人間と人形の幻想演舞 作:天衣
「あ~あ、退屈だな~。河童達みんなやっつけちゃったからすることないよ~」
「ちょ~ひま~」
「あ、そういえばさ~この専用衣装さ~白と水色の色合いいいよね~。ついでに髪もそめてみたの」
「いいな~私まだ下っ端だから許しが出ないのよね~」
河童のアジトは現在、人形解放戦線の支配下にあった。
そのメンバーである妖精達はその圧倒的な数で河童達を倒したはいいが、することがなくなってしまい呑気におしゃべりを始めている。
はたから見ればとても平和で、制圧されたような様子はなく…何故こんな連中にやられたのかと思ってしまう程である。
「はぁ~あ。あたしも早くしゅっせした~い」
「…あ、見て!まだ真昼なのに流れ星よ!それもたくさん!!」
「ホントだ~!よ~しねがいごとを三回言うぞ~」
「しゅっせしますようにしゅっせしますようにしゅっせしますようにっ!言えた~~!」
「…ところでしゅっせってな~に?」
「え?それは…アレよ。きっとつよくなること!たぶん!ようするにいっぱい人形遣いたおせばいいんだよ!」
「なるほど~」
妖精達が馬鹿丸出しな会話をしていると、空から見えている複数の星は軌道を変えて地上へと向かう。その正体は目で見ても分かることは決してない。何故ならそれは、“隠されている”から。
妖精達には精々、あれは大気圏に入って来た隕石…要は流れ星か何かにしか見えていないのだ。
そしてそれを特に注視していなかった妖精達は敵の接近に気付くことが出来ず、着地を許す。
「な、なんでこいつらがここにいるの~!?池にとびこんだんじゃ…」
「…しかもかこまれてる~~~!!」
ステルス迷彩を解き、次々と姿を現す河童達。
敵を取り囲むように組まれたこの「雑魚殲滅の陣」により、妖精達にとって不利な状況を作り出すことに成功する。
一人一人を確実に倒す為のこの陣形は、複数で襲いかかる卑怯者達への対抗策…一度やられた屈辱を決して忘れない河童達の秘策であった。
格下である妖精に舐められているのを黙っている妖怪など、幻想郷に誰一人としていない…ましてアジトを乗っ取られるなど言語道断だ。
何が起こっているのか分からず混乱している妖精達に、代表であるにとりが前に出て言い放つ。
「 随分と好き勝手やってくれたね妖精共…今度はこっちの番だ。反撃開始ぃ!! 」
***
「 ―――おおおおぉぉうおおおおおぉぉーーーーーーーーーーッ!!!!?? 」
河童達が人形解放戦線を取り囲んでいる頃、自分は未だ空にいた。
現在、自分とは思えないような奇声を上げながら物凄いスピードの中で雲の中を泳いでいる最中である。
水中で張っていたバリア装置のお陰か、空気抵抗は殆ど感じないが…いやそれでもこれは怖い、怖すぎるっ!恐らく着地もこのバリア装置が衝撃を和らげてはくれるだろうが、物凄い高いところへと上っていくこの体験は並の人間にとって恐怖でしかない。
雲の中のいるせいで今自分がどこにいるのかが全く分かりはしない。
着地点も事前に予測していたようだったから心配はいらないだろうが、見えないというのはやはり心の中で不安を煽らせてしまう。
…しかし、一体どこまで飛んで行ってしまうのだろう?しまいには宇宙へ行ってしまうのではないだろうか?
