セフィロス逆行物語   作:怪紳士

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第50話 英雄

先程までは平気そうな様子の宝条だったが、肉体強化は行われていない普通の身体。

緊張感の中で気張っていた精神が急に緩めばたちまち立ち眩みを起こし倒れそうになった。

床に身体を強打する前にセフィロスがとっさに支え、そのまま肩を貸し魔晄炉の入り口付近に連れ出した。

その場の壁に寄りかかるように座らせると、セフィロスは携帯電話で村に待機させたザックスに連絡を入れる。

 

「ザックス、宝条が高濃度の魔晄を浴びてしまった。

 早急に医療班を魔晄炉に寄こしてくれ。

 いや、こちらは大丈夫だ。

 だから、詳しくは後だ。

 とにかく、すぐに手配を頼む」

 

電話の向こうで詳細を聞き出そうとする相手に手短に用件を伝え問答無用で通話を切る。

 

「やれやれ、年は取るもんじゃないね」

 

若ければ平気だったとでも言いたげに宝条は笑う。

あの魔晄の濃度ではセフィロス以外じゃ数秒持つか怪しい。

とんでもない事を言ってのける科学者に呆れつつも、そんな博士のお陰で危機を乗り越えたのだからセフィロスも頭が上がらない。

片膝を付き宝条に目線を合わせ、電話の結果を伝えた。

 

「しばらくしたら迎えが来る。

 それまで安静にしているんだな」

 

「キミは……やはり行くんだな」

 

「まだやらなければならない事があるからな」

 

ジェノバ・セフィロスが満たした魔晄に触れた事で、宝条はセフィロスの真実と歩んだ歴史を知る事になった。

その中でセフィロスの思考ともある程度共有され、この先彼が為さなければならない事も察していたのだ。

 

「今回の依頼、結果を私に報告するまでが任務だぞ」

 

「解っている」

 

セフィロスがこれから向かう場所は宝条も理解している。

戻って来れない可能性も十分あることもだ。

腰を上げて正宗を携える彼を見上げながら約束を交わす。

 

「報告は必ず聞かせてもらおう」

 

「承知した」

 

「ならば行ってきなさい」

 

フッと笑ったセフィロスが魔晄炉の奥に消えていくのを宝条はただ見送る。

その姿が視界から消えると暫くして意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔晄炉の最深部。

直近までジェノバが存在していた場所に充満していた魔晄は、まるで干潮のように引いている。

しかしそのおかげで部屋の惨状があらわになり酷い有様であった。

配管は損傷し至る所から魔晄が漏れ、ケーブルは千切れその先から電気がバチバチと光っている。

中央に鎮座した水槽はジェノバと共に真っ二つにされ片方は炉の中腹辺りで引っ掛かかっていた。

残った片方も中身と一緒に原形が分からぬほど破壊されている。

その後ろの壁はセフィロスが加減せず切り裂いたのでニブルヘイムの空を見渡せる細長い穴が出来上がっていた。

 

セフィロスは損害調査の為にこの場に戻って来た訳ではない。

彼は足元の遥か下、白緑(びゃくろく)に輝く魔晄の溜まりを見下ろしていた。

 

「そこにいたか」

 

返事などあるはずもないが、確かに存在する何か。

本人はその者が呼ぶ声を聴くことが出来たのだろう。

向かうべき場所が判明したようで一片の迷いなくその身を魔晄へ投じたのだ。

 

まるで高速列車の窓に映る景色のように連続する光と闇が交じり合う。

物質として壁が存在する訳ではないがトンネルのようにセフィロスの周りを筒状に繋ぎ目的の場所へと誘い込む。

時間の経過は永遠とも一瞬とも感じられる不思議な感覚であった。

セフィロスがその感覚を覚えたのが()()と認識出来るようになった時、辺り一面に光が点在する空間に到着し、彼は黒い大地へ降り立った。

 

その様子をずっと見つめて待ち構えていた人物。

同一にて異質なる者、己と対峙したる存在。

漆黒のコートを身に纏い、艶めいた銀色の髪をなびかせていた。

瞳に宿る淡い緑と鋭い瞳孔が互いに視線を交差させる。

 

「ここは?」

 

「過去も未来も無い、世界の垣根も存在しない場所」

 

セフィロスの疑問に対する返答は同じ声だった。

 

「世界の垣根?」

 

「おまえが存在するように、違う歴史を歩むオレ達が無限にいるのだ」

 

その者はそう言って腕を頭上に伸ばし指を鳴らす。

すると彼方で輝いている光が数個。

彼等の周りに吸い寄せられるよう近付いてきた。

 

「光をよく見るんだな」

 

セフィロスは集まった光に目を凝らす。

それには映画のように自分の姿が映し出されていた。

 

「これはッ!?」

 

「オレ達の一部だ」

 

自分が知るクラウド達と戦う己も居れば、知らないクラウド達と対峙する自分もいる。

鍵のような剣を持つ少年と刀を交えるセフィロス。

リングに上がり素手で戦うセフィロス。

ピエロの様な者と会話するセフィロス。

金を稼ぐことに躍起になるセフィロス。

丸いピンクに吸い込まれそうになっているセフィロス。

このように映像には様々なセフィロスが存在した。

例え天地がひっくり返ろうともありえない事やってのける自分が数多く存在する事にセフィロスは驚愕する。

その中にはジェノバに完全に支配されたセフィロスも見受けられた。

 

