人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第六章

暗い水底の中、三人の河童達に付いて行く。

 

今日程人並みに泳げるスキルがあって良かったと感じたことはない。何という貴重な体験だろうか。空気を送らなくとも、人の身である自分が今こうやって水中で呼吸が出来ているのだ。ゴーグルがなくてもはっきり水中の全容が分かる。

心配だった鞄の浸水も特殊なバリアで濡れることは一切ない。

 

やはり、河童の技術力はすごかった。

 

 

「(舞島さん、何をしているんですか?はぐれちゃいますよ?)」

 

「あ、すみません…つい。こんな体験初めてなもので」

 

 

感心しているのも束の間、黒髪の河童がこちらに目線を送りスカウター越しから話し掛ける。

魔理沙から貰って今までお世話になって来たこのスカウターは元々河童の作った物…当然他の河童達も同じのを持っていた。

防水は勿論のこと、こうやって“通話機能”も搭載されていたらしく、現在水中で河童達の声が聞こえるように使用している。

 

「(人間って不便だよね~。水中だと息も出来ないし会話も儘ならないんだからさ)」

 

「(…河童の偉大な発明に感謝するのです)」

 

「ハハ、ありがとうございます。しかし凄いですねコレ…まるで魚にでもなった気分ですよ」

 

「(いや~実際あたしら河童には必要がないんだけどねぇ。何せ河童のアジトは滅多に他の人を入れることなんてないし)」

 

確かに言われてみれば河童は水中でも問題なく生活が出来る種族だ。

となると自分を覆っているこのバリア装置は自分のような水中では自由が利かないものに配慮した発明と言えるだろう。

 

「(実はにとりさんの発明なんですよね、それ。まさかここで役に立とうとは思いませんでしたよ)」

 

「(…にとりさんは河童の中でも変わり者。人間を好んでいる)」

 

「(まぁ河童って変人多いし珍しくはないんだけどぉ…その中でも結構異質かなぁ)」

 

 

「(そ、そうなんだ?)」

 

“にとり”…これは魔理沙からもよく聞いていた河童の「河城 にとり」で間違いないだろう。

彼女らの言っていたことから察すると、河童は妖怪の中でも人間に特別友好的という訳でもない…のだろうか?

この三人は少なくとも自分に対して比較的友好的に思えるが、それも人間好きであるにとりのお陰なのかもしれない。

 

 

「あ、そろそろ着きますよ。我々のアジトに」

 

 

どうやら話をしている間に目的地へと近づいたらしい。

 

薄暗い水路から一点の光が差し込んでいる…あの先が「河童のアジト」か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の目指し一直線に向かい着いた先には明るく綺麗な水の中であった。

薄っすらではあるが、いくつか建物のようなものも見える。そして上を見上げるとそこには太陽も存在していた。

眩しさはあまりなく、そこから見える輝く水面が綺麗でつい見とれてしまう。あちらでは絶対に考えられない、一切の穢れがない湖であった。

 

 

「(みんなー!人形遣いを連れてきたよー!)」

 

 

黒髪の河童が目的地に着いたところで仲間に声を掛けているようだ。

しかし、恐らく地上にもいるであろう河童達に水中からコンタクトが取れるのであろうか?こちらが行っている通信を向こうもやっているのだろうか?

 

そう疑問に思っていると、何やら水中からいくつもの影がこちらに接近してくる。

魚影にしては少し大きい…いや、あれは恐らく…

 

 

「(何だ、思ったより早かったじゃないか)」

 

「(そいつが例の人形遣い?うーん…何だか頼りない感じだけど)」

 

「(に、人間だ…)」

 

 

影の正体はやはり、ここに住む他の河童達であった。

中には男の河童も複数いるようで、こちらを品定めするような視線を感じる。

 

「(…あれ?何だかさっきよりここにいるの増えてない?戦っていたんじゃ?)」

 

金髪の河童は水中にいる河童の数に違和感を感じているようだ。

どうやら人形解放戦線と人形バトルをしていた河童もいたらしい。そしてよく見ると、その河童達は身体のあちこちに傷を負っていた。

 

質問を受けた河童達は少し気まずそうにしながらも事情を説明し始める。

モブカッパーズの三人以外は現在スカウターを装着していない為、何を話しているのかは分からない…しかし、その表情は暗かった。

 

「(…事は思っていたよりも深刻になっているらしい)」

 

「(うん、どうやらそうみたいだね…)」

 

黒髪の河童と緑髪の眼鏡河童が今の状況があまりよろしくないことを悟っている。

今の話と状況から推察するに、人形解放戦線の襲撃で大半の人形遣いの河童達がここに追いやられている…そういうことなのだろうか?

