セフィロス逆行物語   作:怪紳士

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第46話 ニブルヘイム

「クラウド、大丈夫か?」

 

大地を離れた空の上。

ニブルヘイムに向かうヘリコプター内部にて。

キャビンの後方に座ったザックスが心配そうに隣に居るクラウドの背中をゆっくり擦っていた。

 

「な、なんとかダイジョウ…ブ…」

 

「そうか、まぁ無理すんなよ」

 

二人にとっては前日、それも日の傾きかけた時刻に突如言い渡された緊急任務である。

統括に呼び出されて内容を聞けば、ニブルヘイムの魔晄炉調査であった。

科学部門の社員が事故に遭い同部門の宝条統括が早急な解決を望んでいるという説明を受けて、その日のうちにミッドガルを出発する事になってしまった。

 

「ッフン、ただの移動でそこまで体調が悪くなるとは情けない。

 よくもそんな虚弱な体質で兵士になろうと思ったものだね」

 

「……すみません、宝条博士」

 

具合が悪いのも相まって申し訳なさそうに俯くクラウドへ、正面に着席する宝条が鼻を鳴らして当てつける。

ミッドガルからここまで半日以上、給油以外は狭いヘリコプターの中であり、体は常に揺さぶられていた。

乗り物に酔いやすい者にとっては地獄の空間というのは想像に難なくない。

 

「だいたいキミは見習いだろう?

 今回の任務じゃ足手まといじゃないのかね」

 

クラウドが指名された理由は、目的地の出身という事で魔晄炉までのガイドとなっていた。

送電が安定しない中でロープウェイの使用は極力避けるべきだとして山道を使ったルートに決定されたからである。

が、当の本人は自分の必要性が薄い事はなんとなく感じていた。

自分に嫌味を言ってくる宝条に食って掛かかりそうになっている隣の親友が選ばれたのは理解できるだろう。

彼はアンジール、ジェネシスと引退が相次いだ現在のソルジャー部門で実績、実力共に堂々のナンバー2であるからだ。

最重要と称された今回の任務にセフィロスがサポートとして任命したのも頷けるというもの。

 

「まぁ、せいぜい邪魔にならないようにしたまえよ」

 

「オイッ!アンタ言い過ッ──」

 

「宝条、おまえがこちらに『好きにしてくれ』と言ったから、俺がこの二人を選んだのだ。

 文句があるなら自分に言うべきだろう」

 

目に余る宝条の態度。

流石に我慢できなかったようでザックスが一言物申す。

だが、被さるように宝条の横に着座したセフィロスが苦言を呈し、それに遮られてしまったので文句は譲る形になってしまった。

 

批判を受けた宝条は僅かに考える素振りをしながらローター音が響く天を仰ぎ、そしてすぐに視線を戻した。

 

「たしかにそういえば………そうだったな。

 いやスマンね、見習いクン」

 

「い、いえ…平気です…」

 

彼らしからぬ素直さで謝罪をするが一言多い。

とはいえクラウド自身、事実であると認識をしていたのでそこまで気にはしていなかった。

ザックスは少々不服そうではあるが、本人が良いならそれ以上は余計だと判断したようで再び後輩の背中を擦り始める。

そして幾何かの不安の中、もう一つ新たに追加になりそうだと溜息が出そうになるが、何とか堪えたセフィロスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて一行を乗せ飛行していたヘリコプターの目前に、目的地の魔晄炉が建設されたニブル山が見えてくる。

窓から見えたその山の麓に視線を移せば小さな村が目に入る。

中心の広場に給水塔が有り、それを囲むように家屋が建ち並ぶ。

少し離れた小高い場所には大きな屋敷が存在感を放つ。

村の入り口近辺の開けた場所にヘリコプターは着陸すると、後方キャビンの扉が開かれて、ソルジャーと科学者がその大地に降り立った。

4人が居なくなったヘリコプターはメインローターの回転速度を上げ、空に戻ると来た方角へ飛び去って行く。

それを見届けた時、空の色はほんのり朱に染まっていた。

 

