人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第九章

炎を全身に纏い、空中にいるユキ人形へ突撃する無表情なこころ人形。

 

比較的にあちらが優勢だったこの状況の中、何故急にそのような技を選択したのかは分からない。だが、これは大きなチャンスだ。

攻撃をあえて正面から受け、反撃させて貰おうではないか。

 

 

「 受け止めろ! 」

 

 

「(掛かったっ…!)」

 

 

こちらがそうやって指示を出した時のメディスンの顔は正に計画通りだと言わんばかりだった。

 

その行動こそ、彼女の狙いだとも知らずに…

 

 

「 こころ!そいつを羽交い絞めになさい! 」

 

 

メディスンがそう言うと同時に、二体の人形は激しく衝突する。

今のユキ人形の属性は「水」…対してこころ人形はそれに対して「炎」技で攻撃を仕掛けた。効果はいまひとつ…正直ユキ人形は殆どダメージを負わなかったことだろう。

しかし、メディスンの狙いはダメージを与えることではなかったのだ。それは衝突した後の光景を見れば一目で分かった。

 

「ユ、ユキ!?…ど、どうして拘束されて!?」

 

「あはは!まんまと引っ掛かったわね!こころ、放すんじゃないわよ?」

 

ユキ人形はこころ人形の攻撃を受け止めた…そして今、何故かこころ人形はユキ人形を手足を雁字搦めで拘束している。

何故敢えて不利な属性で来たのかをここでようやく理解し、そして後悔した。その誘いに乗ってしまった自分の軽率さに苛立つ。

 

素早いユキ人形に対し、敢えて不利な攻撃をして反撃を誘う誘導…そんな戦い方があったとは。

 

「防戦一方に追い込めば、攻めのタイミングを伺うのは当然…だから敢えてチャンスを与えたのよ」

 

「……くっ」

 

「この子は技の威力こそ高いけど、素早さがないせいで当てるのに苦労することが多い。さっきみたいにね…だから私はそれを解決する為に対策を考えた。元々この子は「格闘」の属性を持っていた人形…だったら接近戦に持ち込めば“確実”に攻撃を当てられる有利な状況を作り出せるんじゃないかってね」

 

「…!急いで離れるんだ、ユキ!」

 

彼女の言葉から嫌の予感がしてユキ人形に指示を出す。

ユキ人形も必死にこころ人形の拘束を解こうと抵抗するが、力の差があるのか全く動けないでいる。

 

にとりの言った通りだ。

このメディスンという妖怪は人形の生かし方を熟知している…どうすれば勝てるのかを分かっている。

自分ではまず思いつかない作戦だ。今まで会って来た人形遣い達とはまるで視点が違う…これは確かに彼女しか持っていない“才能”というやつだ。

 

「無駄無駄。その人形のステータスじゃ、この拘束は決して解けはしないわ」

 

「その足、封じさせて貰うわよ。こころ! ストーンスパイク!」

 

 

『アビリティ:千変万化  発動』

 

こころ人形のお面がひょっとこから般若へと変わり、ユキ人形は顔面を鷲掴みにされてしまう。

力の差に悶えるユキ人形を、こころ人形は無表情で見つめる。何を考えているか分からない…しかしお面の表情が怒りに満ちているその異様な様は、相手を委縮させるには充分過ぎた。

そしてこころ人形は下へと急速落下し、ユキ人形を頭から地面へと激しく叩き付ける。落下した地面には罅とクレーターが出来上がっており、その技の威力もまた高かったことを証明していた。

 

 

「ユキ…!?」

 

「フフッ…最早これまでね」

 

 

 

 

 

 

こころ人形は押さえつけていた手を顔面から離し、一旦距離を取る。そして両手に扇を出したかと思うと、愉快に踊り出した。

 

「よくやったわね。褒めてあげるわ」

 

