人間と人形の幻想演舞 作:天衣
今回は外伝を二分割します。まずは準視点から
「――のところの奥さん、亡くなったらしいわよ」
「えぇ!?まさか、最近流行りの…?」
「あそこ、貧乏だったものね…永遠亭の人に診て貰えてたら…」
「旦那さん、奥さんが死んだショックで家に籠りっきりらしいわね」
「可哀そうに…まだ小さなお子さんもいるっで話よ?」
人里の住民達の井戸端会議がこちらの耳に入って来る。
最近のあのババア達の話題は、“とある家族のこと”で持ち切りである。
正直、聞きたくもない会話だ。寺小屋に向かう際にいつも通っていた井戸前がこうも嫌だと思ったこともない。
…そしてもっと嫌なことは、こちらが井戸前を通り過ぎると決まって静まり返ることだ。
奴らは俺の前でその話をするのがどうも気まずいらしい。
このババア達だけでなはい。
人里の奴らが皆、俺を見ると距離を取ろうとする。遠ざかろうとする。
まるで、可哀そうなものを見るかのような目を向けるのだ。
…くだらない。
寺小屋に着いても、その状況は基本何も変わらない。
誰も俺に話し掛けようとはせず、距離を取る。…まぁ、こちらとしても話をする気分ではないから、今の状況に不満がある訳でもないのも事実だ。
「なぁなぁ!授業がおわったら人形バトルしようぜ!」
「へへっ、こんどはまけないぞー!」
「今度、人形についての授業もやるんだって」
「まじ?おもしろそー」
どうやら最近巷で人気となっている「人形」のことで、生徒達が何やら盛り上がっている。
最初に人形が出た時はビビりまくっていた癖に、何ともおめでたい奴らだ。
人形を捕まえる方法が広まってからというものの、今ではすっかり人里の流行になっている。最早見かけない方が珍しいくらいだ。
「ねぇ昨日の霊夢様の活躍見た!?人形に指示して華麗に戦うあの姿…あぁ、カッコ良かったなぁ」
「あんたそればっかりねー」
「へっへ~ん!霊夢様の活躍は一個たりとも見逃したりなんかしないんだから!」
耳障りな声も聞こえてくるが、今は今日一日の飲食について考える。
あれから自炊しなければならない毎日となってしまった。お金もそこまでない以上、無駄なことには一切使えない。
身を削って小遣いを溜めてはいるが、正直生活していくのにこれっぽっちでは少なすぎる。
クソ親父が家事の一つもせず、安い酒を買って飲んだくれているせいで、こちらは本当にいい迷惑だ。あんな大人にはなりたくない。
「――ねぇ、あんたもそう思うでしょ~?」
自分の肩に手をのせて図々しく、一人の女子が今日もしつこく話し掛けてくる。
当然、俺は無視した。
「…ん~?それ今日の献立?なんか、如何にも栄養重視って感じね」
だがその女子はそれを気にすることなく、呑気に話し掛けてくる。…何なんだ一体。
「(ちょっと光!やめときなって)」
「(え~?別にいいじゃん)」
「(準君、多分おこってるよ?)」
それを見た周りの他の女子達が、光の行動を止めに入る。いつもこれの繰り返しだ。
そんな日常に、小さく溜息を吐いた。
…くだらない。
「あ、僕ちゃん。団子買ってかない?」
寺小屋の帰り道に、最近店を始めている兎の見た目をした二人組が今日も絡んでくる。特に青い方がやたらとしつこい。当然そんなものを買う余裕はないので、今回も無視する。
“あの事件”が起こる前までは、あの店にも偶に寄っていた。
正直な話、黄色い方の作った団子の方が美味しい。青い方のは何と言うか、個性的な味がする。
…まぁ、今やそんなのどうでもいいことか。
「…今日も返事はなし、か」
「うぅ…私の団子をいつも買ってくれる貴重なお得意さんだったのになぁ」
「おーーーい!今日は彼女さんと一緒じゃないのかーーーい?」
「……う~む、何かあったんかねぇ?」
…くだらない。
最低限の買い物を済ませ、懸命に働き、そして家に帰ると不快な匂いが漂ってくる。
これは、酒だ。今日も飲んでるらしい。ご苦労なことで。
床で寝そべっているクソ親父を尻目に、今日も飯の準備に取り掛かる。
食材を切り分けてから水の入った鍋に入れ、火でグラグラと煮込み、ふと無意識に鍋の中を覗き込んだ。
「…このままじゃ駄目だ」
