「まぁ、気を取り直して任務を始めるとするか」
監督のあてが外れ、うなだれていた様子だったが、すぐに立ち直るザックス。
改めて任務の概要を説明し、質問が無いと分かればザックスは隊長として治安維持部門五名の兵を従え、弐番街スラムへと向かった。
その後ろを少し離れた位置から黙って付いてくる英雄に気を取られそうになるが、本人から居ない者として扱えと命令があった以上、五名の兵は気にしないよう努めた。
スラムのモンスターは基本的に人が集まるような場所には出現せず、主に居住区から離れた場所に生息している。
しかし、住民が間違って生息地に足を踏み入れてしまったり、モンスターが居住区の方に出現し家屋や食料を荒らされたり、人が襲われたりなどの被害は少なくない。
一部の住人は自警団を結成しモンスターの駆除を行っていたりするのだが、負傷者が出るだけならまだ良い方で場合によっては命を落とす者もいる。
そのため、神羅にあまり好意的でない住民であっても神羅兵によるモンスター掃討は、一応感謝はしているのだ。
――――――――――
出発から間もなく居住区画から外れた現場に辿り着いた一行。
見渡す限りでは、複数のモンスターがそこかしこに確認出来る。
また、距離を置き観察に徹しているのかいつの間にかセフィロスの気配が無くなっていた。
「ではこれから駆除に入る。
陣形はお互いが邪魔にならず、かつ何かあれば助けに回れる程度の距離を維持。
先陣は俺が切るので、2名は補佐。
3名は周囲の警戒及び索敵を頼む」
「「「「「了解致しました」」」」」
存在が消えたセフィロスを特に気にする事もなくザックスは命令を下す。
五名の兵は了承し準備が整い次第、少し群れから離れたモンスターをターゲットにする。
狙いを定めたザックスが先制攻撃を仕掛け戦闘を開始した。
一匹目が倒れる頃には近い位置に居た二匹がこちらの存在に気付き戦いを挑んでくる。
二匹倒せば四匹と倒す度に、周囲のモンスターはどんどん数を増やし襲いかかってくる。
そのような状況でも苦戦することもなく、ザックスは手に持つ剣を振るい敵を次々と撃破していく。
(やっぱりソルジャーはすごいな、俺なんかとまるで違う……)
クラウドはソルジャーの戦いぶりを間近で見ることが出来た興奮とは別に、自分が成れなかった存在に対しての悔しさも感じてしまう。
そんな複雑な心境を抱きながらも与えられた仕事を懸命にこなしていればいつの間にか襲ってくるモンスターは居なくなり、辺り一帯の殲滅は完了していた。
「よし、一旦戦闘はここまでだ。
戦闘態勢は維持したまま他にモンスターが居ないかくまなく確認。
この場の安全が保障されたと判断出来たら任務完了とする」
「ザックス殿、あちらに不審な影が見えたのですが…」
ザックスの指示を聞いた索敵担当の兵が山のように積み重なった瓦礫を指さして報告する。
「分かった。
俺が確認してくるから残りはこの場で待機していてくれ」
そう言って五名の兵を残し、ザックスは教えられた場所に駆け足で向かっていく――。
突然、耳を劈くような重低音の唸り声が辺り一帯に響く。
「なんだ今のは」
「敵か!」
その場に居た兵達はすぐにお互いが壁作るようにして警戒し周囲を見渡す。
それとほぼ同時に固まった五名の頭上がまだ昼だと言うのに暗くなる。
気付いた者が即座に上を見上げればそれはモンスターの影であった。
「オイ!アレはベヒー」「あぶねぇ避けろ!!!!」
ザックスが大声で叫ぶ。
「ギャッー」「うわぁぁぁ!!!」「ヤバッ」「――ッ!」「えっ!?」
〈ドシンッ!〉と大地を揺さぶり着地した巨体。
兵達は戦闘態勢を維持したままなのが功を奏したのか、全員が即座に回避行動を取ることが出来た。
クラウドを含む三名は無傷で済んだが残り二名は致命傷は免れたとはいえ、衝撃で吹っ飛ばされて体勢を崩し倒れてしまう。
「なんでベヒーモスがこんな場所に!」
巨体の正体はベヒーモス。
先程倒したモンスターたちとは比べ物にならないくらい危険で凶暴な存在であり一般兵ではとてもじゃないが敵う相手ではない。
グルルと喉を唸らせ、鋭い眼光が倒れた兵に狙いを定める。
「お前ら!逃げろぉ!!!」
自分の位置からでは助けが間に合わないと感じたザックスが声を張り上げる。
それと同時に敵の気を惹きつけようとイチかバチかで自分の剣をベヒーモスに向かって投げつけるが残念ながらかすりもせず地面に落ちる。
狙われた兵はこの世の終わりと言った絶望の表情を浮かべ、体を思うように動かすことが出来ない。
敵の背中に生えた真っ赤なたてがみが逆立ったかと思うとその巨体に見合わぬスピードで襲い掛かった。
「―――ッ!」
声も出せず、ただ目をつむり死を覚悟したが、ベヒーモスの鋭い爪が兵の身体を引き裂くことは無かった。
兵は目を開けるとなぜ自分が無事なのかという事をすぐに理解した。
何故なら拾い上げたソルジャーの剣で攻撃を受け止め自分を庇っている金髪の同僚が目に入ったからだ。
「ク、クラウド!?」
あのベヒーモスの攻撃を一般兵が受けとめるという信じがたい光景。
だが目の前に起きている事は事実であり、必死で受け止めているクラウドは叫ぶ。
「は、早く!逃げて!!!」
その精一杯の言葉が出た直後に無事だった他の二人が即座に倒れ込んだ二名をそれぞれ担ぎ上げベヒーモスから距離を取った。
