人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二章

人形を助ける際に河で溺れてしまった自分を助けたのは、二人の少女だった。

 

「無事で本当に良かったわ」

 

「も~舞島さん相変わらずなのね~。大方、その抱き抱えてる人形を助けようとしたんでしょ?」

 

「だ、だって死んじゃうんじゃないかと思ったらさ…」

 

行動の動機が読まれてしまう。自分はそんなに単純だろうか…。

光とは短い間ではあったが一緒に旅をした仲間で、今は自立して一人前の人形遣いを目指している。自分よりも年下であるにも関わらず、何とも逞しい少女であろうか。

“博麗 霊夢”への憧れが彼女を焚きつけているのだろうが、どうも心配だ。僅か10歳の女の子が一人旅など、普通では考えられない。親御さんも今頃泣いているぞ…。

ここは妖怪などが蔓延る世界だし、やっぱり危険であることは違いない。もしや、光も何かしらの能力を持っている可能性が?…う~ん、分からない。

 

それに比べ、自分は何故か“毒”などの有害物質の類が平気なこと以外は普通の人間である。何事もアニメの主人公のようにはいかないものだ。

どうせ異世界に来てしまったのなら、自分も覚醒の一つしたかった。無力な自分がどうしようもなく憎い。

 

 

「そう言えばお礼がまだでしたね。ありがとうございます。えーっと…」

 

「あぁ、まだ名乗っていなかったわね。私は「わかさぎ姫」って言うの」

 

 

河から半身を出している青い髪の少女、わかさぎ姫に改めてお礼を言う。

彼女が言うのは溺れた自分を岬まで運んでくれたらしい。何と心優しい少女であろうか。

 

「ここはあなたの住んでいるところなのですか?」

 

「ううん、普段私は霧の湖で暮らしているわ。ここには偶に綺麗な石を集めるのに寄ったりもするけど…今回は“この子達”があなたのこと教えてくれたから」

 

その言葉と同時に、河の中から小さな顔が一斉に出てくる。それはこの玄武の沢に生息していた人形達であった。

その中には“わかさぎ姫”と同じ姿の人形もいるようだ。こっそりスカウターで見てみる。

 

 

『名前:わかさぎひめ  種族:人魚  悦明:歌声がとても綺麗』

 

 

情報が出て来た。

成程、彼女は人魚なのか。半身を出さないでいるのはそもそも陸に上がれないからか…納得した。

 

となると、玄武の沢にいる人形とは友達であったわかさぎ姫は事情を聞き、自分を助ける為に河を伝ってやって来たということだ。

霧の湖からここまで大分距離があった筈だが、彼女が人魚だというのならば辻褄は合う。

 

 

「…ていうか、あんたも妖怪のくせに随分とお人好し。相手は見ず知らずの人間よ?」

 

「た、確かに「蛮奇ちゃん」と「影狼ちゃん」にもよく言われるけど……そんなに変かしら?」

 

「それに私が通りかからなかったら舞島さん陸に上がっても助からなかったかもしれないんだから、その辺感謝してよね?」

 

「ま、まぁまぁ光ちゃん。お陰で僕も助かったんだしさ…ん?」

 

 

光を宥めようとしたが、ある言葉が引っ掛かる。

わかさぎ姫ではなく“光が自分を助けた”という会話だ。どういうことだろう?

 

「う、うん…本当にそれはありがとう…私にはあんなのとても…」

 

「…え?光ちゃん…僕に一体何を?どうしてわかさぎ姫さんは顔が赤いんです!?」

 

この話題になった途端、何だか光以外の空気が気まずくなるのを感じた。

自分の人形達も光を恨めしそうに見ている…そんな光本人は何も気にしてないようだが。

 

 

 

「 たかが「人命救助」の一環じゃないの。それくらい誰だって出来るでしょ? 」

 

 

 

「 ~~~~~~~~~~~~~~!!!/// 」

 

 

「「「 ~~~~~~~~~!!!# 」」」

 

 

「(…あ~、成程)」

 

 

光の言葉と皆の反応から、事の事情を何となく察した。特に、“ユキ人形”の怒りっぷりが目立つ。

そうか、あの時感じた「胸の圧迫」と「口元が塞がれる感覚」は……胸骨圧迫と“人工呼吸”だったんだ。

 

…何だか、思っていたより大変なことになっていたらしい。

 

「あ、あなた何とも思わないの?と、殿方とくくく…口付け…するの…」

 

「…いや、何が?」

 

「だからその…人工呼吸ってつまり口と口を…ね?合わせるでしょ…?所謂、キs」

 

「ままま待って!わかさぎ姫さんそれ以上は言わないでッ!?」

 

口元を隠し、頬を赤らめながら光のやった行為を言おうとしているわかさぎ姫を必死に止める。

そのことについては意識はしないようにしていたのに、言葉にされると物凄く恥ずかしい。

 

「(まさか、こんな形で経験してしまうなんて…しかも年下の子供に……)」

 

冷静になってみると自分は今、光に「初めて」を奪われたということになる。…いや、男がそれを考えるものじゃないのか?

