人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第一章

〇月×日、午前7時10分9秒

 

 

紅魔館を出た先に待っていたのは、清澄な湖。

どうやらこの時間帯は運よく霧があまり出ていないようで、不明であった霧の湖の全容が映し出される事となった。

 

霧の湖は自分が思っていたよりも広くはなく、遠くには紅魔館とは別の古い洋館、そして流れている河からは別の道があるようだ。

他にも湖の水面上では妖精達が無邪気に遊んだり、湖畔に座り込んで涼む姿が見える。妖精はこういった精気に満ちたところに大体いるらしく、きっとこの幻想郷の自然豊かな一面を象徴している存在なのだろう。

 

見ているとこっちも思わず涼みたくなるが、生憎今は異変調査の真っ最中。

レミリアからの予言を頼りに、次の目的地である「妖怪の山(ようかいのやま)」へ向かう予定がこちらにはある。当てがなくなった今、少しでも手掛かりがあるのならばそこへ行ってみるしかあるまい。

 

 

早速阿求から貰った幻想郷の地図を広げ、次の目的地である「妖怪の山」へのルートを確認する。

今いる「霧の湖」から湖へと流れる河…そこから道なりに進んで「玄武の沢」を抜けた先にどうやら休憩所があるようだ。ひとまずの目的地はここにしよう。

 

自分からすれば実にこれはアナログな検索ではあるが、ここは現代ではない。

どんなものでも楽に便利にするこちら側とは全く違うし、この世界の人々を見ていると如何に現代が「楽」に依存をしていることか。

かく言う自分も、そんな便利な物達に頼って生活してきた。いつしかそれが当たり前となって、今感じている「ここまで来た」という達成感のような感情がなくなっていたのだ。

現代もまだ今のように技術が進んでいない頃は、皆こうやって苦労しながらも充実した毎日を送っていたのだろうか?「妖怪」や「神」は、本当に存在していたのだろうか?

 

 

そんなことを考えながら、僕は河に続く道へと足を進めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

河の道を進んでいくと、柱状の岩壁が綺麗に並んだ何とも不思議な谷川が姿を現す。

これも自然が作り出した芸術というやつであろうか…。今までもそうだったが、この幻想郷の自然の風景には驚かされてばかりだ。

 

地図を見返すと、どうやらここは「玄武の沢(げんぶのさわ)」と呼ばれているらしい。

「玄武」は確か、「朱雀」と並ぶ四神の名前だ。…もしかして本物もここにいるのだろうか?

有り得ない話ではない。何せここは異世界だ。四神が普通にいても何もおかしなことはない。もしも会うことがあったら、じっくりとその姿を拝みたいものだ。

 

 

さて、改めて見てみるとここにも人形は当たり前のように生息しているようだ。

ゆったりと羽衣を羽織った落ち着いた雰囲気の人形に、鎌を持った気だるそうな人形、大きな緑のリュックを背負った人形もいる。

早速スカウターで見てみることにした。

 

 

『名前:いく  種族:竜宮の使い  説明:空気を読める』

 

『名前:こまち  種族:死神  説明:サボり癖がある』

 

『名前:にとり  種族:河童  説明:機械いじりが好き』

 

 

情報が出て来た。

成程、魔理沙がよくいっていた「にとり」というのはあの人か。種族は河童ということだけど、自分が知っている河童とは大分姿が違う…まぁそれは今に始まったことではない。

ここに彼女の人形がいるということは、この場所はもしかすると河童達の住処なのかもしれない。「にとり」とは是非一度会ってみたいものだ。彼女の作った「スカウター」や「タブレット」があるおかげで人形のことを知ったり強化したり出来るのだから、お礼の一つくらいはしないといけないだろう。

 

そして見ている限り、どうやらこの辺りは水辺を好む人形が多いらしい。 

ここにいるほとんどの人形は恐らく「水」タイプなのだろう。実は今の自分の手持ちは「水」とは頗る相性が悪い。無闇に刺激するのは絶対に止めた方が良いだろう。

だがしかし、人形はこちらが危害を加えなければ襲ってはこない習性を持つ。何もしなければそこまで警戒しなくても大丈夫だろう。

野生の人形達が遊んでいる…何とも平和で可愛らしいではないか。こうやって見ていると、これが異変だということなんて忘れてしまいそうだ。

 

 

 

しばらくその光景を見ていると、空から微かに光が見えた。

流れ星かな?妙だな…まだ朝方なのに。

 

真っすぐに飛んでいるそれは、段々とこちらに近づいているように見える。…いや、流石に空の星が突然落ちて来るなんて…いくら異世界でもないだろう。

だが、確実にその物体はこちらへ近づいてくる。このままでは河に墜落してしまうだろう。

 

嫌な予感がして、すぐさま河から距離を取ることにする。

よく見ると落下してくるアレは星などではなく、一体の“人形”であった。

 

 

 

 

 

そして次の瞬間、凄い勢いで落ちてきた人形は河に墜落。

 

