人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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「メリークリスマスッ!!(バチバチ)」




第十二章

月夜の晩に突如病室へ現れた因幡 てゐ。

 

彼女が申し出た「取引」とは一体何なのか?

 

 

「と、突然なんですか?それに、取引って…?」

 

 

自分が抱いている因幡てゐの印象は、正直あまりいいものではない。

何故なら、ここにいた頃彼女には呼び名に対してからかわれた挙句、いいものを売ると言われ騙されたからだ。…今度は何を企んでいる?

 

「まぁまぁ、何もそんな警戒することはないって」

 

「お人好しで人形好きな舞島くんのことだ。今すぐにでも、行方不明の“ユキ”とやらを探したいんじゃないの?」

 

「!…そ、それは」

 

「今回の取引の内容は正に“ソレ”について。…どう?悪くないでしょ?」

 

てゐの言う取引の内容が、自分の思っていることとそのまま一致している…確かにこれは聞く価値のある話なのは間違いない。

 

…いや、待て。彼女のことだ。恐らくこれはただの親切ではない。

これは悪魔で“取引”だと、彼女はそう言っているのだから。

 

「もしこの取引に応じてくれたら、今すぐにでもそのユキ人形を探せるようにしてやるよ?…“この人形”を使ってね」

 

「…?それはどういう?」

 

「お師匠さまが言うにはね、この人形は人を治療することが出来る才能があるらしい。最も、その治療の元は勿論「毒」だから、一歩間違えればタダじゃ済まないんだけど…あんたなら万が一でも平気だろう?」

 

「な、成程。その子にそんな力が…」

 

自分が負っている傷を、メディスン人形ならば治せる…と、そういうことらしい。

もしその話が本当ならば、こちらとしては非常に助かる話だ。しかし…それに対して彼女は間違いなくこちらに何かを要求することだろう。

 

一体何を求めるつもりだ?

 

「そして、私が出す条件は…これだ」

 

「……」

 

てゐはこちらに笑みを浮かべながら、片手の親指と人差し指を丸めている。

あまりにも単純な動作…だがその意味は、中学生の自分でも何となく理解は出来た。

 

 

「 舞島くんが今まで稼いできたお金、換金出来るもの全て…これが私の出す条件 」

 

 

…この展開、何時しか見た漫画でも似たようなものを見た。

 

患者の命、お金…どっちを取るか?という選択だ。

 

 

あの漫画に登場する人物がその局面に立った時、大体の人物が異議を申し立てる。当然だ。

お金というのはその人のこれまでの人生で積み上げてきたもの…そう簡単に割り切れるものではない。

 

そして、それはこの世界でも同じことが言える。

お金がないとアイテムも碌に買うことが出来ず、旅はとても厳しいものとなるのは必然だ。

最初の内はそれにとにかく苦しまされた…人形の持つ換金アイテムはこちらにとって非常に貴重なのだ。そして鞄の中には今、沢山の換金アイテムが入っている。人形バトルを積み重ね、ここまで地道にコツコツと集めてきた。

野生の人形を倒して稼ぐ輩も中にはいるそうだが、そんなことは今まで一度もしたことはない。

そんな虐待にも近い行為をやることは、僕の人形愛が決して許さない…絶対にだ。

 

だから、答えなんてとうに決まっているのだ。

 

 

「分かりました。その取引、応じます」

 

 

「ニシシ…ま、そう言うと思ったよ。じゃあ遠慮なく」

 

 

そう言うとてゐはウキウキしながら自分の鞄を漁り、入っている全てのものを調べ始めた。

 

時計、砂金、魔導書、魔力の欠片、ビンテージワイン、魔力の結晶……次々と換金アイテムが姿を現す。思えばあんな鞄によくこれだけのものを詰め込めたものだ…今思うと不思議でならない。

 

自分の今の所持金を含めると総額で約100000相当くらいにはなるのだろうか?…うん、まぁユキ人形のことを思えば全然安い金額ではないか。

 

「なんだ、思ったより集めてないじゃん。もっとあると踏んでいたんだけど…まぁ言い出したのは私だ、ほれ行ってこい」

 

「!……」

 

メディスン人形はてゐの元を離れ、ゆっくりとこちらへ走り始めた。

小さな足で頑張るその姿は、今のピンクのチェック柄の衣装と兎耳フリフリが相まってすごく可愛らしい。

そして近くに辿り着いたもののベッドまで上がれないメディスン人形を、僕は優しく抱き上げた。

 

メディスン人形はこちらに手をかざすと、何かが流れ込むような感覚が…これは恐らく人形の毒だろう。

一見危険なようにも見えるが、毒も上手く調合すれば薬になるということを聞いたことがある。永琳がこの子に才能があると言ったのも、その特性を知ってのことだろう。

要はその使い方次第で、その特徴は大きく変わるということだ。そして何より、自分が毒に耐性がある体であることがこの治癒力に一番影響している可能性は高い。

 

