人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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断章4

ここは博麗神社。

 

この幻想郷にとって最も重要な場所であり、「博麗の巫女」である「博麗 霊夢」の住む住居でもある。

 

だが本日は宴会。

霊夢だけではなく、幻想郷に住む少女達がこの博麗神社で酒や美味しい料理を楽しんでいた。

かつてこの幻想郷を紅い霧で覆った吸血鬼、「春」を奪った亡霊、永遠に夜明けが来ないようにした蓬莱人……かつて敵だった彼女らも今ではこの宴会を楽しむ者の一人。

 

皆種族は違えど、一度酒を交わせば同じだ。ここ幻想郷ではどんな奴でも「酒」を好まない者はまずいない。

心地良い酔いにその硬い殻を破り日頃の鬱憤を晴らす者もいれば、どっちが先に倒れるか飲み比べをしている者、その後ろで花見をゆっくり楽しんでいる者や自身の芸を披露し観客を盛り上げる者……何と楽しい空間であろうか。

 

 

このままこの宴会を有意義に楽しみたいところではあるのだが…今回はそれとは別に目的がある。

 

突然やって来た小さな「人形」。これを次の異変の前兆と見て、他に持っている人物はいないか。

それを今この宴会の中で魔理沙と探しているところである。

 

「今のことろ見つけたのは、純狐の傍にいる「優曇華」の人形と」

 

「レミリアにしがみ付いている「咲夜」の人形だな。私らの含め、これで計4体か」

 

幻想郷の住民達が集うこの宴会。

そこで一気に人形の持ち主を炙り出すこの作戦…今のところ順調と言っていいだろう。

正直なところ今回は情報だけ入手して、宴会が終わった後にこちらも人形のことを打ち明けるつもりだった。

しかしこれは嬉しい誤算だ。わざわざこの宴会に連れてきているとは、やはり持ち主達も気になっていたということだろうか?

 

「咲夜咲夜」

 

「…何かしら?」

 

「お前が探している奴はアレか?」

 

魔理沙が先程から何かを探している様子の咲夜に話し掛けた。どうやら人形について触れてみるようだ。

さて、どういう反応を示すのか。

 

「………」

 

「こいつ、いつの間にお嬢様のところに…」

 

咲夜がそう口にした時、その片手には既に咲夜の姿の人形がぶら下がっていた。

このマジックでも行ったかのような現象…どうやら能力を使ったらしい。時を止めてレミリアにしがみついていた人形を回収したのだろう。

能力をわざわざ使って回収する辺り、主人のレミリアに気付かれるのを避けているように思える。どうやら人形のことは周りに隠しているようだ。

 

「はぁ、もう隠すのは限界かしらね。あなたに見られてしまったし」

 

「その人形のことか?」

 

「えぇ。こいつは見た目こそ人形だけど、どうやら自分の意思を持っているわ。まるで生きてるみたいにね」

 

だが今回で諦めがついたのだろう。咲夜は自身の人形のことについて話し始めた。酒の酔いもあってか、次々と愚痴を零す。

神妙で複雑そうな顔から、彼女の今までの苦労が伺えるようだった。だがその雰囲気とは裏腹に咲夜の人形はレミリアから引き剥がされたことに憤慨なのか、ジタバタと暴れている。

その光景はまるで子育てに苦悩する親を彷彿させた。

 

「……成程。まぁ概ね私達と同じだな」

 

「?」

 

「実は私達の元にも来てるのよ。その人形ってやつ」

 

「霊夢と魔理沙の元にも?私だけじゃなかったのね…」

 

「後、優曇華のところにもどうやらいるみたいだぜ」

 

驚きの表情を見せる咲夜の気持ちはよく分かる。こちらもそれを知った時は衝撃だった。

そして彼女が次に思うことも恐らく一致する。

 

「……これは、もしかして「異変」なの?」

 

「まだ分からないけど、恐らくはね」

 

