『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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第17話【鍬を持ち歩く不思議な少女】

「それでねー、これは かんじれんしゅ―ちょー なの」

 

 整理が一通り終わったので、明にどんな宿題が夏休みに出ているのかを聞いてみると、絵日記と九九の練習プリント、そして漢字練習帳だった。

 幼稚園でのいじめの件があって、それの影響でまだ怖いからと去年まではほとんど学校に行っていなかったため、今年に出された2年生用の漢字練習帳と、自主的に買った1年生用の漢字練習帳と2冊用意してある。

 パラパラとめくってみると、2年生でもう習うんだという漢字が結構あってびっくりした。

 同級生と比べて人の2倍頑張らないといけないけど、明は要領は悪くない子だからきっと大丈夫だろう。

 ちなみに当然私にも夏休みの宿題は出されていたけど、夏は宿題を気にせず遊んでいたいから最初の1週間で一気に終わらせたからもうやることがない。

 

 そういえば、ここ最近は朝の日課の素振りをやっていなかったな。

 バドミントンクラブで出された、毎日100回の素振り。確認の方法もないし、面倒だから別にやらないよっていう子も実際結構いる。

 けど私はあまり上手じゃないから出された課題はしっかりやろうと、毎朝その課題よりも少し多めに素振りをしていたのだ。

 ようやく落ち着ける場所に来れたんだし、今日からまた素振りを始めよっか。

 と思ったんだけど……。

 

「ラケット持ってきてないんだよね……」

 

 さすがに逃げるのに役に立たないだろうと思っておばあちゃん家に置いてきてしまったのだ。

 

「なにさがしてるのー?」

 

「いやね、素振りをしようと思ったんだけどラケットが無くて」

 

「ん~。じゃこれでいいじゃん!」

 

「いやこれは……」

 

 獲物を見つけたと言わんばかりにズバッとリュックに手を突っ込み取り出したのは、カネアキ。

 そう、鍬だった。

 

「どこの世界に朝から鍬で素振りしてる女の子がいるのよ」

 

「やってみてー!」

 

「あの、ちょっと……聞いてる?」

 

 一瞬のうちに、もう決定事項だという感じに期待のまなざしを向けられてしまい、引くに引けない状況に陥ってしまった。

 まあ形も棒がついててその先端は広がってて同じ振るうものだし、間違っていないっちゃいないけどさ。

 ここまで期待されてやらずに終わるのもどうかと思ってしまったので、しぶしぶ立ち上がり、明を危ないから少し遠ざけてからバドミントンの要領で振るってみる。

 

 するとどうだろうか。

 まず、体が軽い。意識はしていないけど、あの力がほんの薄っすらと体に流れ込んできてとても振りやすい。

 さらに音もよくなっている。力のおかげで、自分の体に込められている無駄な力の場所が分かり、振るうたびにフォームが矯正されていく。

 自分の下手の原因の一部が手に取るようにわかり、恥ずかしさと嬉しさが両立している。

 

「すごいよ明! とっても振りやすい」

 

「だからいったでしょー!」

 

 自分のことのように自慢している。

 これはラケットよりも重たいから、これを振り続けていれば練習効率が上がりそう。

 そんなとてつもなくのん気なことを考えていると、

 

「えっと、どういう状況なの?」

 

 鈴さんが戸惑い顔でこちらを向いているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやえっと、朝の日課を……」

 

「へー。最近の小学生は朝はラジオ体操じゃなくて鍬を振るようになってたんだ」

 

「あの、違くて。その、ラケットの代わりに……」

 

 しどろもどろに話す私を見て、鈴さんはからかいながらも察してくれたようだった。

 

「まあなんとなくそうだろうとは思っていたけど、よそから見たらすごい光景よ?」

 

「は、はい。気を付けます……」

 

 変なところを見られてしまって恥ずかしい。これからは気を付けないと。

 

「それじゃ、準備はできた?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「なら行こっか」

 

 少し強引目に話を変えてくれた鈴さんに連れられて私たちは玄関口の1階に行くことになった。

 

 

 

 1階には布川さんと大俵さん、それともう1人男の人が待っていた。

 

「お、来たね」

 

「こんにちは。一体私たちは何をすればいいんですか?」

 

