本日をもって下記のとおり人事発令を実施する。
・ソルジャー・クラス2nd カンセル
・ソルジャー・クラス2nd ザックス
以上。
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「よっしゃぁー!」
先日受けた昇格試験の結果をメール通知で受け取って見た瞬間に思わず拳を作り叫んでしまった。
「ザックス、気持ちは分かるが場所を考えろよ」
俺と一緒に試験を受け、同じく3rdから2ndへ昇格した同僚カンセルが、呆れた顔で窘める。
それもそのはず、ここは神羅カンパニーの食堂で時刻もちょうどお昼時。
人が多く、突然の発声に周りの社員から何事かと注目を集めてしまったようだ。
「おぉスマンスマン。
でも嬉しくってさー、二人そろって昇格出来てよかったな」
「それについては同感だ、ただ他の奴らは落ちてしまったみたいだな」
先日の試験は俺達以外にも3rdが何名かいたが通知には記載されていないのでカンセルの言う通りなのだろう。
もし、あの場に居た全員が昇格出来ていれば、皆でミッドガルの街に繰り出して昇格のお祝いでもしたかったが現実はそう甘くはない。
ただ、待ちに待った2ndに昇格出来たのだから与えらえる権利は最大限活用したいと思う。
「なぁカンセル、全員では無理だったが折角だし二人で街にでも行くか?」
今まで散々抑圧されていた欲があふれ出し、目の前に座っている同期を誘ってみる。
そんな俺達二人の様子を見ていたのか、何処からともなくある男が声をかけてきたことで計画が脆くも崩れ去っていく。
「昇格直後に遊びに行くのは感心せんな」
「うわっ!アンジール、いつの間に!」
男はソルジャー・1stのアンジール。
後輩の面倒をよく見てくれる人物で俺やカンセルも任務に始まり戦闘訓練や指導でも大変世話になっている人物だ。
「いやいや遊びに行くわけじゃないというか……
ちょーっと自分達へのご褒美が欲しいというか……」
「ち、違います。
ミッドガルの街が襲われた場合を想定して、構造を把握するためパトロールを実施しようかと」
浮かれている所を目撃されて説教が始まると思い、慌てて言い訳をする俺達。
しかし焦っているので、どちらも整合性のないチグハグな内容になってしまう。
「おっと、別に怒るわけじゃないから安心しろ。
むしろ適度に羽目を外すのは大事だ。
3rdから昇格したのなら尚更今までの分も楽しんだ方がいい」
「なんだよー、よしそれならさっそく…「しかしっ!」
説教が無いと分かり安堵した俺が思わず口から出た言葉を強い口調で遮ぎったアンジールは話を続ける。
「手続きをしっかりしてからだ。
昇格した者へ追加の連絡も来てるはずだからちゃんと確認はしろ。
遊ぶのはその後でも遅くはない」
「あ、本当だ。
追加でメール来てるぞ、ザックスも自分の携帯見てみろよ」
上司から指摘され自分の携帯を覗き込んでメールを見つけたカンセルが俺にも早く見るように促してくる。
先ほどの人事発令の通知画面で静止していた自分の携帯を急いで操作すると【2nd昇格についての連絡】というタイトルのメールがしっかり届ているのが確認出来た。
目を通せば、早急に身分証明であるカードの更新と2nd制服の受領のためソルジャー司令室来るようにという内容の指示が書かれていた。
「いいか二人とも。
3rdと違って2nd以降は単独の任務を命じられる事もある。
同じ部門の上司や仲間が居ないというのは間違いを指摘してくれる者が居ないという事だ。
確認は絶対に怠る事のないようにな。
そしてザックス、カンセル、昇格おめでとう」
そう言って立ち去っていくアンジールに俺達は「「ありがとうございます」」と一礼をする。
その後、席に着き食べかけの昼食を二人そろって口に掻っ込んで片付け、件のメールに従ってソルジャー司令室に向かった。
「本日をもってソルジャー・2ndと任命されましたカンセルです。
連絡を受けただいま参上致しました」
「ソルジャー・2ndザックス、同じく参りました」
エレベーターを抜け、扉の無い司令室に入るとラザード統括がこちらを直視しており、俺達が名乗りを上げたのを確認してから口を開いた。
「うむ、素早い対応で良い。
早速だが二人のカードを更新するのでこちらへ。
制服についてはブリーフィングルームに用意があるので今のうちに着替えてきてくれ」
「承知致しました」
「わかりました」
統括に身分証であるカードを手渡し、ブリーフィングルームへ行く。
ブリーフィングルームは奥に作戦の打ち合わせを行う部屋と手前に出撃準備を行う部屋に分かれている。
手前の部屋には複数のロッカーが設置されていて、2nd専用ロッカーを開ければ同クラスの制服が並んでおり自分のサイズに合うものを手に取った。
長らく愛用した水色の3rd制服とも今日でお別れだ。
「2ndの制服は赤紫か、中々いい色だな」
「聞いた話によると敵の攻撃で色落ちすることもあるらしく、最前線の2ndの制服は青紫っぽくなるそうだ」
制服に袖を通しながら色合いに率直な感想を述べてると、情報通のカンセルが豆知識を披露してくる。
「つまり歴戦の証みたいなもんだな!」
「違う、前線は洗濯剤の漂白成分が強すぎるだけだ」
一部の1st達のように目立つ服装ではないが他とは違う色合いとなる事に特別感を見出し、楽観的な意見を口にしたら間髪入れずに否定する人物が奥の扉から現れた。