今まで何度か異変調査をした実績がある咲夜にとって、この現象に違和感を覚えるのは当然だった。

基本的に主人の命令で動く彼女にとっても、今回のこの異変は放置することが出来ないのだろう。

 

「…でも、問題はこいつらをどう処理するかね。こちらからは一切攻撃出来ないみたいだし」

 

「あぁその通り。そこでだ」

 

「私達はあることを試したいの」

 

「あること?」

 

「どうやら人形にも私達と同じ弾幕を打つ力がある。だから戦わせるんだよ、人形同士を」

 

「私達じゃ駄目でも、同じ人形ならまだ可能性はあるわ。…正直これが駄目ならちょっとお手上げね」

 

人形と人形。これらが実際に弾幕勝負をしたら倒すことが出来るのか。

思い付く限りの対処法ではこれが一番可能性はあるだろう。

 

「成程…確かに試してみる価値はあるわね。後は…」

 

「どうやって戦わせるか、だな。う~む」

 

三人はその場で思考を巡らせる。しかし、良い案は浮かばない。

霊夢と魔理沙の人形では争いに発展しなかったことを考えるに、そう簡単にはいかない問題だ。

もし人形同士で仲間意識があるとしたら…多少汚い手段を使わないといけなくなるだろう。例えばわざと人形を唆して怒りを煽ったりなどだ。

だが、人間としてそれは出来ればやりたくはない。穏便な方法を模索したいところだが…

 

「お~いそこの三人~♪なぁ~に辛気臭い顔してんのさぁ」

 

横から誰かの声が聞こえてくる。

その声の主は永遠亭に住む妖怪兎、「因幡 てゐ」であった。

 

てゐは3人の間に割り込んで顔を突っ込んでくると、酒の匂いが一気に充満してくる。相当飲んでいるようだ。

 

「おい馬鹿!止めろ酒臭ぇ!」

 

「…ふむ、どうやらその手に持ってる人形が悩みの種のようだねぇ?何だかここ最近現れたみたいだけど」

 

「!?…あんた、何か知っているの?」

 

「あー、言っとくけど私はそいつのことについては何も知らないよ。ただ、鈴仙の奴が似たようなのをコソコソと世話しているのをこの前見かけて気になってはいたんだけどね~。…まぁ今はあの侵略者の元にいるみたいだけど」

 

てゐはどうやら人形を見たことがあるらしい。

しかし何か有益な情報を持っているという訳でもなく、人形のことはそこまで知らないらしい。

聞くと面白そうだから鈴仙をわざと泳がせて遊んでいただけで、調査などは特にしていないようだ。

 

「何だよ期待させやがって…じゃあすっこんでな!私達はどうにかこの人形同士を戦わせる方法を」

 

「ん?何だ、そんなことで悩んでたの?簡単じゃないか。この宴会を利用すればいいんだよ」

 

 

「「「 え 」」」

 

 

不敵に微笑むてゐに三人は互いに顔を合わせた。

 

 

「あんたら、賭け事は好きかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何なの?この集まりは」

 

「おぉ。あの兎が言うには「本日の一大イベント」らしいぞ?」

 

「いつの間にこんな舞台を用意してたの?」

 

突如、博麗神社の広場に集められた少女達は宴会の最中にてゐに声を掛けられ、今から何が始まるのかも分からない状態で主催者を待ち続けていた。

全員という訳ではないが、参加者の半数が今ここに集結している。

 

「もしかして、プリズムリバー三姉妹の演奏かな?」

 

「うーん、てゐが主催なのが引っ掛かるけど…」

 

「まだ始まらないのぉ?早くしてよぉ」

 

各々が今から始まることを思い浮かべながら今か今かと心待ちにしている。

その様子を垂れ幕の陰で見ていた因幡 てゐは頃合いと見なし、舞台裏の方へと戻っていく。

 

「よし、じゃあ始めようか3人共。手筈通りにね?」

 

