人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十九章

言われるがままに八千慧の後に付いて行き、辿り着いた先は大きな洞窟だった。

 

洞窟の入り口には土で作られたであろう黄土色の像が2体、左右にそれぞれ置かれている。

この像は元の世界でも似たものを見たことがある。…実際はもっと小さかったような気もするが。

 

「霊長園の墳墓内部…ここの奥に奴はいます」

 

彼女の言葉に「はい」と返事をしてしまう。

倒すつもりなど微塵もないと言うのに…何故だかそれを彼女に対して言うことが出来ない。

だが幸い、意識などはハッキリしている。これならば間違っても戦いにはならないであろう。

 

 

「…あぁそうだ。一つ言っておきます。もし万一にも倒し損なうようなことがあれば」

 

 

「あなたの親しい友人、もしくは家族…その方々がどうなるでしょうねぇ?フフ…」

 

 

「…――なッ!?」

 

 

八千慧からの突然の脅迫が、僕の全身を恐怖で強張らせた。

 

仮にもしこれが本当だとしたら…僕はそれをやらざるを得なくなる。

これがハッタリであるという可能性も少しは疑ったが、彼女を一目見てすぐに分かった。あの冷酷な目…他人の命を何とも思っていないような、そんな性格が滲み出ていた。

流石は地獄に堕ちた狂暴な獣達を束ねる人物だ…故に頭も切れる。どうすれば人を恐怖に陥れられるかという残忍さ、狡猾さが見て取れる。

 

相手を従わせる為なら、それもやりかねない。

 

そう思わせることにより、その言葉に信憑性が生まれてしまった。

自分がお人好しな性格であることを理解してのこの脅迫…正直、効果覿面だ。

 

「良い報告を期待していますよ。…それでは」

 

そう告げた僅か数秒の間に、八千慧はその場から姿を消してしまう。

 

しばらく時が止まったかのように立ち尽くす。…大変なことになってしまった。

自分はただその造形神とやらに会いに来ただけなのに、今やそれを倒さざるを得ない状況に…やられた。人形について知ろうという考えがまさかこんな結果を招いてしまうなんて、誰が想像出来たであろう?

 

 

改めて、ここが地獄であることを再認識させられたような気がする。

ここに来る覚悟を問う久詫歌のあの言葉…その重みをたった今、痛い程感じた気分だ。

畜生界に住む者のことをよく知っていたからこそ、そこへ行くことに反対していた…今思えば、あの時その言葉を素直に受け止めていれば良かった気がする。

しかし僕は行くことを選んでしまった。だから、これは自業自得であることは明白。故に進むしかない。

 

何でもこの霊長園という場所は、死んだ人間霊達の保護施設らしい。今のところ霊の1人さえも見当たらないが。

もし自分が死んでしまったとして、その魂がここに来てしまうことになるのだけは勘弁願いたいものだ。まぁ、こちらはまだ死ぬつもりなど毛頭ないのだが…これまでこの世界で何回か死にかけたのも事実。こんなこと人生で何度も経験なんてしたくないというのに。

ここの人間霊達の仲間入りをしないよう、精々死なない程度に頑張っていくことにしよう。

 

 

覚悟を決め、僕は墳墓の入口へと足を踏み入れる。

途中、何やら視線を感じた気がするが、ここにいるのは自分1人だけ。

 

…まさか、この入口の土偶?いや、そんな筈は…でもこの世界じゃそうとも言い切れないのが怖いところ。念の為、近くまで寄り観察するがピクリとも土偶は動かない。…考え過ぎだったか?