彼女なんて人生で一度も作ったことないし、どうもこういう知識がない。発想が女々しいだろうか…。

 

だが、光はただ純粋に自分を助けようとしてくれただけだというのも分かっている。だから、今回のは含めるべきではないだろう。

 

 

「…?まーいいわ。舞島さんが気が付いたなら私はもう行くよ。探している人形はここにいないみたいだし」

 

「え?あ、うん…気を付けてね。…因みにどんな人形なのそれって?」

 

「んっとねー、“神様”よ! それじゃね~!!」

 

そう言うと、光は颯爽とその場を後にしていく。

河の向こう側へと軽くひとっ飛びし、猛スピードで道を駆け抜けていくと、あっという間に山の方へと消えて行った…あれ?彼女本当に人間だよね?

何だか常識を超えた身体能力を身に着けているように見えるが気のせいだろうか…?

 

「…この辺にいる神様の人形と言えば、“守矢神社(もりやじんじゃ)”の神様のことかしらね?」

 

「守矢神社?」

 

「えぇ、妖怪の山にある日突然現れた神社なの。何でも「現代」から引っ越して来たんですって」

 

「へぇ…」

 

光が山に向かっていく様子を見ていたわかさぎ姫から、興味深い情報を得られた。

もしやレミリアの言っていた「妖怪の山に向かう運命」はそこを指し示していたのだろうか?

彼女の「運命を操る程度の能力」というものを最初に聞いた時は疑わしく思ったが、強ち嘘ではないのかも?

 

まぁとにかく、これで妖怪の山に行ってからの目標も出来た。

自ら現代から幻想郷へ引っ越してきた人達というのは興味がある。是非話がしてみたい。

人形についての情報が得られるかは微妙なところだが、こうやって色んな場所を巡ればいずれヒントの一つは見つかる筈だ。

 

「あなたも山に行くの?」

 

「あ、はい。でも、しばらく休んでから行こうと思います。取り敢えずはこの子の看病をしないと」

 

妖怪の山の方から河へと落ちてきた人形。

紫と白の色合いの服、ツインテール、そして黒い翼を持ったこの人形はこちらにしがみ付きながら眠っている。

小刻みに体を震わせているのを見るに、身体を冷やしてしまったのだろうか…そう言えば「鳥」って寒がりだったっけ?

天狗もそうなのかは分からないが、もしそうだとしたら少しでも抱いて温めてあげた方が良いだろう。…しかし、これではやはり不十分だ。

 

 

「“焚き火”をしよう。ユキ、しんみょうまる、こがさ、頼めるかい?」

 

 

「「「   !!!  」」」

 

 

元気よく返事を返してくれる。うん、良い子達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焚火をする為の薪を確保する為、来た道を戻って再び「霧の湖」へとやって来る。

沢山の木々に囲まれているここなら、薪となる木材も簡単に集められるだろう。

 

しかしどう集めようかと悩んでいると、落ちている木の枝を人形達が少しずつ拾って来てくれている。ユキ人形の指示の元、乾燥した枝を選んでいるようだ。何だか随分と手慣れている。

そういえば前にもユキ人形が自分の為に焚火を準備してくれたことがあったっけ。何だか懐かしい…。

 

「木こり人形」で手早く薪を作ろうかとも考えたが、あまり無闇に自然破壊をするのは良くない。完全に野暮というものだ。

それに、この「木こり人形」はあくまで進行の邪魔となる特殊な細い木を伐採する為の物。違う用途での使用は、修理をしてくれたこがさ人形にも失礼にあたる。

取り敢えず、こちらも同じように乾燥している燃えやすそうな枝を少しずつ拾い集める。

 

人手が多いと集まる時間も早く、僅か数分で十分な数の枝が見つかった。それをまとめて羽織っていた上着を縄代わりにすることで括り付けて持っていこうとする。

しかし、想像以上の重さで持ち上げたはいいものの、そこから中々一歩を踏み出せない…困った。その状況を人形達も心配そうに見ている。

 

一旦枝の束を下に降ろし、再び力を込めて持ち上げる。…しかし、駄目。

運ぶなんてとてもじゃないが無理だ。気合で何とかなると思っていたが、現実はそう甘くはなかった…自分が情けないな。

 

 

そう諦めかけていた時だった。

 

先程まであった枝の束の重みが急に軽くなるのを感じる。一体何が起こったのか?

