セフィロス逆行物語   作:怪紳士

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第47話 既知の真実

「あの様子じゃ、長くなるだろうな」

 

電話に出たザックスを見守るように静かに離れ、自分の家に向かうクラウドはふと独り言を溢す。

 

『このあと人と会う約束があるんだよね』

 

『先日さ、花を売って歩いたんだけど』

 

『ミッドガルの服屋って高いんだな』

 

仕事中、訓練中、食事の席で事ある毎に聞かされた内容。

本人は決して惚気る気は無くただの世間話といったつもりである。

とはいえ聞く側にとっては俗に言う恋バナ以外の何物でもない。

その相手がさっきの電話先の人物である事はザックスと親しくする者ならすぐ分かるだろう。

()()彼女ではないらしいが時間の問題だろうというのが、それを知る者達にとっての共通認識である。

 

(仕方ないよな、ザックスだって男だ)

 

あの時、電話を切るように促せばザックスはクラウドに従ってくれた可能性は高い。

だけど好きな相手からの電話を遮るなど友人と言えど野暮な真似は行いたく無かった。

何よりクラウド本人が自分に置き換え考えた場合、絶対に不満を感じるだろうというのを理解していたからだ。

 

(俺だって電話にティファが出れば……)

 

そんな彼の脳裏に過ぎったのは幼馴染。

だが思い浮かんだと同時に急に恥ずかしくなり頭を勢いよく振ってかき消した。

照れが残る顔でふと前を見ればいつの間にか実家の前だった。

ミッドガルへ向かった時から一度もニブルヘイムに帰っていないクラウドにとっては数年ぶりの我が家。

玄関を開ければこの時間は、夕食の準備でキッチンに向かう母親が居るはずだ。

 

(母さんビックリするかな)

 

何せ緊急任務だった為に行先を告げられても一報をいれる暇など無い。

久しく顔を見せていない息子が突然帰省すれば驚くに決まっている。

とは言えすぐに笑顔になって温かく迎え入れてくれるだろう。

クラウドの母、クラウディアはそんな心優しい人である。

 

(手紙じゃ特に変わった事は無いと書いてあったけど)

 

自室の机の引き出しに大切に保管してある母との手紙。

ソルジャー候補生になった事、頼れる上司や友人が出来た事を伝えて以降、クラウディアも一安心したのか“彼女は出来たの?”“いい人いたら母さんにも紹介してね”といった文章がよく目につくようになった。

無論、クラウドは嘘を吐かず正直に()()()と答えて返信している。

が、面と向かえば改めて根ほり葉ほり聞いてくるだろう。

母親とはそういうものだ。

 

そもそもソルジャー部門の候補生達に出会いなどまったくない。

一日のスケジュールは起床から就寝まで厳しく管理され、職場は男性だらけ。

僅かに許されたプライベートで出会いを求める頑張り屋も居たりするのだがクラウドはザックスとの特訓に時間を費やしている。

故に女性との繋がりなど築く暇もない。

あえて言えばクラウドが配置された候補生グループの上司はタークスの女性である。

ただ、大きな手裏剣一つで見習い数十人を軽くあしらい、過酷な訓練を強いてくる鬼教官に恋愛感情を抱くのは無理な話だ。

 

振り返ればなんとも花も色も無い青春であるがクラウド本人は満足して……いない。

やっぱり彼も男であり、親しい友人が女性との話をすれば羨ましい気持ちを抱くのは当たり前。

恋愛など()()()()()と言えるならどんなに気が楽か、今の状態でそんな事を言ってもただの強がりである。

 

折角久々に再開するのに、ある意味悲しい状況を細かく説明する羽目になるかもしれない。

下らないかもしれないが年頃男子にとっては至極真面目な問題。

そんな()()()()()()を想像してしまい玄関を開けるのは思わず躊躇してしまったクラウドであった。

 

一旦家から離れて深呼吸。

そして乱れた心を落ち着かせる。

 

(だいたいなんで俺の恋愛事情がそんな気になるんだ)

 

親の心子知らず、その逆もしかり。

家全体が見える位置まで下がったクラウドは腕を組んで溜息を吐く。

 

(ティファは手紙でそんな事聞いてこなかったのに)

 

女の子が恋愛の話題を同世代にまったく振らないのは()()()()()()()()()が存在する。

しかし女性とまともに関わった事が無いクラウドがその意味を知る機会など無かった。

彼にとってはただ聞かれたくない事を聞いてこなくてありがたいとしか思っていないのである。

 

