人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十章

あれ…私、何で倒れてるんだろう?

 

それに、何だか熱いし煙たい…どうして辺りが炎に包まれてるの?

 

 

記憶が曖昧になってる。思い出せ…一体何があった?

 

 

 

『あ……あ……』

 

 

 

…今のは、こころの声?

 

何だか凄く怯えている…どこだ?どこにいる?

 

 

 

『…………』

 

 

 

近くにもう一体、誰かがいる。

 

凄い殺気を放ちながら…

 

 

「…そうだ…わたしがあの人形遣いを」

 

 

段々と以前の記憶が蘇る。

 

そうだ、あの“まいじま”という人形遣いを私がこの手で殺したんだ。

そして拘束していた人形に話し掛けたら突然、物凄い爆炎が発生して…私はそれに吹き飛ばされた。

 

そうなると、あの殺気を放っている人形はもしや…

 

 

『……ろしてヤる』

 

 

『ヒッ……!?』

 

 

あの、黒い帽子を被った金髪の「ユキ」という名の人形…!

 

こころが危ない…!

 

 

「こころ! バーンストライク!」

 

 

『アビリティ:千変万化  発動』

 

 

今の状態で「炎」の攻撃を受けるのは不味い。

せめて属性だけでも変えなければ…そう思い、咄嗟に「炎」技の指示を出した。

 

こころのお面が「猿」から「ひょっとこ」へと変わろうとする。

 

 

しかし、それに対しユキ人形は「猿」のお面を片手で鷲掴み、こころ諸共地面へ叩き付けることでそれを拒んだ。その行動に恐怖し震えるこころを、ユキ人形はその鋭い金色の眼で睨みつける。

 

生まれたての妖怪である「秦(はたの) こころ」の人形に、初めて「恐怖」という感情を植え付けた瞬間であった。

 

 

『 燃やシ尽くしテ あげル 』

 

 

「 …!こころっ!にげ 」

 

 

そう言おうとした時にはすでに遅く、こころはユキ人形の出した炎によって丸焼きにされてしまう。

激しい炎に包まれで逃げることも出来ず、悲痛の声を出して苦しむこころを、私はただ黙って見ていることしか出来なかった。

 

 

何…?一体何なの?あんな人形、見たことない…。

 

 

 

 

 

 

私が困惑している間に、ユキ人形は出していた炎を収める。そして黒焦げとなったこころをこちらへ投げ飛ばした。

こころは…言わずもがな、戦闘不能となっている。…正直、生きているだけ本当に良かった。

 

しかしユキ人形はそれに満足することはなく、こちらへと一歩ずつ歩みを進める。

あの目…あの表情…まさか、あの人間を殺した恨みということか?理解し難いが、あの人形は余程私が憎いらしい。

 

 

「……え?な、何で…」

 

 

足が、震えている?

そんな馬鹿な…同じ人形である彼女に、私ですら恐怖してしまっているとでも言うのか?

 

 

 

どうする?まだ私には人形がいるけど…勝てるの?

 

一目見ただけで分かる。さっきまでとは比べられない力になっていることが。

…だが、見たところまだ「水の舞」と「ストーンスパイク」の効果を引きずっている…そこに付け入る隙はあるか?

 

 

『 駄目ッ!! 』

 

 

「!?」

 

『駄目…あの子のチカラ、普通じゃない。このままじゃメディが殺される…今すぐここから逃げて!』

 

「で、でもっ…!」

 

『大丈夫、全力で逃げれば追っては来れないよ』

 

「……」

 

 

「うん…分かったよ、スーさん」

 

 

スーさんがそう言うのであれば、私はきっとそれに従った方が良いのだろう。

彼女は私よりもあの子達について知っているのだから…。

 

 

私は倒れているこころ人形を抱き抱え、急いで飛翔してその場を立ち去った。

 

 

『…!マテ…にがさなイッッ!!』

 

 

だがユキ人形がそれを大人しく見逃す筈もなく、すぐさま「韋駄天」を使用した飛翔で後を追う。

 

自分の出せる最大の速さで空を飛んでいく…スピードの差は僅かにこちらが上。スーさんの言う通り、このまま行けば振り切れるかもしれない。

だが足に岩石が付いた状態であのスピードを出しているのを見るに、今のあの人形のステータスは今までの比ではないことがよく分かる。

 

『 燃えろォォーーーーーーーッ!! 』

 

「なっ!?」

 

怒り狂ったユキ人形の火球攻撃が次々とこちらへ飛んでくる。「フラッシュオーバー」だ。

今のユキ人形は「水」属性の筈なのにその火球はこちらの想像を軽く超えた大きさと数で、どう考えても避けようがない範囲であった。

 

 

『ま、不味い!メディッ…!!』

 

 

スーさんもこの攻撃力は予想外だったのだろう。

私が当たりそうになったところに咄嗟に前に出て、自ら身代わりになろうと庇う体制に入った。

 

 

駄目だ…あんなのまともに食らえば、まず戦闘不能では済まされない。

 

スーさんが死ぬところなんて、見たくない!

