セフィロス逆行物語   作:怪紳士

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第41話 女神の贈り物

入院した原因を公表するわけにもいかないので表向きは“過労”という事になっているがアンジールの元に見舞いに訪れる人間は後を絶たない。

それは今まで数々の人達との出会いを無下にせず、大切にしてきたからに他ならない。

そういった部分においてもザックスはしっかりと見習っている。

受け継がれるのは剣技だけではない、流石師匠といった所だろう。

 

さて本日訪ねてきたのは、ある意味で原因の一つとなっている人物でもある。

その者は手荷物を携えており、ベッドで上体を起こして居た病室の主に近寄ると側に置いてあった椅子に座り語り掛ける。

 

「体調はどうだ?」

 

「おかげさまで、すこぶる悪い」

 

得意気な顔をして答える男。

それを聞いて安心したように笑みが溢れる男。

 

「それは何よりだ、クックックッ」

 

「治ったら一杯奢れよ、ハッハッハッ」

 

()るか()られるか。

お互いのプライドを掛けた大勝負。

一歩間違えればソルジャー部門に大きな禍根を残す事になったかもしれない。

しかし、どちらも一切の手加減をせず全力で戦ったからこそ後腐れなく笑い合えるのだ。

 

「アンジール、コレを」

 

「セフィロス、もしや見舞いの品か?」

 

「この状況でそれ以外なんだと言うのだ」

 

「いや悪い悪い、ちょっと意外だったもんでな。

 ありがたく頂こう」

 

実のところセフィロスが病室に入ってきた時に手に携えていた()()()()()()()()をアンジールはずっと気になってはいた。

あの英雄が、更には自分(おとこ)に対して花束を携えてくるのは予想外であり、ここへ来る道すがら出会ったファンにでも押し付けられたのかと疑っていたのだが、実際は真っ当なお見舞いの品であり、処分に困って渡されたなんていう悲しい事にならずに済んだようだ。

 

「最初は紙袋(そっち)だけだったんだが、エアリスに持っていけと言われてな」

 

「あぁ成る程な。

 という事はコレが噂のあの()が育てたという花か」

 

 

噂と言うのは自分の一番弟子が逢引している女性が居るっぽいという話が1年ほど前からソルジャー部門内でひっそりと広まってる件である。

その相手はスラムでお花の世話しているという事が判明しており、アンジールは恐らくガスト博士の娘ではないかと察しは着いていた。

というのもジェネシスの場合と同じく、エアリスとセフィロスが一緒に居るところに偶然居合わせたり、セフィロスと一緒の時にエアリスが訪ねてくるという事が何度かあり、アンジールも面識はある。

ミッドガルで花を育てている女性は誰だと聞かれたら真っ先に思い浮かべるくらいにはエアリスが花に愛情を注いでいる事も知っていたので、噂を知った時にモノは試しと『ザックスと会ってるのか』と直接聞いてみれば、彼女は『はい』と嬉しそうに答えてくれたのだ。

 

なお、余談ではあるが母イファルナは誰よりも早くザックスの存在に勘付いており、父ガストは何も知らない。

 

 

「お見舞いの花は明るい色の花が良いといって持たせてくれた」

 

「そうか、一番日当たりのよい所に飾っておこう。

 彼女にもありがとうと伝えといてくれ」

 

「わかった」

 

そう言ってコクリと頷くセフィロスを見た後、アンジールはもう一つのお見舞いの品に手を伸ばす。

紙袋から取り出してみればこれまた予想を超えた品物であり目を丸くしていた。

 

「こっちはバノーラ・ホワイト・ジュース。

 おぉ、しかもッ!

