ソルジャー部隊として稼働し始めてどれほど経つだろうか。
部隊には発足以前からソルジャーとして治安維持の部隊に混ざり活動していた者達もいるが、ほとんどがソルジャーとしては新米であるため、ラザードとセフィロスはまず部隊強化が必要と判断し部下たちの訓練に勤しんでいた。
シミュレーターでの実戦を想定した訓練、治安維持の兵達との合同訓練の他にソルジャー個人の能力強化を重点においたソルジャー同士が直接対戦して行う訓練も行われている。
それは階級の上の者が下の者を指導したり、同じ階級同士で実力を示し合うなど隊員たちは互いに切磋琢磨して励んでいる様子だ。
セフィロスは総隊長として指導は満遍なく行っているが、実力差があり過ぎるのか、内容が厳しすぎるのか、あるいは単純に教えるのが下手なのか部隊内で直接本人に指導を頼んでくる者は多くない。
どちらかと言えば最近1stに昇進したアンジール、ジェネシス両名が模擬戦を挑んでくることが多く、時には二人同時に相手をする事もあるようだ。
その光景は時折、勉強のためと3rd、2nd達や一部の社内の人間に公開され、模擬戦とはいえソルジャー1st同士による戦いの次元の違いにただ圧倒されるばかりだという。
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「セフィロス、また剣を折ったのか……」
そう言って声を掛けてきた黒髪の男は対戦相手のアンジールだ。
あちらが放った魔法を剣で切り裂いたと同時に限界が来ていたのか俺の剣は刃が中心から真っ二つに割れていた。
「あぁ……
やはりおもちゃの剣では駄目だな」
「おもちゃの剣というが、そっちの使い方が激しすぎるんだ。
一応これでもソルジャーの支給品だぞ、そこまで粗悪品ではないはずだ」
折れた剣をジッと見つめる俺に対して構えを解き、まったくといった表情で説教を始めてきたアンジール。
自分の扱っている剣が壊れる場面は時々見られる光景である。
「俺の剣を見ろ、毎回しっかりと手入れしていれば問題なく使えるんだ。
そっちが手入れを怠っているんじゃあないのか?」
そう言ってこちらに近付いてきて見比べてみろと言わんばかりに自分の剣を目の前に差し出してくる。
「最低限の手入れはしているが……。
そっちこそ手の込んだ手入れをするくらいなら例のお守りを使ったらどうだ?」
彼が時々大事そうに磨いている、『オレ』とは因縁深い
「セフィロスも知ってるだろ、個人的な武器の使用は禁じられている。
それにアレは親が無理してプレゼントしてくれた大切なモノだ、消耗させたくない俺にはお守りにするのが一番なんだ」
「そうか、俺は親からプレゼントというのを味わった事が無いからな、羨ましいよ」
「おっと、そういうつもりで言ったんではない、気を悪くしたなら謝る」
俺の出生は神羅公表のプロフィールでは孤児となっている。
本当の事を明かせない科学部門の都合と英雄に神秘性を持たせたい広報側の目的が重なった結果だろう。
「気にしてない、大丈夫だ」
「スマン」
眉を下げ申し訳ないと言った表情をしているアンジールに気分を害していない事を伝えた。
それでもアンジールは持ち前の生真面目さからか謝罪の言葉を伝え、自分の剣を収めた後こちらの折れてしまった剣に目を向けてきた。
「しかしセフィロスが満足する武器などこの世にあるのか」
「アレならば……」
「その口ぶりから察するに何か心当たりがあるようだな」
俺の呟きに眼を鋭くしたアンジールが教えてくれとせがむようにこちらを見てきた。
『オレ』が扱っていた武器、身の丈程の刃を持つ刀【正宗】は残念ながらどのようにして入手したのかハッキリと覚えていない。
物心付いたときから振るっていたような気がするので時が経てば手元に来るだろうと考えていたらこのような事態になってしまった。
『オレ』が歩んできた歴史とは既に変わっているという事を加味せず安易に考えてしまった結果である。
現在は支給品の剣でなんとか凌いでいる状況だ。
アンジール程の愛着を武器に抱いているわけではないが、手に馴染んだ正宗が手に入るのなら早く欲しいものだと思ってしまう。
