人間と人形の幻想演舞 作:天衣
中有の道にて、旅先の仲間達の協力により行方不明となっていたユキ人形を発見することが出来た。
しかし、そこには既に別の先客達がユキ人形を狙っている姿が…
「こいつは俺が先に見つけたんだ。手出するんじゃねぇ」
「何を言ってる!こっちこそ君より先にこの人形狙ってたんだ!邪魔しないでよねッ!」
ここまで逃げて行き倒れてしまい、気絶しているユキ人形を尻目に、少年と何処かで見た少女がユキ人形を巡って言い争いを始めている。
あの薄い緑髪に複数のリボンを凝らした緑のドレスに白い前掛け…そしてあの奇妙な形をした帽子。間違いない。
少女の方は以前、僕の前に突然現れてユキ人形を狙ってきた“丁礼田 舞”だ。
彼女は“お師匠様”という人物へ献上する為に僕のユキ人形を狙っているらしい。確かに彼女からしてみれば、僕の手持ちになっていない今のこの展開は好都合だ。
状況としては、ここにいたら偶然見つけたので捕まえようとしている…といったところか。あの時はあまり気にはしなかったが、何故僕のユキ人形が狙われているのだ?
そういえば、彼女の他にもピンクの色違いの格好をした“爾子田 里乃”という人物もいた筈だが…今ここにはいない。
と、今はそんなことを考えている場合ではない。急いで2人を止めないと!
「 ま、待って下さい!その子は僕の人形です! 」
間に割って入ることで言い争いを静止させると、邪魔をされた2人は当然こちらを睨みつけてくる。
特に少年の目付きは鋭く、今にも殺されてしまいかねない殺気を放っていた。見たところ僕より小さく明らかに年下の少年であるが、恐らく彼も人形遣いだろう。
「…お前の人形だと?もっとマシな嘘をつくんだな。お前の人形であるならば、糸で封印状態になる訳がないだろ」
「!そ、それは」
どうやら少年は僕の言うことに疑いを持っている。しかも、ユキ人形を一度捕まえようとしたみたいだ。そうか。はたて人形の言っていた“あいつ”とは、彼のことだったのか。
だが確かに、彼の言うことはごもっともだ。嘘をついていると思われてもしょうがない状況と言える。さて、どう説明したものか…
「ありゃりゃ、誰かと思えば君か!う~ん、出来れば会わずに事を収めたかったのになぁ…残念残念。あ、この前はどうもね」
「え、あ…はぁ」
舞の方は嬉しそうな表情でこちらの手を握り、再会の握手を交わしてくる。
言っていることに反して会えて嬉しいのかそうでないのか、よく分からない反応にこちらも半ば困惑してしまう。
この前…というのは人形について色々教えてあげた件についてだろうか?むしろ、「何故人形について何も知らなかった」と言いたい。
「…そうか、さてはお前らグルだな?第三者を装って俺を騙そうとしているんだろう?そうはいかないぞ」
「 ヘカ―ティア! バトルスタンバイ! 」
突然少年は自分の人形を繰り出し、こちらに対峙し始める。
赤い髪に赤い瞳、文字の入ったシャツを着ている攻めた格好をしている人形が宙に浮きながらこちらにプレッシャーを放つ。
『 名前:ヘカーティア 種族:地獄の女神 説明:3つの体を持つ 』
情報が出てきた。
〝地獄の女神”…通りで強そうなオーラを放っている訳だ。あの人形…恐らくかなり強い。元から種族自体が強いというのも勿論そうだが、かなり鍛えられている。
などと、思わずスカウターで調べてしまったが…彼は一体何を考えているのだろうか?
「人形バトルだ。勝った奴がこの人形を手に出来る…実にシンプルだろう?…まぁ、お前らなんかが俺の人形に勝てるとは到底思えないがな」
「いいねっ!その提案、乗った!」
「(お、おいおい…ま、不味いぞ。この展開は…)」
「 さぁ行け! 僕の人形! 」
舞は少年の無茶な提案に乗り、自分の人形を繰り出す。出てきたのは舞自身を元にした人形だった。
まい人形はその場踊りながら決めポーズを決めている。何とも本人がやりそうなことだ。
『 名前:まい 種族:不明 説明:背中で踊ることでその者の生命力を引き出す 』
とりあえずスカウターで調べて見たが、種族が不明…?
