鈍重な車輪がプレートに敷かれたレールを踏みしめる。
このミッドガルの物流を任される列車は物資の運搬は勿論の事、人々の移動手段も請け負う重要な交通機関だ。
車やバイクといった比較的余裕のある住民が利用するものと違い、決められた切符代を支払うのなら乗客の
先程まで乗っていた列車が駅のホームから離れていくのを見送り「さてと」と一息つく。
俺は子供の頃ゴンガガ村で別れたオッちゃんとの再会を果たすため伍番街スラムに足を運んでいた。
本来ならばもっと早くスラムに向かいたかったのだが、2ndに成りたてにも関らず、任務に訓練とこれでもかと予定を詰め込まれ、中々自分の時間が作れなかったのだ。
正直、休み自体はあったのだけれどセフィロスの指導が厳しくて、慣れるまで休みは一日中爆睡してるなんて事はザラだった。
とは言えアンジールに事前に聞いていたので覚悟はしていたし自ら申し出た事でもあるので投げ出すつもりは一切ない。
同期のカンセルも俺より頻度は少ないが必死で頑張っているため互いに励まし合いながら続けられる。
なによりあの英雄が稽古をつけてくれる、またとないチャンスであり存分に活かすつもりである。
……ただ先日のシミュレーター訓練で神羅軍100人組手は流石にキツかった。
死に物狂いでなんとか目標達成したが、その後セフィロスが
『いずれは1000人組手を数回連続で行ってもらう』
と、鬼のような課題を提示してきた時は一瞬相手の正気を疑った。
いくら何でも無茶苦茶だと反論したが、向こうはそれくらい出来て当然だという態度を示すので自分の開いた口が塞がらなかった。
『ザックス、
神羅軍1000人以上をたった一人で相手にする万が一ってなんだよっ!と思わず声を張上げたが『そのままの意味だ』としか言わないセフィロス。
その訓練を必ず行ってもらうという真剣な眼差しを向けられて俺の口からは乾いた笑いしか出なかった……。
ちょっと思い出してブルーな気持ちになってしまったが、切り替えてオッちゃんに会いに行こう。
数年ぶりの再会であり、元気よく会いにいかなくてはあっちも心配するだろう。
しかし目的地を目指して歩いていたつもりなのに何故か一向に辿り着かない。
「これってもしや迷子?」
まるで他人事のように呟きながらスラムを彷徨っている状況である。
一応、ホームを出た後に近くの人に「ゲインズブールさん家って何処ですか」って尋ねて大体の場所は教えてもらったのだけど、元々土地勘のないスラムじゃ地元住民の大雑把な説明を正しく理解できるはずもなく迷ってしまったようだ。
なんとかなるだろうと変な自信を持たず、もっと詳細に聞いておけば良かったと後悔してもすでに遅い。
仕方がないので来た道を戻ろうと思うが、考えながら歩き回ったせいか帰り道が分からない。
慌てて辺りを見渡しても人もおらず道を聞くことも出来ない。
「まいったな……」
頭を手で掻き途方にくれながらもう一度周辺を見回せば古びた教会が目に入った。
「迷える子羊に道を示したまえって奴か」
教会の外見からはとても人が居そうな雰囲気ではないが、他に選択肢があるわけでもなく駄目元で扉を開けてみる。
中に入ると至る所が朽ちて、さらに中央付近の床板は捲れて地面が見えておりそこから花が咲いていた。
外見からは想像も出来なかった貴重なモノを見つけ、興味本位に近づいてしゃがみ込む。
「へぇ、花なんてミッドガルじゃ高級品だよなぁ」
鋼鉄に覆われたこの巨大都市では花が自生してるなんて事はまずない為、物珍しさに思わず手を伸ばし掴み取ろうとした。
「待って、それまだ蕾」
その時何処からともなく少女の声で注意を受けて思わず顔を上げれば目の前にはいつかの天使が居た。
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教会のお花の世話を一通り終え、道具を奥の部屋に片付けて戻ると、お花の場所に見慣れない人が居た。
警戒して様子を探っていたら咲きかけてる蕾を摘み取ろうとするので慌てて声を掛けた。
私の声でこちらに向けた顔を見ると、いつかの駅で財布を落として困っていた男の子であり、第一声が「天使?」と言われて思わず笑ってしまった。
「残念、私はエアリス」
後ろで腕を組み、彼の顔を見下ろす形で自分の名前を伝えると、男の子も立ち上がる。
「俺、ザックス。
あの時、財布を無くして困ってた俺を助けてくれたんだから天使さ」
「おもしろい事言うのね」
どうやら向こうも初めて会った時の事はしっかり覚えていたみたいで、ようやく彼の名前を知ることが出来た。
ザックスの発言に顔をほころばせば、向こうも白い歯を見せてキザったらしく微笑んだ。
お互いの自己紹介も済んだところで、何故この場所にいるのかという疑問が当然のように出てくる。
「ザックスはなんで教会に居るの?」
率直に尋ねて見れば、どうやらある人を探していたら道に迷ってしまったという。
探している人物を聞いてみれば、「ゲインズブールって人だ」と言い自分も良く知る者の名前であったから驚いた。
「ザックスが探している人が住んでるとこ、私知ってるけど一緒に行く?」
「おっマジ!?
