なんとか10話目まで来ましたが、作中時間では3日も経ってないって、なんだこの9割オリ小説……。
《2015年8月2日 夕方》
左腕に付けたオレンジ色の腕時計を見ると、あと一時間もしないうちに日が沈み始めるような、そんな時間になっていた。
この腕時計は、名の知らない誰かの家に入ったときにいただいたもの。長い間リュックの肥やしになっていた私の壁掛け時計は、これでやっと処分することができた。
何の変哲もないアナログ時計。腕時計をつける習慣がなかったから、手首に少し違和感を覚える。
しかし、もう夕方か……。
ここ最近、日が経つのが早い。
集中していると時間が経つのは早く感じるというけど、1日が早いことは中々ない。
こんだけ早く感じてしまうと、今までの生活がどれだけ集中していなかったかが露わになっている気分で、少し恥ずかしい。
でもしょうがない。今は1分1秒がカギを握るときなんだから。
「はあ~、ようやく着いた」
「やっとだ~。もう うごきたくないよー」
目的地に着いた感動で、2人して地面にへたり込む。
私たちは今、3つ目の街に来ている。やっと町ではなく、街らしい外観の所に来れた。
昨日の夜、私はあの後も何十分か続けた力のテストのおかげで、大体の体の使い方が分かるようになった。
つい集中しすぎて寝るのが遅くなってしまい、朝は明に叩き起こされるところから今日が始まった。
目覚めた後、さっそく次の場所へ行ったんだけど、2つ目の町も最初と同じく誰も生き残った人はいなかった。
見渡せば無残な姿になった人々が見えてしまう、そんな見覚えのある景色が広がっていた。
私は昨日も見た光景だったから覚悟はできていたけど、明には少し厳しいものだった。
初めて、死んでいると分かって見る遺体。気絶こそしなかったものの、明の顔は青ざめ震えていた。
涙をこらえるように私の手を力いっぱい握りしめるその右手は、幼い明に似つかわしい小さな手で、白く変色してしまっていた。
明の様子を見て、もう限界だと判断した私は、町の探索を中断して逃げ去るように第2の町から跳び去った。
幸い、食料などもまだ十分に余裕があったから、ためらうことなく去ることができた。
それから明のことを気遣いながら歩き続けて、今ようやく第3の街に到着できた。
1日に2度も地獄の中に明を入れるのはためらわれるけど、あと少しで暗くなるからこのままだとまた野宿になってしまう。そっちも私たちにとって負担が大きい。
それにもう1つ、私たちにとってもっと重要な理由もある。
それらを加味して、無理にでも今日中にこの街に入りたかった。
「それじゃ行こっか」
「ええーー。もうちょっと やすもうよー」
「文句言わないの。ほらほら立って、そんな時間ないよ」
「…………やだ」
「やだって、このままじゃ今日も野宿になっちゃうよ? 昨日寝るとき背中痛いって言ってたじゃん」
「うぅ……それもヤ」
「そうでしょ。疲れてるのも行きたくないのも分かるけど、目つぶってていいから行こ?」
「それだったら…………うん」
「よし、体調は大丈夫?」
「……よくわかんない」
「しんどくなったらちゃんと言うんだよ」
「うん……」
そう言って、明は私に向かって手を伸ばしてきた。約束通りにしっかり手を握って連れていく。
今までと同じく足場が悪いから、慎重に進まないと明がこけちゃう。
ここは見晴らしがあまり良くないから、おんぶで運んであげることはできない。
ガレキの影から突然敵が出てくるかもしれないから迎撃準備はしっかりしておかないと。
周囲を警戒しながら、私たちは恐る恐る新天地に足を踏み入れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
”72時間”。
これは、災害で救出を待つ人の生死を分けるタイムリミット、と言われている。
飲まず食わずで人間が耐えられる限界なのだとか。
あと数時間もすれば、アイツらが私たちの前に現れてから72時間が経過してしまう。
時間的にも体力的にも、今日回れるのはこの街が最後。
つまり、この街にもし生き残りがいなかったら、これから先生き残っている人に出会える可能性がぐっと低くなってしまう、ということ。
今日、無理にでも歩き続けてこの街に来たかった理由はコレ。
昨日のテストで分かった自分の身体能力。これがあれば救助を待っている人を助けられるかもしれない。
そう思ったら急がずにはいられなかった。
「ちょっと、はやいよ」
「ああ、ゴメン」
手をグイっと引かれて怒られてしまった。
明のことを考えずに進んでしまった。けれども、はやる気持ちを抑えきれない。
