ガスト博士及びファレミス家の監視はタークスが任された仕事の一つであった。
神羅から一時離れ、アイシクルロッジに居た頃から監視は行われていたが、ツォンがその役割を引き継いだのは一家がミッドガル伍番街に居住の許可が得られて移り住んだ時期からである。
この頃には社長も宝条統括も
その為、警告も兼ねて監視はファレミス家にも秘匿する事なく伝えられた。
最初こそ嫌悪感を示していた様だが、ツォンが家族のプライベートを邪魔するような立ち回りは行っていなかったため、監視されているにも関わらず、ある種の信頼が一家との間で生まれていたのだ。
そんなツォンから今回の事の顛末を聞く為、もうすぐ正午を迎えるソルジャー司令室に集ってくる人物達。
既にいつものデスクに座り待機をしているラザードを除けば、一番最初にやってきたのはセフィロスである。
全く全容の掴めていない状況に少々苛立ちを隠せない様であり、早く聞かせろと言った面持ちであった。
「ツォンはまだ来ていないのか」
入ってくるなり、説明すると約束した相手がまだ居ない事に不満を覚えソルジャー統括にぶつけるが、ラザードは軽くいなす。
「指定の時間までまだ数十分はあるからね」
「統括には既に報告をしていると聞いた。
アイツが来ないならそっちからでも良いから早く教えてくれ」
「それは時間を過ぎても来なかったならば私から説明しよう」
じれったいという雰囲気を纏ったセフィロスが睨んだが、相手は気にも留めずに待ちの姿勢を貫いた。
そのやりとりが終わると同時に背後から声を掛けられる。
「気持ちはわかるが、一旦落ち着け」
現れたのはアンジール。
引退はしたが仕事場で着る服がないのかソルジャー1stの制服に身を包んだままである。
「……仕方ない」
友の説得を受けてもまだ納得のいかない様であるが、とは言え言葉通り落ち着く事が出来る辺りある程度の整理はついているようだ。
そんな様子から数分後には神妙な顔を覗かせる髭面と不貞腐れた眼鏡の白衣二人と共にポーカーフェイスの黒いスーツマンが登場する。
必要なメンバーは揃ったようで、ツォンは統括デスクの左側に立つと説明の許可を求める。
「ラザード統括、全員揃いました。
説明を始めてもよろしいでしょうか?」
「よろしく頼みます」
統括を横に据えたツォンに残りの者達が注目を集める中、彼は今日までの出来事を淡々と語り始める。
「事の始まりは、ガスト博士からニブルヘイムに行きたいと相談を受けたのです。
なんでもかつての研究資料が神羅屋敷に残されているらしく、博士はどうしてもそれを確認したいと申しておりました。
タークスの立場から言わせてもらえばミッドガルを離れ、遠方に赴く事は歓迎すべき事ではないのですが、社長からは『神羅に不利益をもたらす様子でなければある程度好きにさせて良い』と通達を受けていましたし、そちらに居る宝条統括に確認すれば『別に構わない』との回答を貰えたため、私も同行する形でニブルヘイムに向かいました」
「そんなことはここに居る全員知っているだろう、さっさとその先を話したまえ」
眉間にしわを寄せた宝条がまどろこしいと声を上げる。
彼が言う通りこの件に関しては、ラザードはツォンを通して、それ以外はガスト本人からニブルヘイムに行く事は聞かされていた。
セフィロスは聞いた当初、
己の秘密を未だに打ち明けていない状況下、ガスト博士にその理由を聞かれても、上手い言い訳が思い浮かばなかった。
何より嘘を吐いて不信を買いたくなかったのだ。
宝条の茶々に「そうでしたね…」と溜息を吐きながらツォンは説明を続ける。
「ニブルヘイムに付いた後しばらくは、ガスト博士は神羅屋敷の地下室で資料の確認をしておられました。
私もその側で常に見張っていましたが博士に変わった様子は有りませんでした。
到着してから1週間経った頃、必要な事は確認できたのか『ミッドガルに戻ろう』と仰ったので帰りの手配をしたのですが、その最中に村の住人から最近停電が多いという話を聞いたのです」
「それについて私も都市開発部門に確認を取った。
一応その報告はリーブ統括まで届いていたようだが、現地調査に派遣する作業員のスケジュール調整が上手く行かないそうだ」
事前に報告を受けていたラザードが正午までに調べた情報を補足する。
この魔晄炉は老朽化が進んでおり補修を含めた改修計画も視野に入れていたそうだが戦争中の予算配分ではそこまで手が回らなかったようである。
終戦後やっと予算の目途が付いた矢先の出来事でリーブは頭を抱えていたという。
「えぇ、村の住人もいつ頃になったら人を送るんだと不満を言っていましたよ。
それを見かねた博士が代わりに確認しようと提案したのです」