 

人形解放戦線は人形を使い、様々な悪事を働いていると聞く。実際、人形による無差別な攻撃が人里でも行われていた。

そして今ここでも戦う人形がいなくなってしまった者に容赦なくその牙を向けた跡が見られ、河童の服の損傷具合がそれをはっきりと物語っている。

 

「(お待たせ。聞いたところによるとね?人形解放戦線の中に一人、とんでもなく強い奴がいるらしいよ。皆そいつにやれらたんだって)」

 

聞き込みが終わった金髪の河童はこちら側に戻ってくると、今のこの現状を伝えてくれる。

人形解放戦線の中の実力者となると、リーダークラスだろうか?今まで会てきた中で言うと「ルーミア」という人物が一応それに当たったが…戦った感じではとてもそれだけの実力があるようには見えなかった。

金髪の河童の言う“とんでもなく強い”という表現から考えると、それ以上の実力を持つ大物があそこにいるということなのだろう。

 

「(で、でもこっちにはにとりさんがいます!河童の中では一番強い人形遣いなんですから、きっとどうにかしてくれますよ!)」

 

 

「(…あたしをお呼びかな?)」

 

「(うわっ!?い、いらしたんですか!?)」

 

「(あぁ。全く、あの妖怪には参ったよ。まさかあそこまで人形をつかいこなすとはね。…やぁ盟友、待っていたよ)」

 

黒髪の河童の背後から、ガスマスクを付けたもう一人の河童が現れる。

自分のスカウターからもその声ははっきりと聞こえた…こちらに語りかけてくるこの河童は恐らくあの人物で間違いない。

 

 

 

 

 

 

河童はガスマスクを取ると、青髪のツインテールが水中にユラユラと浮かび上がる。

 

魔理沙からその名を聞いてから、野生の人形を見て容姿は分かっていた。

しかし、こうやって実際に会うのはこれが初めてである。

 

「あなたがにとりさんですね?あなたの発明した道具には本当にお世話になってます」

 

「(こっちも魔理沙から話は聞いてるよ。中々の腕前の人形遣いだってね。改めて、河城 にとり(かわしろ にとり)だよ)」

 

「舞島 鏡介です。よろしくお願いします」

 

「(ひゅい!?)」

 

「え…」

 

互いに挨拶を交わし、握手をしようとこちらから手を差し出すとビックリされて遠くに逃げられてしまった。

驚かすつもりは一切なかっただけに、こちらまでその反応に驚いてしまう。

 

「(…あの人、人間好きなのにいざ接するとあぁなんですよねぇ)」

 

「(初対面は特に、ねぇ?)」

 

「(…器用なんだか不器用なんだか)」

 

 

「アハハ…何と言うか、まぁ…うん」

 

にとりという人物はどうやら人見知りなところがあるらしい。かつての今より奥手な自分が脳裏に浮かび、少しだけシンパシーを感じる。

…だが、今後会った時は距離感というものを意識しておこう。あ、ちょうど帰って来た。

 

「(い、いやごめん!つい逃げてしまった!君はただ握手しようとしただけだよねごめんね!?)」

 

「い、いえ大丈夫ですよ。そんなに気にしてませんから」

 

こちらに戻って謝っているにとりをよく見てみると、彼女も服のあちこちが損傷している。

他の河童達と同じく地上で人形バトルをしていたのだろう。モブカッパーズが言うには彼女は実力者らしいが、それでも敵わない強敵…ここを襲っている人物は一体何者なのだろう?

 

「…それで、僕がここに呼ばれたのはやっぱり?」

 

「(うん、恐らく君が考えている通りだ。…盟友だもん、助けてくれるよね?)」

 

その強敵が果たして自分で何とかなる相手なのかは、正直分からない。

それに今はしんみょうまる人形が実質的な戦闘不能状態…残されている主力はユキ、こがさ人形のみだ。こんな不利な状態でいけるのだろうか?