ティファとの話題はもっぱらミッドガルについてである。

都会に憧れを抱く女の子と言った感じで流行の服や映画、珍しい食べ物について。

後はクラウドと同じようにミッドガルへ向かった同郷の男子が何をしているかなど。

仕事に関しては守秘義務が課される事があり詳しくは書けず、それとなく伝えるのみに留まっていた。

 

(そういえばティファもこっちに来たいけど父親が許してくれないなんて書いてあったな)

 

ぼんやりと実家の隣にあるティファの家を見た。

村の長でもある父親と二人暮らしの彼女。

クラウドがティファに会うのを躊躇うのは父親であるロックハート氏の存在もあった。

 

小さい頃に母親を亡くしたティファは死をよく理解出来なかった。

地元では生きては超えられない山と言われていたニブル山に死んだ母親が向かったと考えて探しに行ったのである。

険しい山道でありティファが連れ立った友達が引き返す中、幼きクラウドはただ彼女を心配する一心で追いかけた。

追い付き帰ろうと言ってもティファは聞き入れない。

やがて彼女は足を踏み外し崖をすべり落ちそうになる。

クラウドは慌てて助けようとするが間に合わず、それどころか同じように落ちてしまったのだ。

幸いにも引き返した子供の一人が村の大人に山へ向かった事を報告しておりすぐに救助はやって来た。

ただクラウドは膝を擦りむくだけで済んだのに対してティファは7日間も意識不明の状態に陥ってしまった。

過去にこんなことが有れば大切な一人娘が都会へ行くのを反対したくなるのも頷ける。

 

(もしかして俺がミッドガルに居るのも原因の一つかも)

 

当時の状況、父親から見れば妻を亡くしたばかりの上に、部屋の片隅で泣いていた娘はいつの間にかいなくなったのだ。

心労が重なり慌てふためいた彼が急いで駆け付けた場所に居たのは、軽症のクラウドと重症のティファ。

娘を連れ出したように見えたクラウドに責が向かうのも仕方なかったかもしれない。

口下手な子供のクラウドに状況を上手く説明できるはずもなく、彼女の父親からは娘を危ない目に合わせた奴としか認識されていないのだ。

ただクラウドやクラウディアが狭いニブルヘイムで村八分にされなかったのはロックハート氏が公私混同を弁えていた部分もある。

 

(アンジールさんは己を知り、誇りを持てるようになれと言っていた)

 

あの時、そして現在もクラウドの中に抱えているのはティファを救えなかった悔しさと悲しみ、臆病だった自分に対しての情けなさと怒り。

有耶無耶にして村を出てしまったが、今は面と向かって彼女とその父親に誠心誠意謝罪したいとも考えている。

本人は無意識だがミッドガルへ出たクラウドは多くの人と関わるようになり肉体だけでなく精神的にも立派に成長をしていたのだ。

 

「…………」

 

クラウドはおもむろに顔を上げた。

視線の先にはティファの家の2階の窓が見える。

 

(あそこに机があって、隣に化粧台があって、クローゼットもあって)

 

その窓の奥は子供の頃に初めて入った彼女の部屋。

記憶を辿りながら間取りを思い浮かべていった。

 

(ピアノがあって、ベッドがあって、そしてティファが……)

 

部屋全体のイメージが脳内に完成し、残すはその部屋の主のみ。

窓からこちらを見下ろす彼女がもう少しで再現出来そうなった間際、勢いよく窓が開いた。

 

「誰なのッ!人の部屋をジロジロ見……」

 

「……居た」

 

「えッ、もしかしてクラウド!?」

 

開いた窓から顔を覗かせて、驚ろいているティファ。

日も傾いたのでカーテンを閉めようと窓に近付いたのだろう。

見知らぬ格好の人物が自分の部屋を見つめていたら、声の一つもかけて追っ払てやろうと考えるのも不思議ではない。

だが窓を開けよくよく見れば、特徴的なチョコボ色の頭にツンツンな髪型の男性。

知り合いにそんな者は一人しかおらず、顔は記憶に有る幼馴染にそっくりだ。

数年の成長を感じたうえでしっかりクラウド本人とティファは認識したのである。

 

「いつ帰って来たの?」

 

「いや、えっと……」

 

「ちょっとまってて、今そっちに行くから」

 

言うなり素早く下まで降りてくると玄関を開けて勢いよく飛び出して来る。

部屋でくつろいでいたのか、簡素な格好であり紺のショートパンツに大きめの白いシャツを着ていた。

 

「え、なんで?

