技術と言うものは実用化されたらそこでお仕舞いという訳ではない。
研究段階でどんなに完璧な理論を構築していようとも、運用し始めたら新たな問題点が浮上してくるなど当たり前の事である。
そしてそれは、科学部門の宝条博士が開発したソルジャーの手術も同様であった。
手術の重要な要素はジェノバ細胞を移植する部位や量、魔晄の照射濃度や時間、手術を受ける者の状態や選別である。
これ等を様々なパターンで検証し、実際に検体へ手術を施す事で調査を重ねソルジャーの手術は実用化に漕ぎ着けたのだ。
ただ初期の頃は元になった
それはプレジデント神羅の許可を得て行った神羅兵十数万全員の適合検査の結果が全体の1%にも満たなかったという事が物語っている。
とはいえ厳しい条件下で適合した者達の能力は別格であり、セフィロス、アンジール、ジェネシスを除いた残りのソルジャー1st達は全員この手術を受けた世代でもある。
しかし適合者があまりにも少なすぎるという事でソルジャー部門及び会社から【改善せよ】との指示を受けた宝条は
――――――――――
「宝条博士、改良型ソルジャー手術は
数か月前に神羅カンパニーに入社して科学部門へ配属された新米の研究員が最近ソルジャー手術を受けた兵士のカルテを宝条に手渡しながらそう言った。
「ふーん、そうかね」
「改善命令が出た当初、博士は不服そうだったと聞きましたが、こうやって結果を出すのは流石ですね!」
科学部門統括でもある宝条に気に入られたい様子なのか安っぽいおべっかを使う新米であった。
だが言われた当本人は全く意に介さずカルテを受け取り軽く目を通すとすぐに突き返した。
意識は上の空といった様子だった。
「……あの、あまり嬉しくないのですか?」
宝条のこの様子を理解出来ないようで疑問を投げかけた新米だったが、それを見た古参研究員はその行為が如何に愚かであるかを知っており頭を抱えた。
「君ねぇ、こんなのは成功して【 ア タ リ マ エ 】なのだよ。
ソルジャーの廉価版だよコレは」
部下の見当違いな問いかけに変なスイッチが入ってしまったようで宝条はまくしたてるように言葉を続ける。
「本来ならば手術をブラッシュアップさせてより
だいたい適合者を増やすための手法など私は初期段階で既に考え付いていたモノだ。
それを今まで【 あ え て 】外していたのだ。
だってそうだろう、この手術はオリジナルのジェノバ細胞ではなく人体へ定着後に変異した細胞を使い魔晄の濃度も照射時間も大幅に減らしている。
そこまですれば拒否反応だって起きにくくなるのは赤子でも分かる。
ただそうして出来上がるのはせいぜい神羅兵よりちょっと強い程度3rdにも劣る出来損ない。
まぁ本人の努力と才能次第じゃ2ndくらいならなれるかもしれないが……」
宝条の御高説に逃げ場失い、新米は周りの研究員に助けを求めるように目を向けた。
だが誰も関わりたくないのか目をそらす。
それどころか神羅屋敷時代からジェノバプロジェクトに関わっている古参研究員はむしろこの状況にした責任を最後まで果たせと重圧を彼に向けていた。
「おい、聞いてるのかね。
そもそもソルジャー自体が
廉価版という呼称もまだ優しいな……
改良型手術で創られるソルジャーにベストな称号を見つけたようで少しは気が晴れた様子の宝条。
そしてそのまま「今日は終わりだ!」といって研究所から出て行ってしまった。
残された新米研究員はやっと解放された安堵でその場にへたり込んでしまう。
それを見て近寄った古参研究員は彼に声を掛ける。
「宝条博士に声を掛けるときは実験以上に気を使うんだな」
コレが科学部門、特に宝条の研究に携わる者であれば必ず受けるであろう通過儀礼というのを身をもって知った新米であった。
――――――――――
研究所から自分の研究室兼科学部門統括室に帰った宝条はデスクに勢いよく座ると頭を切り替えた。
そして科学部門の新たなる方針を定めるべくデスクに散らばった資料や報告書に目を落としていく。
現在の科学部門はジェノバプロジェクト・古代種研究・ソルジャー技術開発と主要となっている全てが停滞という有様だ。
この状況は当然プレジデント神羅にも見破られており現研究の催促及び新たな会社への貢献を求められ、特に医療方面の技術研究も注力しろと命令を下されている。
「まったく、統括というのも楽ではない」
そう独りごちる宝条は数日前にタークスへ報告した例の捕虜のレポートがふと目に留まる。
邪魔は書類を全てデスクから落とすと、頬杖を突きながらコレが使えるか思考を巡らせる。
例の捕虜はタークス主任ヴェルドの娘、フェリシア。
そして過去に
少女は肉体の損傷が酷く人体における重要ないくつかの器官が既に機能していなかった。
そこで過去に部門内で発案されていたマテリア融合手術を実施する事にした。
元は強い兵士を創り出す為に提唱された数ある案の一つであった。