攻撃を阻止されたベヒーモスは不服そうな顔をしながらもう片方の爪でクラウドの剣を振り払う。
「あッ!」
剣は宙を舞いベヒーモスの後方に突き刺さる。
すぐ剣を取り戻しに行こうとするクラウドだったがベヒーモスの尻尾が鞭のようにしなったかと思うと身体を瓦礫に叩きつけれてしまう。
体を強く打ち付けられ立つこともままならぬクラウドに二本の巨大な角が狙いを定めた。
敵の足が地面を強く蹴り上げ、その巨体が突進してくる。
(ティファ…ごめん…)
故郷の幼馴染との約束を果たせなかった後悔が襲う。
最後に一目会いたかったと思い自分の結末を受け入れようとしたクラウド。
ベヒーモスの角が彼の体を貫かんとした瞬間、二つの斬撃がベヒーモスの首と胴体を切り落とす。
そして生命維持が出来なくなった巨体はそのまま地面を滑るように倒れ込んだ。
「やるじゃないか、
「あッぶねぇぇぇぇぇ!ギリギリセーフッ!」
息も絶え絶えになりながら自分が生きている事を実感したクラウドは命の恩人に顔を向ける。
二人のソルジャーによって絶体絶命の状況は終わりを告げた。
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「今回の任務の評価だ」
そう言って報告書をデスクに座るソルジャー部門統括に提出するセフィロス。
ラザードは受け取った書類に軽く目を通しながら「君の意見は?」と本人から直接聞きたいという事も伝えた。
セフィロスは“そこに書いてあるだろう”と言いたげな目を上司に向けるが素直に従い説明を始める。
「ザックスについては、クラス1stになるために必要な能力は備わっていると判断した」
「判った。
こちらとしても映像を見た結果、ザックスは1stに相応しいと感じた。
正式な手続きをしたのち、1st昇進の通達を彼に出すだろう」
ラザードは言い終わると見ていた書類を手元に置きデスクの上で両手を顔の前で結び一息ついた。
今回の任務にはザックスの見極めとは別にもう一つ目的があった。
それについて目の前で佇んでいるセフィロスに問いただす。
「あぁセフィロス、楽にしてくれて構わないよ。
さて治安維持部門から引き抜く人材の選定だが、今回の報告書を見ると1名か……
名はクラウド・ストライフ。
過去にソルジャーの適応試験を受けているが、魔晄耐性が低く不可判定になっているね」
「ソルジャー適性は有っても無くても良いのだろう?」
楽にしてくれと言われたのでセフィロスは遠慮なく壁に背を向けて寄りかかり腕を組んで答えた。
「そのとおり、今回の引き抜き条件は能力が有る者としているが、その判断は治安維持部門との合同任務に就いた1st達に任せている。
既に数十名の候補が上がっているよ」
「そんなにか……」
それほど興味もないのだろうか、伏せた顔をそのままに淡々と返事をするセフィロス。
「フフフ、まだこれでも少ないほうさ。
今回はこちらも初めての試みだからあまり大きくは出来ないが、受け入れ態勢が万全に整い次第、大量にこちらの部門に呼び込むつもりだ」
「治安維持部門は潰すつもりか?」
「潰しはしないさ、ただ社内の治安維持部門による長年の影響を考えたらそろそろ対抗馬が必要だろうと考えてる」
「逆にこちらが不利になる可能性は?」
伏せていた顔をラザードに向けたセフィロスは彼の発言を訝しんだ。
「無い……とは言い切れない。
しかしここで行動を起こさなければソルジャー部門が無くなる可能性の方が高くなる」
ウータイ戦争が終わった現在、神羅は膨れ上がった軍事予算の見直し、戦時中に結成された部隊や研究チームの統合や解散を行い、雑多に入り乱れていた状態を改善するべく組織の再編に取り掛かっている最中である。
その中でも治安維持部門は予算削減の影響が大きく、統括であるハイデッカーが必死にプレジデント神羅へ交渉しているとのことだ。
そしてそれは、数年前に独立したソルジャー部門にも降りかかってしまい、治安維持部門への再統合の話が持ちが上がっているのである。
「ハイデッカーは傘下ではなくなった
「恐らくそれもある。
だが再統合はソルジャー部門の予算をそのまま治安維持部門の予算へと充てる狙いもあるのだろう」
「しかし、ソルジャー適性の無い者も引き抜くならそれ相応の理由が必要だがどうするつもりだ?」
「それについては考えがある。
セフィロス、これを」
ラザードは懐から真っ白な何も書かれていない封筒を取り出すとセフィロスに受け取るように差し出してきた。
セフィロスは黙ってそれを受け取り、中を見ると作戦指令書が入っていたので内容を確認する。
「コレは……」
「アナログな方法で申し訳ないが、電子だと色々と厄介なのでね。
内容を把握次第処分して欲しい」
「この情報はどこから」
「とある協力者からのご提供だ。
この作戦、任せても良いか?」
ラザードは内容を確認し終えたセフィロスの口元が僅かに緩んでいるのを見て、彼も同意したものと見なした。
「作戦決行までは数日しかない。
準備が出来次第、目的地へ向かってくれ」
「了解した」
その場で弱めのファイアを唱え作戦指令書を消し炭にすると、セフィロスは部屋を後にした。
ラザードはその姿を見送ると一人になった部屋で静かに呟いた。
「アバランチにはソルジャー部門存続のための
なんでベヒーモスが居たのかはご想像にお任せします。