『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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第18話【流れ星のようにあっけない生命】

 電気が通っていない自動ドアを通って一歩外に出る。

 光り輝く太陽の眩しさに、思わずおでこに手をあてて目を細めてしまう。

 ミンミン ジージーとけたたましく自分の命の主張をする虫たち。ほとんどいなくなった人間に代わって大々的に存在証明をしている。

 虫なんかは小さいからバーテックスにぱくりと食べられてしまいそうなイメージだけど、この様子だとそんなことはないみたい。

 

 ほかにもハトかカラスだろうか、遠くの空には鳥が飛んでいるのが見える。

 鳥だって目の前でチラチラされたらウザったいだろうに、バーテックスには食べられていない。

 人以外の生物に攻撃していないということから、奴らの目的は人類を絶滅させる というものなのかもしれない。

 

 その仮説に何だかいやな気持ちになる。

 私たちは何もしていないのに。何も悪いことはしていないのに。なんで絶滅させられなきゃいけないの。

 見渡す限りのガレキの山のせいでそんな考えても仕方のないことを思ってしまう。

 

 人間の作った文明や施設だけを破壊していくバーテックスに対する敵意が増幅していく。

 それは私だけではなく、前を歩く鈴さんと布川さんも同様だった。

 

「何度見ても外の景色はひどいわね……」

 

「ほんと、イヤになるよ……」

 

 コソコソと物陰に隠れながら話す2人に話しかける。

 

「わざわざ外に出てきて私たちは何をするんですか?」

 

「そういえばまだ説明をしていなかったね。これから僕たちは、今まで岩波君がやってきたことと同じく家の中に入って食料集めなんかをする」

 

「食料集めって、まだまだ在庫大丈夫なんじゃないんですか?」

 

「今はまだ大丈夫でも、この生活がいつまで続くか分からないでしょ。その時のために今のうちに用意しておこうって事よ」

 

「期限が短いものとかもあるしな」

 

「そっか。いくらデパートとはいっても結構人いますもんね」

 

「そういうこと。でも今回は灯ちゃんがいるから、それに加えて情報収集もするよ。今までは対抗手段が無かったから近くしか調べられなかったからね」

 

「君に頼る形になってしまい申し訳なく思うよ」

 

「いえっ気にしないでください。そのための私なんですから」

 

「そう言ってくれると助かるよ。今までは有志数人でやっていたんだ。そう言えばペラ君に今日のことを伝えるのを忘れていたな」

 

「ペラ君、ですか?」

 

 ペラ君。”ペ”から始まる漢字はないと思うから、名前的には日本人じゃなさそう。それともキラキラネームかな?

 

「ペラっていうのはあだ名だよ。本人がそう呼んでほしいんだって。ペラペラのペラらしいよ」

 

 不思議がっている私を見て訳を教えてくれた。

 ペラペラか。私は頭の中ですごく背の高いひょろ長の男性を想像する。すぐに病気にかかりそうな気がするあだ名だと思う。

 

「なんかすごく病弱そうな人を思い浮かべました」

 

「ははっ、多分帰ったらすぐに出会えると思うから楽しみにしててね」

 

「はい分かりました」

 

「さあ話も一段落ついたし、そろそろおしゃべりは終わりにして作業に取り組もうか」

 

「それじゃ、まずはあの建物に入ろっか」

 

 10メートルほど先の建物を指さす鈴さん。

 ついに始まる私の初仕事。今までもやってきた内容だけど気は抜けない。

 頑張っておいしい食べ物を見つけて、それから2人をバーテックスから守らないと。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 あの襲撃の日は夜の時間帯だったから、どこの家にも家族みんなが揃っている家が多かった。だから家に入ると大体の確率で人の死に遭遇する。

 一番多かったのはリビングで亡くなっている人だった。

 1人暮らしの人も少しいて、こういう時は1人で死んじゃうから寂しいなと思った。

 私が麻痺しているのか、この世界が麻痺しているのか、もうあまり”気持ち悪い”という感情は湧いて来なくなってきている。

 一人一人丁寧に黙とうをしてから家を漁らせてもらい、今回は3軒回って十分な量の食材と道具を手に入れられた。

 

「こうやってコソコソと行動しているけど、実はあの日以来僕たちはデパート付近ではバーテックスにほとんど遭遇していないんだよね」

 

「えっそうなんですか?」

 

「ああ。なんでなのかは分からないけど、おかげで今日まで無事に生き延びられている。岩波君たちが来たタイミングもちょうど良かった」

 

「あの日はね、バーテックスを見かけないからもういなくなったんじゃないか、っていう人たちが調査に出かけようとしていた時だったのよ」

 

「じゃあ私たちが来なかったら……」

 

「外に出た人は殺されていただろうね。真くんやそのお母さんも」

 

 たまたま運がよかった。だから生き残った。

 そんな一言が生死を左右する世界になってしまったのだと、今の話を聞いて改めて理解する。

 確かにあの量のバーテックスを相手には普通の人間じゃどうしようもない。

 

「僕たちもこんなところにじっとしていないで、バッグがいっぱいになったんだから少し探索してから帰ろうか」

 

「どこにするの光?」

 

「そうだな……少し遠いがあっちとかはどうだ?」

 

 昨日マコトと会った場所らへんを提案される。

 昨日であそこら一帯は全滅させたから遭遇する危険性も低いだろうから良いと思う。

 私も鈴さんも反対する理由が無かったから、すんなりと行き先が決まった。

 

 

 

 気が付かないうちに蚊に吸われていた首をいじりながら歩く。

 外に出てから、腐った肉のような臭いが昨日よりも強く感じられた。

 

「そろそろ一か所にまとめておかないと虫とか臭いがデパートの方まで来てしまうな……」

 