 

少々腑に落ちないが先程の視線は気のせいということにし、僕は墳墓へと入っていった。

 

 

『 ……シンニュウシャ ケイホウ シンニュウシャ ケイホウ !! セントウブタイ タダチニ シュツドウセヨ !! 』

 

 

入口の土偶の目が赤く光り、墳墓内部へと伝達される。

だがそのことに僕が気付くのは、ずっと後のことであった。

 

 

 

***

 

 

 

 

「いやぁ、それにしても相変わらずの手際でしたね統領!あの人間完全にビビってましたよ」

 

「カワウソ。戻っていましたか」

 

 

「あの人形遣いの情報をいち早く入手し、マークしていた甲斐がありましたね。人形の情報チラつかせればすぐに食いついてきちゃって、実に滑稽ですな。利用されているとも知らずに…チョロいもんです」

 

「…さぁ、それは怪しいところですがね。あの人間、少々勘が鋭いところもある。だから先手で脅しをかけたのですが…」

 

「えぇ?私にはとてもそうは見えませんがねぇ」

 

 

「…まぁいずれにせよ、あの厄介な邪神さえ何とかしてくれれば、我らは格段に動きやすくなる。奴らに後れを取らない為にも、あの人形遣いには活躍して貰わなければ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

僕は今、走っている。

 

入口にいたのと同じ種類で、尚且つ意思を持って動いてくる土偶の群れから必死に逃げている。

 

 

「逃げるでない!大人しく捕まるのだ!」

 

「獣共の仲間め!我ら埴輪兵団の力、思い知らせてくれる!」

 

 

おまけに喋るこの土偶…もとい埴輪(はにわ)達。見た目に反して結構足も速く、一向に振り切れる気配がない。

こんな悪趣味な生き物も造形神が作り出したと言うのか?作っているのは人形だけではないとは薄々思っていたが、もっといろいろあっただろうに。

ちょっとばかり造形神の美的センスを疑う…だが相手を動揺させるには充分な見た目をしている為、ある意味防衛としては成功しているのが悔しいところ。

 

「…しょうがない!」

 

キリがないと判断し、振り返って封印の糸を構える。相手は埴輪だ。

無機物相手なら、人形での攻撃も躊躇しなくてもいいだろう。

 

「 行け! こがさ! 」

 

封印の糸から水の塊が現れ、地面に弾けるとその場にこがさ人形が登場。

相手は土偶…所謂“土”だ。水でも被せれば、形を保てなくなって動かなくなる筈。

 

すると埴輪兵団は足を止め、自分の人形を見て一斉にざわつく。こちらに攻め入ろうとはしない。

好都合だ。このまま引き下がってくれれば…

 

「 ゆけい! ラルバ! 」

 

埴輪兵団の1体は、それに対抗するように自身の封印の糸から人形を繰り出してきた。

そう、あの土偶も1人の人形遣い…だが思い出してみると、造形神は人形によってこの霊長園を占拠したという。ということは、それを操る人形遣いもまた同時に存在するということ。

つまりこの埴輪兵団はこの墳墓の侵入者を撃退する見張りでもあり、その一体一体が皆人形遣い…その数は千など軽く越えている。

成程、動物霊達が敵わなかった訳だ。造形神はこの圧倒的な戦力をもって、この場を制圧したのだろう。正に無敵の戦力と言える。

 

…と、関心をしている場合ではない。こんなの一人で相手に出来る量でないぞ。

だが埴輪兵団はいつの間にかこちらを逃がさないよう周りを取り囲んでおり、どこにも逃げられる隙がない。

 

 

もう、やるしかないようだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「侵入者か。性懲りもなく獣共が攻め込んで…ん?あれは…人間か?」

 

「…如何なさいますか?」

 

「そうねぇ…」

 

「恐らく彼は人形遣い。こんな危険なところにいるということは…それなりに腕もたつのかしら。私の自慢の作品である、あなたよりも」

 

「そのようなこと、あろう筈が!私は〇〇〇様の」

 

「もう、冗談よ?う~ん…まだまだ本物の人間には遠いわねぇ」

 

「…!申し訳ございません。この詫びは私自ら」

 

「そんなことしなくてもいいわ。それより、あなたも早く合流なさい」

 

「はっ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「こがさ! アクアカッター だ!」

 

 

指示を受けたこがさ人形は自身の持つ傘を振りかざして水の刃を撃ち出す。

通常の技よりも出の速い攻撃に対応出来なかった相手の人形はもろに食らってしまい、戦闘不能となる。

 

