セフィロス逆行物語   作:怪紳士

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第38話 漢の闘い

ミッドガルより東北、カームとの間に広がる荒野。

魔晄炉の影響か草木が枯れた大地。

人が足を踏み入れようものならそこに(ひし)めくモンスターに瞬く間に襲われ命を落とすことになるだろう。

 

今、その地に人が居る。

だがモンスターが襲う事は無い。

それどころか生存本能がその近辺は危険だと察知して距離を置くように散らばっていった。

 

強者である筈のモンスターが弱者に成り下がった瞬間。

生きとし生けるもの全てが平伏しているような感覚。

日光を遮る幾重にも重なった暗雲。

強風が吹き荒れ砂埃が舞上がる。

穏やかとは無縁の環境。

 

それは圧倒的な重圧を放つ()()()()()の存在によって生み出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚悟はいいか、アンジール」

 

「そっくりそのまま返すぞ、セフィロス」

 

険しい目つきの二人がお互いを睨みつける。

間の距離はミッドガルの列車一両分といったところか。

アンジールが背負っていたバスターソードを掴み、目の前に持ってくると瞼を閉じてわずかに祈る。

そして、正面に佇むセフィロスに向けて構えると、向こうもそれに呼応するように正宗の切っ先でアンジールを捉えた。

 

この二人の闘いを見届ける者は3名。

ザックス、クラウド、そして二人から離れた位置にジェネシス。

彼等は一言も話さない。

ただただ、固唾を飲んで勝負の行方を見届けるだけである。

 

対峙する二人が武器を構えて微動だにしないまま時が経つ。

 

 

 

風が止んだ。

 

 

 

両者の脚が大地を蹴った。

互いの距離が一瞬で縮まったかと思うと、バスターソードがセフィロスの体に襲い掛かる。

それを読んでいたと言わんばかりに正宗が攻撃を受け止めると、そのまま払いのける。

とは言えそれで体制を崩すアンジールではなく、即座にもう一度斬りかかった。

しかし、またしても正宗によって防がれてしまう。

斬ってはいなされ、切りかかっては受け止められて。

 

弾かれ。

 

避けられ。

 

阻まれて。

 

止むことを知らない金属音が鳴り響き、互いに一歩たりとも譲る事のない激しい攻防が続く。

 

「まだだッ!!!」

 

己の声で気合を込めたアンジールは、正宗ごと押し切るため全身に力を込めた。

 

「甘いぞ!!」

 

セフィロスが一喝して、受けたままのバスターソードを思い切り弾く。

そのまま今度は正宗の鋭い突きがアンジールを襲う。

 

「ッと!危ねぇッ!」

 

ギリギリでそれを躱したアンジールは一旦距離を取るため、セフィロスを正面にして後ろに跳んだ。

次の攻撃に備え、相手の顔を確認する。

不敵な笑みを浮かべた英雄が相手を見上げていた。

かと思うと瞬間、そこに居たセフィロスが消え、アンジールに差し迫る。

 

「遅い」

 

相手の半身ほど高いポジションに出現したセフィロスが真っ二つにする勢いで切りつける。

バスターソードがなんとか斬撃を防ぐも勢いは殺せず、そのまま落下先の地面に叩きつけられた。

落ちた所を中心とした周囲が土煙によって覆われる。

 

様子を見届けようとしたセフィロスが若干離れた場所に着地しようと片足が地面に届く間際。

 

「そこだぁぁぁッ!!!!」

 

そこを待っていましたと言わんばかりに土煙の中からアンジールが飛び出す。

察知したセフィロスは構えるが、全体が乗った突撃をその場で受け止める事は出来なかった。

後方に押しやられ、両足によって地面に描かれる電車道。

だがどこまでも続く線路など存在しない。

 

「次はこちらの番だ!」

 

自分が敷設した線路を辿るようにその原因となった目標に向かって瞬く間に反撃を開始する。

しかしアンジールもあの攻撃で仕留められるとは微塵も思ってはいない。

向かってくる相手に再び仕掛けるべく、すぐに動き出す。

 

局地戦。

 

次の空中戦。

 

そして機動戦。

 

その場に留まることなく至る所で衝突を繰り返す二人。

 

