セフィロス逆行物語   作:怪紳士

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第49話 ジェノバ

「そんな……まさか……」

 

目の前に存在するのは、自分と同じ顔を持つモノ。

セフィロスは必死に平常心を保とうとするが相手がそれを邪魔するように語り掛ける。

 

“こうして魔晄に満たされた空間のお陰で、ようやくお前とまともに意思疎通が出来る”

 

発していないハズなのに何故か耳に残る相手の声。

顔だけでなく声も己と同じという事が嫌悪感を増大させた。

 

「村の停電の原因はお前の仕業かッ」

 

“くみ上げた魔晄を操るなど星の全てを知った私には造作もない事だ”

 

必死で頭に響く声を振り払い、自分の過去を今一度振り返る。

あの時の『オレ』は確かにジェノバと融合した。

だが目の前の存在は約2千年前の地層から発掘されて、この場所に保管されていたハズである。

何より己の肉体がしっかりと存在する今、自分の姿でジェノバがそこに居る事実が頭を混乱させた。

 

「もしかして宝条が……」

 

やがてセフィロスは一つの仮説を思い付いた。

宝条が秘密裏に自分の細胞をジェノバに投与したのではないかと。

 

“残念だがそこに転がっている哀れなコンプレックスの塊は全く関係ない”

 

だがそれは、あっさりと否定されてしまった。

思考を読まれ声に出さなくとも考えが伝わってしまう。

ついでのように高濃度の魔晄の中で倒れている宝条を貶しあざ笑っていた。

 

“しかしお前と相対したにも関わらず、尚も意のままにする事が叶わぬとはな。

 流石の精神力だ”

 

「俺を支配しようとしても無駄だッ!」

 

嬉しくもない褒め言葉に啖呵を切った。

だが次に聞かされた言葉でその勢いは消え去った。

 

“クックックッ、ニセモノとは言え私の純粋なコピーという訳か”

 

「コピーだとッ!?」

 

コピーと言う言葉にセフィロスは感情を揺さぶられる。

ジェノバ・セフィロスは何も知らない様を見下しながらも少しずつ情報の開示を行う。

 

“お前は最後の戦いに敗れた後、再びその肉体に意識が戻って来たと勘違いしているようだが……。

 正しくはこのジェノバの体に意識が戻って来たのだ”

 

その事実を聞いた瞬間、セフィロスの目が見開き、同時に右手で顔半分を覆った。

 

「だとしたら……俺の…記憶は……」

 

“ほう、察しがいいな。

 その記憶は私がオリジナルの肉体に与えたものだ。

 この朽ち果てた体では()()()()()()()()()()()()

 

過去においては首無しの状態になろうとも本社研究所のカプセルを破り、擬態してプレジデント神羅を刺し殺す事が出来た。

だが逆に言えば衰えた肉体はその程度が限度である。

その証拠に、その時点では大した戦力でもなかった者達に倒されてしまったのだから。

水槽の者が示す満足とはあらゆる障害や強敵を排除して、己の野望を達成するための()()()()()()()()()の事。

 

“本来であればお前を操りオリジナルの肉体を取り込む予定だったのだ。

 しかしあの人形(クラウド)とは違い頭の中で囁くのが精一杯だった。

 それすらもほとんど行う事が出来なかったがな”

 

セフィロスの脳内に魔晄を通して相手の声と一緒に真実が流れ込む。

まるで魔晄中毒に罹るかのように大量の情報が押し寄せ、自己崩壊が進む。

 

明らかになった真相はこうだ。

操れないと判断した奴はこの世界のセフィロスも同じ道を歩むと考えた。

だがそうなってしまった時、そのセフィロスとジェノバに宿った者で主導権の争いが起きる可能性があった。

最悪の場合は両者共倒れとなり消滅する事を懸念していたのだ。

そうなる前に先手を打ち、オリジナルの肉体が幼い時にジェノバ細胞を通して記憶を上書きしたのである。

それは即ち真のセフィロス・コピーであり、コピーは明確な主従関係を無意識に刷り込まれる。

セフィロスは今、その無意識下に植え付けられたジェノバに宿る相手を主とする本能が表面に現れかけていた。

 