上手く技を決めたこころ人形に、メディスンは頭を優しく撫でた。

こころ人形は無表情なものの、お面が般若から翁へと変わっている。…喜んでいるのだろうか。

 

 

メディスンの巧妙な作戦により、初めて技をまともに食らってしまった。

今の技は恐らく「大地」属性…「水」には等倍だ。一撃で戦闘不能とはならないものの、受けたダメージは大きい。

しかし、そのダメージは辺りを漂っている毒霧を取り込むことですぐに修復されることとなった。

 

 

『アビリティ:用量厳守  発動』

 

 

ユキ人形は顔を左右に振った後、すぐに立ち上がる。

見たところまだまだ元気なようだ…ひと先ずは安心したが、どこか様子に違和感があった。

傷はないはずなのに、足元が妙にふらついている…疑問に思い見てみると、ユキ人形の足に重りのような岩石が付着していた。

 

まさかあれは、「ストーンスパイク」の追加効果?…そうか、足を封じるとはこのことだったのか。

 

「これでその人形の素早さは完全に封じたわよ。これで攻撃は避けられない…チェックメイトね」

 

「……!」

 

メディスンの言う通り、これではまともに移動することなど出来はしない。完全に的と化してしまっている。

例えこちらから攻撃を仕掛けても、今のユキ人形には火力もない…完全に八方塞がりである。

 

もう、駄目なのか?

 

 

…いや、まだ手がなくはない。ユキ人形を一旦手持ちに戻せばまだ…!

 

 

「おっと、それを戻すことがどういう意味か分かっているのかしら?」

 

「…な、何を言って」

 

こちらがユキ人形の封印の糸を構えた直後、こころ人形の弾幕が頬に掠る。

あまりの一瞬の出来事に呆然としていると、頬から徐々に痛みが走る。何事かと頬を拭うとそこには真っ赤な血液が付着していた。

 

背筋が凍る…汗が伝う…。この感覚は「恐怖」というものだ。

 

今、自分は下手したら死んでいたのか…?

 

 

「私はね、相手が人間だろうが容赦なく人形に攻撃させるわよ。今はあなたが人形を所持しているから付き合ってあげてたけど、それをしまうなら次はあんたが標的ってわけ」

 

「……――ッ」

 

 

どうやら自分は大きな誤解していたらしい。メディスン・メランコリーという人物を…。

 

ここに来てから今まで接してきた幻想郷の住民達は、殆どの人が友好的だった…だが彼女は違う。

阿求の言った通り、彼女は殺すことに何の躊躇も待たないくらいには人間を酷く嫌っているのが今の言葉や行動で嫌でも分かる。

今思えば、彼女が時折見せていた妙な優しさはあくまで“人形”に向けられていたものでしかなかった。

 

…だが、何故人形がそのようなことに手を貸さなくてならない?人形が罪を重ねる必要などない…やるならメディスン自身でやればいい。

 

「そんなことを人形にさせるのは止めて下さい。可哀そうではないですか」

 

「…ふん、あんたにそんなことを指図される謂れはないわね。それに私は何も強制なんかしていない。これはこの子の意思よ」

 

「え…」

 

「…この子は人里で人間に捕らえられて、酷い扱いを受けていた。気持ち悪いくらい遊ばれ、触られ、時には暴力を受けて…そして最後には捨てられた。この子が自分で言っていたことよ」

 

「!そんな…」

 

あのこころ人形にまさかそんな過去があったとは…あまりに悲惨だ。

やはり、人形遣いにはそのような外道もいるということを再認識させられる。皮肉なことに、どこの世の中もそれは同じらしい。

 

「だからそういう境遇であるこの子を、私は替わりに引き取ったの。どいつもこいつも結局同じ…遊ぶだけ遊んで、飽きればあっさりと捨てる!」

 

「こころ! タンブルプラント!」

 

 

『アビリティ:千変万化  発動』

 

