医務課の病室でただ天井を眺めている毎日。
気怠さが抜けない。
ずっと疲労感が溜まっている。
負傷した肉体はまだ痛みが残っている。
「これが普通というヤツなのか……」
少し前ならすぐに回復したことが、今は一週間も引きずっている。
しかし常人なら数か月はリハビリを要するほどの負傷である。
あの闘いを
上体を起こし、両手の指を何度も開いたり握ったりしている。
この状態で体を問題なく動かせるのは日々積み重ねた鍛錬の賜物であろう。
ジェノバ細胞の影響はなりを潜めたが努力はちゃんと肉体に残っているらしい。
周囲を見渡すと自分以外は誰も居ない。
個室なので当たり前と言えばそうなのだが、入院とは無縁の人生だった為、暇でしょうがないのである。
今までは、そんな時バスターソードの手入れをするのがお決まりだった。
だがその大剣も既に手元から離れている。
「良い機会だ、ゆっくり休むか」
そう言って起こした体を再び横にしようとする。
その時“コンコン”と扉をノックする音が聞こえた。
「開いてるぞ」
扉の向こうに居る人物にそう伝える。
「「失礼します」」と入って来たのは夢を託した男とその弟子。
片方の背中にはかつての誇りが背負われている。
「よく似合うじゃないか、ザックス」
「元の持ち主から言われると照れるな」
後頭部をポリポリと掻きながら照れた顔でベッドの枕元付近にある椅子に腰かけるザックス。
だが椅子は一つしかないためもう一人は側で立ったままである。
「この部屋に椅子は一つしかないんだ。
なんならベッドの足元にでも座ってくれて構わないぞクラウド」
「お気遣いありがとうございます。
でも大丈夫です」
そう言うと後ろで手を組んで休めのポーズを取るクラウド。
いくら本人が良いと言っても、まだそこまで交友の無い上司に言われて素直にベッドに座る事は抵抗があるのだろう。
「そうか、気を遣わせてスマンな」
「いえ、こちらこそスミマセン」
そしてチラッと座ってるザックスを見て、こっちは遠慮なく座るだろうなと思った。
目が合ったザックスが心配そうに聞いてくる。
「体はもう大丈夫なのか?」
「まぁボチボチと言ったところだな」
「そっか、でも無事で良かったよ」
「そっちはその後どうだ?」
外界との接触が限られた病室。
あの後、ソルジャー部門がどうなったか気になっている。
「アンジールは表向き過労って事になっているよ。
「だろうな、しかしその口ぶりからするとお前達も真相は知ってるのか」
「一応……ね」
戦闘が終わるのを見計らっていたかのように神羅のヘリがやって来て倒れた俺を搬送した。
後日、二人はラザード統括から統括室に来るよう伝えられ、その場にいたホランダーやガスト博士から
「アンジールさんはコレで良かったんですか?」
「未練はないな」
返答に二人は神妙そうな顔をこちらに向けた。
何かを言いたそうではあるが、上手く言葉に表せないといった様にも見受けられる。
ならば少し語らせてもらうとしようか。
「セフィロスとは何度も試合をした事はある。
何れも俺は本気を出していたが、敵う事は無かった。
アイツとの決闘は今までの自分よりも全力にならなければ勝てないと思ったんだ。
それこそ己の身を案じるような戦い方じゃ無理だろうとも……な。
だから命を失う覚悟で挑んだ」
二人が驚いた顔をしたが構わず続ける。
「だが、万一生きてる様なら例の治療を施してくれと博士に頼んでいたんだ。
つまり死のうが生きようがソルジャーとしてはあの決闘が最後のつもりで全てを懸けた。
結果は御覧の通りだが、お前達に俺の全てを見せることが出来たと思っているが……」
見れば二人とも固い表情に覆われ、ただ黙っている。
ザックスは両手で力強く膝を掴んで震えており、クラウドはいつの間にか後ろに組んでいた手を体の横で拳を結んで俯いている。
自分ではそれ程重い話をしたつもりはないのだが、聞かされた方はそう捉えなかったようである。
このままでは永遠に解除されない
俺としてもそれは不本意であるため逆に問う事にした。
「何か聞きたいことはあるか?」
腕を組んで彼等の顔を交互に見る。
それでも押し黙る様子を見てさらに「気にするな」と付け加えることでようやく一人がおそるおそる口を開く。
「あの……アンジールさんの最後の剣技、名前は何ですか?」
「名前か……そうだな……」
意表を突かれた質問に少し考え込んでしまう。
セフィロス相手に最後の八撃目まで繋ぐのは容易ではなかったが、実際の所、何か特別で特殊な連撃という事は無い。
重要なのは相手の動きに合わせ、確実に叩き込む技量と一撃一撃に全力を込めるためのスタミナ。
要は基本が重要となる。
そういえばザックスは“連続斬”と言って五連撃繰り出していた。
名前を付ける行為が戦意向上や闘志を燃やす事に繋がるのは理解しているのでそこは否定しない。
「俺も気になるな、アンジールの命名センス」
もう一人もさっきまでの表情はどこえやら、ここぞとばかりに食い気味に興味を示してきた。
自分で質問を募っておいてノーコメントは流石に無しだろう。
正直な話、技名は……ある。
自分だって男だからな、そう言う事は考える。
ただちょっと恥ずかしくて堂々と表に出すのは避けていた。
二人は額に手を当て眉間にしわを寄せた俺を見て、答えを今か今かと待ち構えている。
ある意味でセフィロスとの決闘よりも覚悟がいる。
ただ後には引けない。
“全てを見せる”と宣言したのだから。
恥ずべきことなどない。
堂々としろ。
「
「武神覇斬……すごくアンジールらしいな!」
「あの技に相応しい格好いい名前だと思います!」
「そ、そうか」
思っていたより好評で思わず照れてしまった。
神をも斬り伏せるとの意味を込めて名付けたのだ。
同時にもう一つの候補“大凶斬り”にしなくて良かったとホッとする。
重苦しい雰囲気は一変された。
俺は表情を戻し二人を見据える。
「俺は……見たいんだ。
ザックスが俺を超え、ザックスの教えを受けたクラウドがさらに超えて。
俺が今まで走って来たソルジャーの道がどのように繋がっていくのか」
「アンジール……」
「アンジールさん……」
新しい
新しい
声には出す必要はない。
ザックスは英雄を、クラウドは最高のソルジャーを目指せばいい。
これは俺の勝手な願望さ──。
「よしッ!」
気合を入れた声が病室に響き渡った。
ザックスが突然両手で自分の頬をパチンッと叩くと、勢いよく立ち上がり背中のバスターソードを掴んだ。
そのまま俺が祈っていた時のように正面で垂直に構える。
「あの時はしっかり返事が出来なかった。
だから言わせてくれ」
目を瞑り深呼吸をした。
「ありがとう」
穏やかな表情で感謝の言葉を述べられた。
どうやら想いはしっかりと伝わっているようだ。
「良い返事だ」
今まで見た事のない爽快な笑顔の自分が二人の瞳に映っている。
ザックスの背中に再びバスターソードが背負われる。
そういえば新しい持ち主に言い忘れた事が一つあったのを思い出した。
「バスターソードの手入れは怠るなよ?」
お別れだ、バスターソード。
今までありがとう。
ソルジャー1st・アンジールは今、この瞬間をもって退役となった。
バスターソードは5年も放置されたら性能は当然落ちると思う。
次はジェネシスです
お楽しみに