頭に過ぎった目立つ服装の一人、ソルジャー・1stジェネシスである。
「お前達、その制服を洗う時は注意しろ。
使われている染料が違うからな」
「えっと……」
予想外な大物の登場に返答しようにも何を言えば良いのか迷っていると、彼は返事も聞かずさっさと部屋から出て行ってしまった。
「赤い服を常に綺麗に着こなしているあの人らしいアドバイスだったな、ザックス」
「お、おぅ……」
戸惑っている俺を見かねて納得させるようにカンセルが発言する。
ちょっとしたイベントは有ったが着替えも終わったので司令室に戻ると丁度カードの更新も終わったらしく、ラザード統括がそれを差し出してくる。
「これで君達についての情報も正式に2ndとなったわけだ。
会社も信用出来る者達と判断したことになり外出も基本は自由となる。
改めて言う事でもないが、ソルジャーであるという事を忘れず節度を持ち行動すること」
統括は澄ました顔でこちらにソルジャーとしての振舞いを説いてくる。
受け取った自分のカードに目を落とせば2ndの文字が刻まれているのが確認できた。
身分証にしっかり記載されたことで自分が2ndになったという実感がより強くなりカードをじっくり見てしまう。
その時、この場に居なかった者の声が後ろから聞こえてきた。
「新しい2nd達か」
声にびっくりして後ろを振り向いてみると、そこには神羅の英雄で最初のソルジャー・1stセフィロスがいつの間にか姿を現していた。
「相変わらず来るのが早いね君は」
「遅いよりはいいだろう」
なぜここにという疑問が喉から出掛かったが統括の言葉がそれを押しとどめた。
セフィロスが当たり前だという態度を示しながら言葉を返す。
今日ほど1st達から声を掛けられる日は初めてかもしれないなと考えながら二人のやり取りを眺めていると、英雄の目が俺達を捉える。
「名前は?」
セフィロスとは入社式などで直接見たことは何度か有るが、このように近い距離で会うのは初めてだ。
その為カンセルと共に自己紹介をした。
俺達の名前を聞いて彼は確認するかのように名を呼んでくる。
そのついでに難問も付け加えて。
「ザックスとカンセルだな。
二人が目指しているものはなんだ?」
2ndになったばかりの俺達に心構えを聞いているのだろうか。
「えっと…その、はい一応1st…です」
隣のカンセルは緊張している様子で言葉を詰まらせながらもなんとか返答する。
自分も憧れた人物が目の前に居るこの状況で若干緊張はしたが、俺の夢は別に恥ずべきことではないと思い堂々と発表する。
「俺の夢は英雄になることです!」
それを聞いたカンセルは焦ったような表情になるが、セフィロスは一切表情を変えず「そうか」と頷き、統括は「フフッ」と不敵な笑みを浮かべる。
少しの間、司令室に沈黙が漂ったが耐えきれずにカンセルが恐る恐ると言った様子で質問をする。
「あの……
なぜ、セフィロスさんがここに?」
カンセルの問いにセフィロスは単刀直入に事実のみを告げてくる。
「この後、統括とウータイでの軍事作戦について打ち合わせがある」
「そういうことだ。
ここからは、公開制限がかかっている情報もあるため悪いが二人は退室するように」
現在神羅と戦争中であるウータイにはまだ出動した事はないため非常に気にはなる。
しかし上司の命令とあっては素直に従うしかなく二人して「「では失礼致しました」」と出て行こうとした。
その時セフィロスが俺達にある提案を伝えてくる。
「もし上を目指す覚悟があるならば何時でも鍛えてやろう」
「「はッ!ありがとうございます」」
突然の申し出に二人そろって頭が混乱したのか、なんと返していいのかわからず感謝の言葉だけ伝えてそそくさとその場を後にしてしまった。
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「セフィロスはああ見えて面倒見が良いんだ。
本人の雰囲気が近付き難い感じだから勘違いされやすい」
あの日から数日が経ちアンジールとの訓練中にセフィロスから言われたことを聞いてみると、どうやら英雄はソルジャーがまだ部門ではなかった頃は部下の戦闘指導を積極的に行っていた様だ。
「しかしだな……」
「しかし?」
何か歯切れの悪いアンジールに不安を覚える。
何故なら自分なりに考えた結果、英雄になるため英雄に指導を受けるのは近道ではないかと思い、あの後に改めて伺い戦闘訓練をセフィロスにお願いして来週には指導してもらう予定だからだ。
「あいつは中々の苛烈な指導だから覚悟しておけよ」
アンジール曰く、訓練の具体的な例として敵を一撃で仕留めろと手本も無しに指示してくるそうだ。
「それって苛烈と言うより下手なんじゃないか?」
思った事をアンジールに問いただすも、否定も肯定もしなかった。
自分の中で不安と困惑が入り交じった感情になっていく。
「まぁザックスなら大丈夫だ。
……多分」
「多分ってなんだよ!」
こちらの心情を察してか励ますつもりでアンジールは言ったのだろうが最後の一言は余計だとツッコんだ。
あの日の事をカンセルは心臓にヘイストを掛けたようだと言っていたが俺はストップが掛かるかもしれない。
そんな思いを抱きながら訓練までの数日を過ごしたのだった。
しばらくザックス目線かも