会社からあてがわれた私室の窓に魔晄炉から溢れ出た淡い光が差し込むと、左手に持った正宗の刀身が輝く。
新しく支給された専用の制服、ショルダーアーマーのついた漆黒のロングコートを身に纏う。
コートの内側に追いやられた髪を外へと逃がせば、すでに腰に届くほどの長さとなった銀髪が現れる。
部屋には大きな姿見が備えつけられており、そこに目を向ければ、今とは違う時を歩んだ
「お前は今の俺を見てなんと言うのだろうな?」
鏡に映る己に言葉を投げかけるが当然向こうからの返答などはありはしない。
しかし頭の中ではオレが『虚しいな』と俺を嘲笑っているような感覚に陥る。
正宗を両手で持ち、静かに左頬付近で構えた。
鏡のオレも同じように構え、互いに微動だにせずに相手の目を睨み続ける。
閉ざされた空間で行き場を無くした空気がヒシヒシと皮膚を通してのしかかってくる。
沈黙が続く中、お互いが痺れを切らしたのか同時に口を開くが、声を発したのは俺だけだった。
「お前は俺であり、オレはお前だ。
過去を含めて全てを無かったことにはしない。
だが同じ道を歩む気はない」
構えた正宗をいっそう強く握りしめ、いつの間にか相手に向けた視線には殺気が宿っている。
傍から見れば己を見つめなおす、自分との対話など一種の自己啓発とも取れる行いだろう。
だが自分は時折、同一人物で有るハズの『オレ』が湧き上がってくるような感覚に苛まれる事がある。
「俺の邪魔をするな」
殺意を込めて言葉を放てば、どうやら気圧されたのか『オレ』は消え失せた。
俺は文字通りの意味で
張り詰めていた部屋の空気が徐々に穏やかになっていくのを肌で感じる。
それはあたりまえで、閉め切っていた部屋の入り口がいつの間にか解放され淀んでいた空気が流れ出ていたからだ。
部屋の扉が開いている事を、俺はその開いた張本人に声を掛けられてやっと気付いたのだった。
「セフィロス……何やってるのかな?」
いつの間にか俺の部屋に入り込んでいた少女が不思議そうな表情を浮かべこちらを真っ直ぐ見つめている。
「エアリスか、何時からそこに居たんだ?」
「ん~その長-い武器を構えたあたりからかな」
「そうか、何故声を掛けなかった?」
腰に手をやり、やれやれといった面持ちで疑問を返せば、エアリスは申し訳ないという顔を俯かせ理由を述べてくる。
「ごめんなさい。
ノックしても返事がなかったんだけど、中から声がするから勝手に入っちゃって。
声を掛けようとしたら『俺の邪魔をするな』っていうから……」
「それはエアリスに向けた言葉じゃない、気にしないでくれ」
彼女はこちらの返答を聞くと安心したのか笑顔になる。
「そうなんだ、なら良かった。
セフィロスがすっごく真剣な顔してたから私迷惑かけちゃったかなと思ったんだ。
でもそしたらホントに何やってたの?」
「……気にしないでくれ」
アレを言葉にして説明するのは難しいと思うので俺からこれ以上は触れないでくれと目で伝えるよう仕草をした。
晴れ晴れと明るくなっていた表情のエアリスが今度は「ふぅ~ん」と何かを察したような表情になり顎に手を当てる。
俺の姿を頭からゆっくりと足元に向かって観察していき、折り返すようにまた視線を戻すと俺の顔を見て「うん!」と頷く。
「その新しい衣装、良く似合ってるよ」
と無邪気な笑顔を向けて、俺の行なっていた事の追及はそれ以降してこなかった。
エアリスがこの姿の俺を見るのはたしかに初めてだったかもしれない。
何を察したかはわからないがそれ以上聞いてこないならばそれで良しと納得し、話題を変えるため部屋に訪れた理由をエアリスに尋ねた。