「おまえの世界のジェノバはライフストリームに溶けたオレ達の一部を記憶として取り込んだ。

 そしておまえをニセモノと呼んだが、実際は自分をセフィロスと思い込んだだけの愚かな生き物であった」

 

魔晄炉で水槽ごと貫き切り裂かれ消し炭になったジェノバに対しその者はせせら笑った。

そんな厄災をあざける者へ映像から顔を向けたセフィロスは問う。

 

「俺は一体何者なのか?」

 

「そうだな、己をかつての英雄と勘違いしていたセフィロスとでも言っておこう」

 

その者が言う通りセフィロスは正真正銘、やって来た世界のセフィロス本人であった。

宝条の言うホンモノは決して間違いでなく、正しく本質をついていた。

かつての記憶から憶えた罪悪感や良心も、植え付けられたのではなく始めから本人に備わっていたもの。

無論、他のセフィロス達にも有ったものだが、彼等を取り巻く歪な環境が次第にそれらを変質させた。

何とか理性で保っていたが、決定的だったニブルヘイムの出来事で失う事になってしまった。

 

「この場所は全ての原点であり、そして終着点」

 

その者は両腕を仰々しく広げて周りの空間を示す。

 

「お前はここで神になったのか?」

 

「さあな、オレは数多に存在する世界への干渉は出来なかった。

 ここから抜け出す術を知らず、自ら命を絶つことも出来ないのだ。

 世界を見るということ以外は何一つ不可能だった……」

 

遠い目をして再び腕を上げると今度は手を振り払った。

それを合図にセフィロスの周囲に集まっていた光が元の位置に戻っていく。

彼等は何もない空間でお互いに向き合った。

 

「だが運命を切り裂きここへやって来た者が居た。

 そして()()()()の刃をおまえに向ける事が出来る。

 この意味は分かるな?」

 

携えた正宗を引き抜きセフィロスに向けた。

それに応じる様に彼もまた正宗を構える

鏡と思うほど同じ外見の二人だが正宗を持つ姿は互いに左手と対であり、片方の胸元には無色のマテリアが煌めいている。

 

()()がお前の答えか」

 

真剣な表情のセフィロスとは対照的に不敵に微笑む相手。

 

「オレに可能性を見せてくれ」

 

挑発するかのように言葉を投げかけてきたその者へ、セフィロスは距離を詰め切りかかる。

最初の一撃は真正面から。

だが相手は刀で応える事なく、その身を反らして避ける。

攻撃を外し後方へ向かったセフィロスは振り返り斬撃を跳ばすが、あっけなく切り払われた。

 

もう一度攻撃を繰り出すべく相手へ近づくセフィロスだが、今度はあちらも動きだして反撃する。

何度か正宗同士が火花を散らし交わったが決着が付かず、向こうが距離を取ろうと下がる。

セフィロスはそれを許さず追撃した。

右、左、斜め下、頭上と四方八方から手を緩めることなく連続で切りつける。

 

退避を封じられ、その場でセフィロスの攻撃を刀で受け続ける相手。

しかし防戦一方で追い詰められていたと思いきや、その者の表情は緩んだままである。

むしろ苦戦を強いられていたのはセフィロスであった。

周りをぐるりと囲むようにあらゆる角度から攻め立てるが、全て華麗に受け流されていた。

 

「どうした、おまえはその程度か」

 

一方的に攻め続けるが決定打を入れられないセフィロスを煽る。

それを聞いた彼は顔付きに変化はなかったが癇に触ったようで攻撃は更に激しくなった。

しかし状況は変わらず、その者は平然と刀で受け止め続け、表情は余裕のままである。

 

「──くッ!」

 

とうとう正宗が弾かれて生じたわずかな隙にその者からの一撃がセフィロスの体を突き刺す。

顔を顰めるが即座に自分の腹部に刺さった刀身を掴もうとした。

が、それを見越したように相手は素早く正宗を引き抜くと血を払う。

 

「同じ手は食わん、経験しているからな」

 

過去の苦い思い出を笑っていた。

そんな様子を見てもセフィロスは諦める事はしなかった。

刀を腹から抜き取られても怯むことなく、素早く両手で正宗の柄を握りしめると眼光鋭く目標を捉える。

あちらは血を拭ったばかりの刃を構え直した。

セフィロスが懐に飛び込む様に踏み込むと、全ての力を振り絞った渾身の一撃がその者に襲いかかる。

そのまま再度お互いの刀が交差するかに思われた。

 

「なッ!?」

 

だが、それは叶わなかった。

セフィロスの正宗は相手の刀身を砕き、そのまま持ち主の右肩から左脇腹にかけて袈裟斬った。

 

「確かに()()()()()は経験豊富だろうなッ!」

 