 

 

『…ッ!?メディ!?』

 

「馬鹿…!一人でカッコつけないでっ!」

 

 

私は庇おうとしているスーさんを、逆に胸元に抱いて庇う。

 

この子が私の為に傷つくなんて、とてもじゃないが耐えられない。それくらいなら私が傷ついたほうがマシだ。

 

 

 

…そう言えば、私があの人間を攻撃した時も、持ち主の人形達はこんな風に助けようとしていたっけ。

 

あの時の人形達も、もしかして同じ気持ちだったのかな…

 

 

もし…もしもそうだとしたら……

 

 

 

 

 

 

「 チルノ! アイスコフィン! 」

 

 

「…え?」

 

 

チルノ人形はその場から冷気を操ると、こちらの飛んできている火球をすべて凍結させた。

 

 

「ドレインシード で吸い尽くしちゃえ!」

 

 

だいようせい人形はユキ人形に向かって種を飛ばし発芽した後、蔦を絡ませ動きを封じる。

 

 

「 リグル! リンゴ爆弾 だ! 」

 

 

そこから追い打ちをかけるように、リグル人形がリンゴ型の弾幕を相手に何発も投げつけ、

 

 

「 神速エアレイド~~~♪ 」

 

 

ミスティア人形の風の弾幕が次々とユキ人形を切り裂いていく。

 

 

 

…突然の出来事の連続に頭が追い付かないが、どうやら私は助かったらしい。

チルノ、大妖精、リグル、ミスティアが人形を駆使し、ユキ人形を襲う。

 

 

「ど、どうしてあんた達がここにいるのよ?配属はここじゃないのに」

 

 

「おーえんよーせー?がこっちにもかかってたからな!わざわざとおいところから来てやったぞ!」

 

「それで今向かってたところなんだけど…何やらリーダーがピンチそうだったので助太刀に来たんだ」

 

「全く、ひどいじゃないか。私らを差しおいてそんな楽しそうなことしてたなんて」

 

「そうね~~あっちは退屈だものぉ~~♪」

 

 

「……はぁ」

 

 

成程、つまり私以外の奴が勝手にここに他所から応援呼んだってことか。

やはり妖精達を指示通りに動かすのは厳しいようだ。いつも好き勝手に行動してしまう。

 

…まぁ、今回はその勝手が功を奏したからお咎めは無しとしよう。

 

「…それで、私達はどうすればいいの?」

 

「どうもこうもないわよ…目的は粗方達成した。今から撤退するところなの」

 

「え~~?つまらないなぁ」

 

大妖精の質問に素っ気なく答え、アジトである鈴蘭畑方面を目指そうと飛んでいく。

タダでさせ許可なく所属から離れ、来るにしても遅いし、文句を言われる謂れなどない。

 

だが、私を殺そうとしているユキ人形の進行を止められたのは大きい。これで逃げる時間は十分稼げるだろう。

 

流石のあの子も、あれだけの攻撃を受けてしまえば流石に…

 

 

『 ……邪魔ヲ するなァァーーーーーーーーーッ!!! 』

 

 

「げ…!?」

 

「そ、そんな…効いてないの!?」

 

 

何ということだろう。

 

あれだけの一斉攻撃を受けたにも拘わらず、ユキ人形は怒号を轟かせながら炎を全身に纏う。

拘束していた蔦を焼き払い、邪魔者を排除するべく音波攻撃を仕掛けてきた。

恐らく「ウルトラハイトーン」だろう。

 

「歌なら負けないわよ~!いっけぇ~~♪」

 

ミスティアも負けじと人形で「ウルトラハイトーン」を仕掛ける。

高音の音波同士が衝突し、鼓膜を破壊するような爆音が空に響き渡った。

 

私を始めとしてミスティア、大妖精、リグルは咄嗟に耳を防げたものの、チルノは苦しそうに頭を抱えている…間に合わなかったようだ。

 