お面を般若から猿に変えたこころ人形は巨大な植物の蔦を地面から生やし、身動きの取れないユキ人形を絡めとった。

そのまま持ち上げられ、身体を巻き付けられたユキ人形はきつく締め付ける蔦に苦しむ…「水」に「自然」は効果抜群だ。このままでは戦闘不能になってしまう。

 

 

 

 

 

 

「可哀そうにねぇ…あんな人間に付いて行きさえしなければ、この子もこんな苦しむこともなかったでしょうに」

 

「…!ユキを放せっ…!」

 

「あなた達も所詮、あの人間に道具で縛られている哀れな子羊…ってところなんでしょ?ねぇ?」

 

まるで聞こえていないかのようにこちらを無視し、メディスンは縛っているユキ人形に語り掛ける。

何とかしないと…でも下手に動けばさっきのように攻撃されかねない。全く情けない話だが、この時自分の意思とは裏腹に足は言うことを聞いてくれなかった。

少しは人として成長出来たと勝手に思っていたが、それは大きな思い違い。生か死かの直面に対し、自分は臆病でただ見ている選択しか出来ない無力な人間だったのだ。

 

 

『ふ、ふざけたこと言わないで!舞君とはそんな薄っぺらい関係なんかじゃない!』

 

『…そう…ですっ!鏡様は…私達を捨てるような薄情な方では…決してありませんっ!』

 

『ま、舞島さんはモノを大事にする心をちゃんと持ってる…信頼出来る人だよ…!』

 

 

「……あらそう。随分と好かれてるのね、あのまいじまっていう人間…理解し難いわ」

 

「やっぱり、“あの道具”のせいでおかしくなってるのね」

 

一人でそう呟いたメディスンは、ゆっくりとこちらへ向き直った。

その目線の先は自分の手元にある道具で、憎しみの籠もった睨みを利かせている。

 

 

 

「 解放してあげるわ 」

 

 

「 “ニューロトキシー” 」

 

 

 

メディスンは懐から一凛の白い花を取り出し、それをこちらに振りかざす。

すると巨大な白い花が複数生成され、こちらにフワフワと飛んで来る…これは一体何だろうか?

 

『…!いけません!鏡様、離れてっ…!!』

 

『舞島さん!危ないっ!!』

 

 

「さようなら」

 

 

突然、封印の糸からしんみょうまる人形とこがさ人形が飛び出した。

焦った様子の二体はこちらに全速力で向かってくる…そして次の瞬間、こちらに飛んできた巨大な花達は次々に光を帯び、一斉に爆発を起こした。

 

 

『 ま、舞君!?しんちゃん、こがっちーーーーーーーっ!!! 』

 

 

激しい爆風の中、ユキ人形の入った封印の糸がメディスンの足元に転がる。

 

『……あ』

 

「あっははは!なんだ、最初からこうすればよかったんだわ!」

 

メディスンは高笑いしながら封印の糸を拾うと、力強くそれを握った。

そして手を放すと、腐食した黒い宝石が砂のようになって徐々に消え去っていく。

 

 

「さてと、あの人間は消えた。この道具も壊した。あなたは自由…“解放”されたのよ」

 

『……』

 

「あぁ、さっき出てきた人形達なら安心しなさい。元々人形以外の攻撃は効かないんだから、死んではいない筈よ」

 

『……』

 

「フフ…最早私を止めることなんて誰も出来はしない…あの博麗の巫女でもね!これはいい見せしめになったわ」

 

「ほら、わざと気絶しない程度にダメージを抑えてやったしもう大丈夫よ?これからは私が面倒を」

 

 

『…あ、ああぁあっ…ぐ』

 

 

「…?どこか具合でも悪いのかしら…見せて」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ちくしょう!何処にいるのか分かりゃしない…「カモフラージュ」はやっぱり厄介だな」

 

「…しかも相手の人形全員対象だからな…奴ら、こっちの動きを学習しやがって」

 

