人間と人形の幻想演舞 作:天衣
人形解放戦線をまとめるリーダー、メディスン・メランコリー。
人形異変に乗じて幻想郷で様々な悪事を働き、そして今も尚それをやり続ける彼女を、僕は何としても止めなければならない。
「 こころ! いきなさい! 」
メディスンの声に応じ、ピンク髪の無表情な人形が飛び出した。スタウターで見てみる。
『名前:こころ 種族:妖怪 説明:能楽好きな面霊気』
情報が出てきた。
こころ人形の周りには様々な表情をしているお面が浮かんでいる。
この毒霧の中で平然としているということは、「毒」…?いや、メディスンは人形に特殊な訓練をしていると言っていた以上、そうとは断言出来ない。
…どうも得体が知れない妖怪だ。どういったタイプなのかが想像しづらく、戦う側としては厄介だ。
「 ユキ! 出番だ! 」
こちらも封印の糸から手持ちの人形を繰り出す。
この毒霧…普段であれば人形にとっては苦しいものとなる。だが、こちらはそれに対する対抗手段を偶然にも持っていた。
「…ふぅん、少しは頭が回るようね。このフィールドの対策って訳?」
「えぇ。まぁそんなところですよ。これであなたの人形の放った毒は効きません」
『アビリティ:用量厳守(ようりょうげんしゅ) 発動』
ユキ人形のもう一つのアビリティ、「用量厳守」。
その効果は、「毒属性のスキルを無効化し、HPを回復させる」というもの。
つまりこの毒霧のフィールド内ではユキ人形はダメージを負うどころか、逆に回復することが可能となる。まさにうってつけのアビリティだった。
「(…成程。あの河童の妙な余裕はこれだったのね。さて、どうするか)」
こちらにとって圧倒的有利な状況にも拘らず、メディスンは至って冷静にそれを受け止めている。
今のままではいくら攻撃したところで回復されてしまい、あちらにとっては嫌な展開となる筈だ。流石にそうなればこの毒霧も消すことだろう。
もしそうしてくれれば、控えのこがさ人形を出しやすくなる…というのが理想的な流れだ。
「もしかしなくても、この毒霧を無くすことが狙いなのかしら?」
「!?…そ、それはどうかな」
「隠さなくても分かるわ。私には人形の声が聞こえるんだからね。その道具から「今ここから出たら毒で苦しいだろうな…」って声が小さく聴こえてきた。つまり、これはその子を出しやすくするための誘導なんでしょう?」
人形の声…にとりの言っていた通りだ。
どうやらメディスンは封印の糸越しでもハッキリと声を聞き取れるらしい。嘘を言っているようにも聞こえない。下手なハッタリを言っても彼女には効果はなさそうだ…。
このメディスンという妖怪、かなり厄介だな。
「…だとしたら何ですか?」
「別にぃ?少なくともこの毒霧を消すのは勿体ないってハッキリ分かっただけ♪」
「こころ! 水の舞(みずのまい)!」
『アビリティ:千変万化(せんぺんばんか) 発動』
「な…!?」
突然の不意打ちに対応出来ず、こころ人形が技を繰り出すことを許してしまった。
こころ人形が自身の周りに水を発生させながら舞を踊ると、やがてそれは大きな水の塊となってユキ人形に向かってくる。
そしてかわす指示を出す間もなく直撃してしまい、ユキ人形は水疱の中に閉じ込められてしまった。
「ユキ…!」
「あっはは!油断したわね!」
水の中で悶え苦しむユキ人形を、ただ見ていることしか出来なかった。
メディスン・メランコリーが今までの常識が通用する相手ではない…それがやっと分かった瞬間である。
対象を閉じ込めている水疱は数秒後、下へと落ちてはじけ飛んだ。
ユキ人形は束縛から解放はされたものの息が出来ずにいた為、膝をつきながら咳払いをしている。
「くっ…!大丈夫か、ユキ!?」
「さてと、これで状況は五分五分になった」
「ど、どういう意味だ?」
「あら?知らないのね、あの技の効果を。…その右耳に付けている機械でも見て確認してみなさい」
あの技…?先程使っていた「水の舞」という技のことだろうか。
急いでスカウターを確認し、ユキ人形の状態を見てみる。
『名前:ユキ 種族:魔法使い 説明:??? / タイプ1:水 / 印:黒の印』
基本情報、ステータス、アビリティ、スキル…特に異常は見受けられないように思えた。
だが、それはすぐに間違いであると気付く。明らかに一つだけおかしいところがあったのだ。
それはユキ人形の属性である。ユキ人形の現在の属性は「炎」であった筈…それが今は「水」となっている。
この事実はポケ〇ンをやったことのある者ならば何を意味するかが大体理解が出来る。交代先がいないこの状況下で一番やられてはいけないことをされてしまった。
ユキ人形の売りは“火力”と言ってもいい。そしてその火力が引き出されているのは、人形自身の属性と使う技が“一致”しているからこそ引き出されるものだ。
ところがその条件の一部を書き換えられてしまったらどうなるか?もちろん、火力は出なくなり長所が丸々失われる事となる。…やられた。
「…でもアビリティはまだ変わっていない。例え攻撃力は落ちてもこちらにまだ分があります」
「フフッ…果たしてそうかしらね? こころ! サンダーフォース!」
『アビリティ:千変万化 発動』
「…――ッ!」
こころ人形から漂っている面の一つが頭へと装着されると同時に、あの人形の持つアビリティが発動した。そしてこころ人形の被っている大飛出の面から電気が放出され、ユキ人形へと襲い掛かる。
しかしあの人形のアビリティ…先程の水技を使った際も発動していたが、一体何なのだろうか?
