久々の休日に俺は何処かへ出掛けるという事もせず、自室に籠り最近忙しくて疎かになっていたバスターソードの手入れを行っていた。
別に戦いの場で使用したわけではないが、持ち歩けばその分汚れだって付着する。
良く絞った柔らかい布で汚れを綺麗に落とした後、乾いた布で水分を入念にふき取る。
大切な誇りであるこの大剣は何時だって俺の心の支えだ。
「誇りと言えば、アイツも俺の言っている事がそろそろ分かって来ただろうか」
頭の中で言葉と一緒に登場した後輩がニカッと笑ってこちらを見ている。
もともと素質のある奴だと思っていたが、あんなに成長するとは驚いた。
普段はおちゃらけた態度で軽い奴だが、仕事には熱心に取り組み、向上心が高く3rd時代から注目はしていた。
2ndに上がってからは俺だけでなくセフィロスからも戦闘訓練を受けているようでメキメキと実力が向上しているのがわかる。
可愛がっていた子犬を取られたような寂しい気持ちになるが同時に嬉しくも思う。
兄弟は居ないが弟の成長を喜ぶ兄の気持ちとは恐らくこういう感じなのだろうか。
そんなアイツも今もっともソルジャー部門の人手が割かれるウータイでの作戦にそろそろ従事する予定だそうだ。
「戦争も終わりが近いな」
ウータイとの戦争も俺達ソルジャーの投入により終わりが見えてきた。
ラザード統括はソルジャー部隊が部門になったことで彼自身も主任から統括となり権限が拡大し、戦況に応じて素早く部隊を展開出来るようになったこと、独自作戦により大胆な行動がとれるようになった事が大きいと話していた。
また作戦立案にセフィロスの意見が大変役立ったとも聞いた。
『まるですべて知っているかのようにセフィロスの予想が的中するんだ』
戦場で戦うだけでなく現在の戦局からどのように変化していくのか見通す能力もまた英雄に備わっている能力であり彼から学ぶべき事なのだろう。
そんなことを考えながらも作業の手は止めず、バスターソードの手入れは最後の仕上げである刀剣用防錆剤のコーティングに取りかかった。
「しかしコイツの事をもったいないといって出し惜しみも出来なくなってきたな」
先日、俺とジェネシスとセフィロスでシミュレーターを使った戦闘訓練を行った。
ウォーミングアップを兼ねてジェネシスと二人掛かりでセフィロスと戦闘を行った後、ジェネシスとセフィロスの一騎打ちを傍から眺めていた。
しかしお互いヒートアップしてしまったのかシミュレーターの耐用を大きく超える攻撃を遠慮なく繰り出す二人。
流石にマズイと焦りそれを止めるため無理やり攻撃の間に割って入った時、ジェネシスが使う赤いレイピアを受け止めた俺の剣が折れてしまった。
セフィロスの政宗はバスターソードの柄で受けたので少し傷が入った程度で済んだが。
ジェネシスは俺の折れた剣の刃先で左肩を負傷してしまったので戦闘訓練もそこでお開きとなった。
肩を押えシミュレーター室からジェネシスは出て行き残る者が二人となった時、俺の手に持っていた折れた剣を見ながら
『アンジール、その剣では本気のお前と戦えない』
そう言ってセフィロスもシミュレーター室を後にした。
今までセフィロスとの戦闘で手を抜くなんてことはしたことが無い。
そもそも手を抜けるような相手でもないのだ。
常に全力で挑んでいたつもりではあるが、セフィロスは何か確信めいた鋭い目つきをしてそう伝えてきたのだ。
俺はそれ以来ずっとその言葉が心に引っかかっている。
俺も1stであるが現状に甘んじることなく後輩に負けないようこっちも精一杯努力をしよう。
口をすっぱくして「夢を持て、ソルジャーの誇りを忘れるな」とザックスに言い聞かせたこちらの面目が立たないからな。
磨き終わり部屋に立てかけた俺の……
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〈ジェネシス様、お届け物です〉
インターホンから配達人の声がしたので扉を開けて荷物を受け取る。
差出人を見ればどうやら両親からの送り物であった。
箱を開けてみると爽やかなフルーツの香りが周りに広がり、中身を見れば地元バノーラ村の名物〈バノーラ・ホワイト〉がぎっしりと詰まっていた。
この果実はバノーラ地方でのみ採れる珍しいリンゴで、見た目は紫の毒々しい色合いをしているが果肉は白くて甘くしっかりとした歯ごたえは口当たりが良い。
非常に美味でそのまま食べて良し、ジュースなどにも加工するも良しとした地元の自慢の名産物。
「この
バカリンゴと言う通称は実らせる時期が一年中であり収穫時期というものがないため季節感のないバカみたいな農作物という事からそう呼ばれているのだ。
実家の庭に植えてある樹は村で一番立派で美味しいバノーラ・ホワイトを実らせるので一目でわかる。
「手紙が入っているな」
リンゴと一緒に入っていた手紙は両親からのようで、封を開けて目を通す。
ジェネシスへ
最近実家に帰って来られない貴方のために立派に実ったバノーラ・ホワイトを送ります。
アンジールや職場の人たちと仲良く召し上がって下さい。
貴方の活躍をニュースで見ない日はなく親としてとても誇らしく思います。
でも一番は貴方が無事でいてくれることです。
体に気を付けて、無理をしないように。
父と母より
P.S 英雄にリンゴを食べて貰えましたか?