沸騰していく鍋を見ながら、ポツリとそう呟く。
元々裕福ではなかったにしろ、このままではいずれ金は尽きてそのまま餓死…なんて笑えない話だ。
稼ぎ頭がああなってしまい、自分なりに努力はしたものの…子供の小遣い稼ぎ程度ではこの先とても生きていけないだろう。
…だが、一つだけ。
一つだけ、考えてる稼ぎ方がある。働き先で小耳にはさんだ、とある情報。
最近この幻想郷で急速に流行している“人形”という存在。俺はアレに目を付けた。
聞けば人形は倒せば金になるアイテムを落とすというではないか。
ならば、人形遣いとなって倒しまくれば相当稼げる筈だと…そう考えたのだ。所謂、賞金稼ぎに似ている。
そういえば、今度寺小屋で「人形」についての授業があると言っていた。何とも丁度いい。
これで基礎の知識くらいは、そこで身に着けられるだろう。
…やるしかない。これも生きるためだ。
***
「――とまぁ、このように人形にはそれぞれ「タイプ」というものが存在する。そしてそれらは元になった人物のイメージに直結されていることが最近分かった」
寺小屋の先生こと、上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)による人形についての授業が始まった。
この先生はやたらと無駄に話し込むので眠気との勝負になりやすいのが欠点だ。だが今日に限ってはそうもいかない。必要な情報を何としても身に着ける必要がある。
「せんせー!人形を戦わせて思ったんだけど、タイプにもしかして相性ってあるの?」
「お、いい質問だな。そう、〇〇〇の言う通りタイプにはそれぞれ相性というものが存在するんだ。例えば「自然」には「炎」が良く効くとかな。これらを把握しておくことは人形遣いにとってかなり重要だぞ」
「でもタイプっていっぱいあるわよね。ぜんぶ覚えるのって大変そう…」
「ふむ、そうだな…「実際にそのタイプ同士をぶつけるとどうなるか」をイメージするんだ。「植物」は「火」でよく燃えるし、「火」は「水」で消えてしまう。「水」は「電気」をよく通すし、逆に「電気」は「地」には全く通らない」
「あ、確かに!そう考えるとわかりやすいな!」
「まぁ、時にはその発想を変えていく必要性もあるがな。今度タイプの相性表も作ってやろう」
生徒達が楽しそうに人形のタイプについて学んでいる。
成程…思っていたより人形というのは複雑で奥深いもののようだ。まぁ、その方がやりがいはあるか。
「ん、もうこんな時間か。よし、今日の授業はここまでだ。皆、あまり遅くまで遊ぶなよ」
「は~い」
「せんせ~さよ~なら~」
どうやら今回はこれで終わりらしい。大まかだが、人形についての基礎知識は身に着いただろう。
だが、まだだ。
俺は先生が寺小屋を出ていくところを見計らい、先回りして待ち伏せすることにした。
「…慧音先生」
「ん、準か。どうしたんだ?」
こちらに気付いた先生はしゃがみ込むと、そっと手を乗せてきた。
その顔はとても優しく、母のような温もりを感じさせる。
「…何の真似です?」
「あ、いやすまない。その…親御さんのこと、残念だったな。一人で大変だろう?」
「……同情なんていりませんよ。そんなことしたって、“かあさん”はもう帰ってこない」
「あぁ、分かってる。でも、お前は私の可愛い生徒だ。もし困ったことがあれば、いつでも相談に乗るからな。な、何なら私を母親と思ってくれても」
「それは結構です」
「そ、そうか?ハハッ、まぁよく考えたら私に出来ることは教えることくらいだった」
照れ臭そうにそう言う先生の優しさには、正直ウンザリした。
この人が家事の一つも出来ないことくらい、寺小屋の生徒は皆知っているからだ。元々出来もしないことを言わないで欲しい。
だが、彼女は寺小屋の先生。知識が豊富ならば、色々と役に立つ情報だって持っている筈だ。
「そうですね。では先生、俺の知りたいことを教えてください。さっきの授業で気になったことがあるんです」
「―――」
「…何ですかその顔は」
「あ、いや!ちょっと驚いてな。まさかお前がそんなことを言うなんて」
「悪いですか?元々そのためにここへ来たんですけど」