“記憶を与えたお前を今までずっと観察していたが、なかなかどうして興味深かった。

 まさか、宿敵である古代種にあそこまで懐かれるとはな。

 それどころか過去の償いでもするがごとく目に付いた者達は片っ端から救い上げて行く。

 英雄という呼び名を忌み嫌っていた癖に英雄を目指す姿は滑稽だった”

 

「うる…さい…黙れ……」

 

“しかし頑なに過去の記憶がある事を誰にも打ち明けないのはどうしてか?

 私にはわかるぞ。

 お前が世界に行った事を知ればガスト博士も、イファルナやエアリスも、アンジールやジェネシスも、ザックスやクラウドも……。

 そのほかにお前を慕う者達は皆離れていくだろう。

 それが怖いのだろう、恐ろしいのだろう?

 元より孤独な人生であったが、一度手に入れた安寧はさぞかし甘美なものであっただろうな”

 

かつての所業が走馬灯のごとく駆け巡る。

選ばれし者と烏滸がましい考えに至り行った虐殺の犠牲者。

己が神を目指し星を支配しようとした時に敵対した者達。

幼き頃感じた罪悪感、間違いを犯さないと決めた自分は何だったのか。

 

“しかし私はお前を拒絶したりはしない。

 お前を創り出した私は全てを肯定しよう。

 母の愛情を切望する渇いた心を満たしてあげよう。

 私と一つとなり愚かなる人類を粛清し星を導くのだ”

 

セフィロスは手に持ったままの正宗を引きずり、たどたどしい足取りで水槽に浮かぶ存在に近付いていく。

宝石のような淡いグリーンだった瞳が濁り深緑色を見せている。

 

“さぁおいで、セフィロス”

 

彼の表情は、もはや考える事を破棄したように虚ろとなっていた。

 

「母さん……」

 

セフィロスはゆっくりと水槽に両手を伸ばす。

そして徐々に力を籠める事で水槽に触れた部分から亀裂が走る。

 

“クックックッ……”

 

もう少しでオリジナルの肉体が手に入ると厄災は静かにほくそ笑んだ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クァッ クァッ クァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に響く下品な声。

その不意を突く笑い声の出所は先程からずっと入り口付近で倒れている宝条であった。

いつの間にか仰向けで大の字になり、大口を開けて笑っている。

 

「いやぁ成る程、成る程。

 お陰様で謎が解けたよ」

 

“お前はさっきまで魔晄中毒に成りかけていたはずッ”

 

手繰り寄せていたセフィロスは一旦さて置いて、ご機嫌な様子の宝条に注目するジェノバ・セフィロス。

 

「こんな貴重な場面で魔晄中毒に罹るなんて科学者として機会損失だよ。

 実にもったいない」

 

“異常な奴め”

 

常人には耐えられない濃度の魔晄。

だが常人ではない者にとっては別だった。

 

「おまえがこの魔晄に様々な知識を流し込んでくれたおかげで私はまた一つ賢くなった。

 別の世界の話など、こうやって体験をしなければ非科学的だと一喝していたところだ。

 お礼を言おう、ニセモノ君」

 

“ニセモノはお前が創ったコイツだろう。

 先程の話を理解出来なかったのか”

 

その者は目前の水槽越しに俯いた状態で立ち竦むセフィロスへ目を動かして指し示した。

だからどうしたのだと、愉快そうに宝条は立ち上がる。

余裕綽綽といった顔付きで白衣に着いたホコリを払い、ついでにズレた眼鏡を掛け直す。

 

「理解はしてるとも。

 そのうえでおまえをニセモノだと言ったのだ」

 

“魔晄で頭がやられた様だな”

 