彼女は一体何者なのだろうか。謎は深まるばかりだ。
「(見たことない人形だな…一体どこに生息しているやつだ?俺のまだ知らないところがあるってことなのか…?)」
少年の方も、舞の人形を見て何かが引っ掛かっているようだ。
だがすぐに切り替え、戦闘態勢を整え直すと人形に指示を送るべく口を動かそうとしたその時、
電気を帯びた弾幕が、ヘカーティア人形に向かって飛んできた。
「…――ッ!右だ! フォースシールド!」
少年はすぐさま別方向からの奇襲に反応し、防御の指示に切り替える。
ヘカ―ティア人形は素早く反応し、右方向からの電撃から身を守ることでダメージを最小限に抑えた。
今の攻撃は自分は勿論、舞の人形のものでもない。第三者からの攻撃である。一体誰だ?
「 もーーー!げんちゃんどこいくのよーーー!? 」
「…!?こ、この声は」
それは、こちらにとっても聞き馴染みのある元気な声であった。
ヘカーティア人形に向けて奇襲を仕掛けてきたのは、金髪で白い翼を持つ人形だった。あの人形は…“げんげつ人形”だ。
げんげつ人形は目にも止まらない素早さで相手に突撃を仕掛けると、そのまま取っ組み合いへと発展させる。そして空中で派手な弾幕勝負が繰り出された。
何だかヘカーティア人形に対して強い憎しみを抱いているかのような、そんな表情でげんげつ人形は相手を攻撃している。
そうだ、思い出した。
「はぁ…はぁ…あれ?舞島さん…それに準まで?」
そう、以前旅を共にしていた人形遣いの〝光(ひかる)”だ。彼女とこの目付きの悪い少年は知り合いで、人里で一回人形バトルをしていたことがあった。
その際、げんげつ人形は完膚なきまでに叩きのめされていた記憶がある。それであんなにヘカーティア人形に対して攻撃的なのか…納得した。
「もうっ!舞島さん観察してないでげんちゃんを止めてよ!ほら、そこのあんたも!」
「ぼ、僕も!?」
「このまま2体が派手に暴れちゃったら、この辺一帯が消し炭になっちゃうって!」
「む~…バトルの邪魔されて頗る腹が立つけど、しょうがない。里乃の様子も気になるし」
どうやら、先に喧嘩する2体を止めなければならない展開になってしまった。…ユキ人形との感動の再開はしばらくお預けらしい。
気絶しているユキ人形ともう一体の人形をこちらで抱き抱え、とりあえず光達に応戦することにした
ヘカーティア人形とげんげつ人形…2体の激闘は止まることを知らない。
互いに人形遣いの指示も無しに技を仕掛け合い、どちらかが先に倒れるまで攻撃を続ける。
受け流した流れ弾や地上での激しい攻防により、辺りはすっかり焼け野原だ。互いの力が強力な分、周りの被害も尋常ではない。
「何だ何だ?新手のパフォーマンスかぁ?」
「いいぞ~!やれやれ~!」
だが2体の様子を目撃した観光客達はこれを余興と勘違いし、逆に盛り上がっている。
観光客達はすっかり戦いを見守る傍観者となってしまい、誰の協力を得ることが出来なくなってしまった。
…よく辺りを見回してみると、紫色の煙が充満しているのが分かる。そして、その煙を出しているのは赤い着物を着た紫髪の人形。
正確には、人形が咥えている変わった形の煙草から…これは、何だか嫌な感じがする。
「みんな、この煙を吸っちゃ…」
「里乃~どっちに賭ける~?」
「ん~そうねぇ。私は変なTシャツ着た方かなぁ」
「私のげんちゃんが強いに決まってるもん!だからげんちゃん一択だわ!」
「ふん、どれだけ強くなろうが俺のヘカーティアには到底敵わないさ。ざっと計算して、9:1くらいのダイアグラムだな」
気を付けるよう声を掛けるが既に遅く…皆この戦いを楽しみながら観戦してしまっている。
やはり、この煙は人を狂わすような効果があるみたいだ。このままではこの中有の道という地名自体が無くなりかけない。
あの煙を出していた人形は…駄目だ。この視界の悪さじゃまともに探せはしない。何と傍迷惑な人形だろうか。
考えろ。暴れているのはあくまで、げんげつ人形だ。
ヘカーティア人形はそれに対し応戦しているに過ぎない…だが敢えてその挑戦を受けるのは、あの人形の性格なのか?それとも、ただの気まぐれなのか?
いずれにしても、げんげつ人形をどうにか止めることさえ出来れば、この騒動は収めることが出来る筈。それには光の協力が不可欠なのだが…今は煙でおかしくなってしまっている。
「ちょっと失礼するよ」
正気を失っている光から、げんげつ人形用の封印の糸をこっそり拝借する。
こうなったら、こちらで無理矢理封印の糸に戻すしかないだろう。だが、どうやって誘導しよう?
