『オヤジのやり方じゃこの会社はもう成長しない』
『大きくなれるチャンスを自ら逃すなど馬鹿げている』
『俺がもっともっと凄い会社にして見返してやる』
『俺についてくる奴は今以上の待遇を手に入れることが出来るぞ』
『そうか、お前は俺についてくるか』
『俺を信じたお前にはきっと素晴らしい高みを見せると約束しよう』
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「…………懐かしい夢を見たな」
神羅ビルの社長室、デスクで俯いていたプレジデント神羅が重い瞼を開ける。
何者かの気配により先程まで夢の中にあった彼の意識は現実に引き戻されたのだ。
その存在は目を覚ましたばかりの社長にタイミングよく近寄っていき声を掛けた。
「
出発の準備が整いました」
「あぁそうか、もうそんな時間か」
ゆっくりと顔を上げたプレジデント神羅は、正面に男性が居る事を確認した。
黒い長髪をオールバックにして後ろで結んでおり、身に着けた黒いスーツと革靴は埃一つなく、男性が身だしなみに常に気を使っている事を物語っている。
「はい、既にリーブ統括は目的地へ向かっております。
しかし、お疲れのようでしたら明日にする事も可能ですが」
「大丈夫だ、予定通りウータイへ向かう。
頼むぞツォン君」
「それではヘリポートへお願い致します」
ツォンはごく最近、タークス主任に昇進したばかりの若者であり、今回が主任としての初仕事であった。
ヘリポートへ向かう社長に歩く速度を合わせ、不快にならないようにエスコートする。
「今日の護衛は君だけかね?」
「いえ、もう一人。
すでにヘリポートで待機しております」
「そうか、今回はジュノンの件みたいにならんといいが……」
ツォンに念を押すかのように思っている本音を口にする社長。
アバランチによるジュノン襲撃事件はまだ記憶に新しく、今回は主任になったばかりの若造が担当だ。
今回の向かう場所は元敵国のウータイである。
その目的は建設中の魔晄炉の視察及び、相手首脳陣との都市計画や雇用についての協議。
命を狙われる危険性はジュノンの比ではないので不安になるのも仕方ない事である。
「ご安心下さい。
神羅の最高戦力が
そう言って社長の不安を払いのけるように屋上への扉を開けたツォン。
開かれた先に用意された自社製ヘリコプターの近くには、彼の言葉に嘘偽りはないと証明する人物が控えていた。
「確かに君の言う通りだな」
「ウータイでは私とセフィロスが責任を持って御守り致しますのでどうかご安心下さい」
社長とツォンに気付いたセフィロスは軽く頭を下げる。
その様子を見ながら二人はヘリコプターに近付くとツォンが後部キャビンの扉を開き掌を向けた。
「ウータイまでは距離があるためジュノンで高速船に乗り換えます。
そこまでは私がヘリコプターの操縦を致しますので
「うむ、よろしく頼むよ」
ツォンの案内に従い後部キャビンに入り席に腰かける社長。
社長のシートベルト装着を確認した後、ツォンは外で待っているセフィロスに声を掛ける。
「セフィロス、移動中は任せたぞ」
「承知した」
そう言ってセフィロスは頷き、社長と同じキャビンに乗り込むと向い合う形で着席する。
ヘリコプターは駆動音が大きくお互いの声が聞き取りにくくなる。
そのためツォンは二人にマイク付きヘッドフォンの装着をお願いして扉を閉め操縦席に着いた。
《それでは出発致します、少々揺れますのでご注意下さい》
ツォンの声がヘッドフォン越しに聞こえるとエンジンが始動しメインローターの回転数が上がっていく。
機体の振動はだんだん大きくなっていくが、やがて離陸するとそれも収まった。
安定飛行に入ったヘリコプターはこれより目的地に向け空の旅を行うのである。
――――――――――
どれくらい時間が経っただろうか。
機内ではセフィロスが腕を組んで空を眺めている。
プレジデント神羅はつい、いつものように懐を弄り葉巻を探そうとした。
だが自分の手が体を固定するシートベルトに気付いたようでそっと呟いた。
「おっと、今はフライト中だったな」
その発言にチラッと顔を向けるセフィロスだったが間が悪かったのか社長と目が合ってしまう。
「口元が寂しくなるとつい、な」
言い訳をして苦笑する社長。
そして自分に顔を向けたセフィロスに対して
「君とこうやって二人きりなのは初めてだな」
「ツォンが居ます」
「操縦席とここには隔たりがある。
まぁそう嫌がるな」
「そういうわけではありません」
素っ気ない態度で応じるセフィロスを見ても社長は不愉快な気分にはならなかった。
むしろ神羅にはルーファウスの他にこんな態度を取れる奴がまだいたのかと関心を抱く。
「
息子と言われ、セフィロスはどちらの事だと考える。
表向きの息子はたまに戦闘の指導をしているし、世間に明かしていない息子は自分の上司だが謙遜の意味で言っている可能性もある。
なんと返答するか悩むが、社長の次の言葉でそれは無駄な事だと判明した。
「二人の事だ」
「……ラザード統括が息子と知っていたのですか?」
「なるほど、君は知っていたか」
鎌をかけられた事に気付いたセフィロスは社長に対して警戒心を抱き睨みつけるも、相手はまるで意に介さず「フッフッフッ」と余裕の笑みを浮かべている。
「その物騒な目を向けるのは辞めなさい。
これでも雇い主なんだがね」
「なぜこんなことを?」
「あの英雄を揶揄ってみたかったのだよ。
社長特権と言う奴だ」
『オレ』の時代含め殆ど関わりのなかった相手であるがセフィロスは複雑だった。