舞台裏で待機していた霊夢、魔理沙、咲夜は自分の人形達を抱えながらてゐの言葉に耳を傾ける。

即席で作ったこの小さな舞台で見せるものに向け着々と準備を進め、それを今から観客に披露しようとしていた。

 

「…ホントにやるの?」

 

「あぁ勿論だ。ここにいる奴ら全員にもちゃんと観て貰った方がいいだろうしね」

 

「しかしだな…」

 

「正直、複雑ね。人形とはいえ私達ソックリなのだし…」

 

しかし今からやることに対してあまり乗り気ではない。因幡 てゐが悪知恵が良く働く人物であることを改めて思い知ることになった。

だが現状、他に良い案が浮かばない。だからしょうがなく受けることにした。

 

そしてこちらの有無など一切聞かずに、てゐは舞台へ上がり挨拶を交わす。始めるつもりらしい。

 

 

「いやお待たせしました皆様!本日はお集まり頂きありがとうございますっ!!」

 

 

てゐの考えはこうだ。

 

 

「覚えているでしょうか?ここに集まる際に頂いた少しのお金…そしてお渡しした小さな紙切れを」

 

 

まずはこのイベントで参加費を貰う。そして

 

 

「実はアレ、参加費などではありません!今回のイベントの資金なのですッ!!」

 

 

それを今から始まるこのイベントの資金として扱い、それを

 

 

「今から始まるイベント…その名も」

 

 

 

 

「 東 方 人 形 劇(とうほうにんぎょうげき) !!! 」

 

 

 

 

報酬として扱うというものだ。

 

 

 

 

 

 

「東方…人形劇?」

 

「な、何が始まるの?」

 

「へぇ、「人形劇」…ねぇ」

 

「ムムッ、これはもしや新しいビジネスの予感」

 

会場が一斉にざわつき始める。

最早てゐから金を何気に騙し取られていたことなんてどうでもいいくらいの衝撃が全体に走った。

 

「さて、じゃあ説明しましょう!この「東方人形劇」のルールを!」

 

「ルールは至って簡単!今から登場する3体の人形達に「これだ!」と思った奴をBETする!見事当てた方達には今回の集まった資金額が与えられまーす!「人形」と言っても、今回登場するのはただの玩具じゃない。何と弾幕を放ち、自立している不思議な生き物さ!」

 

てゐはツラツラとこのゲームのルールを皆に説明し始める。

今までになかった新しい余興に誰もが新鮮な気持ちを覚え、夢中になってそれを聞いていた。

 

 

「…さて、ではそろそろご登場願いましょうか!本日の決闘者達を!」

 

 

「(…どうやら出番みたいよ)」

 

「(何か思ったより食い付きいいな。てゐの奴、こうなるって最初から分かってやがったのか?)」

 

「(……やっぱりお嬢様達にも見られるのね…)」

 

てゐの号令を合図に、三人は人形と共に動き出す。

どうも気乗りしない3人とは裏腹に、人形達は互いに闘志を燃やしていた。あの仲の良かった霊夢、魔理沙の人形も今は宿敵、いわばライバルとしてバチバチと火花を散らしている。

 

「全く、いくらあの豪華菓子セットが欲しいからってあんたらね…」

 

「菓子好きなのは知ってたが、ここまでとはな」

 

てゐは戦う理由のない人形達にこう言った。

 

「優勝者には今回の菓子をふんだんに取り入れた「ウルトラ有頂天セット」を進呈する」と。

 

 

人形達は大の菓子好きだ。甘党である者達にとって「ウルトラ有頂天セット」は正に至福の甘露。それを聞いた人形達はそれを手にすべく戦うことをいとも簡単に引き受けた。

まさかこのような方法で人形達を奮い立たせるとは…てゐの悪知恵も侮れない。自分達では到底考えつかなかった作戦だ。

 

 