げんげつ人形は確か、金髪の人形に目がないという性質を持っていた筈だ。現にユキ人形にべったりだった記憶が強い。
ならば金髪の人形に止めるよう直接お願いしてみたりとか?今抱き抱えている意識がないユキ人形ともう一体…この人形も一応金髪だ。
やはり、似ている。写真で見た時もそう思ったが、実物を見ると本当にそっくりだ。
こんなに似ていて全くの無関係だとは、どうも思えない。
…賭けてみるか。
「 おーーい!げんげつ!こっちだーー! 」
上空で戦っているげんげつ人形に大声を上げてみるが、まるで反応なし。
分かってはいたものの、聞く耳を持たないのか、集中していて周りが見えていないのか…恐らく両方だろう。
どうにかしてこちらに気付いて貰わないといけないようだ。…しょうがない。
手持ちの人形達にも協力して貰おう。
「 しんみょうまる! メディスン! 出てきて! 」
封印の糸から2体の人形を繰り出し、一通りの作戦を伝えた。
今回やるのはバトルではない。げんげつ人形を大人しくさせる為の誘導だ。作戦を悟られては決してならない。
よって口頭での指示は一切やらず、身振り手振りなどでやることとする。
今のげんげつ人形はタイプに「雷」が含まれているようなので、今回はこがさ人形の活躍はあまり見込めない。
しんみょうまる人形なら「大地」タイプなので「雷」を無効化でき、最悪他の技でも「鉄壁之構」や「やせ我慢」で耐え忍ぶことが出来る。注意を引き付ける役としては適任だろう。
「よし、頼んだぞ!」
「「 ! 」」
早速げんげつ人形が再び地上戦へと切り替え、こちらに近づいてくる。
ヘカーティア人形と戦い続けてはいるものの、徐々にげんげつ人形の方の勢いが弱まっているみたいだ…やるならここしかない。しんみょうまる人形の方と顔を合わせ、作戦を実行する。
しんみょうまる人形は雷の弾幕を発射しようとするげんげつ人形の前に立ち塞がり、それをその身に受け止めた。
作戦通り、無効化して懐に潜ることは成功。邪魔をされたげんげつ人形は怒りを露にし、邪魔者を排除すべく次の攻撃に移る。
別のタイプの技を仕掛けると判断し、今度は片目を閉じて合図した。それを見たしんみょうまる人形は「鉄壁之構」を発動し、自身の集防を上げ攻撃に備える。
そして「幻」の集弾技を見事受けることに成功。大したダメージを負わずに済んだようだ。
それを見て完全にキレたげんげつ人形は、全身に力を込め始める。
これは…どうやら大技で一気に蹴散らそうとしているように見える。だが、そういう技は決まってデメリットがあるのがお約束。
しんみょうまる人形に向けて片手を大きく挙げて合図を送り、げんげつ人形の大技に備えた。そして、同時にげんげつ人形の溜めが完了する。
一気に放出される無数の弾幕が、しんみょうまる人形に向かって無造作に飛んで来る。それに対し、しんみょうまる人形は「やせ我慢」ですべてを受け止め、耐え忍んで見せた。
技を放ったげんげつ人形は足をつき、息を切らし始める。やはり、あの技には代償があったようだ。この状態ならば、メディスン人形も起用させることが出来るだろう。
「げんげつ、もう止めるんだ。今の君じゃ、あの人形には勝つことは出来ない」
「……」
こちらの言葉に、苦悶の表情で睨み返すげんげつ人形。…やっと僕の顔を見た。
半ば強引ではあったが、頭に血が上ったやつはこうでもしないと耳を貸してはくれない。
「聞きたいことがあるんだ。…この人形に、見覚えないかな?」
「…!」
こちらがユキ人形と一緒にいた人形を見せると、げんげつ人形は驚きの表情を見せた。
…やはり無関係ではなさそうだ。ユキ人形を見た時とは、明らかに反応が違う。
思い返してみると、初めて会った時げんげつ人形は何かを探していた。もしや、あの時一の道にいたのもこの人形を探していたからなのか?
だとしたら、僕らはそれを邪魔してしまったということになる。嫌われるのも、無理がないのかもしれない。
そんなことを思っていると、げんげつ人形は再び怒りの表情となってこちらに技を仕掛けようと電気を放出し始めた。
関係のあるであろう人形が目の前にいるにも拘らず、だ。まさか、この人形はげんげつ人形の宿敵か何かだったのだろうか?