激しい落下音と高い水飛沫が舞い上がり、接近に気が付いていなかった野生の人形達は当然そのことに驚きその場から逃げ惑う。

そして、その中にいた羽衣を羽織っている「いく」という名前の人形は、今にも泣きだしそうになりながら体から電気を発生させている。ここは水場…あの人形が泣き出してしまうことで次に起こってしまう二次災害の発生は容易に想像出来た。

そして止めようとしたその時にはすでに遅く、いく人形は泣き出して体に溜めた電気が放出されてしまう。電気を通しやすい水場にいた人形達は瞬く間にその電気に襲われ、水タイプである人形達は次々と倒れていった。

 

先程まで平和だった河が一気に危険地帯と化し、近付けない状況となる。このままでは人形達が危ない。特に落ちてきた人形が心配だ。

急に落ちて来るなんてどう考えても普通じゃない。何か理由がある筈とすれば、誰かにやられて飛ぶ力がなくなっているのか?微かに見えたが、あの人形には翼が付いているようだった。そう推察すると、あの人形は「風」のタイプを持っている可能性が高い。

 

原作基準で考えて、「風」は「電気」に弱いと考えられる。

ただでさえ弱っている状態であんな電気を浴びているんだとしたら、あの人形はかなり危ない状態だ。下手をすれば死ぬ…それもあり得るだろう。急いで助けなければ…!

 

 

「 …しょうがない! しんみょうまる !! 」

 

 

宝石からしんみょうまる人形を呼び出す。

銀の閃光から現れたしんみょうまる人形は、こちらの指示を待っていた。穏やかな雰囲気ではないことを察してか、いつもより真剣な顔つきをしている。

 

 

「 ロイヤルプリズム だ!! …でも手加減はしてね。あの人形の暴走を止めるだけでいいから」

 

 

少々無理を言ってしまったが、しんみょうまる人形は快くその指示を受け入れてくれた。

しんみょうまる人形は輝針剣を掲げて光を一点に集中させると、その光を徐々に小さく調整する。流石、器用なだけあって頼りになるな。

 

やがて調整が終わり、その光をいく人形に向けて発射する。そして見事命中し、いく人形が気絶し川から流れる電気が収まるのが分かった。

それを確認してから荷物を降ろし、すぐさま河に飛び込んだ。…無事でいてくれ!

 

 

水中から落下した人形を探す。…だが見つからない。どうやら奥の方に沈んでしまっているらしい。水泳の経験を活かし、身体を下に向けながら足を動かし更に下の方へと潜る。子供の頃に習ってて良かった。

川底から何か小さな影が見える…いた。羽が生えた人形がぐったりと横たわっている。どうやら服が岩に引っ掛かっているようだ。

 

 

「(重い…中々動かない。頑張れ…男だろッ…!)」

 

 

そう自分に言い聞かせ、岩を両手でどかせようとする。少しずつだが、岩は動いている。息が苦しいが、もう少しだ。

全身を動かし、無我夢中で自分でもおかしいと思えるくらい必死になっていた。

 

そして、やっとの思いで岩を人形から救い出すことに成功。急いで人形を抱き抱え、上を目指す。

しかし、身体が言うことを聞かない…どうやら思っていたよりも体力を使ってしまったらしい。

普段体を鍛えていないのがここで響く。

 

 

 

 

不味いな…このままじゃ…自分も溺れてしまう……

 

 

無茶しすぎた……カッコ悪いなぁ………

 

 

 

 

薄れゆく意識の中、川底から見える日光の照りの綺麗さが、脳裏に深く焼き付く。

 

 

この光景はこれから死んで三途の川にでもいくのなら、忘れられない思い出となるのかもしれない。そう言えば「死神」の人形もあそこにはいたっけ…そういう暗示だったのかな。ハハッ…

 

 

 

…あぁ、誰かが僕の手を取って天に導いてくれる。お迎えが来たらしい。

 

さようなら、みんな……

 

 

 

 

***

 

 

 

 

真っ暗闇。

 

 

その中から自分の人形達の声が聞こえる…小さく揺らされている。

何故か胸の圧迫感と、口元が塞がれる感覚が…一体何だろう?

 

 

「……げほッ!?」

 

 

急に苦しくなり、体の中の水を一気に吐き出す。それと同時に、意識が戻っていった。

徐々に目を開けると、そこは玄武の沢の岬。…助かったのか?

 

ユキ、しんみょうまる、こがさ人形が一斉にこちらへ抱きついて来る。突然のことで驚いたが、理由は言われるまでもない…どうやら心配させてしまったようだ。

 

 

「良かった。気が付いたのね」

 

「?」

 

 

河から誰かの声が聞こえ、振り向くとそこには青い髪の少女がいた。

よく見ると耳元が鰓のようになっていて、人間でないことが分かる。恐らく彼女は“妖怪”だ。

河童…とはまた違うのだろうか?

 

「あなたが僕を助けてくれたんですか?ありがとうございます」

 

「いえ私なんか…私はただ溺れているあなたを陸に上げただけよ。後の救助はその…」

 

少女の視線の先を見てみるともう一人、女の子がいた。

 

 

「しばらくぶりね!舞島さん!」

 

 

その元気な声は聞き覚えあった。そう、人里で出会ったあのお転婆な少女だ。

 

 

「 ひ、光(ひかる)ちゃん!? 」

 

 

 

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