セフィロス逆行物語   作:怪紳士

43 / 51
最終章です。


最終章
第43話 緊急招集


闇が果てしなく広がる。

 

上下の方向さえわからぬ漆黒の空間。

 

泥濘に覆われたかのように自由が阻害され、そもそも肉体が()()にあるのかもわからない。

 

安らぎと嫌悪が共有している摩訶不思議な感覚に焦燥と心地良さが同居する。

 

 

 

 

 

「セフィロス」

 

 

 

 

 

男とも女とも聞こえる声が自分を呼んだ。

 

周囲を見渡すが己以外は誰も居ない。

 

気配が無いと言った方が正しいだろうか。

 

 

 

 

 

「……来なさい」

 

 

 

 

 

尚も声が続く。

 

返事をしようにも言葉が出ない。

 

もどかしさと焦りに苛まれ、何かしたくても行為自体が妨げられて足掻く事すら出来ない。

 

 

 

 

 

「セフィロス、こちらへ来なさい」

 

 

 

 

 

あぁ、この声は……。

 

聴きたくないな……。

 

耳を塞ぎたいよ……。

 

 

 

 

 

「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」

 

「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」

 

「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」「セフィロス、こちらへ来なさい」

 

 

 

 

 

黙れ、黙れ、黙れッ!

 

呼ぶな、呼ぶな、呼ぶなッ!

 

消えろ、消えろ、消えろッ!

 

 

 

 

 

「セフィロス、早く来い」

 

 

 

 

 

頭ガ、イタイ──。

 

誰カ、タスケテクレ──。

 

アレハ、アノ血二マミレタ奴ハ──。

 

 

 

 

 

「彼の地で待っているぞ、クックックッ……」

 

 

 

 

 

『オレ』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

 

悪い夢を見た。

目覚めて飾り気のない天井を見上げながらセフィロスは思った。

しばらくはベッドから上体だけ引き起こした状態で気怠そうにぼんやりとする。

いつもならば、さっさと身支度を済まして部屋を後にするのだが、今日は思うように身体が動かない。

片手で顔を覆うように額を抱え、「チッ」と舌打ちをする。

 

家具は体格に見合った大きさのベッド。

その横に小さな引出し付きのテーブル。

装備と着替え、最低限の日用品しか入っていないロッカー。

最近買い換えた大きめの黒い冷蔵庫。

備え付けの大きな鏡。

窓からは見える景色はミッドガルの街と魔晄炉。

温かさかけらも感じない、金属が剥き出しの壁。

見慣れた代わり映えのしない殺風景な自室が何故か無性に腹立だしかった。

 

けたたましく鳴り響く、携帯電話の着信音。

慌てる素振りも見せず、ゆっくりとサイドテーブルの上で充電していた携帯電話を手に取る。

画面を見れば着信相手は己が慕う博士の娘。

 

朝早くから珍しいな、と通話ボタンを押した。

 

「セフィロスッ!ねぇ大変なのッ!お父さんが、お父さんがッ!」

 

電話に出るなり耳に響く切羽詰まった声。

ただ事ではない様子が受話器から伝わってきた。

胸騒ぎがしたが、こちらも焦っては相手がさらに取り乱すだろうと冷静を務める。

 

「ガスト博士に何があったんだ?」

 

「出張先で大怪我をして、それでッ」

 

「──ッ!」

 

驚きのあまり声が詰まった。

一瞬脳裏に過ぎった嫌な映像。

ガスト博士が自分の元を去る。

そうであって欲しくないと振り払う。

 

「とにかく、エアリスも落ち着いてほしい。

 いま何処だ?」

 

「医務課だけど、でも、でもッ!」

 

「わかった、すぐ俺もそちらへ向かう」

 

まだ落ち着けない様子がエアリスの震えた声から察することが出来た。

アレコレ考えるのは後回しだ。

ベッドから跳ね起き、急いで着替えると勢いよく部屋を飛び出し最短ルートで目的の場所へ向かった───。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

医務課、手術室手前の待合所。

ベンチソファで俯いて静かに震えるエアリスと横に寄り添って肩を抱き励ますイファルナ。

反対側には申し訳ないと言った面持ちで二人を見つめるツォンがいる。

手術室入り口の赤色灯は朧げな明かりを灯している。

 

「状況はッ!?」

 

セフィロスはその場に到着するなり開口一番で声を張り上げた。

3人の注目が一挙に集まったが問いに答えたのはツォンであった。

 

「今、緊急手術を行っている所だ」

 

「そんなことは見ればわかる。

 なんでガスト博士が手術を受けている?」

 

「それは…すまない」

 

「確か、おまえ(ツォン)が常に博士を監視(みて)いたハズだな。

 どうしてだ?