「どうして俺の部屋に来たんだ」
「あ、お母さんの検査の付き添いで神羅ビルまで来たんだけどね。
最近セフィロスが家に来ないからどうしたのかなーって思って」
「ソルジャーの部隊が部門に格上げされたからな、俺も一応部門の主任という事になって仕事に追われていたんだ」
「へぇ~そうなんだ、セフィロスでも仕事に追われることあるんだねー」
意外!とでも言いたそうに後ろに手を組み首をかしげてこちらの顔のぞき込んでくる。
エアリスの透き通った翡翠色の瞳が俺の冷たい魔晄色の目を捉える。
「書類仕事は中々慣れなくてな。
「昔、サボってたんだ」
俺から少し離れ、エアリスがフフッと口元を抑えて笑っている。
「あぁ、最近顔を出せなかったのはそう言う理由だ。
ガスト博士とイファルナさんの様子はどうだ?」
「お父さんはすっごく心配してるよ。
お母さんは『あの子なら大丈夫よ』って言ってたけど気にしてるみたい。
そうだ、今、お父さんの所に来てるんだから顔見せてあげてよ」
ガスト博士は毎日神羅に出勤しているはずだが、タイミングが合わないのかここの所会えないでいた。
イファルナさんは恐らく古代種関連の検査でガスト博士の研究室に居るのだろう。
エアリスが俺の手を引っ張り「一緒に行こうよ」とせがんでくる。
そこまでするならばと俺も二人に顔を見せねばなるまいと正宗を部屋のロッカーに仕舞い、エアリスと共にガスト博士の研究室を目指すのだった。
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最近家にセフィロスが来てくれないから、こっちから押しかけたら、前まで着ていた他のソルジャーの人たちと同じ制服じゃなくなって、真っ黒なロングコートを着て長い剣を持っていた。
鏡の前でポーズを取っていたのは新しい制服を自分にお披露目していただけだよね。
今までの雰囲気と少し変わった気がするんだけどそれは服装が変わったから、だからきっと気のせいだよね。
若干憂鬱な気持ちになっていた私を気遣ってなのか、お父さんの研究室に向かう途中セフィロスは私の事も「最近どうだ?」って聞いてきてくれた。
「最近星の声がね、お母さんより良く聴こえるんだ」
「セトラの星読みか」
「うん……お父さんや宝条博士が言うにはお母さんの方がセトラとしての能力が高いみたいなんだけどね。
お母さんは私が
「あまり嬉しそうに感じないな」
「だって」と言いかけて隣を見ると腕を組んで浮かない表情になっていくセフィロスが映ってしまいしまったと思う。
心配して声を掛けてくれたのに更に不安させてどうするの、と頭の中で自分に叱責される。
明るい話題を提供するため記憶をかき回し、駅で出会った同い年くらいの男の子の話を選択する。
「ん~あとね駅で財布落として困ってる男の子がいてね、一緒に探してあげたんだ」
「見つかったのか?」
私の歩く速度に合わせて横を歩くセフィロスがこちらに顔を向けてくる。
女の子と肩を揃えて歩く英雄が珍しいのか、周りを見ればすれ違う神羅の社員達はチラチラとこちら見てくるのでちょっと得意げな気持ちになる。
「うん、無事に見つかったよ。
その男の子、ソルジャーになるためにミッドガルに来たらしくて『俺の英雄になる夢が始まる前に終わらなくて良かったー』って言ってた。
そういえば名前聞くの忘れちゃった」
「成る程な、恐らくエアリスとソイツはまた会うだろうから心配するな」
「あれ、心当たりあるの?
