『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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いつも読んでいただきありがとうございます。
曜日感覚バグって投稿していませんでした。原因は……漫画200冊買った事でしょうかね。


第19話【平和を捏造する白き包囲網】

 あんなことがあった後だけど、あれから私たちはお昼ご飯を取った。

 出発する前は、お昼くらいになったら帰ろうっていう話をしていたんだけど、まだ時間がかかりそうだったから今さっき調達した食料をもぐもぐと食べた。

 さすがに家の中を使うのは はばかられたので、日陰になっている場所を探して外でひっそりと昼食を取った。

 

 お昼に食べたのは消費期限が2日切れていた食パン。少し不安だったけど変な色になっているところも無かったから、たぶん大丈夫なはず。

 私は別に焼かなくても何もつけなくても食パンは食べられるから気にならなかったけど、2人は味がしない食パンに水分を吸われて悪戦苦闘していた。

 日差しもけっこう暑いからアイスも食べたかったんだけど、探しに行ったどの家も電線が切れていて冷凍庫を開けたら どろっどろの液体状になった元アイスしか無かった。

 そのまま飲みほしたけど、やっぱりアイスはおいしかった。

 

 

 

 お昼ご飯をすませて、今私たちはある実験をやってみようとしている。

 それは”無線通信による情報収集”だ。

 簡単に言えば、ラジオを聞いてみよう、ということ。

 大地震なんかの非常事態にラジオはすごく活躍した、とよく聞いていたから結構可能性はあるのではと期待している。

 これが成功すれば、人々はどこに固まって避難しているか・政府はどんなことをしているのか・安全な場所はどこかなんかを知ることができるに違いない。

 できれば近いところに安全な場所があると移動が楽だな、そんなことを妄想してしまう。

 

 これから使うラジオは、家の中を漁っているときに見つけた手回しラジオだ。

 それを布川さんに渡して、今私たちは古びたビルの階段を上っている。

 私はラジオなんて聞いたことが無いから、やり方なんて分からない。布川さんはやったことがあると言うので任せることにした。

 

 入り口の扉には鍵がかかっていたけど、そんなものは私の力の前には無いものも同然だった。

 少し後ろに下がってもらい、勢いをつけて鍵のかかった扉を蹴飛ばす。普通では鳴らない金属の破壊音とともに扉は奥にあった壁まで吹き飛んでいった。

 思った以上に力が出力されてしまい、音も壮大に出てしまった。

 恐る恐る振り返ってみると、私が起こしたあまりの衝撃に待機していた2人は少し引いていて、少し心が傷ついた。

 

 

『やっぱ電波って上に行けば行くほどよく反応しそうですよね』

 

『いや~どうだろう。そんなに変わらないんじゃないかな……』

 

『でもでも、電波悪い時とかって携帯を上に向けて振ったりしますよね?』

 

『それはよくやっちゃうね』

 

 と、このような私のてきとうな提案により、屋上で実験をすることに決まった。

 もし見当違いだとしても、高いところから見渡すのは情報収集の手段としてもいい方法だと思うから一石二鳥を狙ってみた。

 ……そういうことにしてほしい。

 

 このビルはコンクリートでできた5階建てで、今は全て空き部屋になっている。

 コツコツと階段を上る冷めた足音と、ウィーンウィーンと波のある手回しラジオの音が階段の中で響き渡る。

 このハンドルを回す音が私は結構好きで、家では意味がないのに、学校からもらった非常用の手回し発電機をずっとくるくる回して遊んでいたことを思い出した。

 その時にラジオのやり方も一緒に学んでおけばよかったな。

 

 屋上につながる扉には、そんなに厳重にする必要があるのか、と思うほど生意気にも南京錠がついていたので、カネアキを肩に担いで両手でもぎ取ってから扉を開けた。

 鉄製だったからさすがに固かったけど、だんだんこの力も体になじんできたようでスムーズに開けられた。

 