 どうしてクラウドがここに?

 何かあったの?」

 

少し興奮した様子で質問攻めをしてくるティファに身じろぐクラウド。

心の準備が出来ていなかったので面を食らったが、とは言え久しぶりの再会で嬉しい気持ちもあり笑みが零れた。

急かす彼女をなだめる様にしてクラウドはここまでの経緯を丁寧に説明していった。

 

 

 

 

 

「そっか緊急任務だったんだね」

 

「うん」

 

事前に連絡が欲しかったと言いたかったが緊急じゃ仕方ないとティファは思った。

そもそも月1程度の文通でしかやりとりしない彼等にとっては緊急でなくとも事前連絡は難しい。

彼女の家に直接電話を掛けるのは父親の件もあり好ましくない。

どうすればいいか少し悩む仕草をしながらクラウドをじっくり見れば、昔は同じくらいだった身長が追い抜かれていた事に彼女は気付く。

 

「手紙で知ってたけどこうやって見ると嫉妬しちゃうな」

 

「えッ、それってどういう事?」

 

予想しない言葉に再び驚いた様子を見せたクラウド。

それにティファはクスッと笑いながらも続ける。

 

「だって、男の子ってみんな都会に行っちゃって私より早く大人になるんだもの。

 なんだか自分だけ置いてかれている気がするの。

 こうやって立派になったクラウドを見ると余計にね」

 

「俺はまだ見習いだ、夢もまだ叶えちゃいないさ」

 

「ううん、クラウドはとってもカッコいいよ。

 想像を遥かに超えててびっくりしちゃった」

 

ティファからの賛辞にクラウドは思わず目を逸らしてしまう。

見かねた彼女は自分の言った言葉の意味にハッとなったようで頬を赤らめる。

その場に誰も割り込めない甘酸っぱい空間が出来上がった。

 

暫くはお互い喋らずに沈黙が続いたが、それを突破するようにクラウドの携帯電話がメールの着信音を告げる。

驚きの連続で思わず取り出してしまい、その場で確認してしまう。

差出人はザックスからで《先に宿へ戻る》との事であった。

それを端から見ていたティファが突然指を差して声をあげる。

 

「クラウド、それ!」

 

「あッ、ごめん、つい…」

 

「ちがうよ、そうじゃない」

 

配慮も無しに携帯をいじった事に注意をしたわけじゃないようだ。

 

「ケータイ持ってたの?」

 

「えっと、まぁ会社の支給品だけど」

 

「じゃあメールアドレス教えてよ」

 

クラウドの心臓は、人生でこんなに負担を強いられた事は無いだろうと言いたかった。

ドキドキと波打つ鼓動は耳を澄ませば聴こえそうなくらい高まっている。

 

「ティファって携帯持ってるの?」

 

「何、こんな田舎娘がケータイなんて持ってるわけないでしょって思った?」

 

「いやいやそんな事ないッ!」

 

両手と首を全力で振って否定するクラウドに「冗談よ」と微笑み、ショートパンツのポケットから自分の携帯を取り出した。

 

「じゃーん!」

 

そう言って手に持った神羅製一般販売モデルの最新機種を見せる。

得意気なスマイルが眩しく、そして可愛らしかった。

そのまま互いに赤外線で連絡先を交換する二人。

【ティファ・ロックハート】の文字が表示された携帯のアドレス帳。

クラウドはその画面を覗き込んだが、直後に登録されたばかりの相手からメールが届く。

 

《これでいつでも話せるね》

 

ティファがなぜ今まで恋愛の話を振らなかったのか。

それはどうやら()()()()の方であったが、クラウドがその意味を知るのはもう少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて神羅カンパニーが研究施設として使用していた場所、通称神羅屋敷。

最後に使われたのは何時なのか、ジェノバプロジェクトで何名もの研究員が滞在していた時期はかなり昔と証明するように、放置された家具や機材には埃が被っている。

だが目を凝らせばほんのわずか、人の居た形跡はある。

つい最近、ガスト博士が調べ物のためこの神羅屋敷を訪れていたからだ。

 