「ファイアウォール で防いで!」
今のユキ人形の属性は「水」…十中八九「電気」技であるあの技をまともに食らう訳にはいかない。
ユキ人形は炎の壁を生成し、それを放つことなく身を守る手段として使う。補助技による防御手段を持たないユキ人形の絡め手だ。
炎の壁により相手の電撃が直撃することは免れたが、その攻撃を受け止めているユキ人形がいつもより苦しそうに堪えているのが分かる。
やはり「水」属性になったことにより「炎」技を上手く使えていない…徐々に押し負けて始めているようだ。
「面白い使い方だけど、電気を通しやすくなったその子にそれは荷が重いんじゃな~い?」
メディスンがユキ人形の状態を見て、笑みを浮かべながら煽り始めた。悔しいが彼女の言う通りである。
しかし、わざわざそのようなことを口にするとは随分な余裕だ…負けない自信があるというのか?だが今はそれどころでは…このままだとユキ人形が危ない!
「…壁を放してその場から離れるんだ!」
指示を受けたユキ人形は炎の壁をそのまま放出して手から離し、勢いよく右方向に飛び込んで攻撃をかわした。そしてかわした電撃は直線へと飛んいき、凄まじいスピードで通り過ぎて壁に衝突。後を見ると当たったところを中心に大きな穴が開いていた。
その光景はあの技が如何に威力が高かったか、そして同時に人形自身の攻撃力が高かったかをハッキリ物語っている。
ユキ人形の放った炎の壁が電撃を押しのけたのはほんの一瞬…少しでもかわすのが遅れていたらそのまま放った壁ごと吹き飛ばされてしまっていただろう。
正に紙一重…危なかった。いくら「用量厳守」の効果があるとはいえ、一撃でやられてしまっては意味がない。
…あれだけの威力だ。もしやこころ人形の属性は「雷」なのか?だが先程は「水」技も使っていた…いや、あれはどちらかというと補助技に当たる。
よく考えろ…「妖怪」という種族は幅広いが、ちゃんとした特徴はある筈。確かスカウターには「能楽好き」とあった。能楽は確か踊りだ…最初に使った技の名前は「水の舞」…となると「水の舞」を覚えている理由は属性というよりかはその妖怪に合ってる技だからではないだろうか?
