人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十四章

「あ、看守さん。もう充分休みましたので!それじゃ僕もう行きますからっ!」

 

「え…お、おいっ!せめて朝食を取りなさい!」

 

 

早朝から予め準備を整え、ダッシュで民宿を後にして走り去った。

 

突然の退出に頭が追い付かない稗田の使いである看守は止めようとするも既に遅く、開きっぱなしのドアがユラユラと揺れている音が虚しく響く。

当主に無礼を働いた不届き者の勝手な行動に腹を立てるも、自分が急いでいることも同時に理解していた看守は渋々それを受け入れ、民宿の受付に謝った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

五の道の北へ行き、途中の邪魔な細木を木こり人形で伐採し、爺さんから人形バトルを挑まれるも急いでいるので丁重に断り、そこから霧の湖へと進んで、玄武の沢へと辿り着く。

 

流石に疲れた……息がすごく上がっている。時間の方は午前7時半を指しており、ここまで約30分くらいの時間が経った。そして、重大なことに気が付いてしまう。

 

 

河 が 渡 れ な い 。

 

 

はたて人形の言っていた休憩所はこの河の反対側の位置にあり、徒歩で行くことが出来ない。

こんなことが前にもあった気がする。洞窟の先の湖を渡れなくて困ったことが…。

あの時は特徴のあるようでない3人の河童達から「特製ゴムボートを譲る代わりにアジトを救ってくれ」と頼まれたが、人形解放戦線であるメディスン達と対峙した際に僕は怪我を負い、治療の為永遠亭に運ばれた。

今の今まですっかり忘れていたが、まだ自分は水辺を移動する手段を何も持っていないのだ。ポケ〇ンで言う、「なみのり」が出来ない進行状況である。

 

あの河童特製のボートさえあれば、この河を渡るくらい造作もないだろう。だが、あれから河童のアジトがどうなったのかは結局分かっていない状態な訳で…。

折角近くに目的地があると言うのに……ここはやはり、泳いで渡るしか方法はないか。

 

 

「おいおい、何考えてるんだよ!?人間がここを泳いで渡るなんて自殺行為だよ!」

 

「…今日は河の流れが速い。見て分からんのか?」

 

 

「…!こ、この声は」

 

 

「おやおや、私達を覚えてくれてましたか。…とうっ!」

 

聞き覚えのある声が聞こえてくると同時に、河から水飛沫が3つ飛び交う。

見事な着地を決めて現れたのは、いつしかのモブ・カッパーズであった。

 

“噂をすれば何とやら”とは、正にこのことだろう。

 

「この前は本当にありがとうございます。これに懲りて奴らも襲撃をしなくなるといいんですけど…何だか、またどこかで悪さしそうな予感がしますよ」

 

「で、今日来たのは例の約束の品を贈呈!はい、どうぞ!」

 

「…早めに向かって正解だった。結果的に」

 

金髪の河童から河童特製ゴムボートの入った小さなカプセルが渡される。

 

マジでナイスタイミングだ、河童達!もう早速使わせて貰おう。

 

「ありがとう!じゃあ僕急いでいるからっ!」

 

河に向かってカプセルからゴムボートを出し、空気が膨らんだところで早々に搭乗する。

夢と希望を胸に抱き、僕は操縦のハンドルを力強く握った。ゴムボートのエンジン音が心地良く鳴り響き、未知の世界への旅立ちを夢見て目の前の赤いスイッチを押す。

 

 

「それじゃあ、にとりさんや河童の皆にも宜しくね!」

 

 

河童達に別れを告げると、ゴムボートは猛スピードで河を一直線に突っ切っていく。

先程とは比にならない量の物凄い水飛沫が顔面に直撃し、呆然と立ち尽くすモブ・カッパーズ。

 

 

「操作説明しようと思ったのに、行っちゃったね」

 

「多分アレ、激流とかを渡る用の“ターボスイッチ”押しちゃったよねぇ。大丈夫かな?」

 

「…頑丈に作ってあるし、仮に事故っても恐らく問題はないだろう」

 

「う~ん…まぁ、操作説明書も一緒に入ってるから大丈夫かな?よし、じゃあアジトの復興に戻ろう!」

 

 

「「 おーーー! 」」

 

 

 

 

 

 

ゴムボートはモーターボートの如く河を走り、順調に目的地の休憩所へと近づく。

流石は河童の作った発明。凄い速さだ。何なら速過ぎるくらいだ。ブレーキを掛けないと危ないレベルだ。

 

そう言えばこのゴムボートの操作方法、全然分かっていない。どうしよう…勢いで発進してしまったぞ。先を急ぐ余り、そこらへんの順序を全部端折ってしまった…ヤバいヤバい。

 

「えっと、これでもない…多分これでもない」

 

それっぽいものを探してみるが、それらしきものが見当たらない。というか、分からないが正しい。…不味いぞ。このまま行けば河の途中にある橋に激突する。操作説明書とかないのか?