確信めいたようにセフィロスは叫ぶ。

二つに分かれた正宗。

切っ先を持つ刃は弧を描き地面に突き刺さった。

そして己の武器と同じように二つに分かれた身体。

頭と左腕が有る半身が右腕と下半身を残した肉体からずり落ちる。

切断面から血が流れる事は無く代わりにライフストリームが溢れ出していた。

下半身はそのまま倒れ、頭のある半身は仰向けに横たわる。

 

「限界だったか……」

 

飛んでいった刀身を見ながらそう呟き、左腕に残る折れた正宗を頭上へと持ってくる。

その者の体が光に包まれて徐々に薄まっていく中、その刀は確かな存在感を示していた。

刀身には先程の戦いで出来たモノではない、無数の古い傷跡が残っている。

 

「武器に執着するなどなかったが、何故かコレ(正宗)は手放せなかった……」

 

かつてのセフィロスと共にするように魔晄炉の底へ落とされた正宗。

その後、星の中心であるライフストリームで迎えたクラウドとの一騎打ち。

多くの想いが込められた十五の連撃を強く刻まれた刀は、肉体とは違い星に還ることなくこの場所に流れ着いたのだ。

まるで主人の下へ帰るようにもう一度『オレ』の手に収まった。

別の時空、再び復活を目論むセフィロスが必要ないと捨て去ったモノ。

ヒトであった頃の記憶を宿す魂として。

 

その者はゆっくりと左腕を降ろすと深呼吸をする。

先程貫かれたお腹を右手で抑え静かに見守っていたセフィロスへ告げる。

 

「帰るなら自分の()に聞け。

 お前の帰還を待つ者達の声が聴こえるはずだ」

 

「…………」

 

その者の体は地面がハッキリ見えるほどに透けていた。

もう一つの別れた下半身はすでに跡形も無く消え去っている。

 

「オレには居なかった……」

 

悟ったように告げる。

寂しさ、悔しさ、諦め。

客観的に見れば負の感情が乗せられた言葉だが本人は感傷に浸る事すら叶わぬほど心を失いつつあった。

焦点が定まらない目が遥か遠方を見つめているが認識しているかさえ怪しい。

そんな相手の顔に近付くよう側で膝を着いたセフィロス。

手を伸ばし消滅しかかっている左手をそっと掴むと自分の胸へ持っていく。

消えかけの指が拍動する肉体、そして無色のマテリアにかすかに触れた。

 

「お前は思い出にはならないさ」

 

その者は一瞬驚いた顔をする。

しかしセフィロスが決して憐れむつもりではないと理解すると優しく笑う。

 

「なるほど……これが英雄か……」

 

彼は静かに目を瞑りそして完全に消え去った。

クラウドに敗れた時は血に塗れた顔を歪ませて、無念と共にライフストリームへ肉体を霧散したが、目の前で星に還った『オレ』は全てを受け入れたように穏やかな表情だった。

傍らには折れた正宗だけが残されていた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

黙祷を捧げるようにしばらくじっとしていたセフィロスだったが、やがて立ち上がると胸のマテリアを高々と掲げて周囲を見渡していく。

すると透明な球体を通して一際輝く大きな光が目に入る。

目的の場所を見つけた事に安堵したセフィロスは、折れた正宗を拾い上げると勢いよく地面を蹴った。

目指す光に近付けば自分の知る者達の声が聴こえてくる。

 

『チクショーッ!次は絶対勝つからな』 

 

『俺、ずっと憧れていたんです』

 

『貸したLOVELESSはもう読んだか?』

 

『次はサシじゃなくて後輩達も誘って飲むか』

 

『クックックッ、素晴らしい、新記録だ』

 

『S細胞の提供は本当に感謝しているよ』

   

『作戦の成功には君にかかっている、任せたよ』

 

『貴様程の社員は、やはりそうそういないものだな』

 

『助かった、タークスを代表して礼を言おう』

 

『我が社の新しいプロモーションに出てくれんかね?』

 

『今度、我が家でキミの誕生会をやろうと考えてる』

 

『ふふっ、自分の家だと思ってくつろいでいいのよ』

 

『お花、キレイでしょ?セフィロスに見て欲しかったんだ』

                  

歩んできた人生の中、自らを必要としてくれた者達の確かな言葉。

セフィロスの身体を包み、帰るべき世界へと誘う手引き。 

それは温かく、穏やかで、心地よい。

素晴らしい想いに導かれた英雄は自分の居場所へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足。

本作の一人称『俺』セフィロスは、
セフィロス(原作)の記憶を持ち自分をセフィロス(原作)と勘違いしていたセフィロスです。
なので逆行はしていません。

そしてジェノバは、
セフィロス(原作)の記憶を持ち自分をセフィロス(原作)と思い込んでしまったジェノバです。
こっちも逆行したわけじゃありません。

最後の『オレ』も厳密には時を遡った訳ではなく
過去も未来もない場所に閉じ込められた訳です。

今作の逆行とは国語における本来の意味
『進むべき方向と反対の方へ進むこと』がテーマでした。

ただ本作は創作界隈における逆行のカテゴリではあると思いますので
タグは外しません。
どうかお許しください。
宜しくお願い致します。
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