「灯ちゃんと明ちゃんはやってもらうことが違うの。本当は一緒に食品の管理とかをしてもらう予定だったんだけどね」

 

「岩波君の話が本当なら、もう少し奥まで探索ができるんじゃないかと思ってね。もちろん無理にとは言わないけど」

 

 先ほどまでの服装とは違い、運動用の軽い服に着替えている布川さんは少し期待を込めた風にそう言った。

 

「その間、明ちゃんにはこっちに残ってもらって真くんや大俵さんたちにここの案内をしてもらおうと思っているんだけど、どうかな?」

 

「はい私はいいです」

 

「あかりもいいよー」

 

 私もここでじっとしているよりも、外に出て少しでも情報を集めたいと思っていたからちょうどいい。

 

「それはよかった。それじゃ出発する前に、朝言っていた力というのを見せてくれないかな?」

 

「はい。大俵さん、ええっとじゃあ、ここらへんになにか硬いものとか重たいものってありますか?」

 

「うーんそうだね……」

 

「あ、あれとかちょうどよさそうですね」

 

 私が指さすはデパートの入り口にある石像。このデパートを創った創業者みたいな人の像がある。

 こんな像を造るなんてよっぽど見栄っ張りな人なんだな、と思いながら背中に背負ってある鍬、カネアキを取り出す。

 

「では今からこの石像を持ち上げますね」

 

「持ち上げるってこれをかい……? ちょっと重すぎると思うんだが」

 

「平気ですよ多分」

 

「ともちゃん がんばれー」

 

「おっけー! それじゃよいしょっと!」

 

 下の方に手を回して全身に力を巡らせて持ち上げる。

 けど思っていたよりもずっと重たいな。見栄っ張りな像に釣られて見栄を張っちゃったかも。

 それでも何とか少し浮かすことができた。

 

「うわー……」

 

 鈴さんが口に手を当てて驚いている。ほかの2人も同じようなリアクション。

 その中で唯一明だけが子の光景を見てはしゃいでいる。

 っていうか危ないからこっちに来ないでほしい。

 

「これは、信じざるを得ないね……」

 

「これだったらバーテックスにも対抗できるかもしれない」

 

「もういいですよね。ふぅ、重かった」

 

「すごいじゃない灯ちゃん!」

 

「でもこの力はこの鍬を持っているときにしか使えないんですよ」

 

「だからか。鍬を持ち歩いている女の子なんて変だなって思ってたんだよ」

 

「そ、そんなこと思ってたんですか!?」

 

「そりゃそうよ灯ちゃん」

 

「ううぅ。と、ともかく! この力があればいろんなところに行けると思います!」

 

「そうだな。今まではもう少し大人数で行ってたんだが、あまり大人数で行っても危険が高まるだけだからね。今回は僕、鈴と岩波君の3人で行こうか」

 

「そうですね。彼女がいるなら僕たちは必要ないでしょう」

 

 ずっと黙っていた男の人がそう言った。多分この人が今までの外の探索担当の人だったんだろう。

 

「はい。任せてください」

 

「うん頼んだよ」

 

「さて、それじゃそろそろ出発しようか」

 

「では妹さんは私のところに来てください」

 

「はーい」

 

 大俵さんに呼ばれる明。

 今までだと、ここで私と別れたくないと駄々をこねていた。

 けどこの数日で明も成長して、なんとか自分なりに人と付き合えるよう努力しているみたい。

 それでもまだ少し不安なのか、ちらちらと私の方を見ている。

 

「明がんばってね」

 

「うん!」

 

 目線の高さまでしゃがみ手を握って応援する。

 それに応えるように明も強く手を握り返す。

 

「行ってきます」

 

 こうして私たちは太陽がサンサンと照っているお昼前の暑い中、なぜだか安全地帯になっているデパートを飛び出して周辺の探索に出かけた。

 水筒もばっちり持ったし、頼れる仲間も増えたし準備万端。

 半日ぶりの外だけど、すごく久しぶりに感じる。

 

 

 

 そこで私たちは知ることとなる。

 どうして人が密集している、アイツらにとっての理想的な狩場であるはずのここが、安全地帯のような異常な状態になっているのかを。

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