 これは数量限定の特別な奴じゃないか!!」

 

バノーラ村の特産品であるバノーラ・ホワイトというリンゴを使用した飲料品として有名なバノーラ・ホワイト・ジュース。

実は店頭に並ぶ品物とは別にスペシャルパッケージが存在する。

使われている原材料のバノーラ・ホワイトが他と比べて一味違うらしく、実る樹の本数が少ないため大量に供給出来ない。

そのため年に数回の数量限定販売となってしまうのだが、その人気から毎回仕入れる事が出来た百貨店や商店で争奪戦が繰り広げられるほどである。

当然、普通のジュースより洗練された味わいであり、飲んだ人曰く「女神の贈り物」と形容出来る代物だそうだ。

外装にも手が込んでおり、鮮やかな紅色の木箱を開ければ、煌めくルビー色に染められたシルクが顔を覗かせ、はぎ取れば情熱的な赤色のラベルが巻かれたボトルを手にする事が出来る。

贈呈品としても一級品だ。

 

「まさかここでお目にかかれるとはな。

 ずっと飲んでみたいと思っていたんだ」

 

「そう言ってもらえると苦労した甲斐があった」

 

あのセフィロスが並んでまで買った商品であるが、手に入れた後に“故郷の品物なのだから飲み飽きているのでは?”という考えが過ぎってしまい実際に渡してみるまで不安があったのだが杞憂だったようだ。

 

「マジで嬉しいぞ。

 ところでコレに使われている原材料は知ってるか?」

 

手に持った紅い箱をセフィロスの方に向けながらアンジールは質問する。

 

「バノーラ・ホワイトじゃないのか?」

 

「あ、いやその通りなんだが、そうじゃなくてだな…」

 

首を傾げながら問いに聞き返すセフィロス。

意志疎通が上手くいかなくて頭をかくアンジールであったが、自分の聞き方が悪かったと反省し言いたかった事を伝えようとする。

 

「このジュースに使われてるバノーラ・ホワイト(バカリンゴ)は特別でな。

 それが実る樹を育てたのが……」

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

突然開いた病室の扉。

二人がそちらに視線を向ければ、アンジールが言葉で説明するよりも先にその本人が登場してしまったようだ。

 

「アンジール、入るぞ」

 

「ジェネシスか。

ノックぐらいしてくれ、驚いたじゃないか」

 

「それは失礼した……

 なんだ、セフィロスもここに居たのか」

 

軽い謝罪を述べたジェネシスはセフィロスが座っている椅子の側に立つ。

彼もまた手に袋を下げていた。

 

「席を外したほうがいいか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「居てもらっても問題ない」

 

幼馴染だけにした方が良いかと気を利かせるセフィロスであったが、両者から留まっても良いと許しが貰えたのでそのままの形で残る事にした。

立ったままのジェネシスはアンジールが手に持っている物に目を落とす。

 

「それはセフィロスからの贈り物か?」

 

「あぁそうだ、ついさっき貰った。

 コレの秘密を教えようとした時に丁度お前(ジェネシス)が来たんだ」

 

「それで結局そのジュースに使われているのは何が特別なんだ?」

 

どうやら中断された続きが気になるようでセフィロスにしては珍しく催促する。

それを見てジェネシスは特に表情を変えることもせず、おもむろに下げていた袋に片方の手を突っ込むと中から()()()()を取り出してセフィロスの目の前に差し出した。

 

「コイツがそのジュースに使われているバノーラ・ホワイト(バカリンゴ)だ」

 

「コレがそうなのか」

 

差し出されたバカリンゴを手に取ったセフィロスは角度を変えながら物珍しそうにじっくりと眺めていた。

ジェネシスはその様子を黙って見ていたが、何か言いたそうな雰囲気であった。

それを代弁するかの如くアンジールが口を開く。

 

「食ってみろよ、セフィロス」

 

「いいのか?」

 

「良いよなジェネシス?」

 

そう言って彼に目を向ける。

 

「もともとお前(アンジール)への見舞いの品だ。

 その本人が良いなら構わない」

 

口には出さないが“まったく素直じゃないな”と思うアンジールであった。

 

 

 

 

 

彼が少年だった頃に語った夢がある。

 

『両親と一緒に英雄セフィロスにリンゴをごちそうする』

 