ゴムボートの周りを調べると、あった。モブ・カッパーズが丁寧に用意してくれたであろう、ゴムボートの操作説明書が。早速目を通す。

 

「えっと、下のペダルを踏みながらこのレバーを下に…ってぇ!?」

 

しかし目を通すのも束の間、すでに河の途中にある橋がもう5mのところまで接近していた。

駄目だ、間に合わない…!

 

 

 

「 うわああああぁぁぁーーーーーーーッ!!? 」

 

 

 

橋との激しい衝撃でゴムボートから突き飛ばされた僕は、そのまま宙に放り出されてしまった。

中々の高さだ…このまま地面に激突すればタダじゃ済まない。どうする?考えろ…考えるんだ、舞島 鏡介!

 

「…!そうだ!」

 

「 こがさ!出てきて! 」

 

この状況を打破する策を思い付き、封印の糸からこがさ人形を出して抱き抱えた。

こがさ人形は突然の指名に「え!?わたし!?」と言わんばかりのリアクションでこちらを見て涙目となっている。こんな危ない局面に呼び出してしまい、臆病なこがさ人形には本当に申し訳なく思う。でも、今はこの人形の技に賭けるしかない。

 

 

「 こがさ!地面に向けて “リバーススプラッシュ” だ! 」

 

 

最近になって覚えたこがさの新技、「リバーススプラッシュ」。

こがさ人形の周りに水柱を出して攻撃する技であり、相手を迎え撃つように使うちょっと変わった技だ。この技であればこちらに直接的なダメージはなく、且つ着地を和らげるクッションとなってくれる筈…頼む、上手くいってくれ!

 

こがさ人形は怖くて泣きながらも持ち主を信じて技の指示を了承し、力を溜め始める。

そして地面から間欠泉のように勢いよく水柱が噴射すると、こちらを受け止めるように直撃した。

やはり水なので当たっても平気だ…そのままそれに乗ってから落下の勢いを殺し、地面に降り立つ。…成功だ。

 

「ふぅ、危なかった。…あぁごめんなー無理させて。僕もちょっと焦り過ぎだったよ」

 

こがさ人形が今だに泣いているのを見て、慰めるように優しく撫でる。完全にこちらに非がある行動だった。全く、これでは昨日と同じではないか。また僕は目の前のことに焦っていたらしい。

…今回の出来事でちょっと頭が冷えた。反省しよう。

 

 

「(……しょっぱい)」

 

 

こがさ人形の技で被った水は、まるで海を思わせるような味がした。

 

 

 

 

 

 

河童特製ゴムボートには傷一つ付いておらず、橋の方も特に破損していない。

ゴムだからか、激突しても大したダメージはなかったようだ。良かった。やはり河童製は凄い。

安心したところでカプセルへと収納し、振り向くとすぐ傍には休憩所がある。目的地に辿り着くことが出来たようだ。

 

さて、ここにユキ人形が匿われているという話であったが一体どこにいるのだろう?

はたて人形の写真には、ユキともう一人の人形が大きな木の下で眠っている様子が映っていた。それを目印に探せば見つかるだろうか?

 

早速周囲を探してみるが、人形達はどこにもいない。それらしき木を虱潰しに当たってみても、見つからない。参ったな。予め詳しく場所を聞いておくんだった。

 

 

すると、上空から一体の人形がこちらに向かって来る。あれは…あの時のはたて人形だ。

もしかして、ずっと後を追っていたのだろうか?どうしたのだろう?

 

はたて人形は急いでケータイに文字を入力し、言いたいことを伝える。

成程、確かに文字ならばこちらでも簡単なことなら理解出来る。こういう時に便利な道具だ。

 

 

『ヤババッ!!☆あの子ココからいなくなっちゃってる~!!(>_<)きっとあいつに見つかった可能性大!!』

 

 

…何だか一昔の女子高生さを感じさせる文章なのは兎も角、“あいつに見つかった”?

一体誰のことだろう?まさか、人形ハンターか何かの類だろうか?だとしたら危険だ。今すぐ追いかけないと!

