にいつも任せている。

そして、こちらはいつでも始められるように会場の掃除、準備をやっておく。これぞ「適材適所」というやつだ。

 

「ちょっとぉ~~!危ないじゃないのよ~~!」

 

「…ッ!…ッ!」

 

吹き飛ばされた針妙丸と人形が戻ってきて魔理沙に文句を言いに来た。

彼女自身悪気はなかったように見えるが、これは二体に怒られても仕方というものだろう。

 

「…!?」

 

その怒鳴り声を聴いて振り向いた実行犯の魔理沙は、二体を見て何故か驚いたような顔を浮かべていた。

 

「…なぁ霊夢。あの小さなお前によく似た生き物は?」

 

そう言いながら魔理沙は人形の方を指差す。

あぁ、そうか。魔理沙は初めてこいつを見るんだっけ。驚くのも無理はないか。

 

「あー…何か先月からここに住みついちゃったのよね。「居候その2」ってところかな」

 

「そ、そうか…」

 

魔理沙はそれを聞いて考え込む。一体どうしたのだろうか。

 

「…その、実はさ」

 

「ん?」

 

そう言うと、魔理沙は自身の魔女の帽子を脱いだ。

 

 

「…え」

 

 

するとそこには、魔理沙の頭に乗っかっている魔理沙にそっくりの人形の姿があった。

 

 

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