人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第四章

 

人形は基本的に各地へそれぞれ縄張りを持って生活している。

 

個体によってはそこにしかいない人形も存在し、そういう人形というのは大体は滅多に出現しない、所謂“超レア”な人形とされる。

 

故に競争率も高く、時にはそれを巡って人形使い達が醜く争うことも珍しくはない。

 

 

 

とある湖の周辺――

 

そこで人形遣い達は今日も草むらを搔き分け、その人形を探し続ける。

 

 

 

「どこだ!?どこにいるんだ〇〇こ様ーーーーーーッ!!!」

 

「ちくしょう!さっきから天狗の人形ばっかじゃねぇかよ!」

 

「俺だあぁぁぁーーー!!結婚してくれぇぇぇーーーー!!」

 

 

 

妖怪の山に聳え立つ守矢神社(もりやじんじゃ)。

その立地故に、かつてこの神社の参拝客は山に住む妖怪ばかりであった。

 

しかし“人形異変”が起こって以来、多くの人形遣いが旅の際にここを訪れるようになり、参拝していくことでそれなりの信仰を得られている。

この神社の巫女である東風谷 早苗はこの現状に有難みを感じつつも、どこか複雑な心情であった。果たしてこれでいいのかと。

 

必死になって人形を探し続ける人形遣い達を遠目に見ながら、早苗は今日も溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、みんなしてバカばっかりね。そんな探し方したって見つかりっこないのにさ」

 

 

草むらを掻き分けている人形遣い達を望遠鏡で覗きながら、私は軽く罵倒を呟く。

 

あの人形は偶然出会えるような、どこにでもいる人形ではない。あれではむしろ追っ払っているようなものだ。

彼らの軽率な行動により、目的の人形があの周辺に出現することは恐らくなくなった。

 

 

人形遣いの中でも“神様”クラスの人形を持っている者は殆どいない。

 

神クラスの人形ともなると、人形自身が相手を選ぶと言われている。仮に運よく捕まえても、弱い者には従わず扱いに苦労する話も多い。

私の持つ「げんげつ人形」も、その内の一体に含まれる。強大な力を持つが、扱いに困っているのが現状…今は使わないでいるが、いつか絶対に認めて貰う。その為にも、強くならなくては。

 

神クラスの人形を持つことはそのまま自身の強さにも直結する筈だ。今のメンバーでも戦ってはいけるが、やはり戦力強化は必要だろう。

 

絶対に強くなる。強くなって、そして私は……

 

 

 

 

「  霊夢様の助けとなるのよーーーーーーーーーッ!!  」

 

 

 

 

                「 ――となるのよーーーー…… 」

 

 

 

                        「 ―――のよーー…… 」

 

 

 

 

山彦が心地良く木魂する。いい気分だ。

 

この現象の正体は妖怪らしい。その当の妖怪は今、命蓮寺(みょうれんじ)というところで働いていると聞いたことがある。

となると、その妖怪は命蓮寺からこの山に向かって思いっきり叫んだのだろうか?その姿を想像すると、何だかおかしくて笑えてくる。

 

 

 

「…何一人で叫んで笑ってるんだ?気持ちが悪いな」

 

 

 

横から誰かが私の気分を害してくる。

その声には聞き覚えがあった。家が近いのもあって何かと絡むことが多かったからだろう。正直、どちらかと言うと嫌いな部類の人間だ。

 

 

「何よ“準(じゅん)”。あんたもいたの?」

 

 

彼は準(じゅん)。私と同じ、人里の寺小屋に通っていた男の子。そして、今は同じ人形遣い。

前に私は彼に初めて人形バトルで負けてしまい、それ以降個人的にライバル視している。

 

彼の持つ「ヘカーティア人形」には手も足も出せず悔しい思いをした。

だがそのお陰で“夢の世界”のヒントを貰うことが出来たのだから、決してあの経験も無駄ではなかったが…それでも私にとってあの敗北は脳裏にしっかりと焼き付いている。

 