両者の姿が蜃気楼のように、あちらこちらに出現する。

 

金属のぶつかる音が、発生源を特定出来ない程に四方八方で響き渡る。

 

大地は正宗により切り刻まれ、岩はバスターソードによって砕かれて、攻撃の爪痕が辺り一面に発生した。

 

 

 

だが拮抗していた戦いにも終わりが訪れようとしていた。

 

 

 

「ッチ!」

 

アンジールが僅かに顔を歪ませた。

正宗の刃がアンジールの左二ノ腕を切りつけたのだ。

それを合図かのようにお互いが距離を置く。

 

「アンジール!血がッ!」

 

ザックスが驚いた。

目まぐるしい戦闘が一旦収まったことで、戦いを見守っていた者がやっと声を出すことが出来たのだ。

 

「心配するな、たいした事ない」

 

二ノ腕から流れ出た血が肘へと伝わり、そこからポタポタと大地を赤色に染める。

本人は平気だと言うが傍から見れば痛ましい様である。

 

「まだ続けるか?」

 

負傷した対戦相手に降参を提案するセフィロス。

 

「冗談を言うなよ、セフィロス」

 

フンッと鼻を鳴らしてアンジールはバスターソードを正面に構え直す。

 

見た目に反して傷が浅い事は攻撃を与えたセフィロスも理解している。

降参の呼び掛けは彼なりの“掛かって来い”という扇動なのだ。

 

「そうか」

 

静かに呟いた彼は正宗を両手で左頬付近に構えてアンジールに強い眼差しを向けた。

お互いに武器を構えたまま身じろぎ一つせず、辺りは再び静寂に包まれ始めた。

両者共に次の攻撃に己の全て注ぎ込む為、最大限の集中をしているようである。

 

 

 

次が最後。

 

 

 

お互いに言葉で確認し合った訳ではない。

だが、声を出さずともそれぞれ相手が考えている事は判っていた。

それは何故か、深く考える必要などない。

二人に聞いて返ってくる答えは至極単純であろう。

 

 

 

 

 

 

『セフィロスだから』

 

『アンジールだから』

 

 

 

 

 

 

ザックスは師の覚悟を。

 

クラウドはソルジャーの誇りを。

 

ジェネシスは友の決断を。

 

それぞれが行く末を見守っている。

 

 

 

そして……その時は来た。

 

 

 

「行くぞッ!!!」

 

セフィロスが先に動く。

構えた正宗から繰り出されるのは【八刀一閃】。

目にも止まらぬ速さで七撃の攻撃を繰り出し、最後の八撃目で相手へトドメを差す。

単純ではあるが、セフィロスの圧倒的な実力が最もダイレクトに反映される技である。

 

「そう簡単にやらせるかッ!!!」

 

アンジールが雄叫びのように声を張り上げ、負けじと斬りかかった。

 

正宗とバスタードソードが交差する。

 

一撃目は、弾かれた。

 

二撃目は、切り払われる。

 

三撃目は、防がれる。

 

四撃目は、叩き返された。

 

五撃目は、受け止められる。

 

六撃目は、せり合った。

 

七撃目は、切り上げられる。

 

「終わりだッ!!!」

 

「さいごだッ!!!」

 

八撃目を、打ち込んだ正宗。

 

八撃目を、突き差したバスターソード。

 

二人は今持てる全ての攻撃を相手にさらけ出した。

 

そして共に最初の立ち位置を交換したかのように互いに背を向け立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝敗は決した。

 

「八撃目をモノにするのは苦労…した……んだ……ぞ……」

 

膝から崩れ落ち仰向けに倒れたのはアンジールだった。

 

「アンジールッ!!!」

 

それを見て駆け出し側に近寄るザックス。

 

「アンジールさんッ!!!」

 

クラウドも後を追うように走り出す。

 

「アンジール……」

 

ジェネシスはその場に留まった。

 

 

 

駆け寄ったザックスは膝をつくと倒れているアンジールの顔を覗き込む。

右手にはバスターソードがしっかりと握られていた。

 

「アンジールッ!しっかりてくれ」

 