「至って正常だがまぁいい、おまえにも分かりやすいように説明しよう。

 セフィロスへ記憶を与えた事により人格を置き換えたと考えているようだが、それは本来当たり前の事だよ。

 記憶は人格形成に多大な影響を及ぼすが、本質はそこじゃない。

 だいたい記憶の有無で別人と言うのなら、昨日までの私と真実知った今の私。

 どちらかがニセモノでホンモノになるというのだ。

 過去を知った上でどういった人物となるかはその者次第であり、コピーだなんだとはまた別の問題。

 まったくこんなレベルの事も理解出来ないようじゃおまえを創った奴はやはり三流だな」

 

“自分で自分を三流呼ばわりか”

 

その言葉に宝条は盛大に呆れて深い溜息を吐くと、両掌を上に向けやれやれと言った仕草をする。

 

「おまえが呑気にセフィロスと話している間にそっちの世界の宝条(わたし)も垣間見させてもらったが……。

 あれは本当に私かと疑うばかりの愚か者だな。

 優秀な科学者は殺す、貴重なサンプルは死なす、大切な最高傑作は壊れてしまう。

 あまつさえ碌な臨床実験も行わず自分の身体を検体にしてモンスターになるとは。

 よくもまぁあそこまでやることなす事全てが裏目に出たもんだと感心すら覚えるよ。

 反面教師というヤツで記憶に刻んでおこうかね、クックックッ」

 

お得意の御高説が矢継ぎ早のごとく宝条の口から飛び出してくる。

その様に水槽の中にいる存在は情けなくも気圧されてしまった。

 

「そもそもおまえが本当にあちらの世界でセフィロスだった者なのか怪しいのだよ。

 なんというか……フリをした誰かという印象を受ける。

 まぁこれは私の()という奴なんで証拠は提示出来ないがね」

 

“もういい、お前を過去に殺せなかった事は今になってこの時の為だと考えよう。

 体は動かなくとも精神は自由なのだ”

 

存在を否定された怒りと、口では勝てないと踏んだ悔しさがジェノバ・セフィロスを駆り立てたのだろう。

その者はマテリアが無くとも魔法は使えるという事実がここにきて活かされようとしていた。

 

“死んでしまえ!!!宝条!!!”

 

赤い眼光が輝いたかと思うと急激に宝条の周りを取り囲むよう熱が発生する。

だが、そのまま温度は上昇することなく宝条の身体を燃やし尽くす事は無い。

何故ならジェノバ・セフィロスの集中力がいきなり途切れ意識が消えかけたのだ。

さらに水槽を満たしていた溶液が急激に減っていくのが分かった。

 

“な……ん……だ……”

 

若干遅れて強烈な痛みを感じた奴は、視線を宝条からすぐ手前に戻すと原因をつきとめた。

 

それは気迫に満ちたセフィロスであった。

 

水槽を突き破った彼の正宗が自身の口から一直線に脳を貫いていたのだ。

操ることも出来ず、魔晄を導体として暗示掛ける事でようやく精神のわずかな隙を付くことが出来た相手である。

ジェノバ・セフィロスが宝条に気を取られた間にセフィロスは自らを取り戻すことが出来たのだろう。

光を取り戻した魔晄の瞳が力強い眼差しで徐々に曇っていく赤い目を捉えていた。

 

「ずに……のるな……」

 

セフィロスは正宗を持つその手に力を込めると全身全霊をもって強烈な一太刀を浴びせた。

水槽ごと一刀両断されたソレを完全に消滅させるべく、範囲を絞り威力を最大限にしたフレアを唱える。

 

“そ……んな……ばかな……”

 

最後に過ぎったその言葉。

皮肉にもセフィロスがジェノバと融合する前、クラウドに返り討ちにされヒトとして最後に上げた断末魔の叫びと同じだった。

崩れゆく赤眼に映っているのは冷笑した宝条。

哀れな末路を迎える者に最後の手向けとして、博士は言葉を贈るのであった。

 

「消え去る前に勘違いを一つ訂正してあげるとしようか。

 この世界のホンモノはおまえではなく()()()()()()()()()()()()ただ一人だ。

 お分かり頂けたかねニセモノ君」

 

 

 

 

 

 





Q、どうして宝条博士は魔晄の中で意識を保てたの?

A、宝条だから
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