なにせ辺りは進めど進めど今まで通りの光景。
いや、少し違うか。1つ変わったことがある。
ここ数日の夏の気温の影響で、ナニカが腐ったような臭いが薄っすらと感じ取れるようになった。
その腐った臭いに釣られてか、数匹のハエが辺りを飛んでいるのが見える。
ブンブンと聞こえてくる羽音にイライラがつのっていく。
明も目を閉じているせいで余計に強く聞こえるみたいで、しかめっ面で左耳を抑えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
街の中心に行けば行くほどこの音は大きさを増してきて、同じくらい人の残骸の数も増してきた。
視界に入れるのも嫌になってきたので上の方に視線をやると、奥の方にそこそこ有名なデパートがそびえ立っているのが見えた。
ところどころヒビが入ったりと壊れてはいるものの、さすがに最近できた建物なだけあって、ほかの建物よりも丈夫に造られている。
デパートだったら雨風も防げるだろうし、いろいろな道具も、布団だってあるに違いない。
よし、今日の休む場所はあそこにしよう。あそこだったらバケモノに急に襲われる心配もなさそうだ。
さっそく明にもあの建物の存在を教えてあげなくっちゃ。そうすれば少しは元気を出してくれるはず。
「ほら見て明! あそこに……」
「…………」
「あ、明? どうしたの? 急に立ち止まって、お腹でも痛くなっちゃった?」
無言で立ち止まり、俯いている。何度呼び掛けてもなかなか応答してくれない。
「大丈夫?」
「…………」
下を向いているから、どんな表情なのか分からない。
「ねえ、ホントに大丈夫?」
そしてようやく明の口が開かれる。そこから発せられたのは、聞き取ることも困難なほどのか細い声だった。
「…………ゃだよ」
「えっ」
「もう、やだよぅ……こんなとこ……」
顔をあげた明の顔には涙が流れていた。
「へんなにおいするし、むしもとんでるし……きもちわるいのばっか。もうやだよ……」
しゃくりあげ、すすり泣いている。
私はどうすることもできず、ただ抱きしめてあげることしかできない。
「おうちに、かえりたいよぅ……」
あふれる涙を抑えきれず、地面に悲しみの跡を作っていく。
明には全然余裕はなかった。思っていたよりも取り乱さないから、平気なんだと思ってた。
でもそんなことは全くなかった。
昨日の私と同じ。ただ目まぐるしく変化する状況にうまくついていけていないだけだった。
そんなことにも気づけず”守る”だなんて。
肉体だけじゃなく心も守らなきゃいけないのに、蔑ろにしていた。
「そうだよね、こんなの嫌だよね。ごめんね、気づけなくって……」
「うぅっ…………うわああぁぁんんん!!」
ただただ泣く。堰を切ったように涙を流し声を上げる。
涙を流すのにつれて私を抱きしめる力が強くなってくる。
それに応じて私も腕を回してぎゅっと抱き寄せる。
抱きしめてわかる明の幼さ。
こんなにか弱い体で大丈夫なわけなかったのに……。
力の限りに泣いている。
涙が私の肩にまで伝わってきた。明の目から流れた涙は温かかった。
時折呼吸が苦しくなってむせている。
もう二度とこんな風にさせちゃいけない。明の心を守ってあげないと。明の平穏を守ってあげないと。
──だから。
ヒュン。
風を切る音がした。
「危ない!!」
「え?」
突然前から飛んできた何か。それは明目がけて飛んできているように思えた。
とっさに体が動き、右手のカネアキで叩き落とす。
鈍い金属音が鳴り響く。
地面に落ちたソレを見ると、小さな石ころだった。
「なに!? なんなのともちゃん!?」
突然の事態に、泣くことも忘れて狼狽えている。
「なんで石がって、えっ……?」
自然に落ちてきた物なんだったら上から下に移動するはず。
なのにこの石は”前”から飛んできた。ちょうど目の前にあるガレキの山の辺りから。
ということは……、
「誰!? 誰かいるのっ!?」
前から来たんだったら、誰かが意図してやった行動、なはず。
「うるさいんだよお前たち」
ガレキの奥で何かが動いた。
「お前たちのせいで母さんが死んだらどうすんだよ!」
そう怒鳴り散らしながら私たちの前に出てきたのは、薄汚れた服を着た一人の少年だった。
10話で3日、最終話まで内部時間で後3年1か月ほどで1125日。
10話で3日のペースでいくと3750話。
毎日更新しても10年ちょっと。
現在、大体週1更新なので ×7=26250日=約72年……。
このままだと完結まで後72年かかります。
……これからもよろしくお願いします。