人間と人形の幻想演舞 作:天衣
ここは博麗神社。
この幻想郷にとって最も重要な場所であり、「博麗の巫女」である「博麗 霊夢」の住む住居でもある。
今日は一人、来客が来ていた。
参拝ではなくただ遊びに来るだけの、お賽銭も置いて行かない無礼な奴だ。名は「霧雨 魔理沙」という。
「まさか、私の他にも人形がいたとはな」
「それはこっちのセリフよ」
縁側に座りながら、霊夢と魔理沙は話をする。
聞けば魔理沙も一か月前に人形が空からやってきたらしく、今日まで面倒を見ていたそうだ。
「アリスの奴の仕業かと最初は思ったんだがなぁ。どうも違うらしいんだ」
「ふぅん。まぁ、あいつがわざわざそんなことする理由がないしねぇ」
用意した茶菓子を二人で食べ、お茶を啜ってホッと一息。これも魔理沙が来たらすっかり習慣となっている。
ただ飯食らいは普段なら許さないところだが、魔理沙に関しては違う。同じ仕事をして長い付き合いの中、二人の間には切っても切れない「縁」というものが生まれているからだ。
「…あんた食いすぎ」
「いいだろ~?私と霊夢の仲じゃないか」
…それに、この魔理沙にタダ飯代を請求したところで上手く回る口を使った屁理屈で誤魔化すに決まっている。魔理沙はそういうやつだ。
はぁ…一体これで何度目だろうか?縁は縁でもこれは「腐れ」なのでは?
「やっぱりこれ、異変の前兆かしらね」
「あぁ、そうだろうな。お前の人形を見て確信が持てたぜ」
一か月前、突如二人の元にやってきた人形。それは二人の姿に瓜二つで、ハッキリと自分の意思を持っている。
こちらからの弾幕攻撃は一切効かないという特性を持っており、その人形自身も弾幕を使うことが出来るようだ。
今までにない厄介な特性も持つこの人形に、こちらもどうすればいいか手を焼いていた。
しかし今日の巡り合わせにより、この異変の解決の糸口が少し見え始める。
「ねぇ魔理沙。一つ試したいことがあるんだけど」
「…私も同じ事考えてたんだ」
人形同士で戦うとどうなるか。
霊夢の人形と魔理沙の人形…この二体が揃った今、それを試すことが出来る絶好の機会だ。
思い立ったが吉日。霊夢と魔理沙は目を合わせると小さく微笑み、立ち上がる。
そして人形の方へと視線を向け、いざ始めようとしたが…当の二体の人形は互いに遊び合っていた。とても楽しそうで、邪魔をするのが申し訳ない程だ。
人形からしてみれば、自分と同じ種族に出会えた喜びがあるのだろう。針妙丸含め、すっかり仲良しになってしまったようだ。
これは誤算だった。二人は互いにどうしたものかと頭を悩ませる。
「うーん…これじゃあ戦わせるのは」
「厳しい…な」
今この二人を争わせるのは流石に良心が傷つく為、結局は戦わせないという結論となった。
どちらにしても、あんなに仲良くなってしまったら「戦え」と言ったところでやろうとはしないだろう。
「他に人形を持ってるやつがいればいいんだがなぁ」
「あんた色んなとこ行って来たんでしょ?持っている奴とかいなかったの?」
「…見ていない。というか、他に持っている奴がいるなんて今日まで思わなかったからな」
「案外、あんたと同じで存在を隠していた…っていうのもいたかもしれないわよ?」
「…お前が言うと、不思議とそんな気がしてならないぜ」
私や魔理沙だけじゃない…この幻想郷の住民の誰かが人形を所持している可能性はある。
確信などない。あくまで只の勘ではあるが、もしそうだとしたら明日の宴会でそれをハッキリさせよう。
「魔理沙、明日の宴会だけど……」
「……成程、それは名案だ!」
こういう時の魔理沙は、結構頼りになるものだ。
翌朝。
天気は雲一つない快晴となり、博麗神社を舞台とする宴会は予定通り開かれることになった。
神社の園内ではそれぞれが自前の料理や酒を出し合っている。作ったところによって一つ一つに文化の違いが見られ、見ているだけでも十分面白い。
どうやら、今回は皆それぞれ新作を持ってきたようだ。早速、一人目に声を掛けてみる。
「あら、この印の入った饅頭は?」
「これかい?その名も、「地霊饅頭(ちれいまんじゅう)」さ!中の具は…フフフッ…」
「な、何が入ってんのよ?」
「それは、食べてみてのお楽しみ♪」
