人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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遂にSODの要素解禁



第十七章

 

「(…何だ、あれ)」

 

 

妖怪の山の登り口が、動物の姿をした何かで塞がれている。

それには地をつく為の足が存在せず、実体もハッキリとないことから“幽霊”の一種であると予測出来るが、何故あんなところにいるのだろう?

まるで誰かが来るのを待っているかのような、そんな素振りをさっきから見せている。

 

話し掛けるべきか悩んだが、このままでは先に進めない。取り敢えず、あの霊に声を掛けてみることにした。

 

「あの…そこ通りたいんですけど」

 

「!」

 

「ややっ!貴方様はもしや、舞島様でございますか?」

 

こちらが声を掛けると、男の声で喋る動物霊。オスだったようだ。

喋ること自体は予想出来てはいたが、思っていたよりも礼儀正しい言葉遣いをしている。

見た目は哺乳類のような顔つきで、クリクリした目が特徴的な動物。主に水族館などで見た覚えがある。

小動物特有の可愛らしさとは裏腹の渋めな男性の声に、シュールさを感じられずにはいられない。

 

そして口ぶりからすると、あちらはどうも自分を知っているようだ。

この前会った文という天狗がばら撒いた新聞が原因だろうか?

 

「…はい、一応僕がそうですが」

 

「やはり!!噂は兼々伺っております。何でも、人形異変の調査をしているとか」

 

「そうですね。それで今、この妖怪の山に登ろうと思っていたところです」

 

「それはそれは!見ず知らずの“外来人”であるにも拘らず、熱心な心意気でございますね!」

 

そんなことまで知っているのか…あの射命丸という天狗にはそれを話した覚えはないが、他の誰かから仕入れたのだろうか?

しかしこの動物霊、その場を譲る気が一切ない。遠回しに邪魔になっていることを伝えたのだが…ワザとなのか?

 

「それで、舞島様。調査の方は順調なのでしょうか?」

 

「え?…いや、うーん」

 

正直な話、今のところこの人形異変の調査は殆ど進んでいないに等しい。

どこから来て、誰が作ったのか…何も分かっていない状態だ。

 

「その様子だと、順調とは言い難いようですな。そこでなんですが…少し、話を聞いては貰えないでしょうか?」

 

「話…?」

 

「はい。実はその人形異変の影響で、我々の住む場所が荒らされてしまっていましてですね…困っているのですよ」

 

動物霊は事情をつらつらと話しているが、それに付き合う程暇ではない。

と、言いたいところだがこの手の者は下手に止めるのも悪手な気がする。仕方ないので、一通りは聞いておこう。

 

「我々の宿敵が“偶像”を作ってからというものの、一向に手を出せず仕舞い。嗚呼、何とも歯痒い…せめて強力な助っ人がいてさえくれればよいのですが…」

 

「“偶像”…ですか?」

 

「えぇ。厄介なことに、それは人形でないと全く太刀打ちが出来ない。正に無敵の兵隊ですよ。奴らも知恵が回るものだ」

 

人形でないと太刀打ち出来ない…?それではまるで、こちらの良く知っている人形そのものを言っているようではないか。

…まさか、宿敵というのは“人形”というものを作った人物のことを言っている可能性が?もしそうだとしたら、これは異変調査の大きな足掛かりとなる。

 

この話、もっと詳しく聞いておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

あの動物霊の言っていたことはこうだ。

 

彼らの住処である畜生界(ちくしょうかい)に存在する人間霊保護施設、”霊長園(れいちょうえん)”。そこに突如として神が降臨し、人間霊を支配して占拠。

その神が例の人形を作り、霊長園だけでは飽き足らず彼らの住処である畜生界にも進行を始めた。当然人形を持たない動物霊達は成す術もなく、敢え無く撤退する羽目に。

そして住処を追いやられた動物霊達は自分の噂を聞きつけ、ここまで助けを求めにやって来た。

…ということらしい。

 

その霊長園に現れた神というものが、恐らく人形を作った張本人。この異変の元凶という線は十分にある。

しかし、そうだとすると何故こちらの世界にも人形が溢れかえっているのかの説明がつかないような気がする。野生の人形達も、こちらから危害を加えなければ特になにもしない。

今や多くの人形遣いが人形達を当たり前のように使役している。時には生活のお供として、時には戦わさて…色んな人形の姿を今まで見てきた。

 

謎はまだまだ多いこの人形異変…しかし、異変の調査をしている身としてはこの手掛かりを追いかけたいのも事実。

それに地獄の世界だけではなく、いずれは他の世界にも進行を進めるつもりなのだとしたら…その野望は止めなければならないだろう。

 

 

 

そして僕は今、その霊長園に行くべく“三途の川”へと赴いたことろだ。

 

 

「…どうしてだろう。この景色、初めてじゃない気がする」

 

 

思わず感じたことを口にしてしまう。

聞くところによると死んだ者が霊となり、ここ三途の川を渡るとされているらしい。

まだ死んではいない筈なのに、どうしてここに来た覚えがあるのか…?