 かすかに聞こえるブンブンという羽音に顔をしかめながら布川さんはそう呟いた。

 昨日は薄暗かったからよく分からなかったけど、明るい今見てみるとまた違った景色。

 自転車が転がっていたり、横断歩道を渡った先の家の庭には犬が鎖につながれていたり。気づかなかったことがたくさんある。

 

 特に犬には目を引かれた。

 犬には詳しくないから分からないけど、秋田犬とかそこらだろうか。何も食べていないみたいでとても衰弱している。

 

「ペットは残念だけど置き去りになるんだ。吠えられたら居場所がバレちゃうかもしれないし、ただでさえ厳しいのにエサの手間までかかってしまうからね」

 

 じっと犬を見つめていた私を気にかけ先んじて教えてくれた。

 私はペットを飼ったこともないから愛着も湧かないし、私たちが生き延びるためには仕方がない犠牲なのだとも思う。

 それでもせめて自由にだけはさせてやりたい。こんな世界になったことに彼らにも罪は無いんだから。

 

「じゃあ鎖だけでも外してきてもいいですか?」

 

「そのくらいだったら大丈夫だろうね」

 

「ではちょっと行ってきますね」

 

 ただの自己満足に過ぎない行動だけど、それでも自分が満足するんだったらいいんだと思う。

 ただでさえストレスが溜まるっていうのに、こんなところで後悔なんてしていられない。

 

 右と左をよく見て、来るはずもない車を警戒してから横断歩道を渡る。

 日頃の癖はどんな時にでも出るものなんだと、少し笑みがこぼれた。

 犬に近づこうとすると、犬もこちらに気づいたのか 重い体を持ち上げてのっそりと震えながらも立ち上がった。

 犬から生きようとする生命の鼓動を感じられ、思わず歩み寄る足が速くなる。

 不審者が来たと思った犬が私に向かって吠えたその時、

 

 

──視界の左側から悠々とした態度でバーテックスが現れた。

 

 

 距離にして約3メートル。浮いているから地面をこする接近音もしなかった。

 油断した。完全に警戒を怠っていた。驚きで一瞬体が動かなくなる。

 心臓が1メートルくらいの大きさになったかのようにドクンドクンとうるさく鳴る。

 

「灯ちゃん!!」

 

 痛烈なその呼び声に、ハッと飛んでいた意識が体の中に戻る。

 ビビッて硬直する体に鞭を打ってなんとか体を動かしていく。

 右手にずっと握っていたカネアキから力をもらって奴に向かって飛び出す。

 鍬から流れ込んでくる熱い力。その爆発的な力で一瞬にして接近し攻撃。

 その白い体に肉をそぎ落とすようにカネアキを振り下ろす。色も相まって、豆腐みたいな感触が鍬越しに伝わってきた。

 幸いバーテックスがこちらに気づくのと同時に先制攻撃できた。

 

 しかし動揺してから踏み込みが浅く、まだ敵は生きている。胴体の一割ほどしか削げなかった。

 私の存在に気づいたバーテックスは、道の電信柱など辺りを攻撃しながら突進してくる。

 けれど力を引き出すことによってさっきよりも頭が冷静になった私は、今度は距離感を間違えることなく斬り倒すことができた。

 手ごたえのない感触の代わりに、ドシンと電信柱の倒れる音が地面に響き渡る。

 

「はぁー、びっくりした」

 

 揺らめいた感情と呼吸を整えつつ辺りを警戒するけど、近くには他の敵はいなさそう。

 

「岩波君大丈夫かい!?」

「灯ちゃん大丈夫!?」

 

 慌てた様子で2人が駆けつけてくれた。

 

「はい。少し驚きましたけど倒せました」

 

「す、すごいな岩波君は……。車で突撃してもバーテックスは何ともなかったのに、こうもあっさりと……」

 

 スライスされたバーテックスを見て驚愕を隠せないみたい。

 っていうか今の私の力って車以上のパワーを持っているんだ。……バーテックス特効でうまくダメージが入ったってことにしておこう。

 

「ケガはない?」

 

「はい平気です。でも……」

 

 後ろを振り返る。

 そこにはさっきまで犬小屋があった。

 そして今はそこに電信柱が倒れ込んでいる。

 下からは赤い液体がにじみ出ていた。生命がこぼれ落ちていた。

 

 まったく関係のない命が一瞬のうちに消え去ってしまった。

 放っておいたままでもきっとあの犬は長くは生きられなかったと思う。それほどまでの衰弱っぷりだった。

 けど、それでもまだ生きられたはずだった。

 

 あと少し手を伸ばすのが早ければ。一撃で仕留められていたら。

 目の前で潰えた命に、思わずにはいられない。

 涙は出ない。涙が出るほどあの犬との思い出はない。けれど心は締め付けられる。

 

「……行きましょう。灯ちゃん」

 

 そっと肩に手を寄せて歩き出そうと促してくれる。

 ……そうだ。私は、私たちは立ち止まってはいられない。

 そして敵も立ち止まってはくれない。

 こんな世界になった以上、こういうことはよくあることだと割り切らなくっちゃいけない。

 きっと世界中でも同じことが起きている。厳しいけど、これが今の現実。

 

 そしてきっと、あんな風に理不尽に命を奪われないようにするのが、私がこの力を手にした役目なんだと思う。

 私がみんなを守らないと。

 悲しい記憶を背負って誓いを新たに、私たちは探索を続けることにした。

 




 
この話の序盤に書いた、人以外の動物は無事だったっていうやつ合っていますかね?
どこかでそんな話を聞いた覚えがあったので書きましたが、もしかしたら誰かの作品の設定だったかもです。
公式と創作物の内容が混ざりがち。
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