この男もジェノバが化けた己の分身が刀で貫き命を奪っている。
将来の
「ときに君は父親についてどう思っているのだ?」
「俺に父親は……居ません」
「あぁ、そういえば
なら言い方を変えよう。
父親とはどのような存在だ?」
「……家族を守り、子供に尊敬される存在だ」
社長の問いかけに知識として知っている事を答えるセフィロスであった。
しかしどうやらそれは見透かされていた様である。
「まるで本で知ったかのような回答だな。
それとも何か物語の登場人物でも見てそう思ったのかね」
「何が言いたい?」
この一連のやり取りにセフィロスは険しい表情になっていった。
だがそれを見て動揺するくらいなら社長は初めからこのような事などしない。
「昔話をしたいのだがいいかね?」
「それが答えに繋がるのなら」
相手から了承を得られたことで社長は「ゴホンッ」と咳払いをして喉を整えた。
そして童話のような決まり文句から始めると、さっきの問答に終止符を打つ為語りだした。
━━━昔あるところに小さな会社があった。
規模はそれほどでもないが長い歴史があるその会社は主に機械製品を作っていたそうで、年月をかけて確立された技術力は非常に高く、他社では真似のできないモノも多かった。
それに目を付けた時の政府はその会社に兵器や武器の製造を打診した。
けれど当時の社長は人殺しの道具を製造するのは反対であった。
ただ、その社長のドラ息子は違った。
既に同じ会社で働いていたのだが、非常に野心家でせっかくの大きな儲け話、社長を説得して会社を大きくしようと目論んだ。
しかしドラ息子の説得に父親は首を縦に振る事は無かった。
だから説得する相手を変えた。
あの手この手で必要な社員を味方に付けて社長を追い出した。
そして会社を一新して再出発すると兵器や武器を主要に据えて、さらにはインフラ事業も立ち上げ会社を大きく成長させる。
その後、依頼主であった政府すらも配下に置き、遂には世界一の大企業となった━━━。
まるでノンフィクションのような昔話にセフィロスは聞き入ってしまう。
自分が所属している神羅カンパニーは世間ではプレジデント神羅が一代で築き上げたという事になっている。
とある会社というのが実在したのかどうか
なのでこの話はあくまでフィクションなのだ。
「その後の社長は?」
セフィロスは話に出てきた
「会社を追い出された後は息子と縁を切って批判する立場をとった。
そしてそのまま死んだ」
「そうなのか」
「ただ遺品整理でドラ息子の活躍や会社の記事の切り抜きが大事に保管してあったというおまけ付きだがな」
「ならば、なぜ二人は仲違いをしたまま?」
セフィロスは疑問に思う。
なぜそこまでしていたにもかかわらず歩み寄らなかったのかと。
その答えをプレジデント神羅が遠い目をしながら答えた。
「父親だからな、息子に弱みは見せたくなかったのだろう」
「弱み……」
「まぁ世間じゃ君が言った父親像があるべき姿として正しいという事になっているだろう。
私もそれは否定はせん」
そこまで言うとプレジデント神羅は視線をセフィロスに戻し声に力を込める。
「神羅はルーファウスに何れ譲ろうかと思っていたが、奪い取る気ならそれに応えようではないか!
最後まで敵として、壁として立ちはだかってみせるぞ。
コレがバカ息子共に対して相応しい
そちらはどうなのだろうな?」
「……それは……宝《そろそろ目的地到着します、着陸の際は揺れるのでお気を付けください》
セフィロスが社長に何か確認をしようとした時、フライト直後からまったく音沙汰の無かった声がヘッドフォンに響き渡る。
そしてそのまま会話することなくうやむやになってしまい、着陸態勢に入ったヘリコプターがジュノンのヘリポートへ降下していった。
―――――――――――
「お疲れさまでした、無事に到着致しました。」
後部キャビンの扉が開かれツォンが二人に労い言葉をかける。
磯の香りが混じった空気が機内に入り込んできた。
「この後は船に乗り換えるのであったな」
「はいそうです。
セフィロス、申し訳ないが念のため先行して船の様子を頼む」
「了解した」
ツォンの指示に了承したセフィロスは一目散に港へと向かっていく。
それを見届け、プレジデント神羅はゆっくりと後部キャビンから外へ出る。
「
「わかった。
ところで君もあの話を聞いていたな?」
「えぇ、ですが他の人間には決して話はしません」
「いや、そうではなくて一つ付け加えておこうと思ってな」
社長の語った昔話になんだろうかと首を傾げるツォン。
「ドラ息子に真っ先に賛同したのは体格のいい大男だったそうだ」
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『俺はあんたについていくぜ、ガハハッ』
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「そうですか」
「まぁ最近はいいとこ無しが続いているようだがな、ハッハッハッ」
どんな人物であれ、その立場に就くという事には理由がある。
ただの幸運だけでは難しい、それなりの説得力が存在する。
過去において右腕としてその能力を存分に発揮しドラ息子を支えたその大男。
その話を聞いてツォンは少し元上司を見直したらしい。
プレジデント神羅ってゴマすりだけで出世させてくれるような人物じゃないと思うので
ハイデッカーがあの地位に居るのはそれなりの活躍や信頼があったのだろうという憶測
ただし息子には甘い