「ここにいるってことは、そっちも神様の人形狙いって訳?」

 

「…まぁそんなところだ」

 

まさか私のとっておきの張り込みスポットが準と被っていたとは…これはマズい。

ここに来る人形遣いの連中は大体間抜けばかりだったから確実に狙えると思ったが、状況が変わった。恐らく彼の方が捕獲に慣れているだろうから、先を越されて盗られないようにしなくてはいけない。

 

「ちぇー、せっかくいい穴場見つけたってのに邪魔な奴が増えたなー」

 

「それはこっちのセリフだ。目星をつけていたところに…とんだ“お邪魔虫”だよ」

 

「お、お邪魔虫ですって~!?このっ!準のくせに!!」

 

「っと、気にくわなかったか?…あぁ、それとも“おてんば暴力女”の方が良かったかな」

 

こちらが怒りのまま振り上げる拳を避けながら、準は次々と罵倒を浴びせる。

寺小屋にいた頃はこちらが主導権を握っていただけに、今の彼の態度には苛立ちを隠せない。随分と生意気なことを言うようになったものだ。

 

「ふん、人形バトルじゃかなわないからってすぐ暴力に走るなよ」

 

「―――ッ!」

 

準の放った一言に苛立ちを感じつつも、人形遣いとして今の私はあまりにも惨めだ。実際、彼の言う通りである。私は上げていた拳を収め、一旦冷静になった。

文句があるのなら手持ちの人形同士で戦うのが、人形遣いというものなのではないだろうか。

 

…だがしかし、正直なところまだ私の実力は準に通用するとは到底思えない。

 

 

「………フンだ。今日のところは見逃したげる。別にそこにいてもいいけど、私の邪魔だけはしないでよね」

 

「はん、少しは利口になったじゃないか。そっちこそ邪魔すんじゃねぇぞ」

 

 

「~~~~~!!(この野郎…!)」

 

 

持っている望遠鏡に力を込める。我慢だ、私。

 

 

 

 

 

 

二人は嫌いなものが視界に入らないよう、お互い背を向けながら張り込みを続行する。

静寂の中、二人は望遠鏡を覗き込みながら姿を現さないか注視し続けていた。

 

 

時間は刻一刻と過ぎていき、日が沈んでいくと他の人形遣い達は日を改めるのか次々とその場を去っていく。

 

 

「今日しかチャンスはないのに…帰っちゃうみたいね。まぁ、その方がこちらとしてはありがたいけど」

 

「……」

 

「それにしても、本当にこの湖に現れるのかしら。全然姿を見せないじゃない」

 

「……」

 

「あんまり夜更かしするとお肌に悪いのになー早く来ないかなー」

 

「……」

 

 

何時間にも及ぶ待ち伏せにもそろそろ限界を感じて愚痴をこぼすも、隣の準は何も反応しない。

こんなやつでも暇をつぶすための相手になって貰いたかったが、彼にそんな気遣いが出来るような優しさなど備わっている筈もなく、ただの独り言となってしまう。

多少でも会話を期待したこちらが馬鹿であった。こいつの不愛想ぶりは寺小屋時代から何も変わっていない。

 

「あんたさー、その“ヘカーティア”って人形はどうやって捕まえたのよ?私、あの後夢の世界に行ったけど一体も見当たらなかったわ」

 

「……」

 

「…まぁよっぽど強い人形なんだろうし、あんたには凄い才能があったんでしょうね~。一体どんな人形使って倒せたのやら」

 

「……」

 

準の腰に巻いている封印の糸が複数あることに気付き、今度は少し話題を変えて準に聞く形をとってみたが、これも反応なし。

せっかくこちらが話し掛けているのに無視とは…いい度胸だ。あまり情報を与えないつもりでいるのか、彼の口は堅かった。全く、何を恐れているのだろう?ただ世間話をしたいってだけなのに。

 

「あーあ、“最強の”人形遣い様はさぞご立派ね~~!“弱い”私なんか、口も聞いてもらえないわぁ」

 

「……」

 

 

「…はぁ、うるさいなさっきから」

 

私のしつこさに観念したのか、ようやく準はその重い口を動かした。

不機嫌そうにこちらを睨みつけるが、生憎元から目つきが悪いので見慣れた顔つきである。

これが彼の標準なのだ。…準だけに。

 

彼の笑った顔など私は一度も見たことがない。そんなんで人生が楽しいのだろうか?