「 それではエントリーナンバー1!! 我らが幻想郷の博麗の巫女 博麗

霊夢!!そしてその人形だぁ!! 」

 

 

「れ、霊夢だって!?」

 

「これはいきなり大物だわ…!」

 

「え、どういうこと…?あの人形、巫女と見た目が瓜二つよ」

 

「あれが戦うっていうのか?うーん、見た目は弱そうだけど…」

 

霊夢とその人形の登場に観客は一斉にざわつきを見せる。まさかいきなり彼女が来るとは思っていなかったのだろう。

そもそも人形が住民の格好をした奴なんて一度も聞いていないので余計に驚きを隠せないようだ。

 

 

「 エントリーナンバー2!! 魔法の森に住む魔法使い 霧雨 魔理沙!! そして人形ぉ!! 」

 

 

「おー次は魔理沙か!」

 

「あの魔理沙の人形、こっちに投げキッスしてる!可愛い♪頑張ってぇ~!」

 

 

「(…こ、こいつのこういう仕草を見ていると何だか嫌な感じがする…何でだろう?)」

 

 

声援に応える人形に対して魔理沙本人は何故か嫌悪感を覚える。

しかしそう感じる原因がよく分からないまま、彼女は舞台へと上がり終わっていった。

 

 

「 エントリーナンバー3!! 紅魔館の完全で瀟洒なメイド長 十六夜 咲夜&その人形!! 」

 

 

「あの人形の凛とした佇まい…やだ…カッコいい……」

 

「あら、いないと思ったら参加していたのね」

 

「…!」

 

こちらを見ている紅魔館の主、レミリアを発見した咲夜の人形は興奮し、即座に咲夜の手元から離れる。

まさかの行動に反応が遅れた咲夜本人を尻目に、咲夜の人形はレミリアの元へと一直線に飛び掛かった。

そしてそれを軽くキャッチしたレミリアは、咲夜の人形を撫で始める。

 

「♪~」

 

「フフッ、どうやら私のカリスマに惹かれてしまったようだな」

 

「し、失礼しましたお嬢様ッ!!今すぐ引き離しますので!」

 

 

「…やだ…可愛い……」

 

普段からは想像出来ない咲夜の焦りっぷりに会場はある意味の盛り上がりを見せる。

こうなってしまうことが予め分かっていたのだろうか、咲夜はこの状況に頭を抱える。そして主に向かい一礼すると、重い足取りで舞台へと帰って行った。

 

 

「えー、以上三体が今回の決闘者達となります!さぁ皆さん!どの人形が勝つのか、その紙切れに名前とサインを書いて投票箱へお入れ下さい!!」

 

 

てゐの選手紹介が終わり、観客である少女達は誰にするのかを予想し始める。

ここにいる誰もが人形の強さなど何も知らない為、全く勝敗は予想出来ない。

人形自身も今まで実戦経験もある訳でもない。だから実力は未知数と言えよう。

 

 

「順当にいけば「霊夢」が強そうだけど…戦うのは本人ではないからねぇ。正直これは予想が全くつかないよ」

 

「「魔理沙」の人形には何かやってくれそうな可能性を感じるわ」

 

「「咲夜」さんの人形だって侮れないと思うな。何たって「時を止めれる」んだよ?」

 

「いや、人形が能力を使うのかなんてまだ分からないじゃないの」

 

「私はもう第一印象で可愛かった子にしようかな♪」

 

 

皆がそれぞれ考えを述べ、誰にするのかを紙に書き始めた時…

 

 

「 ちょっと待ったああぁぁーーーっ!!! 」

 

 

観客席の方から誰かの静止の声が響き渡る。

 

その声の主は…

 

 

 

「その決闘、こちらも参加させて頂きますよ!」

 

「人形を持っているのだから、参加資格はあるでしょう?」

 

 

 

自身の人形を持った「東風谷 早苗(こちや さなえ)」と、「アリス・マーガトロイド」の二人だった。

 

 

 

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