読み終わった手紙を元に戻し、バカリンゴを手に取り一口かじる。
シャリっとした触感とともにさっぱりとした甘さが口の中に広がった。
「英雄か…」
ウータイとの戦争になり、英雄としての名を轟かせるチャンスが巡って来たと当初は思った。
戦争以前は少数精鋭として、または単独で任務に就く事が多く着実に実績を重ねて1stにまで昇りつめた。
だがこの戦争では一局集中投入と言うあまりにも常軌を逸脱した運用方法で作戦が展開されていた。
一般的な戦争における戦術論を知っていれば疑問しか感じないこの作戦。
手薄になる箇所が出来てそこを付かれたり、そもそも攻めるべき場所が間違っていた時にリカバリーが利かない危険性が存在するデメリット。
だが防衛に関しては治安維持部門の兵と新型自立兵器の物量にモノを言わせ固めることで解決。
攻撃に関してはラザード統括の的確な指示により敵が最も損害を被り指揮系統が麻痺する場所をセフィロス、アンジール、そして俺を同じ箇所に集中運用し中隊規模の2ndと3rdを従えることでその圧倒的な武力に物を言わせて一点突破で敵の重要な拠点の早期陥落させる。
いくら特殊部隊とは言えまるでベヒーモスのような突撃を繰り返すだけでは何れ破綻するだろうと、不安の声も上がっていたが主要部門の統括達はコレを支持したため作戦立案されてから実施までの期間は驚くほど短かったようだ。
そして実際に多大な戦果を挙げたことによりこの作戦は正しかったと証明された。
結局のところ敵が対策しようにも最強で無敵と呼ぶに相応しいこの部隊を防ぐ術が無いのだろう。
襲ってくるバハムートの群れを前にして出来ることなど無いように。
この戦争においては
だが各個人にスポットはそれほど当たる事はなかった。
単独での任務遂行を極端に制限されており、1stである俺の側には常に同じ1stのアンジールとセフィロスが居た。
俺達の働きに対して正当な評価は確かにある。
しかし俺個人が欲した称号を得られる機会はなかった。
『俺も英雄になるんだ』
先日の戦闘訓練でセフィロスと対峙した時に出た言葉。
己が何かに焦っているのははっきりわかる。
その時に負傷した肩をさすりながら英雄に関する記憶を思い返していた。
「俺は、英雄になりたいだけだ……」
手に持ったままのかじったリンゴは
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アンジールとジェネシスが神羅に入社して以来、細心の注意を払いながら二人の経過を観察していた。
過去に失敗と見放された事実があるにせよ、ソルジャーと成った彼らは即座に頭角を現していき、圧倒的な実力をもってソルジャー部門のエースとして活躍していた。
まだセフィロスには及ばないものの二人が協力し合えばソルジャー部門のトップとして君臨する可能性も十分期待できる。
上手く行けば私の研究は失敗ではなかったと証明し、更には宝条の
だがその未来も先日の出来事で暗礁に乗り上げてしまった。
「プロジェクト・Gの結果がこのようになるとは」
共同研究をしているガスト博士がデスクトップに表示されたデータを見ながらそう言った。
表示されているデータはジェネシスが訓練中に負傷した時、治療の傍ら採取した細胞の検査結果だ。
彼はジェノバ細胞により普通の人間より治癒力が高い筈なのだが、いつもよりも傷の治りが遅く、より詳細に調べて見たところ、なんと細胞に劣化現象が起こっていたのだ。
「ホランダー博士、コレは早々に行動を開始しないと手遅れになるかもしれない」
私に向かって真剣な表情で一刻を争う事態であると伝えてきたガスト博士は早々に部屋出て行こうとする。