もう、彼是21体は倒しただろうか…?少し集中力が切れ始めているのを感じる。

まともに休憩させてくれないせいで頭をいつもより酷使しているせいだろう。

いくらこちらが上手く対応出来たとしても、次々と埴輪兵団は選手交代しながら無限に人形バトルを挑んでくる。

 

ふと視線をずらすと、こがさ人形も息を切らして疲れ果てていた。当然だろう。

一切の交代も無しにここまで頑張って来たのだ。多彩な積み技を持つこがさ人形は耐久戦が得意だが、こうも連続だと流石に厳しい。

そろそろこっちも選手を交代しないといけない。誰にする?積み技と「やせ我慢」を持つしんみょうまる?それとも同じディフェンススタイルになったメディスン?

ユキは…火力はあるが長期戦には向かない。…いや、攻撃は最大の防御という言葉に則って一撃で人形を倒すのも有りなのか?

 

数の暴力とは正にこのこと。卑怯だと言ってやりたいが、侵入したのはあくまでこちら側。このやり方に異議を申し立てることなど出来はしない。

むしろ、人形解放戦線のように人形遣いを直接攻撃してこないだけまだマシと言える。

 

 

「…戻れ! こがさ!」

 

 

…出来る限りの抵抗はしてみようじゃないか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

…どういうことだ?

 

霊長園の外の人形達があんなに大人しく…しかも、他の人形と手を取り合っているんなんて。

こんなことは有り得ない…一体誰が?

 

「…まさか、あの人間?私が作らなかった優しさの感情が、あの人間によって芽生えたとでも言うのか?」

 

あの人形達はあくまで獣達への兵器として作りだした偶像(アイドル)…これではまるで使い物にならないではないか。まさか、獣共はこれを狙って…?

 

…神の神域を冒すだけでは飽き足らず、私の造形物をも…あの人間、どうしてくれようか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「メディスン! マナの恵み!」

 

 

指示を受けたメディスン人形は傷ついた体を天からの光を浴びることによって修復させる。

事前に「命の泉」を張り、さらに「毒壺」を持つことによって、タダでさえ高い散防のメディスン人形は最早軽い要塞と化していた。

それでも弱点なので危なくなれば「ミアズマ」と「マナの恵み」でひたすら耐え続け、相手を猛毒で戦闘不能にする。これはポケ〇ンでも中々嫌らしい戦法の一つだ。

 

「くそくそっ!何故倒せないのだ!? 火遊び で焼いてしまえ!」

 

苛立ちを隠せない埴輪兵士は闇雲に人形に指示を出し、こちらへ攻撃させ続けようとする。

だがミアズマを食らってしまい体力を蝕まれている人形は最早技を繰り出すことも出来ない。完全に動きが鈍っていた。

 

「 ダストボム! 」

 

その隙を一切見逃すことなく、メディスン人形に攻撃の指示を出し追撃させる。

メディスン人形は自身の周りに漂わせている紫の霧から毒の塊を生成し、相手にそれを直接ぶつけてダメージを負わせることに成功。

弱っていた相手の人形は耐えられるだけの体力は残っていなかったらしく、敢え無く気絶。戦闘不能だ。

 

…これで、48体目。実質の永久機関を作れたことはかなり大きいが、そろそろこちらも限界が近い。視界も段々とぼやけている…こんなに一気に人形バトルをするのはこれが初めてだ。

 

 

「成程、我ら埴輪兵団の精鋭達を次々と倒していくその強さ。君はどうもタダの人間ではないらしい」

 

「…――ッ!」

 

 

埴輪兵団の中から女性の声が洞窟内に響き渡る。

その声を聞いた兵団は一斉にその方向へ向き、そして畏まった。

 

「!だ、団長ッ!!?」

 

「ここは我らにお任せを!団長が出るまでもございません!」

 

どうやら声の主である女性は“団長”と呼ばれているらしい。通りで埴輪達の態度が全然違う訳だ。

だが部下の声を聞くことなく前へ前へと進んでいくその人物は、やがてはっきりとその姿を自分の前へと現した。

 

「お前達ではこの者に勝つことが出来ん。私が相手になろう」

 

ダブルお団子結びの金髪セミロング、同色の瞳、鎧のような黄土色の服、両腕には籠手が付いている。

まるで実際に戦うかのような…もう服というより、装備というのが正しい。そして手には周りにいる埴輪と同じデザインの棒上の何かが握られている。

今までにないタイプの住民だ。この兵団をまとめる者なのだろうか。見たところ、彼女は自分と同じ人の顔をしているようだが?

