人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十六章

中有の道の一件が片付いたそのすぐ後、僕は急いで妖怪の山の前にある休憩所へ直行した。

途中で会った光も一緒に付いて行き、人形の入った封印の糸を待娘に預ける。

 

 

取り敢えず、これでようやく落ち着くことが出来るようになった。

積もる話もある。光とこれまでの旅路について話し合うことにした。

 

「へぇ、やたら異常な身体能力しているとは思ったけど、それって河童の発明なんだ?」

 

「うん。まぁ私、流石にか弱い女の子だしね~。これくらいは用意しとかないと」

 

「(か弱い…?)まぁ、確かに危険は多そうだよね。そういえば、あれから何か人形を仲間にしたの?」

 

「そうねぇ。最近だと、“すわちゃん”とか仲間にしたよ。…そうだ!ついでに今の私が持ってる人形ちゃん達、みんな紹介するね!」

 

 

「 それ!出てこーーい! 」

 

 

そう言いだすと光は手持ちの人形達を封印の糸から次々と出し始める。

様々な形をした属性が光を中心に集まり、それぞれが実態化してその姿を現す。

 

「えっとね、右からアリス、ルナ、クラピー、じゅんこ、そしてさっき言ってた“すわこ”だよ!どう?凄いでしょ?」

 

「光ちゃん、もう6体持ってるんだね。僕は…まだユキ含めて4体か(人形箱の人形含めたら一応6なんだけど)」

 

結局、あの時やむを得ず捕まえたエリー人形とくるみ人形は未だに人形箱の中でお留守番だ。

一時期はメディスン人形のお世話をお願いしていたが、もうその役目も終わってしまっている…これからどうしたものだろうか。

 

それにしても、光が既に人形を6体揃えて実質パーティが出来上がっている状態だったとは。

初めて見るのもいるな…どこか大人びていて落ち着きのある黒い服に身を包んだ人形。確か名前は“じゅんこ”と言ったか。

こちらが物珍しそうに見ていると、じゅんこ人形と目が合う。少し驚いたが、じゅんこ人形は目が合った自分に対し微笑むと、ゆっくりお辞儀をし始める。

おぉう…思わずこちらも腰を落として返してしまった。礼儀正しいんだな…どこか品のある人形だ。

 

そしてもう一体、見覚えのない人形がいるようだ。ゴシックロリータに身を包んだ、ウェーブ金髪の人形。

その手には紫に燃える松明を持ち、乱暴にそれを振り回しては他の人形達に当たりそうになっている。落ち着きのない人形だ。

ルナ人形がそれを止めようと声を掛けるも、聞く耳を持っていないのか止まる気配が全くない。段々と自分に自信を無くし、涙目になるルナ人形…頑張れ、負けるな。

アリス人形もそれを見て止めに入ったが、それも聞こうとはせず遂には休憩所を走り回ってしまった。あんなに松明を振り回しながら暴れては火事になりかねない。

 

「光ちゃん、戻した方が…」

 

「あぁ大丈夫。すわちゃん、お願い」

 

この状況で妙に落ち着きのある光がそう言うと、肩に乗ってカエル座りをしているすわこ人形はコクリと頷く。

すると口を開き、そこから長く鋭いベロがゴスロリの人形へと発射された。

あまりの速さに呆気を足られているのも束の間、背後からの接近に気づかないゴスロリの人形はその舌の餌食となってしまう。

そしてすわこ人形の口へと吸い込まれ、その中で必死にもがくゴスロリの人形の下半身がジタバタ暴れるという情けない姿が晒される。

さながら獲物を捕まえるカメレオン…いや、蛙?を彷彿とさせる一連であった。その間、僅か3秒。

 

「うんうん、相変わらず見事な捕獲ね。…もうクラピー?建物の中では暴れないでっていつも言ってるでしょ!」

 

「…え?その子、あの時の?ず、随分格好が変わったね?」

 

「そうなのよ。恐らく…いや間違いなくげんちゃんが原因なんだけど…」

 

元々僕らが夢の世界で会ったクラピーことクラウンピース人形は、某英国の国旗を彷彿とさせる色合いの奇抜なファッションをしていた。

それが今は黒のゴシックロリータとは…一体どういった心境の変化があったのだろう?げんげつ人形の趣味の被害者にしては、それをノリノリで本人は着こなしていた気がするが?

 

「…――…――、………――ッ!…――…―――!」

 

その秘密を教えたいのか、クラピー人形は自慢げに説明を始める。

しかし、僕ら人形遣いには人形の言葉というのは全く持って理解出来ず、更に言うとまだ口の中にいる状態だから仮に分かってもまともに聞こえはしない。

どうやらちょっと間の抜けている人形のようだが、光はそんなクラピー人形を手持ちとしてちゃんと愛用しているらしい。

そして最初は使う気にならなかったというルナ人形も、今や光のパーティの一員…立派になったものだ。自分の人形でもないのにこういった成長を目の当たりにすると、何だかこちらまで嬉しくなる。

 

 

こちらも早く、6体の人形パーティを完成させたいものだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「お待たせしました。人形ちゃん達、すっかり元気になりましたよ~」

 

「ありがとうございます」

 

 

休憩所に預けたユキ人形達が回復したようなので、待娘から封印の糸を返却して貰う。

早く顔が見たいので早速ユキ人形を封印の糸から出し、その名を呼んだ。

 

 

「ユキ…!」

 

「…!!…!!」

 

「ごめん、ごめんよ」

 

 