まるで誰かが代わりに持ってくれているかのような、そんな感覚だ……まさかと思い下を見てみると、そこには下から支えてくれている“しんみょうまる人形”の姿があった。

しんみょうまる人形は両手で支えながらこちらに笑みを浮かべている。何という力持ちだろうか。

 

 

「あ、ありがとう。助かるよ…ハハハッ」

 

 

自分なんかよりよっぽど腕力のあるしんみょうまる人形に、己の無力さを痛感させられる。

そしてその様子を見ていたユキ、こがさ人形もそれに続いて下から枝の束を持ち上げるが、しんみょうまる人形程の力はないようであった。

だが最初の重さに比べ、今は大分軽くなっていた。

 

「よし、じゃあこれをあっちの方まで持っていくぞッ…!」

 

自分と人形3体で一緒のものを持ち、足元に注意しながらぎこちない足取りで進んでいく。

この何ともおかしな光景に、思わず笑ってしまいそうになる。これじゃあ自分が持っている意味がまるでないのだから。

 

 

でも、この子達の力になりたいという思いは嬉しいくらいに伝わってきた。

そう思うと、一見効率の悪いこの共同作業も偶には悪くはない。

 

…少し、見栄を張り過ぎていたかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び玄武の沢の畔に戻り、集めて来た薪で焚火の準備を行う。

手頃な石を土台にして、そこへ薪をある程度の数投入。そして火を付けて貰い、後は良い感じに燃え上がると思っていた。

 

だが、思うように薪に着いた火は燃え上がらない。火は上に上がっていくことはなく、これでは全然温かくなかった。

 

 

「……えっと、ユキ。やり方、教えてくれない?」

 

 

「焚火をやろう」と自分から言い出したものの、実はやり方はさっぱり。

適当に木を並べて火をつければいいなんて思っていたが、詰めが甘かった。

 

ここは一の道で自作していたユキ人形に相談してみることにする。

 

 

ユキ人形は付けた火を一旦消し、改めて薪を一から並べていく。小さな枝を下地にしていき、そこに大きめの薪を綺麗に立て掛けた。

そして火を付けると、徐々に火は上に燃え上がって見事な焚火となる。どうやら焚火には薪の大きさによって使い分けが必要だったようだ。

 

 

「おぉ…凄い!ユキ、ありがとう!」

 

「~♪」

 

 

賢いユキ人形の頭を帽子越しに撫でる。これで河に落ちた人形の冷めてしまった体も温まることだろう。

気が付けばもう時刻は午後5時を回っている…自分が溺れてしまってから今までで結構時間が経っていたらしい。

空も橙色になり、それを見て今日の旅の終わりを実感する。…全然進んでいない。今日中に妖怪の山の麓にある休憩所に着くつもりだったが、予定通りにはいかないな…。

 

 

でも、それが“旅”というものなのかもしれない。

 

予定通りにいかなかったけれど、こうしてわかさぎ姫やこの翼の生えた人形との出会いがあったんだ。だから決して無駄ではなかった。

 

 

 

今回の旅を軽く振り返りながら、河の畔で一行は野宿をするのであった。

 

 

 

***

 

 

 

[深夜のドールズトーク]

 

 

 

『舞君ぐっすり眠っちゃったね』

 

『無理もありませんよ。何せ鏡様はあの河で溺れてから今まで、ほぼ休まれていないのですから』

 

『ちょっと無理し過ぎで今後が心配…』

 

『そうですね…』

 

『うん…』

 

『…ユキさん、さっきから何をそんなに見ているのです?…あぁ、もしかして鏡様と一緒に寝ているあの天狗の方が羨ましいのですか?』

 

『!そそそ、そんなことないよ!?』

 

『でもあの子、相当弱っていたし…舞島さんがああするのもしょうがないんじゃないかな』

 

『分かってる…分かってるけどッ…!うぅ…ハグして貰っていいなぁ』

 

 

『…あの方はどうも山から落ちてきたみたいですけど…何があったんでしょう?』

 

『うーん、あの様子だと他の人形にやられたのかな?「あや」って小さく呟いていたのも気になるね』

 

『友達…だったりするのかな?その「あや」って子……』

 

『もし仲間になることがあれば、その辺も聞いてみたいね』

 

 

 

『そういえば、今回光ちゃんには助けられたね。でも、まさかあんな大胆な』

 

『こがささんそれ以上はいけません!!』

 

 

 

『  あああああああああああぁぁぁ~~~~~~~~~~~ッ!!!!!  』

 

 

 

『…思い出さないようにしていたのですよ?ユキさん…』

 

『ご、ごめん…迂闊だった』

 

 

 

 

 

『……あぁ、温か~い…♪』

 

 

 

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