助かるよ、是非お願いします」
「いいよ、じゃあ行こう」
すでに教会での用事は済んでおり、ザックスの返答に頷き二人そろってその場を後にした。
目時地に向かう道中、彼はエルミナさんの旦那さんをなぜ探していたのかと言うことを話してくれた。
オジさんとの再会も数年ぶりなのであの頃に比べ成長し夢に向かって突き進む自分を見せて驚かせてやるんだと綺麗な目を輝かせて語るザックス。
それを聞いて私は、そんな
それにしてもどこかの英雄と違ってこんなに底抜けに明るくお喋りなザックスを見て同じソルジャーでもこうも違うのかと感じてしまう。
「それでやっとの思いで2ndに成ってさ、さぁオッちゃんに会いに行くぞって思ってたらもう任務や訓練が盛りだくさん。
おまけにセフィロスの指導がもう厳しいのなんのって、参っちゃったよ」
「それでオジさんに会うのが遅くなっちゃったんだね」
ザックスの話す内容は次第にソルジャーに成ってから今に至るまでの事に進んでおり、私と馴染み深い人物の名前も登場するようになっていた。
彼の話は面白くて私はただただ相槌を打つばかりで自分の事はあまり話さなかった。
もしかしたら少し特殊な出生や現状である私は距離を置かれるのが怖かったのかもしれない。
向こうはそれを察したのかどうかは分からないが無理に聞いてくると言う事はせず、ただ沈黙時間も作らせないよう私を楽しませようとしてくれてるのが分かったので申し訳ない気持ちになったがそれと同時に嬉しくも思った。
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エアリスに連れられてオッちゃん
まだ会って2回目だし、元々話すのが苦手なのかもしれない。
それに人それぞれ事情ってもんがあるので、彼女から話すまでは俺が聞き出すのは良くないと思う。
こちらばかりの話で申し訳ないが相手への質問攻めになるよりはマシだろうと出来るだけ自分の話で間を持たせた。
その間にも目的地へはどんどん近付いていたようで、そのうち開放感のある場所に到着した。
2階建の家が一軒存在しており、周りは故郷のゴンガガのように緑が生い茂って花が至る所に咲いているので本当にミッドガルなのかと疑ってしまうが、見上げればその証拠に上層プレートの先端が見えており、ここは中心部から端の方だというのがわかった。
「ここがザックスの探してた人の家」
そう言ってエアリスは玄関の前に立ちコンコンっとノックをした。
「こんにちは、エルミナさん」
事前に聞いていたオッちゃんの奥さんの名前をエアリスが呼ぶと家の中から「はいよ、ちょっとお待ち」と声がした。
しばらくして扉が開くと、大きなお腹を抱えた女性が現れる。
「いらっしゃいエアリス。
……っとそっちの人は誰だい?」
出てきた女性はエアリスに向けた笑顔のまま俺をチラッと見る。
「オジさんの知り合いだって人を連れてきたの」
「初めまして、俺はザックスと言います」
エアリスが掌を俺に向けるので、自分の口から名前を伝える。
それを聞いた女性は少し考える素振りを見せ、何かを思い出したかのように手を叩く。
「あんた、もしかしてゴンガガ村のザックスかい?」
「えッ! 俺の事知ってんの?」
「知ってるよ、うちの旦那が『ザックスはいつ会いに来るんだ』なんて時々ボヤいていたからねぇ。
あの人は今、ちょっと仕事で出かけてるけど暫くしたら帰ってくるから上がって待ってて頂戴」
そう言って彼女は俺とエアリスを自宅に招き入れる。
入る間際にエリアスが肘で俺の脇腹をつつき「覚えてたみたいで良かったね」と小さな声で呟いて俺より先に家へ入っていった。
入ってすぐにリビングがありダイニングテーブルに座るよう促されたのでそこに腰を下ろす。
周りを見渡せば綺麗に整頓されており、内装はシンプルながらも堅実なデザインである。
そういえばオッちゃんは元大工だった事を思い出した。
すでに治安維持部門に居ない事は知っていたので、また大工の仕事でもやっているのかなと考えていたらエルミナさんが「お茶でも淹れようか」と言って台所に行こうとする。
するとそれを見ていたエアリスが待ったをかける。
「エルミナさん、私が淹れるからいいよ。
だからゆっくりしてて」
「でも場所はわかるのかい?」
「ティーセットはコンロの上の右の戸棚でしょ、紅茶葉はその左」
遠慮するように言ったエルミナさんの言葉を、知ってるよといった得意げな顔で返すエアリス。
「それじゃ、お願いするねエアリス」
彼女から了承を得たエアリスは早速台所でお湯を沸かし準備を始める。
それを見てエルミナさんは自分の座ってる対面に着席して、傍からずっと二人のやり取りを眺めていた俺に向かって言うのだ。
「あの子は言い出したら頑固なところがあるからねぇ」
と微笑みながら。
オッちゃんが帰ってくるまでの間は二人から色んなことを聞いたり自分の事を話したりした。