「やっと着いたなー、ここがニブルヘイムか」

 

窮屈な空間から解放され、凝り固まった体をほぐすように両手を組んだ腕を前方に伸ばしたザックス。

そのまま入り口を前にして進む気配の無いセフィロスに質問をする。

 

「それで早速魔晄炉に向かうのか?」

 

「今日はもう遅いから無理だろう」

 

日が落ちた山道は危険である。

足元は暗く、踏み外して崖下に転落したら助かる見込みもない。

おまけに道中は夜行性のモンスターがひしめいている。

ソルジャーだけなら大した問題ではないが今回は科学者を伴っているのだ。

視界を奪われた中で襲われる危険性を考えたら、可能な限り安全を取る事も大切な判断である。

この場にいる責任者としてセフィロスは指示を下す。

 

「出発は明日の明朝、集合場所はあそこに見える屋敷の門の前だ。

 宿は既に取ってあるので各自十分な休息を取って万全にするように」

 

命令を聞いた上でザックスが「じゃあ」と何か言いかける。

だが同時に村の入り口に向かって歩きだした宝条に注目を奪われてしまう。

 

「私は先に休ませてもらうとしよう。

 キミらと違って体が丈夫じゃないのでね」

 

そう言って村に入ってすぐ側にあった宿屋の中にさっさと入ってしまった。

それを確認したセフィロスは先ほどの続きをザックスに促す。

 

「何か聞きたいことがあったんじゃないか?」

 

「あ、あぁ休息とは言ってもまだ寝るまで時間あるし何かやることが有ればと思って」

 

「特に無い」

 

ぴしゃりと一刀両断され、片言のように「ソウデスカ」とだけ返す。

やる気が空回ってちょっといじけてる黒髪の後輩、先程から一言も喋らず何かに緊張している金髪の後輩。

そんな二人を軽く笑ってセフィロスは続ける。

 

「俺は個人的に調べ物があるから屋敷へ行くがお前達は好きにしろ。

 それと、家族や知り合いと会って来てもかまわないぞ」

 

そう言って彼は村の奥にある屋敷へと向かってしまった。

残された二人は顔を見合わせこれからどうするかを話し合う。

 

「クラウドはどうする?」

 

「俺はティ…母さんに会ってくるよ」

 

「そういえば故郷だもんな」

 

お互いに知り合ってまだ間もない頃、二人で自分達の出身は魔晄炉以外何もないと笑い合っていた時をザックスは思い出した。

 

「もし良ければ、ザックスの事を母さんに紹介したいんだけど…」

 

「別に構わないぜ、俺も友人として挨拶しておこうと考えていたところだ」

 

クラウドは遠慮しがちに伺ったが、相手が快く了解してくれたことで笑顔になる。

だがそれも束の間、ザックスの携帯電話が着信音を響かせる。

仕事の連絡かと思った彼は、一旦隣の人物へ「ちょっとスマン」と片手を立てて断りを入れた。

 

《もしもーし》

 

「エアリス!?」

 

電話に出てみるとお相手はミッドガルに居る意中のガールフレンド。

意外な相手に驚いた。

 

《突然ごめんね》

 

「あ、いや」

 

ザックスはつい先ほど自由を手に入れたばかりである。

しかし直後に約束を取り付た相手が横におり、電話を耳に当てながら気に掛けるようにチラッと見やる。

スピーカーから聞こえる透き通った女性の声はザックスと携帯電話の間から漏れ出ており、近くにいるクラウドにも聴こえていた。

 

《どうしても声が……聴きたくて……》

 

いつもの活発な少女には珍しく弱弱しい嘆き。

瞬間、ザックスは心配そうな面持ちとなった。

その表情変化と儚げな声で状況を察したクラウドは、電話先まで聞こえないよう小声で友人に話しかける。

 

俺の事はいいから

 

「本当にスマン!」

 

ザックスは一瞬受話器から口を離してマイクを片手で覆うと素早く詫びを入れて再び電話口に戻った。

その様子を見てクラウドは邪魔をしてはいけないと思い、その場をそっと離れていく。

 