開始して数分も経たない内に徐々に体の傷が癒えていくのを感じる。凄い…もう痛みは消えた。まさかこんなに効き目があるとは。

直してくれたメディスン人形の頭を、そっと撫でる。メディスン人形は嬉しそうにこちらに無邪気な笑顔を向けた…以前では考えられない表情だ。

役に立てたのが余程嬉しいのだろう。メディスン人形自身、純粋で優しい性格なのがよく分かる。

 

 

「これからよろしくね」

 

「!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「はぐれないように付いて来て下さいね~」

 

 

妖怪兎の案内の元、真夜中の迷いの竹林を抜けていく。

夜の暗闇に包まれているこの竹林をたった一人で抜けるのは流石に無理があるので、てゐに頼んで案内役を手配して貰った。

そのお陰で順調に竹林の出口にまで行くことが出来、ひとまずは安心だ。

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

案内のお礼を言うと、妖怪兎は手を振りながら再び竹林の中へと消えていく。

こんな真夜中だと言うのに元気な様子を見せられると、やはり自分達とは違うのだと改めて実感する。妖怪は基本睡眠を必要としないというのはどうやら本当らしい。

 

そんなことを思っていたら、欠伸が出始める。安心した反動なのか、逆にこちらが眠たくなってきた。確か病院で目覚めたのが今日の朝頃…スカウターは今、夜中の3時を示している。普通の人間なら、とっくに寝ている時間だ。

 

…駄目だ。こんなところで眠っている場合ではないぞ舞島 鏡介。

一刻も早くユキ人形を探さなくてはならないんだ。無理の一つくらいしないでどうする。

 

頬を両手で叩き、眠たい目を擦り前へ進み始める。まずやらないといけないことは、情報収集だ。

永琳はユキ人形があの場にいなかったのは力の暴走であると考えていた。そしてそうなってしまった原因は人形解放戦線リーダー、メディスン・メランコリー。

ユキ人形の怒りの矛先が彼女に向かったのだとしたら、それを追いかけていなくなった可能性が高いだろうか?

 

とにかく、まずは目撃者などを探っていく必要がある。目指すは、人里だ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…そうですか。ありがとうございます」

 

「あぁ、では失礼するよ」

 

道行く人に声を掛けてユキ人形を見ていないかと聞いてみるが、今のところ成果はなし。

スカウターの時刻は午前10時…到着したのが午前6時だから、聞き込みを始めてから4時間も経つことになる。

 

もう、ここらで潮時だろうか?

人里のほぼ全てを回ったつもりだが、ここまで目撃者がいないとなると…この周辺には来ていないないのかもしれない。

 

「…ッ」

 

立ち止まっていると眠気も襲ってきた。足元がふらつく…慌てて近くの橋に身を寄せ、それを何とか静止させた。

 

せめて、せめて何か手掛かりだけでも掴みたいのに…

 

 

「(このままじゃユキは……くそっ!)」

 

 

寄っかかっていた橋の柵を握り拳で叩く。

こうしている間にもユキ人形が苦しんでいるかもしれないというのに、一体何をしているんだ自分は。

 

 

「…あら?あなたは、舞島さん?」

 

「!」

 

 

女性の声が聞こえ、振り返ってみるとそこには“稗田 阿求”とその従者が一人佇んでいた。

 

あぁ、そうだった!ここには幻想郷のあらゆることを記録している阿求がいた!彼女ならきっと…!

 

 

「!な、何を」

 

「阿求さんっ!ユキを…ユキをどこかで見ませんでしたか!?何でもいいんです、あなたなら知ってるでしょう!?」

 

「……」

 

 

「お願いします!もうあなたしか頼れる人gおおおおああああああああああああああああッッッ!!!??」

 

 

両肩を揺さぶりながら阿求に尋ねている最中、何か電流のようなものが体から伝わり痺れてしまう。

身体が言うことを聞かない…そのまま仰向きに倒れた僕を、従者が軽く持ち上げて肩に乗せる。

 

 

「舞島さん。何があったのかは知りませんが、少し頭を冷やして下さい」

 

「人里で私に手を出すのは御法度…これがあなたじゃなかったらどうなっていたか」

 

 

薄れゆく意識の中で、阿求の声が聞こえる。

確かに、ちょっと冷静さを失っていたのかな…でもだからってここまでしなくても……

 

 

「目元にもクマが出来ていましたし、体は大事にしなさい。…宿を取っておきますから、そこでしばらく休んでいくこと。いいですね?」

 

 

「(護身用で持っていた河童印の特製スタンガン…こんなところで役に立つとはね)」

 

 

 

 




次の投稿は正月過ぎて落ち着いてからとなります。良いお年を!

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