こちらが強く抱きしめると、ユキ人形も同じく小さな体で抱き返す。…泣いているようだ。

無理もない。どこか分からない場所に突然行ってしまい、その時から今までずっと“準”という少年に追いかけ回され、危うく捕まりそうになっていたのだから。

僕があの時メディスンの攻撃を食らわなければ、こんな思いをさせずに済んだ筈だ。人形遣いとして、全く情けないことこの上ない。

 

「良かったね、舞島さん!」

 

「うん。…本当に」

 

光を始め、彼女の手持ちの人形達がユキ人形に無事会えたことを祝してくれる。何だかちょっと照れ臭い。

しかし、その中にげんげつ人形はいない。どうやら、未だに封印の糸の中のようだ。

 

いつかは皆と打ち解けて他の人形達とも仲良くしている姿を見たいものだが、やはり難しい話なのだろうか?

せめて探していたと思われるあの人形と会わせられれば、少しは光の言うことも聞いてくれるようになると思うのだが…そういえばユキ人形と一緒に預けられていたのにどこに行ったのだろう?

 

辺りを見回すと、なんとこっそり出口から逃げ出そうとしているではないか。

こちらが声を掛けると目が合い、逃げるように外へと駆け出そうとする。急いで追いかけようとするが、すぐにその必要性はなくなった。

 

「…ッ!」

 

ちょうどその時、休憩所に入ろうとした浩一と鉢合わせし、前を向いていなかったその人形は勢いよくその男の足にぶつかってしまう。

そしてその反動で後ろにゴロゴロと転がり、元の場所へと逆戻りしてしまう結果となってしまった。

 

 

「な、何だ?この人形は?」

 

 

目を回している謎の人形を見て、困惑する浩一。

 

ナイスディフェンスです。

 

 

 

 

 

 

「…ほぇ~。確かに、この人形げんちゃんにそっくりだね」

 

「もしかして姉妹とかか?ハハッ、まさかなぁ」

 

気絶している謎の人形について光、浩一と一緒に色々と考察し合う。

そういえば、この人形はまだスカウターで調べていなかった。よし、見てみよう。

 

 

『 名前:むげつ  種族:悪魔  説明:??? 』

 

 

情報が出て来た。

 

“むげつ”…どう考えても“げんげつ”と結びつきのある似たような名前、そして“悪魔”という種族。もしや、本当に姉妹だったりするのか?

もしそうでなかったとしても、これで無関係な訳がない。だが、何故あの場から逃れようとしたのかが少し気になる。

 

するとユキ人形がむげつ人形に駆け寄り、体を揺さぶり身の心配している。

そう言えば、ユキ人形がむげつ人形を守る行動をとっていたことを思い出す。遭難した先で偶然知り合ったにしても、ここまで親身になっているのには何か理由がありそうだ。

夢の世界にでも行けば人形と直接話は出来るが、その為には必ず“睡眠”が必要となる。だが寝る時間ではない為、それを今すぐには実行出来ない。人形の技で無理矢理寝かされるのは、どうかあれっきりで勘弁願いたい。

人形の言葉をその場で翻訳してくれるものが早く欲しい。河童の方々に頼めば何とか出来るだろうか?今度魔理沙にでも話してみようかな。…普段どこにいるのか全然分からないけど。

 

「あ、起きたみたい。お~い、大丈夫~?」

 

目を覚ましたむげつ人形に、光が軽く声を掛ける。すると朦朧とした意識でそれを聞いたむげつ人形は突然、全身が凍り付くような悪寒に襲われ竦み上がる。

何か恐ろしい気配を感じ取ったかのような反応、そして全身の震えが目に見えて伝わった。冷汗をかき、顔は徐々に青くなるその様は悪魔に似つかわしくないものであり、そこには威厳など何もない。

 

「え…?ど、どうしたの突然?」

 

「凄く怯えられているけど…光ちゃん何かした?」

 

「いやいや、私初対面だって!」

 

光に対し、並々ならぬ恐怖を感じているむげつ人形。

一体何を恐れているというのだろう…光は何も知らないということは、もしかして…そういうことか?

 

「…光ちゃんの“げんげつ”が、もしかしたら怖いのかも?」

 

「げんちゃんが…?」

 

この説がまだ確定した訳ではないが、もうほぼ確実にそうであろう。

げんげつ人形がわざわざ生息地から離れていたのにもこれで辻褄が合うし、あの拒絶はそれに対する嫌悪感からというのがしっくりくる答えだ。

あの場から逃げようとしたのもその気配を感じたからで、むげつ人形のコスプレのようなメイド服も、げんげつ人形に着せられたものと考えると納得がいく。

現に光の手持ちにも、その傾向があった。

 

 

「 もしかしたらむげつは、姉妹であるげんげつの支配から逃げてきた…? 」

 

「……あー…」

 

 

むげつ人形の異常な拒絶反応、そしてげんげつ人形の変態的な性格から考え、光はどこかその答えに納得をする。

あまりにも覚えがありすぎるし、それを容易に想像出来るからであろう。

 

 

 

 

数分による討論の結果、流石に可哀そうなので今この二体を会わせるのは止めることにした。

 

そしてむげつ人形だが、ユキ人形の強い志望もあって僕の手持ちへと加わる事が決定する。

勿論、むげつ人形自身の意志を聞いてからの判断とし、あくまで加入は一時的なものではあるが…冒険の仲間が増えたことは嬉しい。

 

 

さぁ、いよいよ妖怪の山へ出発だ。

 

 

 

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