「ガスト博士は生物遺伝子学が専攻であるが、工学にも明るい。
何より人が良いから見過ごせなかったんだろうな」
髭に手を当てながらホランダーが呟く。
基本的に魔晄炉のメンテナンス及び新規開発は都市開発部門の技術者及び研究者が担当であるが、過去における魔晄の電力変換システムの開発には科学部門も多分に関わっていた。
当時のガスト博士も協力しており、その第一号基であるニブルヘイムの魔晄炉は設計含めて彼も把握している。
「迎えが来るまではまだ時間がありましたし、魔晄炉の不具合を先延ばしにするのもよろしくないと思いましたので博士の提案を受け入れました。
道中の護衛も私一人で事足りまして、問題なく魔晄炉に辿り着いたのですが外見上の異変は見受けられず中に入って調査を始めました。
最初は一緒でしたがその後は別行動となりました」
「なんで、あんたは常に一緒じゃなかったんだ?」
ずっと腕を組んで黙っていたアンジールだったがそこに関しては疑問に思ったようだ。
セフィロスもそれに同意するように目を向ける。
「あの魔晄炉は古いモノで今の最新型のように管理室で全て一括操作は出来ないのです。
特定の箇所は一人が管理室で計器の動きを、もう一人は現場で操作盤のスイッチや弁の開閉を手動で行わなければならず、勝手詳しいガスト博士が操作をして私が計器の動きを確認していました」
30年以上も前に造られたモノである。
最初期の魔晄炉は手探りの状態で建造された部分が散見される。
当時の技術では取り入れられなかったシステムも有りメンテナンスの部分においても最適化なされておらず不便を強いられた。
ツォンは納得した様子のセフィロスとアンジールを見て話を進める。
「見てて欲しいと頼まれた計器は全て確認したのですが博士が中々戻って来ませんでした。
なのでこちらから迎えに行こうとした時、上の方から何か落ちる大きな物音がしたので慌てて駆けつけるとカプセルの並ぶ部屋で博士が倒れていたのです。
どうやら階段から転げ落ちた様で頭部から血を流し足も骨折していたので即座に応急処置を施し、迎えを急遽魔晄炉に変更しました」
魔晄炉が建つニブル山は本来ヘリコプターでは着陸出来ない険しい地形であり、大きなメインローターの騒音は凶暴なドラゴンを呼び寄せる。
その為、普段は徒歩と神羅社員専用のロープウェイを併用して辿り着く場所だ。
だが不幸中の幸いにして今回ツォンとガスト博士を迎えに来るパイロットはタークスの中で操縦桿を握らせたら右に出る者は居ないと言われる人物。
この一刻の争う事態、針に糸を通すような操縦技術で障害物を避けて魔晄炉付近でホバリングさせることにより無事に二人を回収し、フルスロットルでミッドガルへ戻って来たのだ。
「移動中、私は博士のバイタルに注意を割く一方で報告も行いました。
本社にてラザード統括が迅速に対応して頂いたので、途中の給油も手術の手配も円滑に進める事が出来た訳です。
その後は皆さんもご存知の通りですね」
そこまで話すとツォンは後ろで手を組み一旦中断した。
それを引き継ぐように話の主導権はラザードへ委譲する。
「ガスト博士の診断結果を拝見しました。
身体的外傷の他に魔晄中毒も併発しているとのこと。
それから察するに、意識が朦朧として階段を踏み外した、というのがこちらの見解です」
「魔晄中毒だとッ!?」
セフィロスが驚き、ラザードに詰め寄った。
それを見たホランダーが安心させるため現在の状況を伝える。
「幸いガスト博士から検出された魔晄は微量だ。
アレくらいならば数日も経てば回復する」
「そう……か」
「まぁ魔晄炉の調査じゃ珍しい事じゃない。
大方、漏れ出た魔晄に当てられたんだろうさ」
今日の出来事を考慮すればセフィロスがいつもより落ち着いていられないのは仕方ない。
が、それを踏まえても少々不安定が過ぎるようでアンジールが「大丈夫か?」と心配していた。
そんな中、宝条は科学部門を招集した必要性が未だに感じないのでしびれを切らし質問を投げつける。
「話を聞いていればただの事故で済む事じゃないか。
我々を呼び付ける必要性はあったのかね?」
一連のやりとりを静かに見ていたツォンがそれに答えた。
「先程の説明で省きましたが、実は私が駆けつけた当初、ガスト博士は辛うじて意識が有りました。
そして階段の上を指さしてこう言ったのです」
『アレは……ジェノバ……ではない……』
ツォンが明かした事実にソルジャー司令室の空気が一変した。
かつての厄災を冠する言葉。
科学部門が主導する計画名。
ソルジャーに移植される細胞。
この場に呼ばれた面子は何かしら深い関りを持っているその存在。