《お仕事中だったかな?》

 

「全然そんな事ないよ、だから気にすんな」

 

《良かった》

 

「それより声が聴きたかったってどういう……」

 

《色々あったんだ、不安になっちゃって》

 

ザックスはエアリスがガスト博士の娘という事をまだ知らない。

それは辿れば彼女が古代種(セトラ)であるという事実に繋がるため。

父と母から無暗やたらに言いふらさぬようにという子供の頃からの約束だった。

 

「えッ、大丈夫かよ?」

 

《今は落ち着いてる。

 でも、そしたらだんだんザックスの声が恋しくなって》

 

神羅側、主にタークスもその存在秘匿には力を入れている。

ジュノン襲撃時にジェネシスが倒し身柄を拘束した、アバランチの星命学者が古代種に関する情報を嗅ぎまわっていた事実も拍車をかけた。

故に古代種自体はどういった人達か知っている者は数多くも、誰がセトラであるのかはごく少数の関係者しか知らない。

 

「俺の声で良ければいくらでも聞かせるさ」

 

《ありがとう、嬉しい》

 

「どういたしまして」

 

エアリスの表情は読み取れないが、その声色から安心した事が伝わりザックスも安堵した。

それを皮切りにしばらくは他愛のない話が続いた。

ザックスが作ったワゴンの事、お花の売れ行き、スラムでの出来事など。

別に今話すべき重要な事ではない。

内容によっては2度3度も聞いた事だって含まれている。

だけどその取り留めのない会話が、エアリスにとってもザックスにとっても心地良く喜ばしい事なのだ。

 

《ねぇザックス》

 

「どうした?」

 

《お仕事、大変?》

 

「エアリスの声が聞けたから平気」

 

何時だって迷いのない真っ直ぐとした声が心の弱った彼女には堪らなく温かい。

ザックスは決して無理にエアリスの身の上を探るような真似はしなかった。

不自然なくらい親兄妹について話さない事は、絶対気になっているハズなのにそんな素振りすら見せずにいた。

デリケートで一緒に居たら常に綱渡りになるような女と自分で評するエアリスだったが彼は難無く接してくるのだ。

だからこそ彼へ隠し事をしている後ろめたさを感じてしまう。

 

「俺さ、この仕事終わったら伝えたい事があるんだ」

 

《なに、突然?》

 

「今は言えない、直接会って言うって決めたから」

 

《……わかった》

 

唐突な宣言だったが、エアリスは彼の伝えたい事はおおよそ予想出来た。

自惚れでもなんでもなく、今までの積み重ねから導き出される答えがあった。

そして、それは彼女が内に秘めている想いと同じであった。

 

《私もあるよ、ザックスに伝えたい事》

 

「なんか、お互い様だな」

 

《ふふ、そうだね》

 

惚れるきっかけ、好きになったところ。

該当する理由を持ち合わせる人物は他にもいたかもしれない。

運命、奇跡、赤い糸。

使い古されたロマンを示す言葉で装飾することは可能だ。

しかし偶然と片付ける事も否定できない。

 

「会いに行くよ」

 

《うん、待ってる》

 

「約束する」

 

《約束だね》

 

だが現実は一つ。

その時、その場で男と女は出会い、互いに惹かれ合った。

二人が時間を掛けて愛を育む過程の先、予想通りの結果に辿り着こうとしているだけなのだ。

次に会う時、ザックスはエアリスの秘密を知るだろう。

でも彼なら拒むことなく受け入れるのは疑う余地が無い。

 

《お仕事頑張ってね、じゃあまた》

 

「あぁまた」

 

名残惜しそうに通話ボタンを押し余韻に浸る。

電話をしまったザックスが小さくガッツポーズをして気合を込めた。

彼等が辿るその先は、きっと沢山の祝福に溢れているだろう。

 

 

 

 

 

 

 




この二人はいきなりプロポーズしそうだ。
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