博士の軌跡を辿るように、セフィロスは地下施設に向かう。

螺旋階段を下りれば、壁面は岩肌が剥き出したまま梁と支柱で補強されただけの洞窟が現れる。

その先を進み扉を開けば実験室が、そして己の出生に関する真相が保管された資料庫がある。

年中通して一定の温度と湿度が保たれるこの地下施設のおかげで、当時の資料は劣化が少なく鮮明に内容や記録が確認できた。

 

資料庫のほの暗い電灯の下、中央に備え付けられた大きな机、その周りを囲むように配置されている身の丈以上の本棚は、かつて『オレ』が初めて訪れた時よりも綺麗に整えられていた。

恐らくガスト博士が確認しやすいように整理したのだという事は容易に想像がつく。

おかげで血眼になって読み漁り、探し回った『オレ』の時と違って目的のモノは簡単に手に取る事が出来た。

 

【プロジェクト・S】で生み出された実験体の出生と成長を記した資料である。

胎児の頃からミッドガル本社へ移るまで、セフィロスの成長が事細かに記載された分厚い書物。

()()の人間であれば親が記録したアルバムを眺め過去の自分に懐かしむところであろうが、残念ながらそんな情緒あるモノでもないのだ。

目を背けたくても、脳が理解を拒否しても、真実は変わらなかった。

打ち震え、絶望した『オレ』と違い、今ではただの事実確認である。

内容に関しては『俺』が協力的であったために、過去より幾分か充実しているが、大きな違いはない。

一定のリズムでページをめくり、流し読みするが特別に目を引く情報は無かった。

 

セフィロスはこれといった反応もせず黙って元の位置に資料を戻すと次の書物に手を伸ばす。

 

本棚から取り出したのは【ジェノバプロジェクト】の主題ともいえるべき【古代種(ジェノバ)】の研究資料。

だが先程の見た己の記録とは違い、こちらの資料には真実は記されていない。

古代種とは程遠い存在、言い換えればニセモノの情報が記載された書物。

そして『オレ』が絶望の淵から怒りに駆られ、星の支配者として君臨する事を目論むきっかけとなったモノでもあった。

 

「滑稽だな……」

 

盛大な勘違いを起こし、魔晄炉の底、ライフストリームに落とされてようやく真実を知ることになったが今となっては深い溜息が出るばかりだ。

一通り眺めるも過去と変わらぬ情報で今の自分には目ぼしいモノなど何も無く、セフィロスは資料を仕舞い地上に戻ろうと決めた。

しかし先ほどから背後にうっすらと感じていたうっとおしい陰険な気配。

それをまとった白衣の男が行く手を阻んでいるのである。

 

「何の用だ」

 

「クックックッ、開口一番がそれか。

 キミのその反応を見るに、やはり真相は既に知っていた様だね」

 

「……あぁ、知っていたさ」

 

「何時、何処で、何から、もしくは誰から教えて貰ったのだ?」

 

通路の中央に立ち止まった宝条が、眼鏡のズレを指先で直しながらセフィロスを見る。

だがセフィロスはその質問に拒否を示す。

 

「答える義理はない」

 

「……そうかい」

 

両者の間に不穏な空気が漂い、お互い顔色を一切変えず淡々と言葉を交わす。

その後は暫くは睨み合っていた二人だったが、どちらから声を掛けることもなかった。

ただいたずらに時が経つ事に、しびれを切らしたセフィロスは強引に変化のない雰囲気を打ち破る。

 

「話が無いなら俺は行くぞ」

 

そう言って宝条の避けて横切り出口に向かう。

扉に手をかけ、いざ出ようとした。

直後、背後から宝条の声で引き留められる。

 

「知っていたのなら一つだけ教えてくれたまえ。

 キミにとって私はなんだね?」

 

その言葉に思わず立ち止まりはしたものの、セフィロスは首を僅かに背後に振るのみであった。

口角が下がった口元の端も確認できない程の浅い首振り。

宝条の位置からではセフィロスの表情は確認しようもない

再び沈黙の間が訪れるが、先ほどよりも時間は掛からなかった。

 

「明日の出発は朝早い。

 さっさと寝ておくことだ」

 

答えになっていない返事をしたセフィロスは、開きかけの扉をくぐり外へ出て行った。

残された宝条は珍しく静かであり、地下に不気味な笑い声が響き渡る事はなかった。

 

 

 

 

 




何もなければ年相応の少年少女だったハズ。
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