 

よく見ると河の桟橋に船が泊まってある。近くに来てみると、その中に女の人は横たわっている姿が見えた。

倒れているのかと心配になり、声を掛けようと近づいたら心地よさそうな寝息が聞こえてくる…どうやら寝ていたようだ。

 

彼女は恐らくこの河の船頭か何かなのだろうが、明らかにサボってはいないか?

それに女性の傍に置いてある先の曲がった巨大な鎌…彼女は一体?

 

「コケ―、小町さんったらまた寝ちゃってますー」

 

「!」

 

後ろからまた別の声が聞こえ、振り返ってみると少女が困った表情で寝ている女性を見ていた。

白とは言い難い薄黄色の翼、ワンポイントだけ赤い同色の髪、そして同色の尾が特徴的な少女…鳥類を彷彿とさせるその見た目は彼女を“妖怪”だということをハッキリ示している。まず間違いないだろう。

 

「おや、あなたは…生きた人間のようですね。ここはあなたのような者が来る場所ではないですよ?」

 

自分の姿を見るなりここにいることを否定されてしまう。妖怪にしては、随分と心優しい性格のようだ。しかし、残念ながらその気遣いに応えることは出来ない。

何故なら僕は、この地獄の世界に行きたいのだから。

 

「すみません。僕、霊長園ってことろに行きたいんですけど」

 

「!…霊長園に?」

 

“霊長園”という言葉を聞いた途端、少し表情を曇らせる妖怪の少女。危険な場所…ということなのだろう。だがそれは百も承知。異変調査の為なら、多少の危険も乗り越えなければならない。

 

「どういった目的であそこに行きたいのかは存じあげませんが、それは容認出来ません」

 

「一応僕、人形遣いです。人形が危険ということなら問題ありませんよ?」

 

「そうではありません。確かに人形も危険ですが、あの世界はそもそも動物霊達が激しい抗争を日常茶飯事繰り返しているような危険地帯なんです。興味本位で行くようなところではないのですよ」

 

動物霊…妖怪の山であったあの霊のことを言っているのか?見た目はそんなに獰猛な獣という感じではなかったが…彼女の忠告を聞く限りだとかなり狂暴らしい。

 

「ふわぁ~~~……何ださっきからうるさいねぇ。ゆっくり眠れないじゃないか」

 

少女と喋っている最中に、船の中で寝ていた女性が目を覚ます。大きな欠伸をした後、伸びをしてこちらの方を向くとひどく驚き、すぐさま立ち上がった。

 

 

「 こ、これは庭渡(にわたり)様!!いらしていたんですね!!? 」

 

 

庭渡(にわたり)と呼ばれた少女を前に、まるで上司に挨拶をするかのような言葉遣いで喋る女性。

赤いツインテール赤い瞳、着物のようなロングスカート、そして茶色の腰巻をしている。身長は自分よりも高く、手元にはやはり先程の変わった形をした鎌を持っている。

 

「おや、ようやく起きたようですね小町(こまち)さん。そのまま寝ているようでしたら、耳元で叫んでいたところですよ」

 

「そ、そりゃ勘弁してくださいよ…ハハ」

 

どうやら小町(こまち)と呼ばれている女性は庭渡よりも身分が低いらしく、頭が上がらない様子だ。

見た目からは想像が出来ないが、庭渡はそれなりに偉い立場にいる人物らしい。まぁ、幻想郷ではよくあることだからそこまでは驚きは少ない方である。

 

すっかり話から置いて行かれてしまったが、どうにか霊長園に行く方法を教えては貰えないだろうか?この小町はどうやら船頭のようだし、何か知ってるかも?

 

「あの…」

 

「うん?誰かと思えば、この間の外来人じゃないか。何だ?遂に死んでしまったのか?」

 

「いや、彼は生きてますよ。何でも畜生界の方へ行きたいそうなのですが、流石に一般人を連れて行くのは賛同しかねます」

 

「ふ~ん、そういやお前は最近噂になってる舞島ってんだろう?新聞で見たよ。何でまたそんなところに?」

 

小町はまるで一度会ったことがあるかのようなことを言っているが、まるで覚えがない。

この光景にどこか見覚えがあることと、何か関係があるのだろうか?

 

しかし、これは良い展開だ。小町の話題振りからこちらの異変調査の事情を話せば、上手く説得できるかもしれない。

あの新聞がこんなところで役に立つとは…一部如何わしい文章もあるものの、幻想郷の住民達に知って貰うには一役買ってくれたようだ。

 

 

「実は……かくかくしかじか」

 

 

 

 

 

 

「…ふむ、成程。異変調査の一環、ですか。確かにこの人形異変、私達地獄の者からしても早期に解決して欲しい案件でございます」

 

「人形遣いとしても腕が立つなら、畜生界の方へ行っても襲われる心配はないんじゃないですかい?庭渡様?」

 

「……分かりました。そういうことでしたら、案内しましょう」

 

 

あくまでこの人形異変を解決する手掛かりを得る為…という利害の一致により、霊長園へ行くことを許可して貰った。

 

まぁ、実のところを言うとそれは口実であり、純粋に人形を作った人物に興味があるというのは、ここだけの話。

 

 

いざ、畜生界へ。

 

 

 

 

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