しかしソルジャー手術以上に適合者が少なく、戦闘可能な程に人体へ馴染むまでは数か月、場合によっては数年も掛かると判明し、コストに見合ったリターンが全く得られないため早々に破棄されている。
ただ治療目的であれば〈かいふく〉〈ちりょう〉〈そせい〉のマテリアが一定の効果が得られるという結果もあったので、科学部門傘下の医療チームが細々と研究は続けていたのだ。
どのみち普通の治療では助かる見込みもない、死を待つだけの少女。
助かるかもしれない僅かな可能性に賭けて手術を施し、失敗しても責められる筋合いはなかった。
手術はニブルヘイムの神羅屋敷で行われ、特に問題なく終わる。
後の経過観察についてだが、宝条はあの頃ソルジャー手術の技術開発も佳境に入っていた事もあり、たかが少女に自分の時間を取られるなど堪ったものではないと考えていた。
残りは医務課にすべて任せてしまおうとミッドガルへの移送を治安維持部門に依頼したのだが、あろうことか移送中に原因不明の事故を起こして車両が炎上大破してしまう。
生存者はおらず、遺体の確認が出来なかった者は行方不明者として事故は処理されたそうだ。
原因不明については「反神羅組織に襲われたのでは」と社内で憶測が飛び交っていたが宝条にとっては
「この娘、生きていたとはな」
その発言から自分が執刀した少女に対してどれだけ興味が無かったのかうかがい知れる。
ただ数年越しの検査で埋め込んだマテリアが身体と拒否反応を起こさず順調に機能していた事が分かったのは収穫である。
肉体的損傷は問題なく回復しており、それどころか通常のヒトよりも強靭な肉体となっていたのだ。
「近々ある幹部会議で社長に進言するか。
コレでも役には立つだろう」
タークスの尋問が終わり次第、あの娘は貴重なサンプルとして科学部門に提供してもらおうと企んだ。
神羅に敵対した者であるため、要望は難無く通るだろう。
「ヴェルド主任には
うん、私は今なんと言ったのだ?」
なぜ自分の口からこんな言葉が出たのか不思議に思ってしまう宝条。
この娘の研究にはそこまで意欲が湧いていない事が原因なのかと頭を抱え込む。
「うーむ、今度ルクレツィアに話してみるか……」
思わず口から出たのは、これまたらしくない言葉である。
数年前は数か月に一度くらいしか
それがいつの間にか一月に一度になり最近は週に一度という頻度になっていた。
この件は医務課の中ではちょっとした話題となり、なぜ頻度を上げたのか直接宝条に聞いた看護師がいたのだが返って来た言葉は「気分転換」だそうだ。
もちろんこの発言の真意は誰も分からないが、少なくとも自発的に通っているのは確かだった……。
「宝条博士」
ふと声が聞こえた。
考え込むと周りの様子に対して疎かになるのが宝条の悪い癖である。
どうやらこの時も声を掛けられるまで近付いた人物を認識できていなかったようだ。
「おや、副社長。
いらしていたのですか」
顔を上げた宝条の前にはデスクを挟んでルーファウスが居た。
そしてその傍らにはタークスも確認できる。
「タークスまで連れていったいに何の用ですかな?」
「
言葉と同時にルーファウスは先程まで宝条が見ていたレポートに手を伸ばし、お構いなしにデスクから取り上げる。
そして悪びれる事もなくパラパラと紙をめくり、内容を確認していく。
だが宝条は特に腹を立てる様子はない。
「ふむ、宜しければ私の口から直々にその娘の有用性について御説明致しますが?」
「その必要はない」
そう言って一通り見終わったレポートを整え、側に居るタークスに渡すルーファウス。
「この件は無かった事になる」
「……おっしゃる意味がよくわかりませんな」
「そのままの意味だ。
まぁこちらにも色々と都合というものがあるのだ」
ルーファウスは側に居るタークスにチラリと目をやり、察しろといった面持ちで疑問に答えた。
その返答に「ふぅーむ」唸り腕を組む宝条。
そして数分の沈黙の後、考えがまとまったのか宝条から話し出す。
「まぁ命令とあらば従うのもやぶさかではないですがねぇ……
何せ、貴重なサンプル、タダで見逃せと言うのは些か釣り合いが取れないというモノ」
宝条にしてみれば、これは当然の主張である。
彼自身はあの娘に対してそれほど興味は高くないとはいえ、ここ最近目立った動きの無い科学部門には役立つ存在。
それを見逃せと言うのは
「無論、宝条博士が言う事も一理ある」
「ほう、それでは」
「従って頂けるなら、次回の幹部会議の時は格別の配慮を心がけよう」
傍から見れば一体どちらが頼みを申しているのか分からぬくらい偉そうな態度である。
それとは対照的に、後ろに控えた黒髪のタークスが「どうかお願いします」と謙虚に頭を下げていた。
ジルコニアエイド「解せぬ」
CCのソルジャーは特別感あるのに本編じゃ雑魚敵だったのでもしかしたらこんな背景が有ったのかなと思いました。