セフィロスと出会ってもう10年以上経つだろう。

アンジールはジェネシスが中々アクションを起こさないもどかしさを感じてはいたが、あくまで本人のペースを尊重していた。

そして遂に……。

待ち望んだいた親友がセフィロスにバカリンゴを差し出した瞬間が来たのだ。

あのバカリンゴはジェネシスが子供の頃から大事に育てた樹に実ったもの。

そして今はバノーラ村に居るジェネシスの両親が大切に世話をしている。

アンジールの一言は“ちょっとぐらいは手助けしてもバチは当たるまい”と思っての提案だった。

 

 

 

 

二人が見守る中、バカリンゴを豪快に丸かじり、シャリッという音が響く。

無表情のまま口の中で味わい、やがて飲み込んだ。

 

「美味しいな」

 

ただ一言告げる。

続けて二口、三口とかじり付く様を見せつけれられたら鈍い者でも気付くだろう。

決してお世辞ではないと。

 

「セフィロスの食いっぷり見てたらこっちも食べたくなってきた。

 俺にもくれ、ジェネシス」

 

右手をジェネシスに向けてバカリンゴを要求するアンジール。

黙って差し出された右手にバカリンゴを乗せるジェネシス。

 

「もう一つくれないか?」

 

その側で既に芯だけとなったバカリンゴを手に持ち、おかわりを要求してきたセフィロス見てアンジールは笑った。

 

「ハハハッ!大分お気に召したようだな」

 

「あぁ、気に入った」

 

「ここに置いておくぞ。

 セフィロスと存分に食べてくれ」

 

彼はベッド横の小さなテーブルにバカリンゴの詰まった袋を無造作に置くと、用は済んだとばかりに病室から出て行こうとする。

 

お前(ジェネシス)は食わなくていいのか?」

 

引き留めるように声を掛けた。

前回とは違い今度はしっかり足を止め振り向くと、ターコイズブルーの瞳を二人に向ける。

それに応えるようにアンジールとセフィロスは彼に注目した。

 

 

 

「既に腹は満たされてる」

 

 

 

「フッ」と鼻を鳴らし幼馴染が口にしたその言葉。

意味を理解するのに時間は必要なかった。

 

「ならば、良し」

 

そして神羅で出会った、もう一人の友も察したように口を開く。

 

「見送りは必要か?」

 

提案を受けたが柄じゃないと首を横に振る。

そして軽く息を吸ったかと思うと最近は見ることが無くなっていた彼の詩人癖が久方ぶり発揮される。

 

「身に宿る欲望が、無垢なる微笑に浄化され、(まこと)なりてを知る。

 友と道を別つも当て無き放浪は幕を閉じるであろう。

 それは決別ではなく、歩むは希望の道。

 女神の贈り物を受け賜わる時こそ、約束の場所現る。

 3人の道はそこで再会を果たす」

 

艶めかしい口調で詠われたその一節を耳にして二人は少々驚いた。

嫌と言うほど散々聞かされた【LOVELESS】であり、おかげで覚える事になった叙事詩。

だが、先ほどの内容は全く持っての未知。

顔を見合わせ「そっちは知っているか?」とアイコンタクトするも互いに浮かぶのはクエスチョンマークである。

その様子に苦笑しながら、ジェネシスは答えを提示する。

 

「俺が導き出した、己自身がこれから目指す【LOVELESS】さ」

 

「それが答えか」

 

「ふむ、なるほど」

 

伝えたいことを全てさらけ出して満たされたのだろう。

難しい顔で意味を考える二人とは対照的に満足気な顔を見せるジェネシス。

そして程無くして別れを告げる。

 

「さよならだ」

 

しばらくして、神羅カンパニーで彼を見掛ける事が無くなった。

 

 

 

 

その後、ソルジャー1st・ジェネシスの退職が公表された。

 

 

 




ジェネシスの話が一番難産でした。
いや、ホントに。
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