「灯ちゃんのそれ、なんかもう……すごいわね」

 

「僕たちだけじゃここまでスムーズに行かなかったな」

 

「光じゃできないもんね。軟弱だし」

 

「軟弱どうこうの話じゃないよ。南京錠を破壊できる男なんて漫画の世界だけだろ……」

 

「灯ちゃんが良い子でよかったね」

 

「本当に強かで良い子だよ」

 

「ちょっと! 私の力がすごいのは、あくまで”力”のおかげなんですからね!」

 

「ハハ、分かってるよ」

 

 楽しそうに話す布川さんから、漫画の住人扱いされてしまった。

 私は”力”が使えるだけのただの小学生なので、しっかり文句を言ってから次の作業の催促をする。

 

「屋上に来ましたよ。早速やってみましょうよ」

 

「ああそうだな。それじゃやってみようか」

 

 屋上にある柵のところに腰かけ、昼食後からずっとやっていた手回し発電をやめてラジオのアンテナを伸ばしていく。

 音量のバーを最大にしてから、ボタンを押したり周波数を合わせる所をジコジコとやっている。

 

 けれど、いつまで経っても砂嵐のような雑音しか流れてこない。

 ジジジッと一瞬だけまともな音が入ったと思ったんだけど、本当にそれも一瞬でそれからその音が聞こえることはなかった。

 試しに上に向かって振ってみたりもしてくれたんだけど、結局のところ何も変化は見られなかった。

 

「くそっダメだな。妨害電波が出ているのか、それとも電波塔が破壊されたのか。どちらにしろこの調子じゃ何も聞こえないな」

 

「そっかー、無線って電波塔が大事なんだっけ」

 

「あのバーテックスが妨害電波を出してそうな気もするけどな」

 

「えっとそれはつまり……」

 

「ラジオは使えないってことになるね」

 

「そ、そんな……」

 

「ラジオが使えないとなると、コレの使い道は懐中電灯としての役割だけになるかな」

 

「ほかにも携帯の充電だってできるじゃない」

 

「電話もメールも使えないのにかい? まあカメラ代わりにはなるが」

 

「あ、そっか」

 

 ラジオはいいアイデアだと思ったのにまさか使えないなんて。

 災害時に大活躍した、というあのテレビの内容は何だったのか。

 

 ……けれどまだ想定内。

 もし使えなかったとしても無駄にならないようにと、わざわざ暑い思いをしてまで屋上まで上ってきたんだから。

 とりあえず次の行動に。高いところから街を見渡してみよう。

 

「っけどまだ情報は得られます。ほら、ここから見渡してみましょうよ」

 

「そうだね、落ち込んでばかりもいられない。じゃ僕はこっち方面を見るよ」

 

「それなら私はこっちにしよ」

 

 三手に分かれて街を見下ろしてみる。

 と言っても5階程度の高さじゃ普通にやってもそんなに情報は集まらないので、” 力”を使って感覚器官を強化してみる。

 主に目と耳を中心に強化してみると、さっきよりも感じられる世界が濃くなった感じがした。

 おぼろげに見えていた遠くの景色は、眼鏡をかけたかのようにはっきりと。耳は近くにいる2人の息遣いまで聞こえるほどになった。

 初めての感覚に少し酔いそうになるけど、そこは深呼吸をして体の調子を整える。

 

 そして改めて見る上からの景色。

 地上からではどうなっているのか分かりにくかった道が、上からだとはっきり見える。

 時間が余った時なんかはここにきて周辺の地図を独自に作るのもアリかもしれない。

 多分デパートには地図はあると思うけど、この現状とデパートの地図じゃ風景は様変わりしているから、作り直した方が良いかも。

 

 

 この力を使えるのが私だけじゃなかったら、見張り役を何人かで交代しながらここでバーテックスの動向を監視することができたんだけどなあ。

 出発する前に布川さんから、「朝みんなに聞いて回ってみたけど君みたいな人は見つけられなかったよ」と言われたので望みは薄い。

 あと残っている確認方法は、私のカネアキを握ってもらうことだけど、武器は1つしかないから発見できてもどうしようもない。

 