エルミナさんが子供を身籠ったのでエアリスが心配して時々様子を見たり買い物や家事のお手伝いに来たりするそうだ。
だから他人のキッチンなのに勝手を知っているんだなと納得する。
そしてエアリスの淹れてくれた紅茶が丁度飲み終わる頃、タイミングを見計らったかのように待っていた人物が帰って来たのだ。
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「今帰ったぞー」
やや疲れた様子のオジさんが玄関の扉を開けて帰ってきた。
肩に担いでいた大工道具を玄関の脇に下ろすと拳で腰を叩きながらこちら見る。
「よぉエアリスの嬢ちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔してます」
丁度私が影になってザックスが見えなかったのか、こちらにだけ声を掛けてきたので立ち上がってお辞儀をする。
しかしオジさんは明らかに見えているであろうザックスには特に反応もせず、ただ近寄って行った。
「オッちゃん、その久しぶり……」
お互いに顔は確認出来ているのに無反応なオジさんに対して、少し不安そうな表情で恐る恐る話しかけるザックス。
彼の座ってる横で立ち止まると、大きな手でザックスの頭を無造作にかき乱した。
「やっと来たか! 待ちくたびれたぞザックス。
あの生意気な坊主がデカくなりやがってよう」
今まで無表情だったオジさんの顔が嬉しくてたまらないと言った表情になる。
「ちょっ、オッちゃん待った! 待った!」
「なーにが待っただ。
街で嬢ちゃんと見慣れないソルジャーの男が一緒に居たって聞いたから不安だったんだけどよぉ。
家に帰ってみたら嬢ちゃんと一緒におめーがいるじゃねぇか。
顔を見た瞬間すぐザックスってわかったわ。
女連れて来るなんてやっぱ生意気だな」
ワハハと気前の良い声を上げながら大口開けて笑うオジさんに、一向に頭から手を放してくれないので困り顔になっているザックス。
そんな二人の様子が可笑しくて、見ていた私もエルミナさんも自然に笑っていた。
その後、ザックスとオジさんの思い出話に花を咲かせながら私とエルミナさんで作った夕食を4人で食べ終わる頃には、すっかり夜遅い時間になってしまった。
比較的他のスラムより治安が良く歩き慣れている伍番街スラムではあるが、それでもこんな時刻に女の子一人は危ないということで、ザックスが私を自宅まで送っていくという話になった。
「ザックス、ガールフレンドをしっかり送り届けろよ」
「二人とも気を付けて帰るんだよ」
玄関を出た私達を心配そうに見送る夫婦に
「任せとけって」
と自信満々に答えるザックス。
「お邪魔しました」
と私は二人に頭を下げてお別れの挨拶をした。
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「エアリス、今日はありがとう。
おかげでオッちゃんと会えた」
帰る途中でザックスは今日の事について感謝の言葉を伝えてきた。
「私も凄く楽しかったよザックス。
こちらこそありがとう」
お互いがお礼を言い合うので今日何度目かの笑顔をお互いが覗かせる。
「それにしてもオッちゃん、いきなりガールフレンドだなんて言うからびっくりしたぜ」
「あれ?
私は嫌じゃないけどザックスは嫌なの?」
「えっ、あ、いやそんなことは……
でもまだ出会って2回目だし、お互いもっとこう…その…」
私の言った事に対してやたら照れながらしどろもどろになるザックスを見てなんとなく察したので、勘違いを訂正してあげる。
「ガール、フレンドだよ、女の子のお友達。
ザックスは私から見てボーイ、フレンド、男の子のお友達、OK?」
「あッ!そうか、そっちか……
いや、スマンなんでもないよ」
「ふぅーん、何を思ったのかは聞かないであげる」
―――あの時照れ笑いをしながら誤魔化した彼は、私にとって初めて出来た同年代のお友達。
このお互いのくだけた感じが心地よく感じていた。
古代種の事、セフィロスの事、まだ打ち明けない事にしたのを覚えている。
その時はザックスが私に対して普通の女の子として接して欲しい思った私の我がままだった。
態度を変えられるのではないかという不安があった。
ただそれは杞憂で、何度か会ってるうちに真実を知っても態度を変えるような人間ではないと気付いた。
もしかしたらザックスの勘違いが本当になる時が来るかもしれない。
その時は―――。
その日、ザックスに無事送り届けてもらい家に入ると遅すぎる帰宅にお父さんが心配しすぎて寝込んでしまい、お母さんに「エルミナさんから連絡があったけど貴方からもちゃんとしなさい!」とお叱りを受け、あの約束以来また顔を出すようになって来ていたセフィロスが窘めるという
原作より1年くらい早いイメージ
やっぱこの二人は応援したい。
リーブさん曰く地上と都市の行き来は列車かハイウェイだそうです。
何卒宜しくお願い致します。