「俺達にこのガラクタは似合わないさ」
その時突然、明後日の方向から声がしたかと思えば、俺とアンジールのやりとりを傍目から眺めていた赤みがかった髪の男、ジェネシスが横から口を挟んできた。
「格の違いを敵に見せつけるために実力だけじゃなく見た目も大切だろう。
こんな地味な剣ではなく1stである俺達にはもっと相応しい武器が有るハズだ。
そう思わないかセフィロス?」
「確かに地味だな」
『オレ』の知っているジェネシスは柄に装飾が施された赤いレイピアを使っていた。
それと比べたら当たり障りのない普通のロングソードでは地味に感じるのも仕方ないと思い同意した。
「いやまて二人とも。
まずは部下の見本となるように振舞うのが大事だ。
個人武器を認めては規律が乱れるかもしれない」
俺とジェネシスを見て呆れた顔したアンジールが
「しかしアンジール、お前はあの大剣を出来る事なら戦場に持ち込みたいと言っているじゃないか。
使いもしない大剣を担ぐ姿はむしろ一番目立つと思えるが。
俺達にそんなことを言う資格はないんじゃないのか?」
「うっ……。
それを言われちゃ反論できない……」
正論を付かれ黙ってしまうアンジールを見てご満悦な表情を浮かべたジェネシスは、今度はこっちに向かって言い放つ。
「セフィロス、ラザード主任に直訴だ」
「そうだな。
アンジールの言い分も分かるがジェネシスの言い分にも一理ある。
それに俺自身、この支給品では満足に戦えない。
ソルジャー1stの総意としてラザード主任に要望を出そう。
二人ともそれでいいか?」
俺の提案にアンジールはため息を吐きながら「仕方ないか」と言って腕を組みジェネシスは「報告待っているぞ」と言ってニヤリと笑う。
二人はこちらの意見に同意したモノと見なしラザード主任に詳しく報告するため詳細な要望を聞き出すのだった。
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「新しい武器の要望?」
セフィロスから訓練報告を受けた後に要望があると言われ聞いてみれば、現在ソルジャーに支給しているロングソードでは不満があるらしい。
そしてその出所がセフィロス、ジェネシス、アンジールとソルジャーのトップクラスからであった。
「あぁ、俺の場合は武器の耐久度、ジェネシスは地味だと言っている」
「耐久度はともかく地味とは」
「まぁ最後まで聞いてくれ」
そう言われてよくよく聞いてみれば、弱い者が戦場で目立つのは自殺行為であるがソルジャー1stが行うのであればメリットもある。
敵からの注目を集めることで他の目的から注意を逸らしたり、こちらの脅威を相手に分かりやすく伝え戦意を喪失させるのに一役買う。
さらに好きな武器を使う事で気分が高揚し自身のパフォーマンスも上がるといった内容である。
「ジェネシスの一番の理由は最後だな」
「恐らくな、ただ間違った事は言っていないと思う」
「分かった、こちらで検討しよう」
「期待している、出来れば早急に頼む」
セフィロスにしては珍しくこちらに念を押すように頼んできたので内心驚いてしまったが顔には出さず報告を終えた彼を見送った。
これは絶対に期待に応えないとマズイと感じた私は迅速に行動を開始する。
その後、治安維持部門のハイデッカー統括に話を通して、調査した内容を会社に提出する資料として纏めている。
私なりにも検討を重ねたが、この件の許可を得るのは可能だと思っている。
ここ最近、3名のソルジャー1st達には神羅の広告塔にもなっている存在なので他のソルジャーと差別化されるのは神羅カンパニーに取っても歓迎すべき事なのだ。
存在を秘匿するような任務は基本的にタークスが請け負う案件であり、将来的にソルジャーが請け負うようになろうとも、その時は彼等とは別のソルジャーに命令を下せばいい。
そもそも今の1stは容姿が特徴的な上に大々的に会社がアピールしている存在であり、今更目立たないよう配慮することが難しい。
現時点で彼等に課されている一番の目的は
それを目の当たりにした味方は士気が上がり、敵は戦意を失う、活躍を聞いた民衆は彼等に魅了されるであろう……。