「…!?ま、まさか私の人形が歌で負けちゃうなんてぇ♪」

 

衝突した音波の競り合いはまるで勝負にならず、ユキ人形の圧倒的なパワーで押しのけられる結果となった。

押し負けたミスティア人形は大きく浮き飛ばされて持ち主の元へと帰って来る。…戦闘不能だ。

 

…不一致属性であんな高威力を叩き出すなんて、どう考えても普通ではない。一体どうなっているんだ?あの人形の持つアビリティは「用量厳守」である筈…あれではまるで……

 

『メディ、今のあの人形はアビリティを2つ持ってる』

 

「(やっぱりそうなんだ…「突貫」…技の追加効果をなくす代わりに、威力を底上げしてる。でも、それだけじゃない感じね)」

 

『うん、恐らくだけどあの子自身も気付いてない“小さな欠片のようなもの”が、強い力を引き出しているんだろうね』

 

「(……)」

 

『今のあの子を見ていると、とてもあの力を制御しきれていない…振り回されている。あの変化はどうやら精神や心の状態で大きく変わってくるらしい』

 

「(…つまり、私があの人間を殺したことで力が悪い方へ作用しまったの?)」

 

『恐らくは、ね』

 

あのような人間に、そんな影響力があったとでも言うのか?

…だが、あの子の憎しみに満ちた様子を見れば、スーさんの言っていることには信憑性がある。

 

 

『メディ、このまま逃げてもあの人形は一生僕らに牙をむけてくるかもしれない。…どうする?』

 

 

「(……)」

 

「決まってるでしょ」

 

 

 

 

 

 

あの子もまた、私達と同じ悲しき人形。救うべき対象だ。

 

 

『…!それは』

 

 

スーさんが私が懐から出したアイテムに驚く。

取り出したのは封印の糸…それも只のではない。対象を“必ず”封印してしまうという代物だ。

これは唯一、あの河童達による開発で生まれた産物ではない。どこから来たのかも分からない。分かっているのは、河童達はこれを元に「封印の糸」という紛い物を大量に作っているということ。

 

使う日は一生来ないと思っていたし、出来ればこんな道具など絶対使いたくはない。

白く輝くひし形の宝石…「運命の糸」。私はこれを一つだけ持っているのは何故か?それは河童の複製の生産を完全に止める為、襲撃して盗んだからに他ならない。

不思議なことに、このアイテムは私の能力でも腐らせることが出来なかった。何か特殊な細工らしく、正直扱いに困っていたところだ。

 

…あくまで一時的。一時的な束縛手段としてこれを使う。

どうせ今の状態ではまともにあの人形と対話など出来はしない。

これであの子が大人しくなったら運命の糸は用済み。どうにか破壊して二度と複製を生産出来ないようにしてやる。

 

 

「皆どいてっ!」

 

 

運命の糸をあの子に向かって構える。

4人はその声に反応し、すぐさま道を開けた。…そういえば、いつもなら5人いる筈なのに今回は一1人いないことに今更気付く。

 

確か、一度だけ人里組のリーダーに任命した…

 

 

「 皆既日食(かいきにっしょく) なのかーーー!! 」

 

 

人形の指示を出す声が上から響き、空が突然暗くなった。見上げると丸い月が浮かんでいる。

 

指示の内容から察した者達は慌てて下を向く。やがて黒い球体が月を侵食し始め、見るものを狂わせた。

まともに目を合わせてしまったユキ人形とチルノは視界を奪われ、その場で項垂れる。

 

「今だ!突風(とっぷう) で追い返しちゃえ~~~!!」

 

今が好機と見たルーミアは「突風」でユキ人形をどこか遠くへと吹く飛ばしてしまった…おい、こいつマジ何してくれてるんだ?

「突風」は相手を強制で交代させるという技…しかし持ち主がいない今、あの人形はどこまでも飛んで行ってしまう。

 

飛んだ先は…妖怪の山だ。

今そっちに行けば河童達に見つかる恐れがある…深追いは出来ない。

…だが、あそこにも私の部下が沢山配置されている。

 

この場は諦めるが、しっかり伝達はしておこう。

 

 

「チ、チルノちゃんしっかり!大丈夫、今私が看病してあげるね…デュフ」

 

「流石“元”リーダー!決めるところは決めるっ!」

 

「元は余計なのかーー!」

 

 

…こいつには後でお説教だ。

 

 

 





皆既日食はリアルで直視は駄目です。気を付けよう!




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