 何故こんな事になっている?」

 

ツォンは珍しく感情的になっている英雄に驚きながらもバツの悪い表情を作り目を逸らしてしまう。

セフィロスは尚も問いただそうと彼の両肩を掴んで揺さぶるが再び「すまない」としか返って来ない。

その様子を見かねたイファルナがセフィロスを諫めようと口を開いた。

 

「止めなさいセフィロス、彼は悪くないのよ」

 

まるで駄々をこねる子供を叱りつけるような口調。

彼女に注意をされてセフィロスは自分が冷静さを欠いていた事に気付く。

肩を掴んでいた両手を離して謝罪する。

 

「すまなかった」

 

「いや、大丈夫だ。

 詳しい説明は後々すると約束しよう」

 

恐らくだが、イファルナとエアリスを目の前にしては開示出来ない情報もあるのだろう。

二人の母子をチラッと横目で見たセフィロスは一旦は事態をのみ込んだ。

 

手術室の赤色灯が暗くなる。

 

室内から手術衣に身を包んだ宝条が若干疲労を感じさせながら出てきた。

その後ろから看護師がストレッチャーに乗せられた眠っているガストを運んでくる。

イファルナとエアリスはすかさず駆け寄り心配そうに見つめ声を掛ける。

 

「あなたッ!」

 

「お父さんッ!」

 

マスクを顎にずらし、やれやれといった顔を周囲に見せた宝条は二人に向かって手術の結果を述べる。

 

「ガスト博士は無事ですよ、命に別状はないでしょう」

 

宝条の言葉を聞いて安堵する女性二人であったが、セフィロスとツォンは表情が硬いままであった。

特にセフィロスは執刀医が宝条という事が信用ならないようで疑いの目で強く睨みつけている。

男性二人が訝しんでる事に気付いたのか宝条は謂れのない非難を取り払うため勝手に弁解を始める。

 

「ガスト博士は、我が科学部門にとって変えの利かない貴重な人材だよ。

 真っ当に治療を行ったから安心したまえ」

 

「本当か?」

 

その言葉を聞いても素直に安心は出来ない。

セフィロスからしてみれば『オレ』の記憶も相まって仕方のない事だろう。

正直に話しても自分への疑いが晴れないので心底めんどくさい気持ちになる宝条だったが意外な所から助け舟が出された。

 

「宝条の言っている事は本当だ」

 

遅れて手術室から出てきた男が宝条の正当性を示すように擁護した。

その人物が覆われたマスクを外せばかつては手入れを怠り好き放題伸ばしっぱなしだった髭が今や綺麗に整えられたホランダーが現れる。

 

「最初から最後まで私も手術に携わっていたからな、誓って宝条は妙な真似はしとらんよ」

 

「そうか」

 

「安心しました」

 

ホランダーに庇われた事が不愉快なのか、それで納得したセフィロス達が面白くないのだろうか。

宝条はムスッとした表情で鼻を鳴らす。

 

「余計な真似を」

 

「お前は自分が思っている以上に人に信用されていない事を自覚したらどうだ」

 

「貴方もそうでしょうが」

 

「まぁな」

 

言い返されてもダハハッとニヤケ面を晒してケロっとした様子のホランダーにまたもやイラっとしてしまう。

あの一件から憑き物が落ちたようにこざっぱりとした性格になり、宝条は彼に少々苦手意識を持ち始めていた。

 

既にガスト博士は病室に運ばれ、それに付き添うようにエアリスとイファルナもその場を後にしていた。

助手の看護師達も皆持ち場を離れており、いつの間にか手術室周囲は会話をしていた博士二人とソルジャーとタークスの4名のみ。

ツォンは辺りを見回して必要な人間しか残されていない事を把握した上で宝条、ホランダー両名に話しかけた。

 

「お二人とも手術でお疲れのところ申し訳ありませんが、ソルジャー司令室にお越し下さい。

 改めて今回起こった詳細を御説明させていただきます。

 またこの件に関しては既にラザード統括に報告をしているのですが、科学部門からご意見を伺いたいと申しております」

 

「それは今日じゃなきゃ駄目なのかね」

 

「少しは休ませてくれないか」

 

大仕事を終えた後にすぐお願いをされ、露骨に嫌な顔で不服を申し立てる博士二人。

流石のツォンも直後は気の毒に思ったようで、譲歩を提案する。

 

セフィロスは何も言わずに見守っていた。

 

「では今日の正午からということでどうでしょうか?

 それくらいでしたら私の一存で可能です。

 しかし後日と言うのはお受けすることが出来ません。

 急を要するためご理解下さい」

 

ホランダーはそれならば致し方無いという表情で納得した様子だ。

しかし多少の譲歩では腑に落ちないようで、宝条は尚も意見に食らい付く。

 

「はぁ……、科学部門の人間でいいなら代理人ではどうかね?」

 

「残念ながら不可能です。

 ラザード統括の命令内容は()()()()()()()()()()()()()()()()()が条件です。

 ()()()()()のガスト博士は現状では難しい。

 ならば()()()()()かつ【プロジェクト・S】責任者の宝条博士、そして【プロジェクト・G】責任者のホランダー博士。

 お二人以外は考えられません」

 

「しようがないですね、まったく……」

 

淡々と事実を羅列するツォンに対して反論材料が無くなってしまったようで渋々と了承した宝条。

そのやりとりをジッと眺めていたセフィロスだが、丁度マナーモードにしていた携帯がメールを受信したようでポケットの中で震え出した。

とりだして内容を確認すると、先ほど目の前で繰り広げられていた事と一致するかのように、ラザードから《緊急招集》が発令されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。