そう思っていた矢先、段々と飛ぶ勢いが落ちてくる感覚がしてきた…どうやらここから地上に向かっていくらしい。
流石にそこもでは行かないかという安堵と、ちょっと見て見たかったという期待は入り混じりながら雲を通り過ぎ、下を見ると幻想郷の全体が目に映る。
意外にもそこまでは広くはないらしい…少なくとも自分の住んでいた国と比べてもその差は明らかなものだった。
東から博麗神社、人里、そこから西に行ったところに香霖堂、魔法の森がある。人里から南には迷いの竹林、永遠亭にいってそこから霧の湖、紅魔館、そして今ここ玄武の沢。
自分が訪れた場所だけでも、幻想郷の約半分近くは埋まっている…後行っていないのは近くに聳え立っている大きな山と、魔法の森の奥に存在する何やら一面紅い場所と、迷いの竹林方面にあるそれぞれ白と黄色が特徴的な場所くらいだろうか。
こんなに遠目ではそれが何なのかは分からない…だが、これは覚えておいて損はなさそうだ。
「 ( 舞島!舞島!聞こえるかいっ! ) 」
スカウター越しに河童のにとりから通信が入る。
彼女とその仲間達にはこちらよりも先にアジトへ潜入し、人形解放戦線の雑魚を相手にして貰っている。
「どうしたんですか?」
「(いやなに、君が今から戦う相手のことを教えておこうと思ってね。何も言ってなかったし)」
「…あぁ、そう言えばそうですね」
言われてみれば、自分が今から戦う相手のことは何も知らない状態だった。
河童の中でも実力者と言われているにとりがやられてしまったという強敵…一体どんな奴なのだろう。
「(そうだな。まず、奴ほど人形を扱うものとして適任者はいないと言える。妖怪の一種だろうが、その中でも異質…恐らくだが奴は、人形が思っていることやどういった使い方で強さを発揮するのかを熟知している。それはデータによるものじゃなく、奴の生まれ持った“才能”ってやつだ)」
「それは、強敵ですね…僕で勝てるのでしょうか?」
「(うん、多分奴の手持ちすべてが相手だったらまず勝機はない。君の手持ち数から考えてもね。でも)」
「でも?」
「(私が前に戦ってから3体の人形を既に戦闘不能にしてある。だから、まだ君にも勝機はギリギリあるさ。…まぁ私の手持ち5体に対して3体の犠牲に留めたんだから相当なんだけどね)」
「…その人形遣いの名前は何です?」
「(名前は…っと、すまない!人形解放戦線の攻撃が激しくなってきた!すまないがここまでだ!兎も角、頼んだよ盟友!)」
弾幕の飛んで来る音がスカウターから流れるのを最後に、にとりとの通信が途絶えてしまう。
結局、人形解放戦線幹部クラスの人物の名を聞くことは出来なかった。
そうこうしている内に、地上が近づいて来た…その先には一つの工房がある。あの中に例の人物がいるのだろうか?
…アレ?これまさか、直撃する?
***
「……ほら、これ食べて元気出して」
人形の口元に体力回復用の菓子を近づけるが、人形は小さく横に振りそれを拒む。
いつもなら喜んで食べるが、河童の人形から最後に貰った技が効いていて顔色が悪い…これは所謂「衰弱」状態。勝ちが見えていたからと油断していた。
この子は自身で状態異常を回復させる手段を持たないので、現状ではどうしようもなくなってしまった。アイテムも充実してなくて枯渇している…この子を今すぐ戦線復帰させるのは厳しいか。
あの河童が去り際にはいたセリフ…「次に現れる人形遣いが、必ず貴様を倒す」、だったか。
確かに今の状況からあいつよりも強い人形遣いが来たら、流石の私でも厳しいかもしれない。だが、そうなる前にこちらは先手を打った。
私の人形による“毒霧”を、この建物にあらかじめ蔓延させておいたのだ。この毒はどんな奴でも耐えられない神経毒…例え吸わないようにしていたとしても人形が発している特殊な毒の前では無意味。私や私の人形以外のいかなる生物は、この建物に入った途端にお陀仏である。しかもここは私が最後に戦ったあの河童の工房。外から間接的に攻撃される心配も要らないだろう。何せ河童にとってもの作りをする場である工房は命の次に大事なものであるからだ。
だからこうやって立て籠ることで奴らは正面ドアからご丁寧に入ることしか出来ない。我ながら完璧な作戦だ。
しかし、さっきまで静かだった河童のアジトがどうもまた騒がしくなった。
どうやら私の人形が湖に毒を流し込んだことで奴らも焦ったのだろう。最後の抵抗といったところか?