不味い…今この距離で技を撃たれたら怪我では済まない。急いで合図を送り、人形に指示を出す。
その途端、げんげつ人形の背後から青い鱗粉が舞い、眠気を誘った。
疲れていたのだろう。げんげつ人形はすぐさまその睡魔に負け、その場で眠ってしまった。…普段は恐いが、眠った顔は可愛い。
「ありがとう、メディスン」
「♪」
保険を用意しておいてよかった。
***
「あ、あれ?私一体…」
「…くそ、何が起こったんだ?」
「あれ~?僕今まで何を?」
「もう、舞ったらおっちょこちょいなんだから」
「むむ!里乃こそ、折角あの人形見つけたのに呑気に店回っちゃって!どこ行ってたんだよぅ!」
「ごめんごめん。でもここの食べ物美味しいわよ?ほら」
「あ、ホントだいい匂い…ってそうじゃなくて!」
人形同士の戦いが終わったと同時に、一斉に皆が目を覚ます。決闘自体がなくなってしまった影響だろうか?
どうやら今までの記憶がなくなっているらしく、今の状況にとても困惑しているようだった。
「光ちゃん」
「あ、舞島さん。…そうだ、げんちゃんは!?」
「この中で眠ってる。何とか僕達だけで抑えたんだ」
「えぇ?す、すごいね。私なんか、まだ言うことを聞かせることも碌に出来ないのに」
光はどうやら未だにげんげつ人形とは上手くやれていないらしい。
夢の世界で喧嘩して以来、ずっとなのだろう。少し不憫だ。
どうにかしてあげたいが…それにはまず、げんげつ人形への理解が必要となってくるだろう。
顔立ちが似ているこの人形との関係性についても、いずれは知らないといけない。
「全く、自分の人形も制御出来ないとはな。とんだ迷惑だ」
「!…準」
「まぁ俺のヘカーティアの様子を見るに、今回も相手にならなかったようだがな。暇そうに欠伸してやがる」
横から準が割って入り、光に嫌味を言い放つ。
彼の言う通り、宙に浮いて付いて来ているヘカーティア人形には傷一つ付いておらず、余裕の表情を浮かべている。
あれだけの攻防をしていたのに、あの人形にとってはお遊び程度だった…ということか。何とも恐ろしい。
「さて、色々と邪魔が入ったが…その人形、今度こそ寄越して貰おうか」
「だ、だからユキ人形は僕の人形だって言ってるだろ」
「その嘘は聞き飽きたな。じゃあ何故、その人形は野生化している?しかも、俺が最初にそいつを発見したのは“妖怪の山”なんだぞ?そもそも、お前はどこから来た?少なくとも山にはいなかったよな?」
「…それは」
人形解放戦線によって封印の糸がなくなってしまい、そのまま永遠亭へ搬送されて……何て、そんなことを言ったところで信じて貰える気配がない。
この少年、疑り深いのもそうだが頭も切れる。くそ、困ったな……どう乗り切ろう?
「……」
「どうした?もう言い訳が思いつかないか?ならさっさと」
「このアホッ!!」
「…ッ!!」
しかし圧に一切屈することなく、光はゲンコツで準の頭を叩いた。
知り合いだからか、それとも光自身が強すぎるのか。その行動には一切の迷いがなかった。
光のこういった強気なところ、僕も少しは見習いたいところだ。
「その人形は正真正銘、舞島さんの人形よ。私、実際この目で見て知ってるからね」
「…ってぇな!!この暴力女!」
「何ですって!?このー!!」
ゲンコツを食らって頭に来た準はそのまま光と取っ組み合いのけんかを始めてしまう。
2人共大きく暴れ回っている為、辺りはすっかり砂埃…今度はこっちが喧嘩か。こういうところを見ると、彼らもまだ子供というか、何と言うか。
取り敢えずこのままだとボロボロになりそうなので、急いで喧嘩を止めた。
「ぜぇ…ぜぇ……フン!まぁ、今回はその人形を見逃してやる。お前も人形遣いなら、人形の管理くらいまともにしやがれッ!!」
準は捨て台詞を吐き、そのまま中有の道を後にしてしまう。
納得はいってなさそうだが、どうやらユキ人形が僕の人形だというのは理解はしてくれたようだ。
光の証言のお陰と言っていいだろう。本当に助かった。
「助かったよ。光ちゃん」
「いいっていいって!げんちゃん大人しくさせてくれたお礼だよ」
「…それにしても、女の子なのに喧嘩強いんだね」
「え?そう?普通じゃない?」
「……アハハ、まぁうん」
やはり、幻想郷の女は強いな。
「何だか、僕らの出る幕はなさそうだね」
「…今日は帰りましょうか。たこ焼き、後で食べましょ。お師匠様の分は…まぁいいか」
「賛成!」