人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十三章

目が覚めると、視界には天井が映った。何だろう…この状況、デジャブを感じる。

ただ、その天井はこの前見たものとはまた違う。辺りを見回してみると、案の定見慣れない部屋だった。

 

身体は…特に異常はない。問題なく動かせる。そもそもどうしてこんなところにいるのだろう?

確か、稗田 阿求に会ってからユキ人形の行方を聞こうとして…そしたら突然体が痺れて……

 

「…!」

 

ベッドから起き上がり、スカウターで今の時刻を確認する。

 

午後9時06分…あれからもう11時間も経ってしまっているではないか。

 

急いで荷物をまとめ、部屋を出ようとした。しかし部屋の前には阿求の側近である男が立ち塞がっており、ここから出してはくれない。

最低でも明日まで体を休めろ…とのことだった。

 

 

「ユキ…」

 

 

大人しく部屋に戻り、ベッドに座り込みながらそう呟く。

嗚呼、悪い人形遣いに追いかけられて怖い思いなどしていないだろうか?変な奴に絡まれたりしてないだろうか?心配だ。

今すぐにでも探したい。もういっそ、あの男を人形で無理矢理どかそうか?…いや、それは出来ない。阿求もこちらの気を遣って宿を取ってくれている。既に満身創痍であることに気が付いたのだろう。後何よりも、人形にそんなことをさせては決してならない。冷静になれ、舞島 鏡介。

 

永遠亭の無断退室に関しては因幡 てゐの協力があったが、今回ばかりはどうにも出来ない。

何せ、ここは民宿の3階。ドアには見張りがついており、窓から出ようにも高すぎて出られないという八方塞がりの状態だ。

 

 

明かりの付いた部屋の中、不安と焦りに押し潰されそうになっていた、その時…

 

 

「…?」

 

 

コンコン、と外側から窓を叩く音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

実に不思議なことであった。ここは3階なのに、どうしてここの窓を外側から叩くことが出来る?

…いや、ここの住民は空を飛べる人も多いから別に不可能なことではないのか。またこんな夜中に、一体誰だろう?

 

恐る恐る窓の方を見ると、小さな人影が見えた。このサイズ感…まさか人形か?

すりガラスである為、何の人形なのかは特定出来ない。しかしこの部屋に用があるということは、少なくともただの人形ではないだろう。

 

どうしよう?開けるべきか?

僕を始末しようと人形解放戦線のメディスンが送ってきた刺客…という可能性も、決してなくはない。

 

 

「みんな、出てきて!」

 

 

封印の糸から人形達を出し、万全の態勢を整える。いざという時の護衛として。

どうか、敵意のある人形でない事を願いたいものだが。

 

「よし、開けるぞ……せーの、それっ!」

 

横から慎重に窓のロックを解除し、勢いよく窓を開ける。

しんみょうまる、こがさ、メディスン人形はそれと同時に戦闘態勢に入るが、すぐにそれを止めてしまった。

戦う必要がないと判断したのだろう。すぐにこちらも窓の外にいた人形が誰なのかを確認する。

 

茶髪のツインテールに紫と黒のチェック柄のスカートが特徴的な人形…更に言うと耳は尖がっていて背中には黒い鳥の翼が生えている。

僕はこの人形に見覚えがあった。あれは結構最近の出来事だ。旅の途中、この人形が妖怪の山から玄武の沢へ突然落ちてきて、河に沈んでいったところを救助した記憶がある。

看病した翌日に突然いなくなってしまったので心配していたのだが、この様子だとすっかり元気になってくれたようである。

 

…そういえば、この人形のことはスカウターで調べていなかったな。あの時は助けるのに必死で忘れていたが、何という名前だろう?

 

 

『 名前:はたて  種族:天狗  説明:あやとはライバル関係 』

 

 

情報が出て来た。「はたて」というらしい。

最初に会った時に推察した通り、やはり彼女は“天狗”らしい。霊夢の人形である「あや」と特徴がいくつか一致していたので、これは分かりやすい部類だろう。

だが、その同族である「あや」とはライバル…というのはどういうことだ?仲が悪いのだろうか?

 

はたて人形は部屋の中に入ると、早速自分の人形達を集めて何やら話し出した。

人形の言葉は一切こちらに分からないが、様子を見るに自分の人形達はそれを聞いて喜んでいるようだ。一体何を話して言るのだろう…き、気になる。

 

話を聞いていたしんみょうまる人形はこちらの心情を察したのか、僕の鞄の中を漁り始める。

取り出したのは「胡蝶夢丸」…そうか、確かに夢の世界ならば人形の言葉も理解出来るではないか。ナイスだ、しんみょうまる。

 

 

早速一粒飲んでみる…だが待てよ。そう言えばこちらは今起きたばかりで眠気が全く…あれ?メディスン何を?うわぁ、何て綺麗な景色だろう。

毒とはまた違う…確かこれはメディスン人形の技の1つ、「幻惑の花粉(げんわくのかふん)」だったか?