「…如何にも「考察してます」って顔ね。精々悩んでるといいわ! タンブルプラント!」
『アビリティ:千変万化 発動』
考える暇を与えないと言わんばかりにメディスンは人形に攻撃の指示を出す。
お面を大飛出から猿のお面へと変更したこころ人形は地面から巨大な植物の蔦を生やし、それをユキ人形へ襲わせる。
…やはりあの人形が技を繰り出す瞬間、必ずあのアビリティが発動している。そしてその時お面も別の物へと変えていることも気になる。
だが、今は攻撃をどうやり過ごすかを考えよう。植物ということは「自然」…「炎」なら相性はいい筈だ。
「 フラッシュオーバー だ! 」
ユキ人形は両手から火球を出して攻撃する。火球の大きさが以前よりも小さいが、あの植物を焼くには十分だ。
しかし、その予想は大きく外れることとなった。
強大な植物の蔦は火球に当たりながらもその勢いを落とすことなく向かって来ている。まるで火力が足りていない。
もしやあの技も相当な威力を誇っているとでも言うのか…?「電気」の他にも「自然」を持っている複合タイプ?そうだとしたら何という組み合わせだろうか。
完全に「水」属性に対して弱点を突いてくるこの構成…その為の「水の舞」だったらしい。
「 韋駄天(いだてん) でやり過ごすんだ! 」
これは勝てないと判断し、急いでユキ人形に指示を出す。
あの「タンブルプラント」という技は恐らく相手を追尾するタイプの技…一度かわしたところであっさり捕まってしまう。ならば、素早さを上げて距離を取るしかない。
ユキ人形は元々スピードスタイルであり、この技を使うことによる俊敏値の上昇は大きい。この攻撃をやり過ごすことも可能な筈だ。
指示を受けたユキ人形は風を身に纏い、体を宙に浮かせながら植物の蔦の猛攻を次々とかわしていく。
そのスピードは蔦が追いかける速度を遥かに超えており、こころ人形が攻撃を当てることは困難となっていた。
「いいぞ、ユキ!」
「…ちっ、面倒ね。 バーンストライク!」
『アビリティ:千変万化 発動』
痺れを切らしたメディスンはこころ人形に別の攻撃指示を出す。
指示を受けたこころ人形はお面を猿からひょっとこへと変え、炎を纏いながらユキ人形目掛け突進する。
今度は「炎」…どうやらあの人形は多彩な技を使いこなせるらしい。だが、その技は今のユキ人形に効果は薄い…どうして急にそんな技選択を?
よくは分からないが、正直避けるのは容易い。
だがここは敢えて受け止めることで一気に距離を詰め、反撃で叩く。仮にダメージが痛かったとしても「用量厳守」で回復される。だから何も心配はいらない。
「 受け止めろ! 」
…この時、まだ自分はメディスンの攻撃指示の意図が読めていなかった。
***
「 撃て!バブルドラゴンッ!! 」
にとりの合図と共に他の河童達は人形達へ「シャボン玉」の指示を出す。
人形達の吐く泡の一つ一つが一か所に重なり合い、巨大な泡へと変貌していく。その巨大な泡を今度はにとり達河童が一斉に銃を構えて発射した。
「 う、うわ~~~~!!?何よあれ~~~!? 」
「 ひぃーーっ!!た、助けてーーー!!! 」
攻撃を受けた人形解放戦線の妖精達はすっかりパニック状態…ゆっくりと迫り来る巨大な「シャボン玉」に恐れをなして逃げ出していく。
飛べばいいのにわざわざ走って逃げだす辺り、やはり所詮は妖精である。
「おっと、逃がさないよ!あや! ツイスター で泡をあいつらに吹き飛ばしちゃえ!」
指示を受けたあや人形は持っている扇を一振りして風の弾幕を撃ち出す。
風の弾幕によって勢いを増した「シャボン玉」は逃げ惑う妖精に当たってはじけ飛び、泡とはとても思えない…最早一つの爆弾のような威力で敵を殲滅していった。
「へっへん!どうだ、これが我ら河童の力だ!!」
「に、にとりさん!また増援が来てます!これじゃキリが…」
「何情けないこと言ってるんだ!舞島があいつを倒すまで何としても持ちこたえるんだよ!」
ひっきりなしに沸く人形解放戦線の増援がまた空からやってきている。
最初は優勢だったものの、これではジリ貧…これだけ数に差があるとは思ってもみなかった。
「でも、あの外来人で本当に勝てるの?もし勝てなかったら私達おしまいじゃない…」
「博麗の巫女か知り合いの魔法使いにでも頼めばよかったのに、何であいつなんだよ?いざとなったら人形とか関係なく力づくでも」
「駄目だ。あいつらは今異変調査でそれどころじゃない。…それと言っておくけどあいつは力づくで抑えちゃ駄目なんだ」
「ど、どういうことだよ?」
「仮に博麗の巫女が自身の力でメディスンを倒せるとしても、この幻想郷において奴を直接消すことは絶対にやってはいけないんだ。もし欠けてしまえば、この世界の均衡が崩れてしまう…言わばそれは“タブー”なのさ」
「……」
「だから、あいつとは“人形”で戦うしかない。そして今、それが唯一出来る可能性がある存在があの「舞島 鏡介」なんだよ」
「…それにな、舞島には優しい心がある。他の奴にはない、“相手を思いやる気持ち”ってやつがね。私はそれに賭けたいんだ」