結果から言えばあっさりと承認を得られたのでそれを3人に伝えた。
それを聞いたジェネシスは早速見た目に関して自分好みの要望を出してきた。
剣を自分でデザインしたようで、絵も携えてきたのでそれを元にして発注を行った。
刀身が赤く、鍔に翼のような装飾が施されたレイピアが描かれていて、自身が愛読するLOVELESSという古典をテーマに、自分なりの解釈を加えて武器のデザインに昇華したと自慢げに語っていたのが印象に残っている。
アンジールは使用に関しては支給品のままで良いらしく、親から与えらえた大剣を戦場で担ぐ許可だけ求めてきた。
本人曰く「一人くらいは部下と同じ武器を使用する上司がいなくちゃ指導にも説得力が無くなるだろう」と言っていた。
確かに同じ武器を使っていて活躍している1stが居るというのは2ndや3rdにとって見れば武器の扱い方の見本になるし親しみも湧く。
部下の事まで考えて自分の武器を選ぶとは、と感心していたら「本音はただの貧乏性なんですがね」と言っていたがそちらは聞かなかった事にした。
問題はセフィロスである。
彼が自分の身長と同じかそれ以上に近い刃を持つ丈夫な刀と言ってきた時は聞き間違えたかと耳を疑った。
「刀……だと?」
「そうだ、刀がいい」
思わず聞き返してしまったが返答はやはり【刀】であり、私の耳はどうやら正常だったようだ。
【刀】と言うものを知らないわけではない、知っているからこそ疑問に思ったのである。
ウータイ地方に伝わる、独特の製法で鍛え上げられた細く反りの入った剣の事だ。
切るという事に特化し、その高い切れ味は物によっては鉄すらも一刀両断するという。
しかしその反面耐久度があまり高くなく、刃こぼれしやすいというデメリットもある。
おまけに彼の希望する刃渡りの長さの物は聞いたことが無い。
「セフィロス、君の要望は耐久性のある武器だと聞いた筈だ。
刀と言うのはいささか希望する条件と合わないと思っているが?」
「一般的な刀ならそうかもしれんが、俺の実用に耐えうる刀は存在するハズだ。
たしか【正宗】という銘だった気がする。
すまないが調べてはもらえないだろうか」
「分かった、期待に沿えるよう努力しよう……」
はっきりとした回答は出来なかったがソルジャーの筆頭であり、一番貢献してくれているセフィロスの希望はなるべく叶えて上げたい。
だが兵器開発部門の武器に詳しい者に聞いたり、会社の資料を漁ったり、時にはスラムで武器の闇ルートを探ってみたが【正宗】という刀の情報は掴めなかった。
本来ならば刀の本場であるウータイで調査も行いたいが、神羅がウータイと戦争を始めてしまっているのであちらに出向いて調べるわけにもいかない。
「いかん、お手上げだ」
自分のデスクで額に手を当て、ため息を吐く。
耐久度だけならばバスターソードみたいな大剣を支給する事は可能だし、多少の耐久性を持たせた刀の支給も出来る。
だが、あのセフィロスが希望する刀だ、生半可な耐久性では満足しないだろう。
その時、デスクの内線が鳴り響く。
セフィロスへの説得はどうしたものかと考えていた脳を一旦切り替えて、やれやれと言った表情で受話器をとった。
《ラザード主任、社長がお呼びです。
至急、社長室まで御出でください》
声の主は社長の秘書であり、こちらの予定の配慮など一切なく淡々と業務命令を伝えてくる。
プレジデント神羅が幹部でもない者を直接呼び出すなど、滅多にない事である。
一瞬私の目的がバレたかと頭をよぎったがバレるような心当たりはない。
目的については口外した記憶はないし、地盤を固めるために出世に励んでいただけで、今の所は
だが、呼ばれた以上は余程の理由もないこの状況じゃ断る事も出来ず、呼び出しに応じるしかない。
「わかりました、すぐに向かいます」
そう言って内線を切り受話器を元に戻す。
刀か耐久度、どちらかは諦めてもらうための理由は後回しだ。
私は意を決して社長室に出向く事にした。
ほんとあの刀の出所はどこなんでしょうね
ジェノバと融合したセフィロスはその場で生成してましたが。
少なくともソルジャー時代に使用していた現物は有るハズ。