ここを落とせば人形を狭い空間に閉じ込める忌々しいマジックアイテムの生産を止めることも出来る。あれで人形達は洗脳され、いいように操られてしまっている。それは決して許されることではない。
私は必ず異変によって現れた人形達を救ってみせる。そして、この幻想郷における人形の地位向上を…
「 おわあああああぁぁぁーーーーーーっ!!? 」
「………は?」
上を見上げていたら、天井が突然崩れ落ちていった。何が起きたのかは分からない。
私は看病していた子が危ないと感じ、咄嗟に庇った。
「―――つ、着いたのかな…?」
にとりの工房に屋根から突っ込む形となってしまい、ものの見事に破壊してしまった。
何せ雲のあるような高い所からの急速落下だ。こうなるのも仕方のないというものだろう。
中に入ることには成功したらしいが、果たして幹部はいるのだろうか?砂埃と紫色の霧でよく見えないが、見当たらない。
だがここの近くに入る筈…立ち上がって探索を進めようとした時だった。足元に何かが当たる感触を覚え、下を向くと…
「……うわぁ!?な、生首ッ!?」
足元には金髪の少女の頭だけが転がっていた。あまりのショッキングな出来事に声を上げ、顔が青ざめてしまう。
まさか、自分がやってしまったのか…?あれだけの落下の威力だ、もしやそれに巻き込まれてしまって…!?自分の犯した罪に落ち着きをなくし、あたふたしていると転がっていた頭がゆっくりと宙に浮かび上がった。
嗚呼、自分は今からこの少女に一生呪われ続けるんだろう。そう覚悟を決めた瞬間だった。
「…まさか、天井から来るなんて思わなかった」
「…へ?」
「 コンパロ コンパロ 毒よ集まれー 」
生首が突然喋り出し呆気に取られているのも束の間、辺りの漂っていた紫の霧が彼女の元に集まる。そしてバラバラになったのであろう体のパーツが次々と修復を始め、やがて元通りの体へと復元された。
「ふぅ…久しぶりに使ったわ、この能力」
頭の僅かな歪を両手で直しつつ、そう呟く彼女の姿にはどこか見覚えがあった。
背は小さく、金髪で青い瞳、赤と黒の服に同色のロングスカートを履いているこの少女を僕は知っている。本人にも、人形にも会っている。
間違いない。彼女は“メディスン・メランコリー”。
人形解放戦線をまとめるリーダー…成程、通りで皆が敵わなかった訳だ。
そして、少なくとも人間ではないことは明白…にとりの言っていた“異質”というのも先程の能力を見れば一目瞭然と言えるだろう。
妖怪という存在の身体の構造はよく知らないが、一度バラバラになったにも拘らず辺りに血の一滴も流れてはいないのは明らかにおかしい。
一の道で最初に彼女とぶつかった時に感じた違和感は間違ってはいなかったということだ。
「…あら?よ~く見たらあなた、見覚えがあるわね。確か一の道で私にぶつかって来た…」
「はい、舞島 鏡介です。名乗るのはこれが初めてでしょうか」
「まいじま…ふぅん」
メディスンはこちらをまじまじと睨み、見定めるようにこちらを遠目で観察する。
一見純粋なようでどこか距離を感じさせるその妙な行動は、人間を毛嫌いしている彼女の癖なのだろうか?
「毒を蔓延させているこの空間でピンピンしているのも気になるけど…どうしてここに来たのかしら?」
「あなた達を止めに来たんです。何故ここを襲うんですか?」
「…ふん、あなたには関係ないでしょ。強いて言うなら、“人形の解放”ね。そう言えばあなた、人形はどうしたの?確か2体くらい連れてたわよね?」
「え?あぁ、それならここに」
「!…そう、所詮あなたもそうなのね」
腰に付けている封印の糸を見たメディスンの表情が一変する。
その表情には怒りや憎しみが込められているのが分かり、この道具を心底嫌っていることがよく分かった。
「あなたはきっと使わないと思っていたのに…やっぱり人間は信用できないっ!これではっきりしたわ!!」
「な、何を言って…?」
「この河童のアジトはね、その忌々しい封印の道具を生産している中心地なのよ!この道具さえなくなれば人形達は“解放”される…自由になれるの!!」
「…!」
ここが封印の糸の生産地…成程、そういうことか。
確かにメディスンが率いる人形解放戦線の目的である“人形の解放”を成し遂げるには、ここを襲うのが手っ取り早い手段であろう。
しかし、この行為によって今度は河童達が甚大な被害を受けてしまっている。それは決して許されるものではない。彼女を止めなくては…!
「…そんなことはさせない! ユキ!」
「あら、やるというの?見たところその子しか出せる手持ちがいないようだけど…随分舐められたもんだわ!」
彼女の言う通り、しんみょうまる人形は戦闘不能状態でこがさ人形はこの毒の霧の中では起用が難しい。だから今の手持ちは実質ユキ人形一体しかいない。勝てるかと言われたら正直厳しいだろう。
「こっちの人形達は毒に対する特殊な訓練を受けている…フフッ、ズルいなんて言わせないわよ?私達に人形バトルのルールなんて適用されないわ」
「 あなたとあなたの人形の力、見せて貰うわ! 」
例の非公式MODの制作者様から、追加された内容をこの小説に反映させてもいいという許可を頂きました。
ですので今後あんな人物や人形を遠慮なく出していこうと思いますので、よろしくお願いします。