 

 

…いや、一度受けた依頼だ。

それに河童達には間接的とはいえ、色々とお世話になっている。ここでその恩をきっちりと返すべきだろう。

 

 

「えぇ、勿論です」

 

 

「(うん、ありがとう!!やっぱり持つべきものは盟友だねっ!!魔理沙の言ってたとおりだ!!)」

 

 

そう言うとにとりは笑顔でこちらの手を両手で握り、力強く握手しながら左右に振る。先程の臆病ぶりはどこへ行ったのやら。

何にせよ、信頼してくれているのなら嬉しい限りだ。

 

 

「(…あぁ!!?みんな大変だ!み、湖が…!)」

 

「(不味いぞ…どんどん汚染されて行ってる。このままじゃここも危ない!)」

 

「(もう駄目だ…おしまいだよ…)」

 

 

河童達が湖の異変に気付いたらしく、上を見上げると紫色の靄が透明な水面を徐々に浸食している。

 

これはまさか、「毒」?誰かがこの湖に毒を流し込んでいるらしい。

湖に逃げ込んだ河童達に対する追い打ちだろうか…何と卑劣な手段であろう。

人形がこの毒を送り込んでいるのだとすると、「毒」タイプを使う人形遣いがいる可能性は高い…と、今はそんなことを考えている暇はない。

 

自分は兎も角、河童達はこのままでは毒でやられてしまう。不味いぞ…。

 

 

「(…少々早いが仕方がない。皆!強力な助っ人が来たんだ。もうひと踏ん張り頑張ろう!)」

 

「(いいか?これは「人形バトル」じゃない。我々のアジトを取り戻す為の戦いだっ!今こそ河童の力を見せる時!!)」

 

 

にとりが弱気になっている他の河童達に激励の言葉を掛け、士気を高める。

弱音を吐いていた河童達もにとりの言葉に表情を変え、やる気に満ちた顔付きとなってその言葉に耳を傾けていた。

 

 

「(あんな寄せ集めの妖精集団なんかに遅れを取ってちゃ河童の名が廃る!反撃開始だぁ!!)」

 

 

「「「「「  ( おぉーーーーーーーー!!! )  」」」」」

 

 

そう言いながらにとりが手元に用意したスイッチを押すと、湖の底のあちこちに穴が開き、そこからいくつもの大砲が現れる。

その大砲の砲台の中に次々と河童達は乗り込み、飛ばす方角を定めていく。

 

 

「(ほら、あんたも乗った乗った!)」

 

「え?ぼ、僕も乗るんですか!?」

 

「(当たり前だ。正面から突撃してみろ。待機している人形解放戦線から一斉攻撃が飛んできて速攻お陀仏さ)」

 

 

成程、その為の大砲という訳か。しかしこれは…まるで某64ゲームのようではないか。

まさか、「人間大砲」を人生で経験することになろうとは…本当に大丈夫なのかは心配だが、なるようになれだ。

 

とりあえず他の河童達と同じように足から入り、砲台から顔だけを出した状態となる。…意外とコレ、居心地良いな。

 

 

「(じゃあ、今から軽く作戦を言うよ。まず、君は我々の切り札だ。よって人形解放戦線のボスを相手にして貰う。だけどその際に他の邪魔が入る可能性が高い。あいつらは人形バトルのルールなんて知らないと言わんばかりに、集団で襲ってくるからね)」

 

「(だから我々は人形解放戦線の雑魚達を相手にする。これで君はボスを倒す事だけに集中出来て戦いやすい筈だ。頼むよ!)」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

要は自分がボス、河童達が雑魚を担当という訳か。実にシンプルで分かりやすい。

そのボスを倒せば撤退して雑魚も皆いなくなってくれる筈…よし、頑張ろう。

 

「(…では、ここからは非戦闘員であるモブカッパーズが発射合図を出しますよ~!)」

 

「(目標、舞島さんはにとりさんの工房!他は雑魚殲滅用の陣形!方角、着地点…共に問題なし!)」

 

「(発射5秒前…4…3…2…1…………)」

 

 

 

「「「  (ファイアーーーーー!!!)  」」」

 

 

 

モブカッパーズの合図と共に一斉に轟音が水中から響き渡り、まるでミサイルでも飛ばしたかのようにいくつもの飛行雲に似た泡が一直線に発生する。

それらに一つ遅れて、自分が乗っているにとりの工房に飛ばす大砲が徐々に中から力を溜めている…足元がすごく熱い。靴は果たして大丈夫だろうか。

 

「(では、いってらっしゃいませ!)」

 

「(頼んだよ~)」

 

「(…健闘を祈る)」

 

モブカッパーズに見送られ、舞島は大砲で盛大にぶっ飛ばされるのだった。

 

 

 

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