あ、新人ソルジャーにもしかして居たりする?」
私は胸の前で両手を合わせ閃いたかのように聞き返すと、穏やかな表情でセフィロスが「あぁ」と頷いてくれた。
「アンジールが活きのいいのが入って来たと言っていたから多分そうだろうな」
「そうなんだー、無事にソルジャーに成れたってことはちゃんと夢に向かってるんだね」
彼の夢が続いている事がまるで自分の事のように嬉しく思い頬がゆるむ。
その様子を見ていたセフィロスが口を開く。
「エアリスは何か夢はあるのか?」
夢と言われても今の私は普通が一番という凡そ思春期の女子らしからぬ幸せを感じている。
「普通が続く事かな。
お父さんが居てお母さんが居てそれからおにい……」
喉まで出かかったセフィロスへ伝えようとした言葉を慌てて飲み込む。
セフィロスは私にその言葉で呼ばれることを酷く嫌がるの。
だから昔はそう呼んでたのに物心ついたときは名前で呼ぶようになった。
変な所で言葉が途切れてしまったので不自然に話題を変えるかたちになってしまうけど話を続ける。
「そ、そうだ!
エルミナさんのところに教会のお花を植えたんだ、このミッドガルでもお花が育つ場所がちゃんとあったよ」
「そうか、スラムへ行くのは気を付けるんだぞ」
自分でも強引過ぎるなと頭で反省してみるも、セフィロスは気にもせず私の話に合わせてくれた。
エルミナさんというのは私がまだ小さいころ、間違えて列車に乗ってしまい伍番街スラム辿り着いて途方に暮れていた時に声を掛けてきて保護してくれた人だ。
その後、家族で改めてお礼を言いにエルミナさんの家に訪れた時、プレートの隙間から指す光が大地を照らす幻想的な雰囲気に幼い私がその場所をとても気に入ってしまいそれ以来、時々お邪魔している。
最初の頃はお母さんと一緒だったけど今は一人で訪ねる事も多くなった。
「お父さんはかな~り心配性なんだけど、セフィロスはお母さんと一緒の意見でスラムへ行くことは許してくれるんだね」
「エアリスは強いからな」
「もう、どういう意味それ」
むすっとした顔の私を他所についでに思い出したかのように「タークスも見張っているしな」と呟きながらクックックッと笑うセフィロス。
知らない人が見れば私を揶揄っているように見えるかもしれない。
でもセフィロスは本気で私が強いと思っているんだ。
伍番街スラム駅に迷い込んだ時、一切泣かなかった私を見てるから。
エルミナさんもやって来たお父さんやお母さんに『強いお子さんですね』って言ったから。
でも本当はエルミナさんに保護された後も怖くて、心細くて、もうちょっとで泣くところだったんだよ。
だけどセフィロスが誰よりも真っ先に駆けつけてくれて、駅舎で
『もう大丈夫だ』
って初めて頭を撫でてくれた時、悲しさより嬉しさで零れ出す寸前だった涙で頬を濡らすことはなかった。
安心したら涙が出るって言うけど嬉しさが勝ると私は違うみたい。
物思いに耽っていたけど、いつの間にか私とセフィロスはエレベーターに乗っていて科学部門のお父さんの研究室はもうすぐという所まで来ていた。
二人っきりも終わりが近づいてきたので最後にどうしても聞いておきたかった事を質問する。
「ねぇ、次はいつ家に来れるの?」
「仕事が一段落したら必ず行こう」
「約束?」
「約束だ」
セフィロスがハッキリと
私達家族の前で聞けば家族との約束になってしまう。
だけどこれは私との約束だ。
星はセフィロスに対して何故か警戒をするように語り掛けてくる。
――それがイヤだ。
血が繋がってないから家族じゃない。
――それは違う。
『俺はエアリスにそう呼ばれる資格などない』
――そんなことない。
せめて心の中だけでも勝手に呼んじゃうから。
約束守ってよね、お兄ちゃん
FF7の没案にセフィロスとエアリスが兄弟という設定がありましたのでやってみました。
因みに初期案の原稿読むと姉がエアリスなんですよね
一部抜粋するとエアリスを生んだ母親が神羅に捕らわれてセフィロスを生むという設定だそうで。
そして没案では父親はどういう設定になるのか気になりますね
セフィロスとのやりとりが見たいキャラ
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エアリス
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イファルナ
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ガスト博士
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宝条博士