地霊殿の面々が出したのは、「地霊饅頭」。
見た目は普通の美味しそうな饅頭だが…この古明地 さとりのペットである火焔猫 燐(かえんびょう りん)、通称「お燐」が言う具の中身が少しばかり怪しい。
そんな危ないものを宴会に持ち出さないで欲しいものだ。どうか、食べれるものであってくれ。
気を取り直し、今度は紅魔館の面々のところへ赴く。
ここはいつも見慣れない菓子を出しているのだが、どうやら今回は違うようだ。
「珍しいわね、あんたのところが「水羊羹」なんて」
「いつも洋菓子だったからね。今回は和菓子にチャレンジしてみたのよ」
「へぇ、結構おいしそうじゃないの」
「当り前でしょう。何たって咲夜が作ったのだからね。そうね、名付けるのなら…「霧の水羊羹(きりのみずようかん)」!」
「…うん。まぁ、あんたにしてはまともなネーミングセンスね」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットの従者である十六夜 咲夜が作った「霧の水羊羹」。
「霧」要素がどこから出てきたのかは謎だが…これは見事な出来だ。こんな菓子のレパートリーも存在したとは、流石は咲夜といったところだろう。
「完全で瀟洒なメイド長」は伊達ではない。「家にも一人欲しい」…なんて思ってしまう。
「…うちの咲夜はあげないよ?」
「な、何も言ってないでしょ別に」
「そういう顔していたけどね。クククッ…」
どうやら、完全に顔に出てしまっていたようだ。食べ物のことになると露骨に欲が出てしまう自分が憎い。
参加者の中では古株なレミリアには既にそれが分かっているようで、すっかりからかわれてしまった。
そしてレミリアの隣にいる当の咲夜はというと…目を閉じながら静かにそれを見守っており、何ともクールな佇まいである。…主の前だから完全にスイッチが入っているな。
「お~い、霊夢~~!やってるか~?…何だ、まだ全然飲んでないなぁ?」
横から当然聞き覚えのある声が聞こえて来る。これは…魔理沙だ。
振り返り様子を確認すると、お酒が入っているのがすぐに分かった。何せ顔が林檎のように赤い。これは完全に出来上がっている。
「お前もこの「白玉団子」、食べてみろよ!結構うまいぜ!」
「……あんたねぇ」
そう言って酒と団子を両手にそれぞれ持ちながら絡んでくる魔理沙の姿を見て、思わず溜息が出る。
例の作戦を忘れた訳ではあるまいな…?
「(…ちゃんと探してるんでしょうね?)」
「(まぁまぁ、そんな急いで探したってしょうがないだろ?…それに、お酒が入った状態ならポロっと喋る可能性がある。だからこうやって皆に酒を飲ませに行ってるんだよ。これからやることの為にもな)」
「(…な、成程)」
良かった。ちゃんと考えてくれていたようだ。何だか上手く言い包められてる気がしなくもないが…確かに魔理沙の言うことも一理ある。
仮にその人物が人形を持っていたとしても簡単には教えてくれないだろうし、お酒の力に頼ってみるというのは案外有りかもしれない。
「じゃあそういう訳で……おっ優曇華、飲んでるか~?」
「…ッ!し、静かにしてっ!見つかるじゃない!」
魔理沙は続いて木陰にいる鈴仙に絡みに行った。しかし、どうも様子が変だ。まるで何かから逃げているかのように見える。
鈴仙の目線の先には、つい最近の異変で会った人物がいた。長い金髪に全体が黒の服装をしており、背後から無数の尻尾のようなものが怪しく光っている。
その人物は辺りを見回し、誰かを探しているようだ。
「……うどんちゃ~ん」
「どこに…行ったのかしら」
その言葉を聞いた鈴仙は様子を伺うのを止め、隠れることに専念する。その時の表情は恐怖そのもの。鈴仙は息を呑み、気配を消してこの場をやり過ごす。
確かに鈴仙を探している時の彼女のあの威圧感…光が宿っていない眼を見開きゆっくりと迫りくるその姿は…怖い。怖すぎる。
これは逃げたくなるのも無理はないというものだ。
しばらくして、その人物はその場所を後にした。
それを見て安堵した鈴仙は木を背に座り込むと、疲れた様子で溜息を吐く。
「あぁ…死ぬかと思った……」
「な、何か大変そうだな?その…話、聞くぜ?」
月の都を襲撃してきた、自称仙霊の「純狐(じゅんこ)」。