「いやいや、何も悪いことはない!!さぁなんでも聞いてくれ!!!」
自分の言葉を聞いた先生は笑顔で意気揚々とこちらに耳を傾ける。
役に立てることが余程嬉しいらしい…あの表情を見ればすぐに分かる。実に単純な人だ。
「まずは一つ目。人形は個体によって強さが違うのでしょうか?」
「おぉ、鋭いな!その通り。実は同じ人形でもステータスに違いはある」
「その基準は?」
「推察だが、恐らく元になった人物の強さという説があるな。例えば、博麗の巫女なんかが良い例だ。彼女の持つ同じ姿をした人形、かなり強いだろう?」
「博麗の巫女」の人形か。確かにアレは他の人形を圧倒する力を持っていた。
先生が言っていた説が正しいなら、人里に伝わっているあの書物の情報を見ればおおよその人形の強さが分かるだろう。
「成程、ありがとうございます。では二つ目。目星をつけた人形にはどうやったら会えるでしょうか?」
「基本的には、その人物にゆかりのある場所での目撃情報が多いな。そして人形はその場から離れることはなくて、決まった場所をナワバリにする習性があるらしい」
決まった場所にしか生息しない…。最近人里でやたらと外に出ていく者が増えていたが、あれはつまりそういうことだったのか。
そうなると、こちらも人里の外へ出ていく必要があるみたいだ。
「…では最後の質問です。一番強いとされる人形は、どの人形なのでしょうか?」
「む、中々難しい質問だな。ふ~む、そうだな…」
質問を受けた先生はしばらく考えた後、
「さっき述べた博麗の巫女、妖怪の賢者、地獄の裁判長、吸血鬼や月の姉妹達、鬼の四天王、色々と候補があるが……強いて言うならば」
指を一つずつ閉じながら候補を上げていき、そして答えを導き出した。
「 “地獄の女神”…だと、私は思うな 」
地獄の女神…そうだ。最近起こった、月の侵略者が地上に降りてきたという異変。
その発端となった三人組の内の一人に、確かそういった者がいたと聞いている。
だが流石の先生でも、その人形がどこにいるのかまでは知らないらしい。
聞いた噂では、その地獄の女神はあの博麗の巫女が手加減されてしまう程の力の持ち主だという。
それが本当ならば、確かに最強の名をもつのに相応しいと言える。
誰でもいい…その情報を持っている人物はどこかにいないだろうか?
「つき立て団子は如何ですか~?」
「うちのは隣のよりも美味しいよ~~」
「こら、営業妨害は止めろって」
「だってぇ~いつもそっちばっかり買われるじゃんそんなのズルいよ~」
「変な創作団子ばっか作るからだろ。あんたはここの客の需要を分かってないね」
歩きながら考え事をしていると、団子屋である「鈴瑚屋(りんごや)」と「清蘭屋(せいらんや)」の店主が言い争いをしている。
何でもあの二人はいつも売り上げを競っているらしい。いつも黄色い方が勝っているようだが。
…一応、駄目元で聞いてみるか。
「おい」
「ん?おぉ、僕ちゃんいらっしゃい」
「あ!い、いらっしゃいませ!」
店前に立ち声を掛けると、こちらに気付いた二人は営業挨拶を交わす。
何回か顔を出したからか気に入らないあだ名をいつの間にか付けられているが、まぁ今は触れないでおこう。
「聞きたいことがある。情報次第では団子、いくつか買ってやるよ」
「ほ~成程~今回はそう来たかぁ」
「穢れた地上の人間のくせに、私達に指図すんの?いい加減に」
「従わないなら、もうお前の団子は一生買わないぞ」
「ごめんなさいこの清蘭めに何なりとお申し付け下さいッ!!」
『く、くそ…いつも足元見やがってこの野郎』
『まぁまぁ、小生意気で可愛いじゃない?』
何かと突っ張って来るこの青い方の扱いも、今やもう慣れたものだ。
この怒りを我慢している顔はいつ見ても実に愉快である。
「お前ら、“地獄の女神”っていうやつの人形のこと、なにか知ってるか?」
「「 ―――!! 」」
その言葉を聞いた2人は驚きの表情を見せる。
この反応は、どうやら当たりらしい。何事も聞いてみるものだ。
『…どうする?』
『まぁ、いいんじゃない?教えてもさ。どうせ普通来れない場所だし…』
二人はしばらく見つめ合い頷いた後、こちらに向き直ってこう言った。
「「 …あぁ、知ってるよ 」」