 

 

「すみません!この辺りにユキ人形がいませんでしたか!?」

 

 

すぐさま休憩所で聞き込みを開始し、一つでも情報を集める。

取り敢えず、目の前の暇そうにしていた男性に声を掛けてみた。男性はこちらの声に気付き、振り返る。

 

 

「…ん?お前はもしかして…舞島か!?」

 

「え…こ、浩一さん!?どうしてここに!?」

 

「そりゃこっちのセリフだよ。…まぁ人形遣いたるもの、人形求めて色んな所に冒険してみたくなるもんだよなー!ハッハッハ!」

 

 

懐かしい…まさか一の道で知り合った人形遣いの“浩一”と、こんなところで出会うとは。僕はどうやら運が良いようだ。

 

「説明は後です。今はあなたの人形の力が必要なんです!どうか、お願いします!」

 

「…何だか事情がありそうだな。よし、この俺に任せときな!ナズーリン!」

 

浩一はこちらの意図を汲み取り、封印の糸からナズーリン人形を繰り出す。

そう。彼の持つ人形はダウジングを得意とし、無くしたものを探すことが出来ると言う特技がある「ナズーリン」という人物が元になっている。

しんみょうまる人形の打ち出の小槌の捜索の時にはすっかりお世話になったものだ。今度はこれでユキ人形がどこに行ったのかを探して貰おう。

 

「ナズーリン。早速だが仕事を頼む。…それで、何を探すんだ?」

 

「僕の人形、ユキを探して欲しいんです。訳あってはぐれてしまって…まだそんなに遠くには行ってないと思うんです」

 

「オーケー。ナズーリン!ユキという人形の気配を探ってくれ!」

 

ナズーリン人形は手に持っているダウジングロッドに集中し、ユキ人形の行方を探る。

普段なら“人形”を探すというのは困難であろうが、ユキ人形は普通の人形とは違って身体の中に何か特別なアイテムが内蔵されている。だからそれを上手く感知出来れば、ユキ人形の気配を探ることも出来ると踏んでの提案なのだが…果たしてどうだ?

 

「!出たぞ」

 

ナズーリン人形の持つ人形が西の方角へ傾く。

どうやら、ここから西の方角にユキ人形がいるらしい。

 

「ここから西というと…“中有の道(ちゅううのみち)”を通ることになるな」

 

「“中有の道”?」

 

「“三途の川(さんずのかわ)”へと通じる道なんだけどよ。まぁ安心しろ。幽霊共が屋台とか開いてて、案外賑やかなところさ」

 

「…そ、そうなんです?」

 

確か、“三途の川というのはよく生死を彷徨った者が見ると言われている川の名前だ。そこへ続く道に、幽霊達が屋台を開いているだって?そんな馬鹿な話があるのか?

 

 

「…信じられないって顔してるな。まぁ、行ってみれば分かるさ。健闘を祈るぜ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

浩一の人形が示した通り、休憩所から橋を渡って西の方角へ進んでみると、1つの看板があった。

 

「この先、中有の道。幽霊、怨霊注意!」と書いてある。…どうやら、幽霊などがいるのは本当のようだ。

 

この先にユキがいる…よし。少し怖いけど、早速探しに行こう。

 

不安で強張る足を前へ前へと進ませ、中有の道を進んでいく。すると、早速何やらおいしそうな匂いが漂ってくるではないか。この醤油の香ばしい匂い…まさか、焼きそばか?…そういえば、今日はまだ何も食べていなかったな。

食欲をそそられ、匂いの元まで辿っていくと、そこには頭に三角頭巾をかぶった白い霊体が忙しそうに鉄板に向かいヘラを動かす様子が見える。

それは何とも言えないシュールな光景で、色々とツッコどころ満載であった。この世界では霊は普通に見えるものらしい。

 

 

…それは兎も角、腹をすかしている状態のこの匂いは反則ではないだろうか?正直、今すぐにでも食べたい…でも駄目だ。ユキを探すまでは我慢しろ。

こうしている間にも、ユキは苦しんでいるかもしれないではないか。

 

欲求を何とか抑え、引き続きユキ人形を探す。

しばらく歩いていると、様々な屋台が集まっている大通りに何やら人だかりが出来ているのが見える。

少し気になり、その中の様子を覗いてみると…なんと!そこには写真に写っていたもう一人の謎の人形をおんぶしているユキ人形がいるではないか!

 

やっと見つけた。ユキ人形は切羽詰まった表情で息を荒げながら、何かから必死に逃げているようだ。

足元もおぼつかなく、今にも倒れてしまいそうだ…待ってろ、すぐ助けてやる!

 

 

「ユキ」

 

 

「 待ちやがれ!絶対に逃がさないぞ…こんなレアな個体、滅多にいないからな! 」

 

「 まさか、こんなところにいるとはね!さぁ、大人しくお師匠様の人形になるんだ! 」

 

 

「「 …ん? 」」

 

 

「…!?」

 

 

何ということだろうか。

自分よりも先に、少年と薄い緑髪の少女が遮るようにユキ人形の前に立ち塞がった。そして互いに睨み見合っている…。

 

この状況に、僕は戸惑いを隠せないのだった。

 

 

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