あれ以来、鈴仙と仲良くやっているという話だったが…この様子を見るにそうでもないのかもしれない。連れてきて良かったのだろうか…。
一応、彼女だけでなく知り合いである地獄の女神の「ヘカーティア」とその部下の「クラウンピース」も今回はこの宴会に参加している。
地上に残った月の偵察部隊の二人も一緒だ。…鉢合わせないよう事前に注意はしている。
「昨日の敵は今日の友」。それが幻想郷なのだが、はてさて今回はどうなることやら。
宴会はいつも通りの盛り上がりを見せ、参加者たちはその心地良い酔いに包まれていた。
ある者は花見を、またある者は「花より団子」と言わんばかりに沢山の料理を頬張り、またある者は自身の宴会芸を披露している。
魅せることにはこだわりが強い面々なだけに、宴会芸のクオリティは全体的に高い。
そしてそれを見た新しい参加者達は揃って感動するものだ。今回の異変に関わった面々はそれを見て拍手や歓声を上げている。
「凄いわ…一体どうやったのかしらね?うどんちゃん」
「へぇ~おもしろいわねぇ。今度私も何かやってみようかしらん」
「ご主人様がですか?それは実に狂気的(ルナティック)!!私も一緒にやりた~い!そうだなぁ…地獄巡りなんてどうです?」
「う~んそれもいいけど、やっぱり……」
どうやら自分達も何かやってみようと模索しているようだ。しかし、内容がとても穏やかではないのが気になる。
因みに追いかけられていた優曇華はその後無事に捕まり、純狐にガッチリと手を繋がれてしまったようだ。あれはもう逃げられないだろう。
「うどんちゃん…芸の手伝い、してくれるわよね?」
「………あ、あ…は、は…い」
先程の会話を全部聞いた後の純狐の圧のある質問に対し、鈴仙はこの世の終わりのような眼をしながら声を震わせる。
そして、彼女は次にこう言った。
「…あ、あの、私によく似た「人形」じゃ…だ、駄目です…かね?」
「(……!?「人形」だって!?)」
こちらが驚くのも束の間、鈴仙は懐から身代わりとばかりに自身の姿をした人形を純狐に見せ始めた。
その人形はまるで自分の意志で手足を動かしており、自立しているように見える。
「…小さな、うどんちゃん……………」
鈴仙自身あの時に死の危険を感じ、どうにかならないかと頭を回転させ、結果あの人形の差出すことで何とかこの場を乗り切ろうと思ったのだろう。
まさか例の作戦をやらずとも出てくるとは…兎に角これで可能性は高まった。他にもきっと所有者はいる筈。
差し出された当の鈴仙の人形の方はというと…何が起こっているのか分からず、抱えられている状態で純狐を見上げるようだ。
すると、鈴仙の人形は純狐に子供のような無邪気で可愛らしい笑顔を向けた。
「……!!!?…かわいい……」
純狐は本能的に鈴仙の人形を抱え上げる。そしてそれを愛でている彼女の姿は母性を感じさせ、いつもの怖さが一切なくなっていた。
鈴仙は純狐の様子を見て、恐る恐るとその場から逃げようとする。手を離された今しかチャンスはない…そう思った彼女の行動は実に早かった。
今まで見たこともない彼女の全力疾走は幻想郷一を獲れるレベルだ。そして永遠亭組の方へと行ったかと思うと、そそくさと八意 永琳(やごころ えいりん)の元へと隠れてしまう。
早速、魔理沙にこのことを伝えるべく辺りを見回した。帽子が特徴的な為、見つけるのは容易い。
「(…ねぇ、魔理沙。あれ)」
「(マジでいたな…。ホント、お前の勘はよく当たるぜ)」
合流した魔理沙も鈴仙の人形を見て、驚きを隠せないようだ。
純狐に抱きかかえられている人形の容姿、服装は元になっているであろう人物と見事に一致している。特徴はこちらの人形と全く同じ。
やっぱりいたんだ。他に持っている人物が…こんな形で見つかるとは思わなかったけど、純狐を呼んで正解だった。
「(…実はな、たった今私も見つけたんだよ。ほら)」
何と魔理沙の方も人形を待っていた人物を見つけていたらしい。
…笑いを堪えているようだがどうしたのだろう?魔理沙の指を指す方を見てみると…
「(…あ~、いるわね~確かに)」
そこにはレミリアの後ろにしがみ付いている咲夜の人形と、いなくなった人形を探しているであろう咲夜本人の姿があった。