 

 

「私はこの埴輪兵団の長を務める、杖刀偶 摩弓(じょうとうぐう まゆみ)と申す。いざ、尋常に勝負!!」

 

 

 

 

 

 

摩弓が繰り出したのは、やはり彼女と同じ姿をした人形であった。

早速スカウターで見てみる。

 

 

『 名前:まゆみ  種族:埴輪  説明:主への忠誠心が強い 』

 

 

情報が出てきた。

 

まず最初に驚いたのが、彼女もあの周りにいる奴らと同じ“埴輪”であったことだ。

彼女を作ったであろう造形神は、何を思って人型埴輪を作ったのだろうか?

 

「先手を打たせて貰おう。 急襲(きゅうしゅう)!」

 

摩弓が指示を出したその瞬間、まゆみ人形が目の前から姿を消す。

不味い。スカウターの情報に気を取られていた…!一体どこに!?

 

「…そこだっ!!」

 

気が付くといつの間にかメディスン人形の背後にまゆみ人形が背を向けて立っており、手に持っている棒上の何かを構えると、それを思いっきり相手の背中に刺突する。

不意を突かれたメディスン人形は身体をよろめかせ、動くことが出来ない。大きな隙が生じてしまう。

 

「(し、しまった…!)」

 

 

「 今だ! 一閃(いっせん)! 」

 

指示を受けたまゆみ人形は棒状の何かの先端を右手、その下を左手に持ち替え構えた。

そして腰を低くして集中力を高め、またもや姿を消したかと思うとその場に僅かな土煙が舞い上がる。

 

切り裂くような斬撃音が静かに残響し、相手に背を向けた状態でまゆみ人形が姿を見せる。

 

右手には刃が付きだされた状の何かが握られ、軽く斜めに一振りし柄にあたるの部分を器用に何度も回すとゆっくりと鞘へと戻す。

完全に収めたその音が聞こえたその刹那、攻撃をされたメディスン人形は時が戻ったかのように致命的なダメージを負い、その場に倒れてしまった。

 

 

「 メ、メディスン!? 」

 

 

僕は慌ててメディスン人形の方へと駆け寄る。

…駄目だ。目を回して気絶してしまっている。完全に戦闘不能だ。くそ、あの時油断しなければ…!

 

…いや、冷静になれ。あの人形のスピードは例え目で追っていても対応出来なかっただろう。

「急襲」という技はスピードに優れていて、相手を必ずひるませる効果がある。どちらにしても、避けようがなかった。

人形の弱点…それも属性だけでなく攻撃のタイプまで的確に付かれては、例えディフェンススタイルでも一撃でやられてしまう。

あの人形、土偶だからといって「大地」属性ではないのか?複合タイプの可能性となると、しんみょうまる人形と同じという可能性も…?

 

「さぁ、次の人形は誰だ?」

 

腕組をしながら摩弓は次の対戦相手を志望している…まゆみ人形の方も同様に同じポーズだ。

さっきの「鋼鉄」属性の攻撃に相対するのならば、やはりこの人形だろうか?

 

気絶しているメディスン人形に一声かけ封印の糸に戻し、次の人形を繰り出す。

 

 

「 こがさ! 出番だ! 」

 

 

まだ相手の人形の攻撃範囲がいまいち掴めていない。ここは慎重にいかなければ。

 

純粋な強敵を相手に久々の緊張感を感じた僕は、思わず息を呑むのだった。

 

 

 

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