「あの、どこへ行かれるのですかガスト博士」
「宝条博士の所へ、報告に行く。
その後、すぐにこの問題における対策・研究チームを発足して全力で事にあたる」
今は二人で細々と研究しているだけなので、奴にはこれと言って報告はしていなかったし向こうも何も言ってはこなかった。
しかし本腰を入れて大規模に研究するとなれば、相応の設備も人員も必要であり、その使用許可は統括に得なければならない。
だが私にもプライドがある。
失敗の烙印を押されていたプロジェクト・Gにさらなる欠陥が見つかったとなればこの先はずっと宝条どころか科学部門全体からも蔑んだ目で見られるであろう。
「待って下さいガスト博士。
とりあえずはもう少し様子を見ると言う事で。
報告にもまとめる時間も必要ですので……」
「そんな悠長な事は言っていられんよ。
君はあの二人がこのまま
それに報告内容なら既に
ガスト博士は自分の頭を指で指しながら冷静に私の目を見てそう言った。
ただ聞きなれない単語が出ていたのでその事に関して疑問を抱く。
「劣化ではなく
「そうだ、劣化については正直なところ私の中で仮説の一つとして存在していた。
ただ今までは決定打が無かったのでもう少し研究を進めてから君へと話そうと思っていたのだ、申し訳ない。
だが症状がこうして発現した今、私の仮説が正しいとすれば、精神の崩壊を招く……。
他のソルジャー達が何人か精神障害を患っているだろう?」
「あれはソルジャーに成るための施術で浴びせた魔晄が原因とされているハズですが」
たしか、ソルジャーの何名かは言動に一貫性がなくなり、幻覚を見ているような節があるため医務課にて治療中である。
ガスト博士が持論を展開する中で少々引っかかる部分があったので反論するが、そのあと続いた言葉によって納得するしかない状況になってしまった。
「待ちたまえ、話はまだ続きがある。
ジェノバの細胞は精神状態に強く依存するのは過去の実験からわかっている事だ。
魔晄中毒に陥ってしまった者達の身体機能は一般人に比べジェノバ細胞を埋め込まれたソルジャー達の方が酷く弱っている。
という事は逆に肉体の劣化によりジェノバ細胞を持つものは精神に異常をきたす可能性も見えてくる」
博士の言いたいことは理解出来る。
だが私が直接携わり心血を注いだ
「それにプロジェクト・Gには劣化だけではなく他に隠された真実があるような気がしてならん。
科学者としての勘だがね」
そうだ、ただの劣化で終わらすなど出来ない。
ガスト博士の言うように何か他にはない結果を見つけて私の研究を認めさせる。
ならば悔しいが再び汚名を被り、充実した体制で研究を再出発させるのも一つの手だ。
ガスト博士の目からは本気で取り組むという気概を覗かせており、私も大規模に研究出来るとなれば今より捗る。
「……わかりました、不本意ではありますが統括に報告しましょう」
「君も納得してくれて良かった。
あとは宝条博士が許可を出してくれれば助かるな」
「恐らくそれは大丈夫でしょう、ガスト博士ならね」
宝条はガスト博士に多大なコンプレックスを抱いているが、それはそれとして科学者としては認めている節も見受けられる。
理の通った説明さえすれば奴はガスト博士に充実した環境を用意するだろう。
ガスト博士のおこぼれという形みたいで癪ではあるが私の一番の目標は宝条を今の立場から引きずり落とす事だ。
自分のプライドは傷つくが背に腹は代えられない。
「善は急げですガスト博士。
早速行きましょう」
「うむ」
私の言葉に頷いたガスト博士。
二人で連れ立って科学部門統括室に向かう途中、健全な理由ではないにせよ
ほぼ繋ぎ回
誤字報告ありがとうございました。