各々が驚いた様を見せる中ラザードは表情悟られないよう顔をやや伏せて両手を結び冷静を努めた。
「ニブルヘイムの魔晄炉は少し不可解な点が多い。
魔晄炉全般の管轄は都市開発部門だが、あそこだけ科学部門との共同管理となっている。
おまけに権限は科学部門の方が優先だ。
おかしいと思いましたよ。
あの魔晄炉に立ち入る場合は科学部門の人員も同伴する事が条件としてあった。
ならば、そちらが歩調を合わせない限り難しいのも頷ける」
同じ統括という立場として事実を強く突き付けるが宝条は何も答えない。
「ガスト博士が指し示した先には【JENOVA】と書かれた扉があったと報告を受けていますよ。
そして明らかにそこから博士が出てきた痕跡もあったと」
「私は博士と魔晄炉内部を一通り見ましたが魔晄が漏れている場所は確認しておりません。
しかし一か所だけ見てない場所が有りました。
ラザード統括が申した扉の先です。
見回ってる最中、博士に確認しても『ここは……見なくて良い』と言葉を濁されてしまいましたが。
応急処置の後、近付いて見れば何故か扉がロックされており中を確認する事は叶いませんでした」
「やれやれ、タークス主任が聞いて呆れるね」
やっと口を開いたかと思えば息を吐くように嫌味を伝える宝条だが、そんな事気にする素振りも見せずツォンはただ事実を言った。
「お恥ずかしながら、
タークス、それも主任となれば神羅のほぼ全ての情報にアクセスできる権限を持つ。
だが全ての情報が第三者でも確認出来るようになっている訳では無い。
特に超がつく機密となれば文章及びデータで存在させる不安から口頭でのみ伝えられる場合もある。
副社長の指示のもと、
そんな現タークス主任の事情は把握済みのソルジャー部門統括。
新たな情報会得の為、科学部門統括へ率直に伺った。
「宝条統括、今回の件について知っている事を全てこの場で教えて頂けないでしょうか?」
「さぁ、私にもわからないね」
そのとぼけた回答に一同は注目したが宝条本人は至って真面目な様子だった。
セフィロスが今日一番の眼力で己より背の低い博士を見下すように視線を投げつけた。
「誤魔化すとはいい度胸だな宝条」
「はぁ、まったく人の話は最後まで聞くものだよ」
凄まれても臆することなく半ば呆れたように咎めると、宝条は司令室に居る顔ぶれをゆっくり見回した。
ダランと体の横で力が抜けていた両腕を後ろに回すと、面倒くさそうに語りだした。
「扉の先には書かれていたモノが
が、今現状はそれしか言えませんなぁ。
なにせここ数年、私はまったく
今どうなっているのかなど知る由もないのだよ」
「確かに言われてみれば……。
だいぶ前からお前さんにしては珍しくフラフラ出歩かず本社に籠りっぱなしだったな」
事実を裏付けるようにホランダーが口を挟むが、宝条は気にも留めない。
アリバイ証明の感謝だってしてない有様だ。
「しかしだね、私としてもアレをしばらくぶりに確認しようと考えていたところだ。
丁度良い、ソルジャー部門に科学部門統括から依頼を出そう」
「依頼ですか?」
宝条の言葉にラザードが顔を上げた。
「ニブルヘイム魔晄炉の調査だよ、調査。
こういった状況不確定な現場に向かうのはキミ達の十八番だろう。
後はそうだな……。
確実に任務を遂行してもらうため【英雄】を指名しよう。
他のソルジャーはどうでも良い」
言いたい事だけ伝えて「後は好きにしてくれ」と振り返りソルジャー部門に丸投げて司令室を出ていこうとする。
そんな態度なので疑り深く目を向けていたセフィロスの目は一層鋭くなっていた。
だがその後に、宝条が告げた事に対して目を見開いてしまうのである。
「あぁそれと、その任務には科学部門として私も同行させてもらおう。
よろしく頼んだよ、セフィロス。
クックックッ───」
不気味な笑いを響かせて、宝条はセフィロスの視界から消えていった。
BCではヘリコプターから飛び降りたタークスがニブル山の山頂付近に着地しているため神羅製ヘリコプターは少なくともニブル山以上の高度は飛べるようです。
ちなみにロープウェイもBCでは存在しています。
神羅製ヘリコプターB1式の航続距離はアルティマニアによると推定140海里(約260㎞)とのこと
が、コスタ⇔ジュノン⇔ミッドガルの距離がどう考えても近すぎる事に……
まぁCCでデザインが変わってるんで性能も変わってるでしょう(願望)
余談ですがCC、Rの神羅ヘリのモチーフであろうUH-60ブラックホークは航続距離は583㎞
最新型は増槽込み+最も効率の良い航行で理論上最大航続距離2,000㎞以上
神羅の技術+ファンタジー特有のすごい材質や力学+超燃費でなんとかなりそう