 壊れた街をみて顔をしかめていると、強化された私の耳がある音を拾った。

 それはかすかに聞こえた破壊音。

 見ると、遠くの方で建物が壊されるのが確認できた。

 土煙の中から現れたのはバーテックス。それも3体。

 

「鈴さん布川さん。あそこ見えますか? あの場所にバーテックスがいます」

 

「なんだって。んーよく見えないなー」

 

「灯ちゃん目が良いね」

 

「今3体いて、まっすぐ直進してます」

 

「どっち方面に行っているんだい?」

 

「えっとあっちの方向です」

 

「あっちって……、デパートの方じゃないか!」

 

「大変! すぐに戻ってみんなに知らせないと!」

 

「あっ! でも今右にずれていきました」

 

「そうみたいだね。なんとなくだけど見えてきたよ」

 

「私にもようやく見えた」

 

 いつの間にか迫っていた脅威が離れていくことに、ほっと一安心する。

 けどあの方向の急転換。なんだかおかしい。

 

「あっ、また来たよ。今度は左から」

 

「でもまた逸れていったな」

 

「なんか……変だね」

 

「変ですね」

 

「まあいいじゃないか。今危険が迫っているわけでもないんだし」

 

「そうですけど……んー、ちょっと気になるのでもう少し上から見てきますね」

 

「上からって……どうやって?」

 

 疑問詞を頭に浮かべている鈴さんに実演して説明する。

 力に慣れた今の私ならきっとできるはず。

 

「ちょっと跳んできます!」

 

「跳ぶってどういうッ……うわぁすごい!」

 

「へー、人間てあんなにジャンプできるんだな……」

 

 そう、やったことはただのジャンプ。

 力を発揮することでそのジャンプは凄まじい高さまで跳べるようになり、別のビルの屋上まで走り幅跳びすることができた。

 それからもっと高いビルに跳び移ってを繰り返して街を一望する。

 さらに広く見渡すことができるようになって、ここからでもデパートの奥の景色まで見えるようになった。

 

 そして見つけた白い影。

 ばらけてはいるが私の視界で全部で10体のバーテックスを発見できた。

 その数の多さにぎょっとするも、今度は慌てずにしっかりと注視する。

 しばらく見つめていると、そのどれもが一定の距離デパートに近づくと道を逸れて近づかないようにしているのが分かった。

 これがデパートの付近が安全な理由。不可解に安全地帯となっている訳だった。

 

 けど、私は安堵しない。むしろ不安に包まれる。

 今朝、布川さんは言っていた。『バーテックスと命名した人は”自ら”喰われに行った』と。

 つまり、自分から近づかなければ襲われないということ。

 けどこうも考えられる。

 

 ”近づいてくるまで待っている”。

 

 もしかして私たちが平和だと思っていたこの空間は、アイツらに作られたまやかしなんじゃないか。

 言ってみれば私たちはアイツらに飼われていると言ってもいい状況にいる。

 餌も与えない。面倒も見ない。ただそこにいるだけ。

 一体いつ限界を迎えて喰われに来るのかを楽しんでいるように思えた。

 

 この考えは偏見で、実はあそこには結界のようなものがあってバーテックスは近づけないようになっている。

 ……そう思いたいのはやまやまだけど、今までの経験上、問題を先送りにしたり楽観視はしないことにした。

 

──私たちは、私たちの平和を壊した存在が作り上げた偽りの平和の中で暮らしている。

 

 今回の調査で発覚した、信じがたい光景だった。

 




大俵さんの名前を、鉄→鉄次に変えました。
理由は、まあ活動報告②に書いた感じです。格下げですね。

無線の所テキトーなんで、違ってもこの世界はそうなんだと飲み込んでください。
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