アンジールの周囲には血溜まりが出来ている。

息も絶え絶えなっているがその表情は決して苦痛に歪んではおらず、むしろ正反対の晴れやかな顔であった。

その表情を見て少なからず安堵したザックスはいつの間にか二人の方を向いていたセフィロスに声を上げる。

 

「セフィロスッ!いくらなんでもやりすぎじゃないか!」

 

「…………」

 

抗議に対して沈黙しているが、その表情は何処か寂しそうであった。

やがてクラウドもアンジールの側に近付くと目線を合わせるべく跪いた。

尚もザックスはセフィロスに問い詰める。

 

「黙ってないで何か言ったらどうなん──「狼狽えるな!!!ザックスッ!!!」

 

弱りきっていた姿からは想像も出来ない程の声量でアンジールは一喝した。

辺り一面に響いたことでその場にいた全員が彼に顔を向ける。

 

「セフィロスは俺の本気に同じく本気で応えただけだ」

 

「でも……」

 

「俺に恥をかかせるな、後から文句を言うなんて男が廃る。

 それにあっちを見ろ」

 

アンジールの視線がセフィロスに向けられる。

 

「見ろって言っても……えッ!?」

 

言われて同じ方に顔を向けたザックスが目を見開いた。

一見すれば何ともなさそうに平然と立っているセフィロスであったが、足元にはアンジールと同じように血が広がっていた。

その出所を探ってみれば、よく見ると彼の黒いロングコートの脇腹付近が血で滲んでいるのがわかった。

 

「俺だってちゃんと一矢報いてるんだぞ……」

 

アンジールのその言葉に反応するようにセフィロスが口を開いた。

 

「その大剣(バスターソード)()()()()()()……」

 

「当たり前だ、俺の家族の想いが込められているからな」

 

「成る程な」

 

「だが、まだまだ強くなる」

 

そしてアンジールは右手に持ったバスターソードをザックスの目の前に突き出した。

 

「ザックス、受け取れ」

 

予想だにしていなかった展開にザックスはどうしていいか困惑した。

アンジールはそんなことは関係ない早く受け取れと顎を動かす。

 

「お前がセフィロスを超えろ」

 

「そんな、俺には……」

 

「英雄に成りたいんだろ?

 だったらここで尻込みしてるようじゃ無理だな」

 

アンジールはたじろぐザックスに発破をかけ、真剣な眼差しを向ける。

その様子に気合を込められたのか、ザックスは決心したようで、差し出されていたバスターソードに手を持ち受け取った。

 

「俺の夢……その剣と共に託したぞ」

 

「アンジール……」

 

ザックスの言葉にアンジールは微笑む。

一呼吸置くとバスターソードから完全に手を放す。

そして最後の力を振り絞り、離した右手で拳を作り高々に空へと突き上げた。

 

「聞いたか、セフィロスッ!

 見たか、ジェネシスッ!

 これが俺の答えだッ!!!」

 

大きな声で力強く叫んだ。

名を呼ばれた面々はただ黙って見届けている。

アンジールは満足気な表情で伸ばした腕を地面に寝かせる。

彼の両目が穏やかにゆっくりと閉じていく。

 

その様子を見たセフィロスは傷を負わされた腹部を掴む。

そこはかつての『オレ』がバスターソードによって貫かれた箇所。

だがあの時味わった奢り高ぶっていた屈辱とは程遠い感情が湧き上がっていた。

 

ジェネシスは見届けた後、何も言わずにアンジール達を背にミッドガルへ戻っていく。

長年の付き合いである幼馴染。

彼の全てを受け入れられたかどうか、ジェネシス自身はまだ完全にとはいかなかった。

 

ザックスは気が付けば両目に涙を浮かべていた。

託された夢を胸に抱き、これから自分を奮い立たせ更なる高みを目指さなければならない。

だけど、それでもこの瞬間はそんな覚悟から解放されてただ優しく時間の流れに身を任せても許されるだろう。

 

クラウドは今、頭ではなく心で()()()()()()()()を感じ取ったのである。

自分がこれより歩んでいく人生の道しるべ。

体を張って伝えてくれた偉大なるソルジャーに心から敬意を払った。

 

 

 

 

 

そんな彼等を照らすように曇り空はいつの間にか晴れていた。

 

 

 

 

 




本編でもこの二人の真剣勝負見たかったなぁ……
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