 

「…俺はもう行く」

 

「は?」

 

「あの人形は気まぐれだからな。ここから既にいなくなった可能性が高い。俺もあまり暇じゃないんだ」

 

そう言いながら準は荷物を素早くまとめる。狙っていた人形に見切りをつけた、というところだろう。彼の言うことが本当ならば、癪ではあるが私もこの場は諦めるべきだろうか?

 

「…後一つ言っておく」

 

「?」

 

「ヘカーティア人形は、俺が“初めて”捕まえた人形だ。だから仮に捕まえ方なんか聞いても、なんの参考にもならんぞ」

 

そう言い放つと、準はその場を後にしていった。

別れの挨拶も無しにそそくさと歩いて行く彼の背中も、すっかり見慣れてしまっている光景だ。

 

 

「…聞いてるならちゃんとその場で返事しろっての」

 

 

慣れてはいるものの、あの態度はやっぱり腹は立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから更に数時間粘ってみたが、一向に姿を現さない。

彼の言う通り、神の人形がもうここにいないのは間違いなさそうだ。

 

 

「ふぅ、流石にもう帰るか~。神社に一泊させて貰おっと」

 

 

荷物をまとめて立ち上がり、歩こうとした時だった。

 

小さな生き物の姿が見え、思わず立ち止まる。夜中でそれが何なのかは分からなかったが、どうやら元気のない様子であった。

 

手に持って近くで見てみると、それは弱った“蛙”であることが分かる。

可哀そうに…恐らくこの湖の周辺に住む蛙なのだろう。

 

最近は人形遣い達がこぞってこの神社を訪れている。恐らくこの蛙はその時誰かに蹴られでもしたのだろう。

 

そしてよく周りを見てみると、他にもたくさんの蛙の姿が見える。

それは踏まれて死んだ者や悪戯に手足をもがれた悪意のあるもの、人形の技を食らったような痕跡のある者まで様々だった。人形が見つからない腹いせ、というやつだろうか。

何とも胸糞悪い。蛙には何の罪もないのに、随分と酷いことをする。

 

 

私は、この蛙を神社に住む巫女さんに診てもらうことにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……はい。これでもう大丈夫ですよ」

 

東風谷 早苗の治癒術により持ってきた蛙の怪我は完全に治り、元通りの元気な姿となった。

すると蛙は一目散に飛び跳ねて夜の暗闇の中へと消えていく。

 

「それにしても…あなたの話が本当なら、罰当たりもいいところです。諏訪子様が聞いたら、その人形遣い達を間違いなく祟るでしょうね」

 

「そ、そうなの?蛙とその“すわこさま”?っていう神様ってそんな親密な関係だったんだ?」

 

「えぇ、それはもう。…まぁ、滅多に人前に出ませんから案外知らない人も多いんですけれど」

 

そう。実はかく言う私もその“すわこさま”という神様は一度も見たことはない。

“かなこさま”は何度か姿を見たことはあるのだが、人前に出ないのはどうなのだろう。神というのは人々に信仰されてこそ存在出来るというのに。

 

もしや元になってる神様がこうだから、人形の方も滅多に姿を現さないということなのだろうか?

…いや、それもあるが姿を現さないのはそこに住む蛙達をイジメたせいである可能性が一番高い。

 

 

そうなると、その蛙を助けた私はもしかしてワンチャンある?

 

 

 

「早苗さん!その“すわこさま”って神様の容姿を教えて!」

 

 

「え?えぇ、いいですけど…」

 

 

 

神の人形、“すわこ”を捕まえる為のヒントを得て、心に火が付く光であった。

 

 

 

 

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