透明となった人形達に翻弄され、思うように攻撃を当てられない河童陣営。

あの三人組が来てから状況が一変してしまった。

 

「人形でも力を合わせればこれくらいは出来るんだから」

 

「はーっはっは!姿が見えなきゃ攻撃も当てられまい!それそれー!」

 

「ふふ、ここを占拠したら光学迷彩は私達がいただくわ」

 

援軍である人形解放戦線のサニー、スター、ルナによる奇策は、意外にも確実に敵を追い詰めていた。計算外の戦力に苦戦を強いられ、今度は河童側が窮地に立たされる。

 

「え?ス、スター…?」

 

「良い考えね。確かに人形達みたいなこと私達が出来ればイタズラし放題だわ」

 

「ルナまで?…ほ、ほら!私の能力あるじゃん?ね?別にそんなのいらな」

 

「ヤバいわ…わたし達てんさいかも?そうと決まればここにあるやつ全部貰ってみんなで盛大にイタズラしちゃおう!」

 

 

「イイネ!」

 

「さんせー!」

 

「イヤッフーー!」

 

 

「……ピエン」

 

 

スターの妙案により妖精達の士気が上がっている。…一部を除いて。

考えが単純なだけに、こういう時の妖精の行動力は時として恐ろしいものだ。

 

「統率力はないものだと思っていたが、思ったよりやるようだ。…正直ちょっと甘く見ていたな」

 

「そろそろ限界だぞ…もう戦える人形も少ない。どうする、にとりさん?ここは一旦出直した方が」

 

「……駄目だ。あいつら、ボスのところに誰かが来ているのに気付き始めてる。今ここで奴らに負けちゃ今度は舞島が狙われちまうんだ。それだけは避けないと」

 

そうは言ったものの、この状況を覆せるような作戦は思い付きそうもない。

メディスンにやられた人形達の回復さえ間に合っていればこうはならなかったが…相手を見誤った。

 

 

…しかし舞島とメディスンの戦いは想像以上に激しいものとなっているようだ。外からでもハッキリ分かるくらいには建物から音がする。

自分の工房にそのまま突撃させたから多少の損傷は覚悟したものの、これは思ったよりも重症かもしれない。

 

 

「!に、にとりさんアレ!工房から凄い光が…!」

 

「…な!?」

 

 

突然、舞島達のいる工房の窓から白い閃光が漏れ始める。

あまりの眩しさにその場にいる皆が注目する程の眩しい光がにとりの工房から溢れていた。

 

そして次の瞬間、閃光は輝きを増して建物全体を包み込む。

 

 

 

「…!ま、不味い!皆伏せろ――――――ッ!!!」

 

 

 

嫌な予感というものは、嫌でも当たってしまうものだ。

にとりの工房を中心とした巨大な炎柱が天に昇り、辺りの物を盛大に破壊していった。

 

爆発の風圧に備え、河童達は何とかその場に伏せることで留まれた。しかし人形解放戦線の妖精達は皆、一人残らずその爆風に吹き飛ばされてしまう。

まともに飛んでいられない程の強烈な威力があそこで今、確かに起こったのだ。

 

 

「…!く、来るぞ!バリア展開!身を守れ!」

 

 

驚くのも束の間、破壊された建物の残骸、崩れた岩石の嵐がこちらへ飛んで来る。

しかし素早い判断でバリアが間に合い直撃は避られけた。そして仲間達も傷一つなくやり過ごしたようである。

 

 

改めて、今何が起こったのかを調べる為に工房の様子を伺う。

 

 

「あの馬鹿でかい火柱は一体何だ?舞島の人形なのか…?それともメディスンの?」

 

「…一体あそこで今、何が起こっているというんだ?」

 

 

 




余談ですが、メディスンが使用した弾幕の「ニューロトキシ―」は東方ロストワードで登場したオリジナル弾幕です(多分)。舞島君、基本何も毒効かないからこれしかなかったんや…許して。

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