 

青白く輝く綺麗な花粉に見とれてると、突然目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「う…ん…?」

 

目を覚ますと、そこには辺り一面の宇宙が広がっている。

…どうやら、無事に夢の世界に来ることが出来たようだ。

 

『鏡様。こうして話すのもしばらくぶりですね』

 

「あ、うん。そうだね」

 

『舞島さん!ちょっとこの子を引き剥がしてよぅ!あたし毒に弱い…うぐぅ』

 

「え?」

 

『…… …… ……///』

 

『メディスンさん、恥ずかしがることはないですよ?ほら、私の手を取ってください』

 

『……う、うん』

 

『ぜぇ、ぜぇ…ふぅ、助かったぁ』

 

…しんみょうまる人形、何だか皆のまとめ役になってきてるな。

そういう性分なのか、真面目なところはどこか親近感を覚える。本当に良い子だ。

メディスン人形はしんみょうまる人形と手を繋ぎ、こちらを恥ずかしそうにチラチラ見ている。直接話すのはまだ勇気がいるようだ。

一方、こがさ人形はメディスン人形にしがみ付かれたことで体力を消耗してしまっている。そう言えば、「水」は「毒」に弱いんだったか?真っ先にしがみ付かれた辺り、メディスン人形はこがさ人形に懐いているのだろう。…頑張れ、こがさ人形。

 

 

『…で?アタシのハナシはいつ聞くんだって』

 

 

「あ…ご、ごめん」

 

 

はたて人形が横から会話を切るように言葉を刺す。

そう、この世界に来た目的は彼女の話を聞く為…呑気に観察している場合ではなかった。

 

『すみません、はたてさん。では、例の話を鏡様にもお願いします』

 

『ん、おけ。じゃ、とりまコレ見て』

 

「?」

 

はたて人形は手元の機械を操作し始める。あれはまさか…実物は見たことがなかったけど、“ガラケー”なのか!?通称、“ガラパゴス携帯電話”。僕の時代には既に絶滅した携帯電話で、今は生産していない代物である。何故それを彼女が?

 

そうか、ここは忘れ去られたものが辿り着く場所。現代に住む皆が存在を忘れたことで、ここに流れて来たんだ。

…ちょっとだけ、どういう構造なのか興味がある。だが、今はその欲求を押し殺しておこう。

 

『えーっと……あ、あった』

 

ピッピッという軽快な機械音をひたすら鳴らし続け、ようやく探していたものを見つけた。検索などが出来ない仕様なのだろう。

はたて人形がケータイの小さな画面から見せて来たのは、1つの写真であった。

 

「!こ、これは」

 

『そ。これ、あんたの知り合いでしょ?アタシが一応保護したんだけど』

 

「ユキがどこにいるのか知ってるんだね!?一体どこに!?」

 

『…落ち着きなって』

 

「あ…」

 

気が付けば阿求同様、はたて人形の肩を激しく揺さぶっていた。どうも、ユキ人形のことになると我を忘れてしまう。

だけど、こうして無事なのが分かっただけでも大きな収穫だ。

 

写真にはユキ人形ともう一人、知らない人形が気持ちよさそうに眠っているようだが…この変わった服を着ている人形は一体誰だろう?

ユキ人形の知り合い…なのか?この顔付き…似たような者を何回か見たような気も…誰だったか?

 

『そんで、今こいつらは妖怪の山の入口にある休憩所の近くにいる。会いたかったらソコにいきなよ』

 

「わ、分かった。ありがとう……でも、何で助けてくれたんだい?」

 

『……ん~…まぁ』

 

こちらの質問に対し、急に歯切れが悪くなるはたて人形。

人差し指で頬を軽く掻いた後、すぐさま後ろを向いてしまった。

 

『…一応、あんたには1回助けられたし?アタシ、貸しは作らない主義だから』

 

『じゃあ、確かに伝えたから。これで貸し借りなしってことで』

 

そう言うとはたて人形は光を帯び、夢の世界から姿を消す。

随分あっさりしたお別れだったが、何でだろう。あの人形とはまた会う気がする。

 

要約すると、はたて人形はあの時助けたお礼としてわざわざユキ人形の情報を伝えに来たということだ。何と言うか、必死になって助けた甲斐があった…というべきなのだろうか?見返りなど、こちらは一切求めていなかったというのに。

 

…それにしても、あの時はたて人形に何があったのかは謎のままであり、少し気になるところではある。あんな酷い怪我をどこで負ったのだろうか?あの山はそんなに危険なところなのだろうか…そう考えると、ちょっと怖いな。

 

 

だが、今は彼女の言った情報を頼りにユキ人形の元へ行くとしよう。

 

待っていろ、ユキ…!

 

 

 

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